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ヒトラーを操った男 -マルチン・ボルマン- [ヒトラーの側近たち]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジェームス・マクガバン著の「ヒトラーを操った男」を読破しました。

先月の「ヒトラーの遺言」で、過去に読んだ本からの自分なりのイメージで
ヒトラーの秘書、ボルマンについて言いたい放題書いてしまいましたが、
よくよく考えてみると、ボルマン主役の本・・って読んだこと無かったなぁ・・と。
せいぜいクノップの「ヒトラーの共犯者〈下〉」でボルマンの章が数十ページあった程度で、
他には様々な戦記や回想録でカイテル元帥のように、
誰からも嫌われるダメ人間として登場していただけでした。
そんなボルマンが気になって調べてみると、こんな本があったんですねぇ。
1974年と古い本ですが(原著は1968年)、古書価格もソコソコ。
そしてなんと言っても表紙がスゴい!
最初見たときは、「これ、ひょっとしてマンガ??」と思いました。。

ヒトラーを操った男.jpg

1946年のニュルンベルク裁判・・。宣伝省の幹部、ハンス・フリッチェは
「ゲッベルス博士はまぎれもなくボルマンを恐れてました」と証言し、
蔵相フォン・クロージクは「ボルマンはヒトラーの『悪魔』であり、『褐色の枢機卿』である」、
グデーリアンは「ヒトラーの側近ではヒムラーの次に悪いのがボルマンだった」、
死刑判決を受けたハンス・フランクは「極悪人」と呼び、
ボルマンが死んだかどうかを訊ねられたゲーリング
「あいつは地獄の油でフライになっていると思うが、確かなことはわからない」
このように、ヒトラーの周りの人間からも嫌われ、恐れられていたボルマン。
直前に自殺したゲーリングを除き、唯一、死刑執行から逃れている人物でもあります。

martin_bormann.jpg

1900年生まれのマルティン・ボルマンは1918年に砲兵連隊へ配属されますが、
実際の戦闘も見ることなく、第1次大戦は終了。戦後は農場の管理人となります。
ちょっと気が付きましたがヒムラーと同い歳なんですね。ここまでの経歴も似た感じです。
その後、フライコーアに入り、会計を任された彼は、金を返さなかった小学校教師を殺害する
という事件の黒幕らしき人物として逮捕され、1年間の禁固刑を受けますが、
首謀者として最も重い量刑を受けたのはルドルフ・ヘース・・、
後のアウシュヴィッツ絶滅収容所所長です。

Rudolf Höss (left) and other SS officers gather for drinks in a hunting lodge.jpg

身長170㎝足らずですが、ガッシリした体格で首が太いことから「雄牛」とあだ名されたボルマンは、
1927年にナチ党に入党。古参党員というわけではない彼ですが、
党援助基金部長となり、ヒトラーの政権獲得後には総統代理ルドルフ・ヘスの秘書に任命されます。
このような出世には党の規律を担当する有力者、ヴァルター・ブーフの娘で
9歳年上のゲルダとの結婚が大きかったようで、結婚式にはヒトラーも立会人として参列し、
花婿を個人的に知るようになったということです。

Postkarte Martin Bormann.jpg

1937年にはボルマンを高く評価するSS全国指導者ヒムラーが引き抜きにかかります。
この誘いは断わった彼ですが、名誉SS少将へ任命されたそうで、
これはボルマンがベルリン総統ブンカーから脱出する際、SS将校の制服を着ていた・・
という話に繋がる感じがします。
とにもかくにもヒムラーやゲーリングなどのように、勲章や名声、称号には興味のない彼の野心は
総統にとって自分がなくてはならない存在になることだけなのでした。

Joseph Goebbels, Robert Ley, Heinrich Himmler, Victor Lutze, Rudolf Hess, Adolf Hitler and Julius Streicher. (June 9, 1938).jpg

上司のヘスは総統の犬のように忠実なものの、昔ほどは役に立たなくなり、
飛行機の操縦に熱中し、スポーツカーを乗り回し、家族でスキーに出かけたりしているスキに
ボルマンはヒトラーにすり寄りはじめます。
ヒトラーのお気に入り、ベルヒテスガーデンの山荘の周りの土地をせっせと買い集め、
「あの古ぼけた農家が景観をぶち壊しにしてるな・・」とヒトラーが呟くと、
一夜で総統の視界を妨げる農家を取り壊すほどの気の使いよう・・。

Baldur von Schirach (right) listens to Hitler as Bormann and Göring.jpg

芸術や本に対しても、それまでまったく縁のなかったボルマンは
ヒトラーの読書傾向を睨みながら建築、ニーチェ、哲学、ギリシャ・ローマ史、
北欧神話、軍事史などの新刊書の内容を部下に手分けして
1枚のレポートにまとめるよう指示し、これを頭に叩き込んでおいて、
とある会話の場でそれとなく総統に勧め、ヒトラーを驚かせようとしていたそうです。
う~ん。ヴィトゲンシュタインもボルマンの手下で働けたかな~。。

bormann1.jpg

バルバロッサ作戦の直前の1941年の5月、爆弾のようなニュースが飛び込み、
それはボルマンの運命を決定づけます。
総統代理ヘスが英国へ飛び立った!
外相リッベントロップは「あれは狂っておりました」とムッソリーニに釈明・・。
世界に向けても「気違い」として片づけられた、このヘス事件ですが、
ヒトラーやリッベントロップの通訳を務めたシュミットは自宅の庭職人から尋ねられます。
「気違いが政治をやっているのをあなたはご存じだったんですか?」
彼の著書「外交舞台の脇役」も読んでみたいんですが、高いなぁ。

Bormann, Matsuoka, Schmidt, Hitler, Göring and Meißner.jpg

かりにも自分の代理を精神異常者とし、ナチ体制の威信に影響を及ぼしたことで、
超人的だったヒトラーの判断力をあやぶむ声も出てきます。
SS防諜部シェレンベルクの「ドイツ国民は馬鹿ではない」との非難にヒムラーは答えます。
「あれはボルマンの影響だ・・」

himmler_bormann.jpg

国防軍の快進撃によって順調に東方を占領し、ヒムラーのアインザッツグルッペン
ユダヤ人を殺害するなか、この新秩序を支配するのは自分の率いるナチ党であって
軍部とSSにその権力を握らせないようにとヒトラーに働きかけて、
新設された東方相にローゼンベルクの指名を勝ち取ります。
これは無力なローゼンベルクなら訳なく手玉に取れる・・という考えからですが、
その結果は、まさに「幻影」の出だしで書かれていた通りですね。
本書ではさらに、ボルマンの命令で動いたウクライナ総督、エーリッヒ・コッホが、
フライコーア時代からの付き合いであったことが書かれています。

Ribbentrop_Erich Koch.jpg

1942年の攻勢でカフカスを攻略できなかったことがヒトラーの逆鱗に触れ、
解任されたリスト元帥についても、ボルマンの策謀と考えるカイテルの話や、
「最終的解決」を推し進め、チェコでも手腕を発揮するハイドリヒがボルマンに妬まれ、
その後、暗殺された話なども紹介。
あ~、いま気がつきましたが、仲の悪かったことで有名な2つ年下の弟、アルベルト・ボルマンは
本書には一切、登場しませんでしたね。

Hitler_Heydrich_Morel_Himmler_Bormann.jpg

ナチ党官房長として、また総統秘書兼個人副官としてヒトラーから片時も離れず、
ヒトラーとの面会もボルマンの許可が、そして報告もボルマンを経由して・・といった状況に
古参の重鎮ゲッベルスやヒムラーも不安に駆られます。
戦局の悪化した1944年にもなると大管区指導者ですら、ヒトラーに会えない事態に・・。
困った大管区指導者らはそれまでの不信感はどこへやら、陸軍参謀総長グデーリアンに
面会を取り計らってくれるよう頼み込むといった奇妙な展開です。

Mussolini, Bormann, Donitz, Hitler, Goring, Fegelein,Loerzer.jpg

そして2月4日から4月2日までの、あの「ヒトラーの遺言」の話。
本書では「この総統の最後の談話記録も後世向けにボルマンが編集し、注釈を加えてある」
ということです。まぁ、やっぱり普通、そうですよねぇ。。

最期のときが迫る総統ブンカー。ボルマンの部屋には出入り口が3つあり、
ひとつは会議室に通じ、ひとつはゲッベルスの部屋へ・・。
そして宣伝相を見張るだけでなく、もうひとつは電話交換台のある部屋に通じていて、
この地下壕へ来る情報はすべてボルマンがチェック出来るようになっています。
このようにして、ゲーリングやヒムラーが裏切り者への道を突き進んでしまうわけですね。

Der Untergang_Himmler-Goebbels-Göring-Bormann.jpg

また、この最後の数日はゲルハルト・ボルトの「ヒトラー最後の十日間」や
ヒトラーの専属運転手ケンプカの証言などから語られます。
総統が自殺を遂げても、忠実だったボルマンはゲッベルスのように後を追うようなことはせず、
SS中将の制服を着込み、彼の秘書クルーガー嬢に
「脱出してみるつもりだ。まず成功はすまいが・・」と語ります。

borman_martin.jpg

脱出後の様子もケンプカの見た、戦車の後方にいたボルマンが砲撃で吹き飛んだ・・という説や、
ヒトラー・ユーゲント指導者アクスマンの言う、ボルマンはそこでは怪我もせず、
別の場所で死んでいるのを見た・・などを紹介。
生死の不明なニュルンベルク裁判中にも、「ボルマンを見た」との情報や
ゴットロープ・ベルガーSS中将が語る、「ボルマンはソ連のスパイであり、ロシア側へ戻った」、
そして南米で暮らしているなどの「ボルマン生存説」が後を絶ちません。

Martin-Bormann.jpg

280ページ程度の本書ですが、とても楽しく読破しました。
まぁ、特別な新発見的なものはありませんでしたが、なんと言っても主役はボルマン。
知ってるエピソードでも、初めて知った小話でも、そこらの小物とは違う悪人ぶり・・。
また、一介のヤクザものが、タイトルの「ヒトラーを操った男」のように
ヒトラーに影響を与えるほどの権力者にのし上がっていく過程は、ある意味、
第三帝国におけるサクセス・ストーリーでもあって、その彼の最期に対する徹底した調査と、
著者の見解も、現在の一般的な解釈と変わりありません。

これは著者の経歴・・大戦中は米軍で暗号解読に従事し、戦後はCIAに入って
ベルリンCIA本部の調査員として、ボルマン捜査を担当・・・が大きくモノを言っていると思いますが、
翻訳を含めて、実に読みやすく、半分読んだ日の晩にはボルマンの夢を見てしまったほど、
どっぷり彼と向かい合ってしまいました。





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