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ナチ・ドイツ軍装読本 -SS・警察・ナチ党の組織と制服-【増補改訂​版】 [軍装/勲章]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

山下 英一郎 著の「ナチ・ドイツ軍装読本」を読破しました。

6月の「制服の帝国」に続いて、本書も2006年に発刊された同名の再刊です。
今年の4月に【増補改訂​版】として20ページ程度、旧版からボリュームアップしているそうです。
以前に紹介した「SSガイドブック」や「制服の帝国」はSSに限定したものでしたが、
本書は副題を見る限り、「警察」と「ナチ党」の制服にも言及している点が大きな違いですね。

ナチ・ドイツ軍装読本.jpg

まずは「SSの成立」という無難なところから始まる本書。
しかし、1929年のニュルンベルク党大会の部分になると、この時の参加者に配られた
「1929年党大会章」が写真つきで解説され、この大会がナチ党の政権獲得前であり、
ナチ党結成10周年であることから、金枠党員章が制定されるまで、ヒムラー
常に着用する非常にステータスの高いものだった・・と著者ならではのマニアックな説明が
勉強になります。

Reichsparteitag 1929.jpg

この章では非常に珍しい写真「眼鏡をかけたハイドリヒ」の登場です。
キャプションでも「ヒムラーと談笑するハイドリヒが眼鏡を着用!」とビックリマーク付き
(ちなみに「!」は子供の頃「オッタマゲーションマーク」と教えられて、20歳まで信じてました・・)、
しかし、それほど写りの良くない斜め後ろからの写真ですので、ハイドリヒと言われて辛うじて
気づく程度のものですが、珍しいことに間違いはありませんね。

Reinhard Heydrich 74.jpg

「SSのキャリア」の章では、名誉SS大将でもあったザイス=インクヴァルトが紹介され、
そのSSの黒服以外にも、占領下オランダの弁務官という彼の本来の
「官僚」としての制服も検証しています。
特に官僚の袖章の星が階級を示すものではなく、給料のランクを示すなどの解説と写真は
興味深いですね。こんなことが書かれているのは日本では本書だけでしょう。

Hans_Frank9.jpg

フリードリヒ=ヴィルヘルムと、その兄のヴァルター・クリューガー兄弟も続いて登場して、
この有名な兄弟の比較をした後、アイヒマンSS中佐の出番となります。
ここでも著者ならではの観点から、ホロコーストの代名詞ともされている人物を検証し、
「過去10年に渡り、数万枚のSS関係の写真を確認しているが、アイヒマンの制服写真は2枚のみ」
として、このような重要人物が写った写真がこれほど少ない訳がなく、結論から言えば、
誰も撮影する気すら起きなかった移送列車の手配をする程度の「小物」であり、
たかが中佐に、国策を左右する権限があったなどという歴史認識は改めるべき・・としています。
かなり強気で書いていますが、自分もどちらかといえば、同感ですね。

Adolf Eichmann_1.jpg

SS大佐服の写真も凛々しいシェレンベルクは、4ページに渡ってその人生が述べられています。
ベルリンでのヒムラーの昼食会では、たまにアイヒマンも末席に呼ばれていたようで、
その度にシェレンベルクから「役立たず」だの「根性なし」だのといびられて泣いていたらしい・・。
また、彼が終戦間際もうまく立ち回り、彼を知る人物たちが死んだり、失踪した結果、
驚くほど軽い量刑で済んだことに触れ、「ヨーロッパで最も危険な男」スコルツェニーでさえ、
シェレンベルクの部下だった。本当に危険だったのは誰か、明らかである・・と
見方によっては、その「策士」っぷりを高く評価しているようでもあります。

Schellenberg_skorzeny.jpg

中盤は「ナチ体制下のドイツ警察」の章で、クルト・ダリューゲが長官を務めていた
「秩序警察」を中心に展開します。
地方警察や防空警察、水上警察といったマイナーな警察まで詳しく書かれていますが、
このあたり、写真もいくつかあるものの、制服を検証するものではなく、
あくまで、組織の解説となっています。
組織図があると、もう少し関係が分かりやすいんですけどねぇ。

Himmler und Daluege.jpg

同じ警察でも「憲兵」は、以前から気になっていたこともあって、楽しく読めました。
1939年の開戦後、秩序警察から国防軍に転属となった憲兵は、1940年時点で13000名。
最高階級は少将で、軍集団レベルでの憲兵司令官であり、大佐だと軍司令官だそうです。
主な任務も「交通整理」であり、映画などで良く見る「通行証を見せろ!」も該当・・。
また、その権限も強力で、階級に関わらず身分証の提示を要求でき、
同一階級者であっても、上位とされていた・・ということです。
さらに、独自のカフタイトルや、憲兵の象徴である首から下げた「ゴルゲット」にも言及しています。

Feldgendarmerie.jpg

「武装SSの給与と食事」も楽しい章でした。
1ライヒスマルクを現在の日本円に換算し、例えば、1940年のSS二等兵の月給が約6万円、
しかし、戦局の悪化した1944年になると25万円へと大幅UP・・。
これは一覧にもなっていて、一番給料の高い、元帥やOKW総長なら300万円強です。
早い話、カイテルの月給ですね。

食事についても肉、バター、パンなどがグラム単位で書かれていて、
面白いのは刑務所勤務に比べ、武装SSではパンで2倍、肉類で4倍の厚遇という部分です。
ということは、同じトーテンコップでも前線と収容所勤務で違ったのかなぁ?

Men of the Waffen-SS.jpg

最後の章は「写真で見る政治指導者」です。
この政治指導者というは大きく分けて2つあり、ガウライターと呼ぶ大管区指導者、
そしてライヒスライターと呼ぶ全国指導者です。
特に全国指導者は1945年時点で17人がおり、例えば、党幹事長のボルマン
法律全国指導者のハンス・フランク、世界観全国指導者のローゼンベルク
宣伝全国指導者のゲッベルス・・というようなメンバーです。

Himmler, Goebbels, Frank and Mussolini ( on back ) in Florence during Hitler's state visit to Italy in 1938.jpg

なお、SS全国指導者ヒムラーはライヒスライターとしては、民族問題全国指導者のようで、
SS全国指導者は「ライヒスフューラー」ですから、また別扱いのようですね。

この政治指導者の階級も表になっていて詳しく書かれていますが、
一番知りたかった赤の「襟章」については、若干述べられているだけなのが残念でした。

Nazi Party Ranks.jpg

全体的には本書もなかなか楽しめ、かつ勉強になるものでした。
ただ、やはり「軍装読本」と謳っている限り、特に警察については違う印象ですし、
わがままをあえて言えば、カラー写真が1枚もないと、軍装の説明だけでは
完全にはイメージできないのがネックだと思います。





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