ドイツ第三帝国 [ナチ/ヒトラー]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ヘルマン・グラーザー著の「ドイツ第三帝国」を読破しました。
2008年に285ページの文庫で発刊された本書、
元々は「ヒトラーとナチス -第三帝国の思想と行動-」というタイトルで、
日本でも1963年から読まれ、「ナチスの思想を論じた古典」とされている有名な一冊です。
著者のグラーザーは1928年、ニュルンベルク生まれ。
本書の発刊以降、1990年までニュルンベルク市の教育文化局長を勤めたという方です。
第1章で第三帝国とヒトラーが簡単に説明され、第2章はナチスの「世界観」です。
ユダヤ人については、キリスト教徒には長い間宗教的理由から禁じられていた「金貸し業」が
ユダヤ人には許されており、それが激しい迫害を受けなければならなかった理由として、
また、ユダヤ人住民のゲットー生活は外部から強制されたものであるだけではなく、
少数民族としてのユダヤ人自身の意思であった・・ということです。
本書の一番の大きな特徴は、ヒトラーの「わが闘争」をはじめとして、ナチの重要人物の著書、
あるいは、彼らの演説を多数引用しているところでしょう。
それも他の書物にありがちな、ポイントなる一言二言を論ったり、
せいぜい2~3行などというものではなく、1ページ~2ページにも渡って、
細かく掲載するという徹底振りです。
強烈な反ユダヤ主義者シュトライヒャーの「性的に歪められた空想」もちょっと抜粋すると、
「アーリア人種の女がユダヤ人の男と一度交わっただけで、彼女は「異質のタンパク質」に毒され、
もう2度と、純粋なアーリア人の子供をもうけることができず、雑種を作るだけである」
このようなシュトライヒャーが発行した週刊新聞「シュテュルマー」からもその内容を紹介し、
そのメチャクチャな反ユダヤ論も知ることが出来ました。
また、ヒトラーがこれを「唯一、最後の1行まで読むに値する新聞」と語っていたという話も、
ヘルマン・ラウシュニングの有名な「ヒトラーとの対話」から抜粋しています。
これは今でも「永遠なるヒトラー」として手に入れることが出来る本ですが、
プレミア価格なので、まだ読んだことがありません。。
第3章「宣伝機構」では行進曲の重要性を取り上げ、
「行進曲はとりわけ、困難で重大な局面をどんちゃん騒ぎで誤魔化そうという使命を持っていた」
として、スターリングラードの特別報道などを例にして、
敗戦の際は「葬送行進曲」が鳴り響いたということです。
また、視覚的手段としては照明灯が大きな役割を果たし、夜間のサーチライトや
SS隊員らによる松明による行進も好まれ、ヒンデンブルク大統領も「感動して眺めていた」と
ゲッベルスの日記から紹介。
1週間も続く、ニュルンベルク党大会の様子も、批判的なフランス大使、ポンセが記したものから
「数十万の人々が陶酔に浸り、歓喜と魔法にかけられた町となって、催し物の素晴らしさも
外国人に強い印象を与える」と・・。
第4章はメインとなる部分でしょうか。
有名な「焚書」について、ユダヤ人以外にも禁止された作家の名前も列挙し、
「頽廃芸術」として近代的芸術である、表現主義、シュールレアリズムやキュビズムなどが
ヒトラーの憤怒の対象となるわけですね。
具体的にはゴーギャン、ピカソ、シャガールは認められず、ゴッホはギリギリ・セーフ??
ちなみにヴィトゲンシュタインは子供の頃から「ダリ」好きで、シュールな絵に挑戦も・・。
音楽にももちろん厳しく、近代音楽、特にジャズがダメなのは有名ですね。
それでも以前に読んだ本では、「これは黒人ジャズじゃないから大丈夫・・」とか
Uボート内で持ち込んだジャズのレコードを掛けたり・・なんて話も良くあります。
そしてこのようなドイツの音楽生活に生じた真空状態を埋めるべく、
「ワーグナー崇拝」が大掛かりな演出によって始まります。
ヒトラーの愛したリヒャルト・ワーグナーを周りの連中も媚びへつらうように賞賛し、
古典ではバロック音楽のモーツァルトは好まれず、一方、ベートーヴェンは
ラジオで「第九」が大晦日の晩に流されるなどなかなかの評価です。
モーツァルトは映画「アマデウス」を多分、4回は観ているので、彼の曲は知っていますが、
ワーグナーはほとんど聞いたことがないので、よく、ヒトラーが夜会の席で
ワーグナーのレコードを掛けさせる・・なんてシーンがあっても、今までイメージが沸きませんでした。
ところが今回、このワーグナーについて細かく書かれていることで、思い出しました!
映画「地獄の黙示録」で武装ヘリが攻撃を仕掛けるシーンで流れる「ワルキューレの騎行」。
これはロードショーに行きましたが、実はベトナム戦争も良く知らず、長いし、最後もグニャグニャで
おそらく”中一”だったヴィトゲンシュタインには結構、難解な映画でしたが、
この「ワルキューレの騎行」は前半だったし、70㎜スクリーンかつ、大音響はすごい迫力で、
いまだに印象に残っています。確かに、この曲を聴くと血沸き肉踊りますね。。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
最後の章ではフライスラー裁判長やオーレンドルフのアインザッツグルッペンなども登場し、
ドイツ国内外での「テロ」の様子も詳しく解説しています。
本書は特に「イデオロギーのげっぷ」と党幹部連中にこき下ろされ、
読書家ヒトラーですら、読破できなかったと云われるローゼンベルクの有名な
「二十世紀の神話」からの抜粋がなかなか興味深いものでした。
また、ヒトラーの演説もイメージしやすく書かれていて
1938年のナチス主義者を如何に育てるか・・という演説では
「青少年は10歳で我々の組織に入り4年後にヒトラーユーゲント、それから4年後にSS等に入れる。
そこに2年いて、まだナチス主義者に成りきれない様だったら(笑)、労働奉仕団に入って揉まれる。
すべては1つの象徴、すなわちドイツの鋤をもって行われるのだ(喝采)」
というような感じです。(笑)っていうのが良いですね。
本書は文庫で280ページ程度というボリュームですが、それほど簡単な本ではありませんでした。
翻訳も1963年当時のもののようで、そのせいかちょっと堅苦しいというか、
思っていたよりスラスラ読めるものではなく、
また、当時のドイツ文化にもある程度精通していないと、眠くなったりもします。
「ナチス問題入門書として適した作品」と書かれていますが、それはどうかなぁ。
ドイツ人にはそうかもしれませんが、いまの日本人には・・。
ヘルマン・グラーザー著の「ドイツ第三帝国」を読破しました。
2008年に285ページの文庫で発刊された本書、
元々は「ヒトラーとナチス -第三帝国の思想と行動-」というタイトルで、
日本でも1963年から読まれ、「ナチスの思想を論じた古典」とされている有名な一冊です。
著者のグラーザーは1928年、ニュルンベルク生まれ。
本書の発刊以降、1990年までニュルンベルク市の教育文化局長を勤めたという方です。
第1章で第三帝国とヒトラーが簡単に説明され、第2章はナチスの「世界観」です。
ユダヤ人については、キリスト教徒には長い間宗教的理由から禁じられていた「金貸し業」が
ユダヤ人には許されており、それが激しい迫害を受けなければならなかった理由として、
また、ユダヤ人住民のゲットー生活は外部から強制されたものであるだけではなく、
少数民族としてのユダヤ人自身の意思であった・・ということです。
本書の一番の大きな特徴は、ヒトラーの「わが闘争」をはじめとして、ナチの重要人物の著書、
あるいは、彼らの演説を多数引用しているところでしょう。
それも他の書物にありがちな、ポイントなる一言二言を論ったり、
せいぜい2~3行などというものではなく、1ページ~2ページにも渡って、
細かく掲載するという徹底振りです。
強烈な反ユダヤ主義者シュトライヒャーの「性的に歪められた空想」もちょっと抜粋すると、
「アーリア人種の女がユダヤ人の男と一度交わっただけで、彼女は「異質のタンパク質」に毒され、
もう2度と、純粋なアーリア人の子供をもうけることができず、雑種を作るだけである」
このようなシュトライヒャーが発行した週刊新聞「シュテュルマー」からもその内容を紹介し、
そのメチャクチャな反ユダヤ論も知ることが出来ました。
また、ヒトラーがこれを「唯一、最後の1行まで読むに値する新聞」と語っていたという話も、
ヘルマン・ラウシュニングの有名な「ヒトラーとの対話」から抜粋しています。
これは今でも「永遠なるヒトラー」として手に入れることが出来る本ですが、
プレミア価格なので、まだ読んだことがありません。。
第3章「宣伝機構」では行進曲の重要性を取り上げ、
「行進曲はとりわけ、困難で重大な局面をどんちゃん騒ぎで誤魔化そうという使命を持っていた」
として、スターリングラードの特別報道などを例にして、
敗戦の際は「葬送行進曲」が鳴り響いたということです。
また、視覚的手段としては照明灯が大きな役割を果たし、夜間のサーチライトや
SS隊員らによる松明による行進も好まれ、ヒンデンブルク大統領も「感動して眺めていた」と
ゲッベルスの日記から紹介。
1週間も続く、ニュルンベルク党大会の様子も、批判的なフランス大使、ポンセが記したものから
「数十万の人々が陶酔に浸り、歓喜と魔法にかけられた町となって、催し物の素晴らしさも
外国人に強い印象を与える」と・・。
第4章はメインとなる部分でしょうか。
有名な「焚書」について、ユダヤ人以外にも禁止された作家の名前も列挙し、
「頽廃芸術」として近代的芸術である、表現主義、シュールレアリズムやキュビズムなどが
ヒトラーの憤怒の対象となるわけですね。
具体的にはゴーギャン、ピカソ、シャガールは認められず、ゴッホはギリギリ・セーフ??
ちなみにヴィトゲンシュタインは子供の頃から「ダリ」好きで、シュールな絵に挑戦も・・。
音楽にももちろん厳しく、近代音楽、特にジャズがダメなのは有名ですね。
それでも以前に読んだ本では、「これは黒人ジャズじゃないから大丈夫・・」とか
Uボート内で持ち込んだジャズのレコードを掛けたり・・なんて話も良くあります。
そしてこのようなドイツの音楽生活に生じた真空状態を埋めるべく、
「ワーグナー崇拝」が大掛かりな演出によって始まります。
ヒトラーの愛したリヒャルト・ワーグナーを周りの連中も媚びへつらうように賞賛し、
古典ではバロック音楽のモーツァルトは好まれず、一方、ベートーヴェンは
ラジオで「第九」が大晦日の晩に流されるなどなかなかの評価です。
モーツァルトは映画「アマデウス」を多分、4回は観ているので、彼の曲は知っていますが、
ワーグナーはほとんど聞いたことがないので、よく、ヒトラーが夜会の席で
ワーグナーのレコードを掛けさせる・・なんてシーンがあっても、今までイメージが沸きませんでした。
ところが今回、このワーグナーについて細かく書かれていることで、思い出しました!
映画「地獄の黙示録」で武装ヘリが攻撃を仕掛けるシーンで流れる「ワルキューレの騎行」。
これはロードショーに行きましたが、実はベトナム戦争も良く知らず、長いし、最後もグニャグニャで
おそらく”中一”だったヴィトゲンシュタインには結構、難解な映画でしたが、
この「ワルキューレの騎行」は前半だったし、70㎜スクリーンかつ、大音響はすごい迫力で、
いまだに印象に残っています。確かに、この曲を聴くと血沸き肉踊りますね。。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
最後の章ではフライスラー裁判長やオーレンドルフのアインザッツグルッペンなども登場し、
ドイツ国内外での「テロ」の様子も詳しく解説しています。
本書は特に「イデオロギーのげっぷ」と党幹部連中にこき下ろされ、
読書家ヒトラーですら、読破できなかったと云われるローゼンベルクの有名な
「二十世紀の神話」からの抜粋がなかなか興味深いものでした。
また、ヒトラーの演説もイメージしやすく書かれていて
1938年のナチス主義者を如何に育てるか・・という演説では
「青少年は10歳で我々の組織に入り4年後にヒトラーユーゲント、それから4年後にSS等に入れる。
そこに2年いて、まだナチス主義者に成りきれない様だったら(笑)、労働奉仕団に入って揉まれる。
すべては1つの象徴、すなわちドイツの鋤をもって行われるのだ(喝采)」
というような感じです。(笑)っていうのが良いですね。
本書は文庫で280ページ程度というボリュームですが、それほど簡単な本ではありませんでした。
翻訳も1963年当時のもののようで、そのせいかちょっと堅苦しいというか、
思っていたよりスラスラ読めるものではなく、
また、当時のドイツ文化にもある程度精通していないと、眠くなったりもします。
「ナチス問題入門書として適した作品」と書かれていますが、それはどうかなぁ。
ドイツ人にはそうかもしれませんが、いまの日本人には・・。