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海戦 連合軍対ヒトラー [ドイツ海軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ドナルド・マッキンタイア著の「海戦 連合軍対ヒトラー 」をやっと読破しました。

ハードカバー上下2段組みで450ページのこの大著を購入したのは、ほぼ3年前のこと。
以来、10ページほど読んでみては「こりゃ無理だ・・」ということで、撃沈していましたが
今回こそは、元英海軍だった本書の著者に一泡食わせてやりました・・。
もともと本書を購入したのも、このマッキンタイアという人が「Uボート・キラー」として
名を馳せた人物であり、駆逐艦ウォーカーの艦長として、かの大エース、
U-99のオットー・クレッチマーを仕留めた男・・ということを聞いたからでもあります。。

海戦.jpg

「プロローグ」は1939年、ドイツのポーランド侵攻により始まった「海戦」。
陸上では英仏との「まやかし戦争」の真っ只中ですが、海上ではUボートとポケット戦艦による
通商破壊作戦が行われており、艦長ラングスドルフ大佐グラーフ・シュペー号
英海軍の重巡洋艦エクゼターやエイジャックスとの砲撃の末、
モンテビデオ港で自沈するまでが語られます。

german-pocket-battleship-graf-spee-sinking-following-battle-of-river-plate-in-uruguay.jpg

こうして第1章の「ノルウェー侵攻」へ・・。
ドイツがスウェーデンの鉄鉱石をノルウェーから運び出すことに懸念を感じていた英国海軍省の
チャーチルにより、中立国ノルウェーを占領してしまおう・・という情報を手にしたヒトラーによって
先手を打つべく「ヴェーザー演習作戦」が発動されます。
この「海戦」は本格的な第二次世界大戦の序章とも言えるものですから、さまざまな書物に
書かれています。しかし、本書の内容は徹底していて、レーダー元帥指揮のこの作戦に参加する
6つのドイツ艦隊も各艦名も明記し、実に詳しく解説しています。

Raeder.jpg

英海軍との戦闘だけではなく、ノルウェー海軍とも戦うドイツ海軍部隊。
軽巡カールスルーエが魚雷によって致命的な損害を被ると
同じケーニヒスベルクも航空機によって沈没した初の大型艦となり、
先頭を行く重巡ブリュッヒャーは早々に海底に葬り去られ、
ポケット戦艦リュッツォーも1年間は動けなくなる損害を・・。
もちろん英海軍出身の著者ですから、英側の記述はさらに詳細です。

Schwerer Kreuzer Blücher.jpg

そして著者はこのようなノルウェーでドイツ海軍が受けた大きな損害がなければ、
その後の「ダンケルク」での英大陸派遣軍の大撤退の情勢は遥かに悪くなっていただろう・・
としています。

続いては大西洋の戦い。「HX船団」や「SC船団」の略称の解説から、
Uボートを助けるために登場してきた英沿岸航空隊のどの飛行機よりも長い航続力を
持っていたというFw-200、通称「コンドル」も厄介者といった雰囲気で紹介されます。

Focke-Wulf_Fw_200_C_Condor.jpg

ポケット戦艦アドミラル・シェアや重巡アドミラル・ヒッパーの単独艦での活動や
戦艦ビスマルクの「敵味方を問わず、素晴らしい艦につきまとう苦悩に満ちた痛ましい最期」
の物語が語られます。
しかし通商破壊作戦の主役、Uボートがここから幅を利かし始めます。

lutjens salute_battleship Bismarck.jpg

U-48のレージング少佐という珍しい話も出てきますが、ここからはやはり、3大エースである
U-47のプリーン、U-100のシェプケ、そしてU-99のクレッチマーが主役です。
特にクレッチマーはやはり特別扱いで、当時のU-99の航海日誌までも掲載。。

Hans Rudolf Rösing.jpg

そして運命の狼群vs駆逐艦の戦い。プリーンとシェプケは戦死し、クレッチマーは捕虜となります。
この有名な海戦もさすが当事者だけあって、詳しく書かれていますが、
駆逐艦ウォーカーの「艦長」はこれ見よがしに登場することなく、
捕虜となったクレッチマーとの対話などは出てきませんでした。
ひょっとすると未訳の「Uボート・キラー」には書かれているのかも知れませんね。

Kptlt. Kretschmer (right) after patrol on U-99_Walker V & W-class Destroyer.jpg

巡洋戦艦シャルンホルストとグナイゼナウに重巡プリンツ・オイゲンがドーヴァー海峡を突破する
ツェルベルス作戦」では、当時のドーヴァーの英海軍部隊の兵力を検証し、
このようなスタンスです。。
「このような弱い兵力が自力で、強力なドイツ艦隊の海峡突破を阻止できる可能性は少なく、
ドイツ艦隊を阻止する第一の責任は英空軍にあったということを、
はじめにハッキリさせておく必要がある」。

The 203 mm Guns of the German Heavy Cruiser 'Prinz Eugen'..jpg

中盤は個人的にメインな部分と感じた「地中海の戦い」です。
「この新しい急降下爆撃機の、その攻撃技術と正確さにはまったく感嘆せざるをえなかった」
と紹介されるドイツ空軍の戦いは、それまでの相手だったイタリア軍とはワケが違います。。。
クレタ島の戦い」に続いて「マルタ島の戦い」へ。
北アフリカのロンメル軍団に対する補給を切断するため、ドイツ空軍怒涛の空爆から
必死に島にしがみつき、さらには補給も送ろうとする英艦隊。

Luftangriff der Achse auf britische Kriegsschiffe im Seegebiet zwischen Cyrenaika und Malta.jpg

しかし空母アーク・ロイヤルがグッゲンベルガー大尉のU-81に撃沈され、
戦艦バーラムもフォン・ティーゼンハウゼン少佐のU-331の魚雷によってバラバラに・・。
この話は知りませんでしたが映像も残されているみたいですね。

von Tiesenhausen.jpg



ドイツの水上艦隊が出てこない代わりにイタリア艦隊が終始、及び腰で
ちょくちょく出てくるのは笑えましたが、特別に印象的だった話は、
「イタリア軍が得意とする個人作戦」という、2人乗の有人魚雷でのとんでもない活躍でしょう。
この不敵なイタリア人たちはアレクサンドリア港に侵入し、戦艦ヴァリアントと
クイーン・エリザベスの艦底に時限爆薬をセットし、見事、爆沈させたということです。
いずれにしても、ロンメルにケッセルリンクも登場する、このボリュームたっぷりな
地中海の章だけでも一冊の独立した本であってもおかしくない・・と思います。

Maiale manned torpedo.jpg

後半は暖かい地中海から一転、厳寒の北海での戦いです。
スターリンの要請により、ソ連へ軍事物資を運ぶための「PQ船団」。
なかでも最も知られた「PQ17船団」の興亡が非常によく、書かれています。

戦艦ビスマルクで戦死したリュッチェンス提督の後任の新司令官オットー・シュニーヴィントと
そのドイツ海軍の戦力、Uボートのみならず、アドミラル・シェアとリュッツォー、
ヒッパー以外にも、戦艦ティルピッツが常にバレンツ海に睨みを利かせています。

tirpitz.jpg

そして40隻にも及ぶ大船団「PQ17」の非情な航海が語られ、
まるで昔話のようなこのお話、狼たちが崇める大魔神ティルピッツが目覚めたと思い込み、
恐れおののいた羊飼いらは大慌てで家路についてしまい、残された羊たちは
次々と狼と大鷲の餌食となって、生き残ったのは1/3・・そんな展開です。

ここまで詳しいものは初めて読みましたが、
もっと詳しく勉強しようと「極北の海戦―ソ連救援PQ船団の戦い」も早速、買いました・・。

最後には、その悪魔のような存在であったティルピッツも戦わずして葬り去られ、
Uボートも劣勢のまま、新型Uボートの開発も間に合わずに・・・。

kriegsflagge_white ensign.JPG

序文では著者マッキンタイアの「感謝のことば」として、引用した文献が掲載され、
そこには「デーニッツと灰色狼」のヴォルフガンク・フランク著の「Uボート作戦」と
デーニッツ回想録」も含まれていますが、
特に「私がクレッチマーをやっつけたのだ」的なことは書かれていません。訳者あとがきにも・・。

Donald MacIntyre.jpg

まぁ、完全に2冊分のボリュームのある本書でしたが、
あくまで英海軍目線で書かれた本ではあるものの、上記のようなドイツ側の資料も用い、
レーダー、デーニッツをはじめとするドイツの提督たちやUボートや水上艦の艦長にも触れて、
さすが海の男らしく、フェアに書かれたものという印象です。
ヘタをすると「英空軍」よりは、「ドイツ海軍」の方が好き・・とも取られかねない??

ただし、英海軍の戦艦から無数の駆逐艦まで聞いたこともない艦名でしっかり登場するので、
ウッカリしていると、撃沈されたのが戦艦なのか小型舟艇なのかもわからなくなるので、
とんでもない集中力が要求されるのは間違いないでしょう。。

最後に、ちょうどこのレビューに取り組んでるタイミングで、強烈なUボート本が発売されました。
「Uボート部隊の全貌―ドイツ海軍・狼たちの実像」という600ページ越えの大書ですが、
翻訳は、以前に紹介した「大西洋の脅威U99―トップエース・クレッチマー艦長の戦い」と
Uボート戦士列伝―激戦を生き抜いた21人の証言」を訳され、
この「独破戦線」にも度々コメントを戴く「訳者」さんこと、並木 均氏です。
並木さん、いろいろとお世話になり、ありがとうございました。







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