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写真で見る ヒトラー政権下の人びとと日常 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

マシュー・セリグマン著の「写真で見る ヒトラー政権下の人びとと日常」を読破しました。

昨年、発刊されたこの英国人3人による共著は、パラパラと本屋で立ち読みし
たくさん掲載されている写真と、そのクオリティから面白そうだな~と思っていましたが、
350ページで3990円という結構良い値段がするので、やっぱり「図書館」で借りてみました。。。

写真で見る ヒトラー政権下の人びとと日常.jpg

第一章「警察国家」では、1933年に政権を握ったナチ党によって、ヒトラーに都合の悪い法律を
廃止する一方、SA幕僚長レームらの殺害で知られる「長いナイフの夜」事件など
過去に行った違法行為を合法化したという話に触れ、特に興味深かったのは、
このような改定の結果、1939年までにそれまで3つしかなかった「死刑の罪」が
40以上に増えた・・という部分です。
もちろん、ヒトラーが嫌悪する犯罪・・「子供の誘拐」などは真っ先に死刑・・だそうです。

Ernst Röhm, Adolf Hitler, Rudolf Heß, Joseph Goebbels und Wilhelm Frick.jpg

この章ではSSゲシュタポ、そして強制収容所が作られていった経緯も簡単に解説されますが、
国民による「密告」では48歳の女性が仲の悪い家主をヒトラーの悪口を言ったと密告し、
この家主はゲシュタポにより逮捕、人民裁判で死刑判決、そして処刑・・
という例も紹介されています。

「抵抗運動」の章では、有名なハンスとゾフィー・ショルの「白バラ」や
「エーデルヴァイス海賊団」といった市民による抵抗組織だけではなく、
国家機密を知る立場の組織も紹介します。
以前の海軍元帥フォン・ティルピッツの孫で空軍省に勤めるハッロ・シュルツェ・ボイゼンが
ドイツ空軍の情報を収集し、ソ連にその情報を提供したなどで知られる「赤いオーケストラ」。

Schulze-Boysen.jpg

ここでもシュタウフェンベルク大佐の「ワルキューレ」作戦に関する、軍部の抵抗組織も
大きく取り上げられています。
また、名将として名高いフォン・マンシュタインが暗殺計画の参加を拒否して、終戦を迎えるまで
最高司令官であるヒトラーに忠実であり続けた・・と写真つきで紹介されますが、
これは、ちょっと極端すぎますねぇ。
マンシュタインについて、たった数行で片づけるのもヒドイ気がしますし、(というより、
ワルキューレ作戦に参加しなかった軍人は臆病者のナチという前提が好きではないんですが・・)
ヒトラーに罷免されているのに、終戦まで忠実だった・・とか、あまり意味がわかりません。。。

Time_1944_01_10_Erich_von_Manstein.jpeg

「芸術文化とプロパガンダ」では当時それほど普及していなかったラジオを大いに活用するため、
宣伝大臣ゲッベルス曰く「最先端大衆感化装置」こと、このラジオの普及を目指して、
廉価版の「国民ラジオ301型」を生み出します。
この301型とはナチスの政権獲得日である1933年1月30日という日付が
国民の記憶に残るものとして付けられた「型番」だそうです。

Volksempfänger.jpg

「青少年」の章では、「永遠の少年」フォン・シーラッハヒトラー・ユーゲントの登場です。
写真もなかなかで、特に共産党員に殺されたノルクスくんを主役にしたプロパガンダ映画、
「ヒットラー青年」もその一場面が掲載されていました。

HITLERJUNGE QUEX.jpg

続く「女性」の章は、女性に対するヒトラーの保守的な考え方が
カトリックの世界では受け入れられ、例えば「中絶」に対する罰など、
ドイツのカトリック教会もこうした対策を支持します。

子供を沢山生むことで受章される「母親十字章」の写真も掲載されていますが、
そのための政策「結婚資金貸付法」によって結婚する者は無利子で借りることができ、
子供をひとり生むたびに、25%が返済免除になったということです。
ということは、4人産んだらチャラですねぇ。
しかし現実には沢山の子供を育てられるような広さの住宅がない・・という
人口増加に伴う、住宅建設を疎かにしていたナチス政策の失敗も挙げています。

LuftwaffeHelferin.jpg

このようなナチスの政策失敗例では大学に対するものも紹介されています。
インテリ層を嫌っていたナチスは大学の定員数を大幅に減らしたうえ、
ユダヤ人やナチスに従わない大学教授が解雇されたことで、大学の質は
見る影もないほどに落ち、授業もナチス思想を導入するなど、お粗末なものとなって、
その結果、軍事に不可欠な「科学」、「工学」分野の人材が育たなかった・・。

「スポーツ」の章ではヒトラー・ユーゲントなど若者のスポーツや
1936年のベルリン・オリンピックだけではなく、
ほとんど強制的な大人のスポーツ活動促進の様子が詳しく書かれています。
55歳までのすべての男性を対象に体力テストが行われるようになり、
走り幅跳びは3m以上飛び、1㎞走は6分以内、3㎏のボールを6m以上投げること。。。
当然、背中を痛めたり、靭帯やアキレス腱を切る人も続出・・。
不合格者には、再訓練が待っており、就職にも影響します。いや~、厳しいなぁ。。

Mädchen im BDM.jpg

後半の「大量虐殺」の章になると、ハイドリヒアイヒマンといった、その筋のお馴染み達が登場。
ワルシャワ・ゲットーアインザッツグルッペンといったキーワードが中心です・・。

「軍と兵役」では1941年10月の第6軍司令官ライヒェナウの訓示が紹介され、
「この戦いの目的はユダヤ・ボルシェヴィズムを打倒することであり、ユダヤ人はドイツ民族に対して、
悪逆の限りを尽くした。それに対する報復を行わなければならない」。

Generaloberst Walter von Reichenau, Oberbefehlshaber der 6. Armee.jpg

そして再び、「名将と謳われた」マンシュタインが登場し、第11軍を前にして、
「恐ろしいボルシェヴィズムを広めようと企む、ユダヤ人には容赦ない処置を取らなければならない」。
絞首刑にされたパルチザンの写真では、国防軍統帥局長ヨードルの「パルチザンなどは吊るすなり、
八つ裂きにするなり、好きに始末すればよい」という言葉を載せています。

Sommer 1942. Brutaler Partisanenkampf.jpg

これらの司令官らの発言によって、刺激されたドイツの一般兵士がその言葉に従って行動した・・
と、していますが、この対ソ戦については、ドイツ軍の行った残虐行為だけしか出ていませんから、
いわゆる「目には目を・・」的な激しい殺し合いというのは、まったく伝わりません。
ロシアだけでなく、英米の指揮官たちが、ドイツ軍と戦う際にナチの狂信者どもについて
何と言って自軍の兵士たちを鼓舞したのか・・。それは日本軍に対しても同様ですし、
その日本軍にしても、「鬼畜英米」と表現しています。

ユダヤ人であろうが、なんだろうが、戦争で人を殺すことに違いはなく、兵士たちの
心理的負担を軽減するために、「相手は人間以下の動物である」と指揮官が語るのは
何処の国でもやっていることだと思います。
パルチザンについても、当人たちからしてみれば「英雄」ですが、相手からしてみれば
一般市民のフリした、汚いテロリストであり、このような連中に対しては、
最近でもどこかの国の大統領は、容赦なく殺して、さっさと水葬してしまうのは当然としています。

またちょっと脱線ぎみになってしまいました・・。
最後は西側連合軍の無差別都市爆撃のなかで生き続ける市民の様子と、
東からベルリンに近づいてくるソ連軍に脅える人々・・。

BERLIN 1945 woman.jpg

写真はそうですね~・・2ページに一枚くらいはあるでしょうか?
なかなかバラエティに富んだ白黒ながらも鮮明な写真ばかりで、未見のものがほとんどでした。
例えばヒトラーユーゲントや少女団(BDM)のプロパガンダ的なものから、
強制収容所からアインザッツグルッペンによって虐殺された人々の山・・。

唯一、??と思ったのはヒトラー暗殺未遂事件に関与した、ベック参謀総長の写真ですが、
これはフォン・ボックなんじゃないかな~?
全般的に国防軍については、あまりに極端で納得できない部分もありました。
グイド・クノップ本を参考にし、変なとこだけ抜粋って印象ですね。

ヒトラー政権下の人びとと日常2.jpg

最初の2~3ページ読んで思ったのは、「これ字がデカいなぁ」というものです。
そしてこのようにタップリの写真ですから、350ページといっても1日半で読めてしまいます。
当然、内容もあまり細かいことや、特定の事件の経緯も最小限の記述に止められていて、
この第三帝国での出来事をわかりやすく読めるものに仕上がっているとは思います。

その意味で、なんとなく学校の「教科書」的な印象を受けた本書は、
この世界に興味を持たれている10~20代の若い人・・なんかにもおススメですが、
ちょっと値段が高いのと、時々(鮮明な)死体写真が出てくるのが難点かも知れませんね。



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