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ヒトラーをめぐる女性たち [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ヘンリエッテ・フォン・シーラッハ著の「ヒトラーをめぐる女性たち」を読破しました。

先日の「ニュルンベルク軍事裁判」で旦那であるフォン・シーラッハが
「死刑」ではなく、「20年の懲役刑」で済んだことに大喜びする奥さん・・、
それが本書の著者、ヘンリエッテですが、彼女が単なるナチ高官の一夫人ではないことは
過去に読んだいろいろな本に登場することで知っていました。
例えばヒトラーの愛人となったエヴァ・ブラウンを「うちの店の田舎娘・・」みたいな表現をしていたり、
大勢のユダヤ人が連行される一部始終を街で目撃した件を、
ベルヒテスガーデンの夜会の席でヒトラーに問い詰めて、逆にヒトラーの怒りを買ったり・・。
本書は1982年の刊行で、そんなヒトラーに近かった彼女が、70歳近くのおばあちゃんになってから
書いたもののようです。

ヒトラーをめぐる女性たち.jpg

このヘンリエッテ自身については最後の章に述べられていますが、
本書を読むにあたっては最低限、彼女が何者なのかを、もう少し知っておいたほうが良いでしょう。
1913年生まれの彼女はバイエルンの写真屋の娘で
父のハインリヒ・ホフマンは1923年からヒトラー専属カメラマンという人物です。
このようなことから、当時、頻繁に訪れるヒトラーに9歳の頃から遊んでもらい、
5歳ほど年上のヒトラーの姪、ゲリや、ひとつ年上のお店の手伝い、エヴァとも親しく、
ヒトラーを中心にしょっちゅうピクニックに繰り出していました。
そして1932年、ヒトラー青年団全国指導者のバルドゥール・フォン・シーラッハと結婚・・。

Baldur y Henriette von Schirach.jpg

まずはヒトラーが最も愛したとされる姪のゲリ・ラウバルです。
ヘンレエッテ曰く「朗らかで、自信に満ちていたゲリだが、父でさえ、
彼女の本当の魅力を写真に撮ることが出来なかった」。
そしてヒトラーの伝記作家たちがゲリを評して「むっちりした上オーストリアの田舎娘」と
片づけていることに異を唱え「彼らはゲリに会ったことさえない」。

全体的には「ヒトラーの戦い<1>」と同様の内容ですが、同じ女の子の目線から見た印象などは
非常に説得力があるように感じました。
ゲリの自殺の要因についても身近に接していただけあって、最後にこのように締めくくります。
「ヒトラーがゲリをかくも締め付けて、袋小路に追い込んだことで、ゲリはヒトラーを
殺したいほど憎んだ末、自らの命を絶つことによって、彼を傷つけ、破滅させようとしたのだ・・」。

Angela Raubal_hitler.jpg

ゲーリングの二人の奥さんもそれぞれ独立した章で登場します。
ヒトラーが好きだったスカンジナビア美女3人がいたとして、彼が欠かさず観ていた女優、
グレタ・ガルボ。そしてイングリッド・バーグマン。3人目がゲーリング最初の奥さんカリンです。

このカリンも以前に読んだ「ゲーリング」を思い出させる展開で、
特に彼女が病気になって弱っていくのと対照的に、ナチ党とゲーリングが
権力を握ろうと上り詰めていく展開・・そしてカリンの死・・・。
このカリンの話はいつ読んでも悲しいですね。。。

Carin Göring.jpg

二人目の奥さんエミーも、かなりしっかり書かれています。
これはヘンリエッテが同じニュルンベルクの戦犯夫人という関係もあってか、
戦後もエミーとも友達だったことも大きい気がします。

亡き妻カリンに永遠の愛を誓ったかのように、カリンハルと名付けた豪邸や
ヨットなどの所有物にも「カリンⅠ号」などと名を付け、あちこちに写真も飾るゲーリング。
しかし、エミーはそんな旦那さんの想いを広い心で受け入れます。

Mrs_-Goering,-Mussolini-Goering-at-Carinhall.jpg

戦前、ナチスの顔として外国を歴訪するゲーリングですが、夫妻のバルカンの旅では
ベオグラードの9歳の国王ペータル2世へのプレゼントとして、
部屋いっぱいに広がる鉄道模型を持参していったという話も出てきました。
これは「神々の黄昏」の後のナイスタイミングな話ですねぇ。
先日、ロイヤル・ウェディングがあったせいか、各国の国王や皇太子にも
興味が湧いていたせいもありますが・・。しかし結局、彼は、
ゲーリングのルフトヴァッフェではなく、亡命先の英国空軍入りしたみたいです・・。

Петар II.jpg

そして敗戦間際、ベルリンのブンカーに留まるヒトラーに対し、
後継者として権力の譲渡を求める電文を発した挙句、SSによって逮捕・・
という場面も、エミーと娘エッダを中心にした展開で新鮮です。
ゲーリングが最終的に絞首刑を逃れたくだりでは、誰がゲーリングに毒を運んだのか?
「きっと天使が天井からパパに毒を落としてくれたのよ」との見解なのは娘エッダです。。

その他、「ニュルンベルク軍事裁判」のケリー医師が尋ねてきたりと
あちらの本とリンクもして、戦後の彼女の苦労も知ることができました。
なんともゲーリングは奥さんに恵まれてたんだなぁ、というのが感想ですね。

Hermann Göring hugging his wife Emmy and daughter Edda.JPG

真ん中の章ではいろいろな女性たちが登場してきます。
映画監督レニ・リーフェンシュタールやムッソリーニの娘エッダ・チアーノなどの
お馴染み以外に気になったのは、イタリア皇太子夫人マリア・ジョゼーです。
実は彼女はナチス・ドイツによって占領、そして監禁されている
ベルギー国王レオポルド3世の妹で、その枢軸の身分を利用して、
兄である王とヒトラーを引き合わせようとし、ヒトラーも彼女の勇気と機転に感心するのでした。

mariejose.jpg

一番、興味深かった女性は、おそらく第三帝国の女性ではエヴァに続いて有名な
マグダ・ゲッベルスです。
マグダと言えば映画「ヒトラー 最期の12日間」で可愛い6人の子供たちを殺し、
自殺するヒトラーに泣きついた挙句、旦那ゲッベルスと心中したナチ気違いのおばちゃん・・・
というのが個人的なイメージでした。
そんなわけで、このようなタイプの凶暴なおばちゃんには興味がなかったこともあって
実は良く知らなかったマグダの人生をはじめて詳しく知ることになりました。

Joseph Goebbels (Ulrich Matthes) Magda Goebbels (Corinna Harfouch).jpg

彼女の崇拝するヒトラーが「素晴らしい女性」とべた褒めするものの、
その直後、ゲッベルスの愛人とわかってヒトラーはガックリ・・。
結局は、誰とも結婚する気のないヒトラーを傍で支えるために
側近のゲッベルスと結婚を決意する・・という展開は
正直、どこまで本当か、よくわかりませんが、なかなか健気な女性という印象です。

goebbels-family02.jpg

次から次へと生まれる子供たちも、ヒトラーが大いに可愛がり、
一方で女優の卵に片っ端から手を出し、不倫を繰り返しては「愛人を公式に認めろ」と迫る
旦那ゲッベルスには愛想をつかして離婚を要求しますが、ヒトラーが許しません。
本書を読む分には、想像していたのとはまるで違う、可愛そうな女性でした。
「炎と闇の帝国―ゲッベルスとその妻マクダ」も読みたくなったなぁ。

Hitler and Helga Goebbels.jpg

そしてエヴァ・ブラウン・・。彼女が正式に?ヒトラーの愛人なってからも、
ヘンリエッテは山荘でのエヴァの部屋で語り合うという関係ですが、
やっぱり「うちの店の見習い娘」がヒトラーの寵愛を得たのが気に入らないのか、
エヴァのセンスの悪さなど、結構辛らつな感じです。

Eva Braun in 1937.jpg

ヒトラーの傍らで一緒に写ってしまった写真は、すべて公式写真としてはじかれたというように、
非公式な影の存在でしかなかったエヴァの無気力さを窘めるかのようでもあり、
もっとヒトラーを多少なりとも人間としてに開放的することは出来なかったのか・・。
さらに、戦争が終わって、ヒトラーが引退するまでは影の女でガマンしようと
エヴァは考えていたとして、それさえも叶わなくなったことが分かると、
晴れてみんなの前でヒトラーの横に立ち、共に死ぬという目的を見出したのだ・・としています。

der_untergang-hitler_und_eva_braun.jpg

当初はヒトラーとの付き合いの古い彼女の人生を回想しながら
様々な女性たちが登場してくるような内容を想像していましたが、
章立てで、その女性たちを生い立ちから詳しく書かれているものでした。
まぁ、本書を完成させるにあたっては、いろいろと手伝った人もいるんでしょうが、
ナチスの女たち」にも出てきたユニティ・ミトフォードの章もあったりして、
あのようなスタイルの本と言えばよいでしょうか。
それでも本書のヘンリエッテの個人的視点というのは、他にはない面白いものでした。





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