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スターリングラード -ヒトラー野望に崩る- [第二次世界大戦ブックス]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジェフレー・ジュークス著の「スターリングラード」を読破しました。

最近、陸戦モノをご無沙汰していたというのもありますが、
この「スターリングラード攻防戦」というのは、初めて読んだ戦役であったり、
これを描いた映画も2本好きなのがあったり・・と、個人的な思い入れが強く、
無性に読みたくなるときがあります。
しかし、なかなか詳細に書かれたものはあまりなく、今回もamazonで探していると
「やっぱり、第二次世界大戦ブックスかぁ」ということで、500円で購入・・、
届くなり、中毒患者の如く、すぐさま読破しました。

スターリングラード.jpg

リデル・ハート卿のまえがきでは、英国人著者ジュークスがソ連通であり、
そのソ連で刊行された「大祖国戦争」全6巻やチュイコフジューコフの回想録を活用していること、
しかし、それらが大きく食い違い、また、歴史をいじりまわし、宣伝のためにひっくり返すという
スターリン、フルシチョフ時代の長い経緯を注意する必要があるとしています。

スターリングラード戦というは有名ですし、この「独破戦線」でも何度か紹介していますので、
本書にも当然書かれている戦局の推移は割愛します。
それでも、本書には興味深い話や、知らなかった話(或いは忘れていた話・・)、
印象的な登場人物も結構ありましたので、それらをいくつか紹介してみようと思います。

Deutsche Grenadiere in der Stalingrader Schlacht.jpg

ポーランド戦役の作戦名「白作戦」、西方戦役の「黄色作戦」と大成功を収めたものの
ソ連侵攻の「バルバロッサ作戦」が大失敗に終わったことから、
また「色」に戻って「青作戦」と名付けられた、この1942年の夏季攻勢・・。
5月の第二次ハリコフ戦で大損害を受け、それによって、撤退に撤退を繰り返す
ティモシェンコ元帥率いるソ連軍。
一方、余勢をかって快進撃を見せるフォン・ボック元帥の巨大なドイツ南方軍集団。

Panzers cross the Don.jpg

しかし、ヴォロネジの占領を巡ってフォン・ボックは、対立したヒトラーにより、あっさりクビに・・。
こうして支離滅裂なヒトラーの作戦指導のもと、カフカスの油田を目指すリスト元帥のA軍集団と、
ヴォルガ川を目指すフォン・ヴァイクス上級大将のB軍集団とに分けられ、
ヘルマン・ホトの第4装甲軍に対しても、ロストフ方面のクライストの第1装甲軍の
必要のない援助に回すなどして、逆に道路の戦車渋滞を引き起こすだけ・・。
ホト曰く「第4装甲軍が脇道へ逸れることがなければ7月末にはスターリングラードを
戦わずして占領できただろう」。

Von_bock_hoth.jpg

ソ連側でこのスターリングラードの危機に登場する本書の主役のひとりは、
スターリンのお気に入りのピンチヒッターで、戦略的能力に優れる闘争家肌の楽天家として
南東方面軍司令官に任命されたエレメンコ大将です。
そしていよいよ始まったドイツ軍の大攻勢に対し、死守命令を受ける第62軍の司令官に
チュイコフ中将を「信頼できる男」として新たに抜擢。もちろん、彼も本書の主役です。

Andrei Iwanowitsch Jerjomenko.jpg

まず、リヒトホーフェン指揮の爆撃機による空爆、続いて戦車部隊が進撃、
そして1000メートルも先から機銃をバラバラ撃って来る歩兵部隊・・というドイツ軍の戦術を見た
チュイコフは、なんとかドイツ軍の苦手な接近戦を目論みます。
しかし劣勢を跳ね返すことはできず、増援で送られてきたシベリア兵や海軍歩兵部隊が
なんとか屈強に戦い続けます。

Sowjetische Soldaten erhalten Parteidokumente.jpg

カフカスで行き詰ったA軍集団のリスト元帥、陸軍参謀総長のハルダーらが次々とクビにされるなか、
ヒトラーの首席副官シュムントが陸軍人事局長になると、
苦戦中の第6軍司令官パウルスがお祝いを送ります。
これを受けたシュムントは参謀総長の後任にパウルスを考えていると漏らし、
スターリングラードの迅速なる占領が華やかなる明日を約束するものだと・・。
本書はパウルスにはかなり厳しく、
「その経歴からしてみて、ご機嫌取りとしてもかなり有能であった」など・・。

General Paulus.jpg

スターリングラード方面軍と名称変更したエレメンコの方面軍の他に、
ドン方面軍にはロコソフスキー、南西方面軍にはバトゥーチンといった司令官たちが・・。
10月、チュイコフは弾薬の配当量が減らされるとの通知を受け取ります。
しかし、これは極秘であるジューコフによる「天王星作戦」に向けられたものでもあります。

Василий Иванович Чуйков.jpg

情けないほどの装備と士気でも、とにかく監視だけは続けるルーマニア軍・・、
そして11月19日、ポカンとしている彼らの前に恐ろしい形をしたT-34、200両が
霧の中から現れます。
「数か月にわたる守勢一方の苦しい血戦を味わってきた者にとって、
これ以上に嬉しいことはなった」とエレメンコの語る、
ドイツ第6軍を一気に包囲する大攻勢「天王星作戦」が成功。

T-34 in Stalingrad.jpg

この未曾有の大危機にB軍集団司令官のヴァイクスは戦線の維持と突破脱出の2案を
すぐさま検討しますが、結局ヒトラーはヴァイクスを無視して、第6軍に直接「死守命令」を発します。
ヴァイクスっていう人は、有名な割にはどんな本でも軽んじられた扱いがしますね。
いかにも「お洒落な男爵」といった雰囲気のメガネが良くないのかも・・。

von Weichs.jpg

そのヴァイクスの代わりに登場するのが、もう何度書いたかわからない、フォン・マンシュタインです。
ひょっとしたらヴァイクスもそれなりに適切な司令を陰で出していたのかも知れませんが、
ここからは新設ドン軍集団マンシュタインによる第6軍救出の「冬の嵐作戦」の独壇場です。

ホトの第4装甲軍・・もちろんあの第6戦車師団も突破口を開けて救出に向かいますが、
パウルスは一向にそれに向けて脱出する「雷鳴作戦」を燃料不足とヒトラー命令を理由に
拒否し続けます。
包囲された状態が進むにつれて、実質的な軍司令官になったと書かれる
第6軍参謀長アルトゥール・シュミット少将も最終的に拒否。
彼については「強い性格の持ち主で、心底からのナチ」ということです。

paulus_schmidt.jpg

ドイツ空軍が決死の覚悟で届けたフランス・ワインにオランダのチーズ、
デンマークのバターとノルウェーの缶詰で年末のお祝いするソ連野戦本部。
年が明けるとロコソフスキーらの署名入りで降伏勧告を行います。
この絶望的な状況にもヒトラーは降伏を許さず、現実離れしたことを言い出します。
「新型戦車パンター1個大隊を送って、突破口を開けるのだ」。

stalingrad9.jpg

最終的には降伏した第6軍。。口もきけないほど参ったパウルス元帥ですが、
ソ連側の待遇の良さに徐々に元気を取り戻し、ウォッカを注文して
「我々を打ち負かしたソ連軍と指揮官たちに」乾杯し、その後は「反ナチ」活動家となります。
著者は「彼はもともと調子のいい男であるから「改宗」したのか
「新しい主人」に調子を合わせたのかはわからない」と締め括っています。
野戦司令官として、どの本でもダメ出しされる参謀畑のパウルスが可哀そうになりますが、
ならばマンシュタインが第6軍を率いていたなら、スターリングラードは落ちたのでしょうか?

General K. Rokossovsky, Marshal of Artillery N. Voronov, translator captain Diatlenko, and Field Marshal Paulus.jpg

第二次世界大戦ブックスは200ページほどなので、
このような半年にも及ぶ攻守入れ混じった戦役という意味では、
ダイジェスト的な印象であるのは否めません。
しかし、本書はこのようにソ連側を主体に様々な話も提供してくれました。

hungarian-dead-stalingrad.jpg

最後の加登川幸太郎氏の「訳者あとがき」は特に異常なまでに楽しめました。
これは「スターリングラード攻防戦」を日本の地理に当てはめる、というもので、
「ヴォルガ川」を東京の「隅田川」とした場合、どこでなにが起こったのか・・。
1941年7月、北アルプスから隅田川を目指す「第6軍」、9月まで池袋、新宿で激しく戦うも、
松戸、市川、東京湾からの砲兵の支援の前にチュイコフの第62軍を追い落とすことができず、
11月「天王星作戦」が発動された長野でルーマニア軍が崩壊、
パウルスの司令部は練馬区に移り、
伊豆半島から救出に向かったマンシュタインも箱根で阻止され、
1月には三鷹市のピトムニク飛行場を失い、
遂に足立区と中央区に分かれていたドイツ第6軍が降伏・・。

stalingrad_11.jpg

この戦役のスケールの大きさを実感出来ましたし、東京下町の人間として、
我が家がスターリングラードのど真ん中・・という凄いことを想像する機会にもなりました。
「訳者あとがき」が本文より面白い・・とは言い過ぎかもしれませんが、
インパクトという意味では、最高なのは間違いないでしょう。









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