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ナチス裁判 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

野村 二郎 著の「ナチス裁判」を読破しました。

元朝日新聞の司法記者という経歴の著者が関係者に自らインタビューも行い、
1993年に発刊された、戦後のナチス裁判について調査をした1冊です。
このナチス裁判ということでは以前に「ニュルンベルク・インタビュー」を紹介していますが、
本書は戦後の西ドイツを中心に、ヨーロッパ各国がナチス戦犯に如何に取り組んだのか・・や
その告発された被告の責任というものにも、言及しています。

ナチス裁判.png

前半は戦後の西ドイツ、1958年に「ナチス犯罪追跡センター」が設置され、
司法省から15人の検事が派遣、80人のスタッフと共に活動を始めるものの、
「いまさらナチスを裁く必要があるのか」と火炎瓶までが投げ込まれるといったまりさま・・。
そして1965年には初代所長のシューレ検事が「元ナチ党員である」とソ連から告発され、
辞任に追い込まれるといった苦難の時を紹介します。

終戦から20年が経ち、証人の証言もマチマチ・・、犯罪の立証も困難となったことで、
有罪率も低下します。するとこの東西冷戦時代もあいまって
ナチス・ドイツの被害国であった東欧諸国からは「西はもうナチス追及をやめたいのが本音だ」と
激しい非難を受けます。

The Malmédy Massacre Trial.jpg

そして2回の時効を延長してきた西ドイツは1980年、ナチス犯罪も含む時効の廃止を議決。
それでも「戦場で上官の命令に従っただけの一般兵士に対し、
その責任を追及するのには無理がある」や
「ナチス犯罪はナチス政権という特異な時代の産物であり、
30年経って裁判をしても意味がない」という声も・・。

中盤は本書のメインとなる「被害国による峻烈な処罰」の章で、
ポーランドではアウシュヴィッツ絶滅収容所の所長、ルドルフ・ヘース
ワルシャワ・ゲットー蜂起で悪名を馳せたユルゲン・シュトロープ
死刑を執行されるまでを紹介します。

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特にポーランドの作家、モチャルスキーが冤罪により10年を超える拘置生活で
同刑務所に収容されていたシュトロープとの会話をまとめた本こそ、
有名な「死刑執行人との対話」であるということを初めて知りました。
早速、amazonで購入! ちなみに古書で¥600でした。

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チェコスロヴァキアや旧ソ連、1万人以上を有罪にし100人以上を処刑した東ドイツ、
そしてオランダと続き、
オーストリアではマウトハウゼン強制収容所が1945年、米軍によって解放される直前、
収容者が決起し、逃げ出そうとする収容所幹部を捕えて、針金で絞首刑にした話・・。

フランスはポーランドをも凌ぐ10万人とも言われる処刑を行ったようです。
これらは戦争終結前後にレジスタンスなどによって行われたもので、
数字には諸説あるものの、いわゆる対独協力者も多いようです。
もちろん、「リヨンの虐殺者」クラウス・バルビーについても触れられています。

Klaus Barbie.jpg

温情を見せるイタリアでは「マルツァボット虐殺」の下手人、ヴァルター・レーデルSS少佐が
終身刑を受けたものの、28年間服役した後、1985年に釈放されたという話と、
「アルデアティーネの虐殺」を指揮したローマのゲシュタポ長官、
ヘルベルト・カプラーSS中佐も登場。
1977年、胃ガンのため、陸軍病院に収容されていた48キロに痩せ細ったカプラーを
夫人がトランクに入れ車で西ドイツまで運び去った・・・。

Herbert Kappler (left).jpg

マルティン・ボルマンの噂についても触れていて、1958年にボリヴィアで農園を経営、
1972年にはコロンビアにいるとかの未確認情報。 そして1973年には
フランクフルト地検が「ブランデンブルク門近くの鉄橋で自殺した」と判断しています。

デーニッツシュペーアらが収容されていた有名なシュパンダウ刑務所。
1987年、93歳のかつての副総裁ルドルフ・ヘスが「自殺した」と発表されます。
遺族が疑問を投げかけ、遺体は解剖されますが、これにも陰謀説や暗殺説がありますね。

hess1985.jpg

後半には3人の「ナチ・ハンター」、アイヒマンやシュタングル逮捕の功労者で有名な
ヴィーゼンタールらが取り上げられます。

Adolf Eichmann.jpg

そして最後には東西ドイツの統一後、の特異な裁判が・・。
かつて東側からベルリンの壁を越えて西側に脱出しようとした市民を射殺した
東ドイツ国境警備兵の裁判です。
「国境警備の武器使用は国際法で認められている」ものの、その有罪判決では
「上官の命令に従ったとはいえ、人間的良心を放棄することは許されない」というものです。

1992年から始まったこの種の裁判の焦点はやはり、「ナチス裁判」と同様、
「命令に服従」したことが犯罪なのか・・という問題です。
不当な命令に服従するか、しないかは最終的に個人が「人間的良心」から判断し、
責任を負わねばならない・・ということが明確になったとしています。

East German guards watching over the Berlin wall 1965.jpg

なにか司法の専門家が書かれたものだと難しくなりそうな感じですが、
本書は著者が直接関係者から聞きだした話だったり、また、それらが様々な意見であること、
230ページのボリュームながら、ある意味バラエティに富んだ内容でもあり
かなり勉強になりました。
個人的には重要な人物や裁判にもっと焦点を当てて、
倍ぐらいのボリュームがあっても良かったくらいです。



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