SSブログ

戦争は女の顔をしていない [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著の「戦争は女の顔をしていない」を読破しました。

以前から、かなり気になっていた本書を紹介します。
女性の著者が1978年から、こつこつと取材して集めた、
大祖国戦争で従軍した旧ソ連の女性たちの記録です。
戦後のソ連で語ることが許されなかった、彼女たちの戦場での様子を
場合によっては数ページのものから、たったの数行まで、幅広く収録しています。

戦争は女の顔をしていない.JPG

1941年、「戦争が始まった!」と国中に広まると、16歳から18歳の小娘たちも
「戦わなくちゃ!」と言って、地元の徴兵司令部に駆け込みます。
しかし、戦争がどういうものか・・、前線で自分に何が出来るのか・・、
ましてやこの戦争が4年も続くなど思わず、数日で帰って来れると思っていたり・・。

彼女たちの配属先はさまざまです。
衛生大隊で看護婦として、製パン中隊や洗濯大隊といった後方支援だけでなく、
高射砲部隊、地雷除去の工兵部隊、歩兵に狙撃兵、航空部隊という最前線で
戦争の悲惨さを目の当たりにします。

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支給される軍服は男物でブカブカ・・。下着すら男物で、ブーツは紐を解かなくても
履いたり、脱いだり・・。もちろん、行進などは至難の業でブーツが脱げてすってんころりんです。
航空部隊でも訓練が始まると、長いお下げ髪を全員切ることに・・。
これに「嫌だ!」といって反抗するのは、あのリディア・リトヴァクです。

Lydia Litvyak_02.jpg

「上官には1人1人に敬礼すること」と曹長に教えられると、前から2人の上官が・・。
手に持っていた荷物を置いて、「これしかない」と両手で敬礼。。

ww2 medic with her horse.jpg

伝言を頼まれても、途中で名前どころか「大尉」という難しい階級も忘れてしまいます。
階級章もチンプンカンプンですから、「おじさん、おじさん」と呼ぶ始末です。
みんなと離れて泣いている娘に理由を尋ねると「だって、もう3日もお母さんに会ってない・・」。

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そして訓練を終えた彼女たちを待つ最前線では男性の大隊のなかに放り込まれ、
目や口に銃剣を突き刺し、喉を絞め合い、ボキボキと骨の折れる音、頭蓋骨の割れる音、
獣のような叫び声といった白兵戦も体験します。
3人のドイツ兵と1人のロシア兵が取っ組み合ったままの姿で凍り付いている光景・・、
その氷も赤く染まっている、というのは忘れられないでしょうね。

燃えるT-34から黒焦げの戦車兵を救い出し「どうか死なないで」と引きずって戻ります。
あるとき2人を交互に引きずっていると、一人はドイツ兵であることに気付き、そして・・。

soviet nurse helping a wounded soldier in the battlefield, WWII.jpg

敵であるファシスト/ドイツ人に対する思いもさまざまです。
その悲惨な死に様を見て「うれしかった」という感想もあれば、捕虜のドイツ少年兵に
パンを分け与えた自分が人間性を保っていることに「うれしかった」という人まで。

野戦病院でもひっきりなしに負傷兵の治療に明け暮れます。
切断した足を本人に気づかれないよう、赤ん坊のようにそっと抱いて捨てに・・。
この野戦病院の裏を通りかかり、切断された足の山を見た男性兵士は卒倒です。

夜中「看護婦さん!尿瓶を!」の声に慌てて持っていくものの、受け取ってくれません。
彼が両手を失っていることに気づいて、彼女はしばし呆然とします。
「やらなくちゃいけないことはわかったけど、見たこともないし、やり方も・・」。

Soviet nurses treating the wound of a captured german SS.jpg

恋の話もいくつか出てきます。
密かに恋焦がれていた少尉が戦死し、その埋葬の際、誰にも知られていないと思っていた
この想いを、実はみんなが知っていたことにビックリ。
ひょっとして彼にも想いが伝わっていたかも・・と思うと嬉しさに自然に笑みがこぼれます。
そして彼の亡骸にキスを・・。そしてこれが彼女のファーストキス。。。

Russian soldier.jpg

夫婦で同じ部隊・・という話では、砲弾の破片に当たって戦死した夫を
そこでの共同墓地への埋葬することを拒み、数千キロ離れた故郷へ連れて帰りたい・・。
彼女は将軍たちに訴えるものの、当然のように尽く拒否され、
挙句の果てには、あろうことか方面軍司令官ロコソフスキー元帥に直訴します。
「無理なら私も一緒に死にます!」と言う彼女に、さしもの元帥も敗北。
特別機で夫の棺とともに帰郷することが出来たのでした。

Konstantin Rokossovsky.gif

昼夜を問わない長い長い行軍では3人が支え合いながら歩きます。
そして順番に真ん中が両端の2人にに支えられながら眠りにつきます。

ソ連の女性兵士といえば、映画「スターリングラード」で女スナイパーを演じた
レイチェル・ワイズをすぐに思い浮かべてしまいますが、
戦果309名という、とてつもない記録を持つ、美貌の女性スナイパーが実在しています。
その名もリュドミラ・パヴリチェンコといい、本書には出てこなかったものの非常に気になっています。
特に彼女は「セヴァストポリ要塞」でもドイツ兵を殺しまくった末、
マンシュタインの怒涛の攻撃により、負傷・・そして病院送りという展開は、
とんでもない映画が作れそうですけどね。

Lyudmila Pavlichenko.jpg

こうしてベルリンへの進軍、そして遂に勝利。勲章を胸に飾り、意気揚々と帰郷する彼女たち・・。
しかし故郷では、「若い娘が男たちの中で何をやってたんだか・・」と冷たい視線にさらされます。
家に帰り着いたのも束の間、「妹たちが結婚できないから、さっさと出て行っておくれ!」。

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このような戦後の悲惨な話は彼女たちだけではなく、
ドイツの捕虜の身から解放されて家族のもとにやっと辿り着いた父親も・・。
翌日には「みすみす捕虜となった裏切り者」として連行され、数年間の収容所行きです。
他にも、4年間戦い、生き延びたのに故郷の農地で地雷で死亡・・。という話もありました。

Russian soldier is welcomed home.jpg

ドイツ人の女性に対する暴行についても、その男たちの順番待ちの行列と
血だらけになった女性の姿を目撃した女性兵士の感想、方やその経験を語る男性兵士、
「教養のある自分がなぜ、あんなことをやったのか・・」。
このように戦後、数十年経って、うら若き彼女たちの当時と
おばあちゃんとなったインタビュー当時では、その思いには大きな変化があります。

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本書は読まれる人、それぞれ印象的な話があるでしょう。
ヴィトゲンシュタインがここに書かなかった話のなかにも、感動的なもの、恐ろしいもの、
衝撃的なもの、まだまだ沢山あります。

Soviet woman soldier.jpg

ちょっと恥ずかしいですが、自分が本書で最も印象に残った話を最後に紹介します。

戦功により一時帰郷していたナターシャがモスクワから戻ってきたとき、
その彼女の匂いをみんなでクンクンと嗅ぎます。
文字通り、行列をつくって順番に匂いを嗅がせてもらいます。
「おうちの匂いがする」と言って・・。



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諜報・工作 -ラインハルト・ゲーレン回顧録- [回想録]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ラインハルト・ゲーレン著の「諜報・工作」を読破しました。

以前から読みたいな~と思いつつも、当時の定価¥1200が今では
古書でも¥3000以上はすることで、購入に二の足を踏んでいましたが、
今回、綺麗な本を¥600で購入することが出来ましたので、早速、読破です!
いや~、本に限らず、こういう「良い買い物」が出来ると嬉しいですねぇ。
ちなみにヴィトゲンシュタインは上野の「アメ横」で買い物を覚えたクチですから
良い物を如何に安く買うか・・には執念を燃やします。

諜報・工作.JPG

もともとその10代の頃からスパイ小説が大好きで、当時まだ東西冷戦が続いていた時代、
もちろん、多く小説の舞台の中心となるのはベルリンの壁が存在する東西ドイツ・・。
ジョン・ル・カレやレン・デイトン、フリーマントルにラドラムなんかが愛読書でした。

まずは1942年4月1日、ゲーレンがドイツ陸軍参謀本部第12課、
通称「東方外国軍課」の課長に任命された経緯からの回想です。
それまで情報活動とは関係なく、作戦課での勤務や西方作戦では
ブラウヒッチュからホトグデーリアンの装甲軍団の連絡将校を務め、
その後、参謀総長ハルダーの個人副官を務めたということです。

就任後、ゲーレンは「東方外国軍課」と情報参謀の改革を行います。
特に「地球規模でものを考えることが出来る人物」というカナリス提督を尊敬し、
OKWの外国・防諜部(アプヴェーア)の彼との協力関係がはじまります。

Reinhard Gehlen.jpg

カナリスは宗教的観念から政治的暗殺を拒否し、フランスのジロー将軍や
チャーチル暗殺をヒトラーから命令されたという話が出てきます。
完全に「鷲は舞い降りた」ですねぇ。

しかし、当時カナリスには「RSHA」という敵が存在します。
ヒムラーとハイドリヒのSSがこの防諜の世界に入り込もうとするこの戦いは、
1936年にはカナリスがRSHAのヴェルナー・ベストと接触し
双方の組織の線引きとなるガイドラインを創るものの
1942年6月にシェレンベルクが登場し、新協定を結ぶこととなり、
SDの国外スパイ活動が合法化されてしまいます。

canaris und heydrich.jpg

シェレンベルクについて「彼はとても利口な男だったし、説得力もあった」として
カナリスからは「危険な相手」と警告もされていたそうです。

ゲーレンが東方外国軍課の長に就任してから半年後には
スターリングラードでの危機が訪れます。
翌年のクルスクでの「ツィタデレ作戦」においても、ソ連軍の陣容を調査/報告しますが、
スターリングラードの時と同様にその情報は活かされません。

ハルダー、ツァイツラー、グデーリアンというゲーレンが従えた歴代の陸軍参謀総長は
ゲーレンの作成した報告書がヒトラーから「敗北主義」と一蹴されても庇い、
1945年1月にはヒトラーが「こんなものを書いた奴は精神病院送りにしろ!」と
グデーリアンに怒鳴りつける、有名な話も出てきました。
ちなみにゲーレン自身は4回ほどヒトラーと対面したことがあるようです。

Hitler in military briefing_ Manstein, Ruoff, Hitler, Zeitzler, Kleist, March _1943.jpg

ヒトラー暗殺未遂事件当時、ゲーレンは病気のため入院していたことも幸いし、
当然のように知っていたこの計画の共犯者とする
ゲシュタポの「魔女狩り」からは見逃してもらえたそうです。
なお、本書にはシュタウフェンベルクと立ち話するゲーレンの珍しい写真も掲載されています。

wolfsschanze1944.jpg

しかしカナリス提督は投獄され、アプヴェーアもシェレンベルクのSDに吸収・・。
ゲーレン自身も終戦直前の1945年4月9日に解任されてしまいます。

途中、最も楽しみにしていたマルティン・ボルマンソ連スパイ説が3ページほど語られます。
1943年頃からゲーレンも疑い始め、絶対的な証拠はないもののカナリスも
同様に疑っていたにも関わらず、「総統」の信頼がある秘書のボルマンに対して
逆に信用下降線の一途を辿るカナリスら防諜部が監視をつけたり、
報告するなどということはとても出来る話ではなく、
戦後の調査によって、ボルマンが総統地下壕からソ連に身を預け、
ソ連の顧問として完璧な偽装の元で生活・・やがて死亡したとのことでした。

MARTIN BORMANN9.jpg

この第三帝国におけるゲーレンの回想はこの前半の約1/3程度でおわり、
ここからは投降したアメリカ軍に対して、自分たちのソ連に対する情報提供者としての
価値を認めさせ、近い将来、現実となるであろう、ソ連と西側の戦いと
ドイツが復活した暁には独立した諜報機関になることを目指したゲーレンの戦いが紹介されます。

彼個人としてはこの過程が最も重大、かつ困難な時期であったことが
読んでいて実に良く伝わってきます。

そして1949年、コンラート・アデナウアーが初代西ドイツ首相に就任すると、
既にアメリカとCIAと協力して実績を挙げていた「ゲーレン機関」にも信頼を寄せ、
1956年には正式に政府組織、ドイツ連邦情報局「BND」となって
ゲーレンは1968年まで長官として活躍します。

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現在、既に取り壊された「ベルリンの壁」が徐々に構築されていく様子や、
宿敵となる「SSD」(東ドイツ国家安全保障局)長官、ウォルベーバーとの戦い。
ソ連ではスターリンが死亡し、元NKVDベリヤがモスクワで処刑されるなど
クレムリン内部での権力争いも調査。

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キューバ危機でのケネディとフルシチョフ、そしてカストロらについても語り、
そのフルシチョフも遂に失脚して、ダイナミックな党指導者としてブレジネフが登場します。

またKGB議長アレクサンドル・シェレーピンが「BND」内部にスパイを送り込み、
ゲーレンがその「逆スパイ」の部下を告発するまでの過程も詳細です。

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ベトナム戦争についても諜報の観点というより、かつてのドイツ陸軍作戦参謀的な見方から
アメリカのちまちました戦術にダメだしをして、「かつて我々が行った電撃戦を行っていれば、
ジャングル戦に引き込まれることもなかっただろう」と解説しています。

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後半は、やっぱりかつて読んだスパイ物を彷彿とさせる展開で、
確かに「独破戦線」的ではないにしろ、個人的には非常に楽しめました。
ゲーレン引退後の回想録とはいえ、そのたった3年後に執筆された本書は、
やはりどこまで書くか・・というのには本人も悩んだようです。
当然、現役スパイたちの名やそのスパイ網などを暴露することなどできるハズもなく、
進行形ではない、あくまで、「既にカタがついたこと」の集大成ということがいえるでしょう。



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