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詳解 独ソ戦全史 -「史上最大の地上戦」の実像 戦略・戦術分析- [ロシア]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

デビッド・M. グランツ, ジョナサン・M. ハウス著の「詳解 独ソ戦全史」を読破しました。

タイトルからはわかりませんが、表紙の「クルスク戦で突撃するソ連軍」写真で
辛うじてわかるように、本書はソ連の崩壊によって公開された当時の大量な公式文書を
整理して検証された、ソ連側から見た「独ソ戦全史」です。
著者の2人は退役米軍将校の研究家で、700ページというボリュームある一冊です。

独ソ戦全史.JPG

「詳解」とあるように、とにかく次から次へと聞いたこともない「第○○軍△△△△将軍」が
登場してきますので、過去に紹介した「燃える東部戦線」がお気に入りという人や
バルバロッサ作戦」や「焦土作戦」などを読んで、敵の全貌を知りたい方
以外にはあまりお勧めできません。

まずは1918年の第一次大戦後の内戦の様子から、その後の赤軍と
スターリンによるトハチェフスキー元帥らの大粛清、スペイン内戦と
1939年、日本軍とのノモンハン事件におけるジューコフ軍団長の活躍、
ポーランドではカティンの森事件・・、
そしてフィンランド戦争での青息吐息っぷりを次々と紹介します。

Talvisota_Soviet T-26 light tanks in action at Tolvajärvi.png

緊張高まる1941年。対峙する独ソ両軍について解説されますが、
ジューコフがポーランドに集結しているドイツ軍100個師団を
152個師団をもって壊滅するという先制攻撃案をスターリンに提言したという文書や、
空軍同士の比較では、当時世界最大の赤色空軍にも大粛清の波が訪れており、
それは開発者や技術者たちも例外ではなく、実験飛行で失敗があると
「破壊行為」として、最低1人の設計者が銃殺されたという話は勉強になりました。

Great Patriotic War2.jpg

いよいよ独ソ戦が始まると、まずはドイツ軍の攻勢を紹介します。
参謀総長のハルダーや各軍集団の様子、グデーリアン
ヘルマン・ホト率いる装甲部隊の活躍も部分的には詳細です。
そして防御側のソ連軍。スターリンを筆頭にヴォロシーロフとジューコフの最高司令部と
ブジョンヌイらの方面軍司令官。8月の1ヶ月間で10個軍を新たにつくり出すという
恐ろしい人的資源と軍需工場の疎開の成功。

Guderian_Hoth.JPG

スターリングラードでドイツ第6軍を包囲/壊滅させた「天王星作戦」からは
ソ連の攻勢計画が詳しく解説されます。
この「天王星作戦」と同時に、ドイツ中央軍集団に対して行われた「「火星作戦」。
ジューコフ立案/指揮によるこの作戦は見事失敗したものの、
「天王星作戦」が首尾よく成功したことで、ソ連の歴史家たちはその「火星作戦」の存在を
なきものにしようと努めたそうです。

Жуков.jpg

「天王星作戦」の成功に続く、「土星作戦」では一気にロストフを目指し、
ドイツA軍集団壊滅を狙いますが、セヴァストポリ要塞を落としたマンシュタイン
コレを阻止。その後もロコソフスキーの「打撃軍」の攻勢をハリコフでの逆襲で凌ぎきり
進撃して来た赤軍に「唖然とするような挫折を味わわせ」ます。

ソ連側から見た本書ですが、このようにソ連「善」、ドイツ「悪」というものではなく、
良いモノは良いという見解で、特にグデーリアンとマンシュタインの回想録も
ベースになっているらしいことから、ドイツ側ではこの2人には好意的な印象ですね。

burning knocked out T-34.jpg

1943年のクルスク戦も、そのソ連軍の陣容が特に後方に控える予備軍なども詳細に書かれ、
もし、コレを知っていたなら「ドイツ側の誰もが怯んだだろう」としています。

さらにこの辺りでは、変化して来たソ連軍の編成にも触れています。
個人的には、歩兵を「狙撃兵」と言うように、ソ連軍独特の部隊名とその違いについて
書かれていたことが楽しめました。
例えば、「機械化騎兵軍団」などという良くわからない軍団の編成や
通常の「軍」と「親衛軍」との違いと、その装備と人員の優先度。
また、特別編成の「打撃軍」(軍レベルの戦闘団?)も「親衛軍」並みの待遇のようです。
ちなみに「カチューシャ・ロケット砲」は「親衛迫撃砲」と言うらしいです。

Катюша03.jpg

偵察などの特殊任務チームは「スペツナズ」だそうで、この名前は現代の
ロシアにおける特殊部隊と同名です。
まったく別物と思いますが、おそらく特殊部隊はロシア語でスペツナズというのかも
知れませんね。

コルスン・シェフチェンコフスキー地区での戦いでは、突然、シュテンマーマン将軍が出てきて
ビックリしましたが、これは「チェルカッシィ」包囲陣のことでした。
この中盤あたり、ちょっと疲れてたので、「くわっ!」と目が覚めました。。
そういえば確かに「コルスン包囲陣」とも言いますね。
なお、このコーネフによる殺戮の犠牲、脱出を図ったドイツ兵の損害は、ドイツ側より
ソ連側の数字の方が信憑性があるとしています。

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そして1944年夏、泣く子も黙る大攻勢「バグラチオン作戦」が5個正面軍によって開始されます。
ここでは弱冠38歳にして「第3白ロシア正面軍」の司令官に抜擢された
チェルニャホフスキー大将が印象に残りました。
彼はその若さゆえか正面軍司令官という立場ながら、軍の先頭に立って指揮していたようで、
ケーニッヒスベルク要塞戦で致命傷を負い、戦死してしまいます。

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これ以降は、お馴染みのドイツ軍の敗走とソ連軍の猛攻が最後まで続きます。
まあ、いつものことながら、この「最終戦」は暗い気持になりますね・・。
おまけに所々に出てくる戦況図を見ても、ソ連の攻勢の矢印は多く、長くなるのに対し、
ドイツ軍は各軍集団司令官の名前(軍集団そのものの名称も)が毎回代わっているという、
必死な状況がそれだけでもわかろうというものです。。。

弱体化していくドイツ軍と対照的に、軍需的にも人的にも大きくなってゆくソ連軍を
非常に詳細に解説している本書ですが、読み終えてみると、結局のところ
まるでドイツ軍を食い殺し、それを栄養にして巨大化していく怪物のような印象が残りました。

anniversary of the victory of Russia's Great Patriotic War during World War II,.jpg



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