ドイツ装甲師団とグデーリアン [ドイツ陸軍]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ケネス・マクセイ著の「ドイツ装甲師団とグデーリアン」を読破しました。
先日レン・デイトンの「電撃戦」を読破した際、「参考文献目録」に
ケネス・マクセイの「グデーリアン」という本が載っていました。
「ケネス・マクセイ」って聞き覚えがあるなぁと思って調べてみると
予想通り「第2次大戦兵器ブックス」の「ドイツ機甲師団―電撃戦の立役者」の著者で、
読んだことはないものの、同じ本の別タイトルと思っていた本書こそ、
実は原題「グデーリアン」であることに気づきました・・。
それからは全てがあっという間の出来事です。
当時の定価2200円ですが、古書を1500円で購入し、この350ページほどに
ぴっちり書かれた本書を久しぶりにワクワクしながら、大事に、ジックリ、読破しました。
ロンメル伝「狐の足跡」のグデーリアン版といっても差し支えない内容で、
基本的にはグデーリアンの回想録「電撃戦」と彼が最愛の妻に送った手紙、
または息子のハインツ・ギュンター・グデーリアン少将や、総統付き副官だったエンゲル、
そして最近すっかりお馴染みの参謀長ネーリングらの証言から
生い立ち~1954年のその最後まで・・が余すことなく書かれています。
まずは彼の回想録、その英語のタイトルである「パンツァー・リーダー」について
それが書かれた経緯を分析し、評価するところから始まります。
戦後3年間を捕虜として過ごし、ポーランドに戦犯として
引き渡されそうな状況の中で集めた、僅かな資料と自身の記憶によって
書きはじめられたもので、自らを弁護するためにも必要な行動としながらも、
「彼は自分を弁護することには、まことにマズイ男である」としています。
このような理由については、既に彼の回想録をお読みの方なら納得されるでしょうが、
本文中に度々引用される「パンツァー・リーダー」の記述でわかってくることになります。
続いては生い立ち・・というよりも彼の先祖まで遡り、オランダ人の子孫か、
もっと怪しいがスコットランド人の末裔とも・・。
入学した陸軍大学校では同期生にフォン・マンシュタインがおり、
妻となり、最後までグデーリアンの「参謀長」を務めたマルガレーテと
その彼女の「またいとこ」のボーデウィン・カイテルが登場します。
第一次大戦では兵站と補給問題に没頭し、これが後に素晴らしい経験となった
ということです。これはグデーリアンがその後のワイマール共和国時代に
自動車化や通信、そして補給部隊と、「ドイツ装甲部隊の核」となる新しい分野を
担当/研究することとなり、その結果は他の兵科とのつばぜり合いに発展して行きます。
貴族も多く花形である騎兵は、真っ先にこの「補給部隊の成り上がりものたち」に
役割を譲ることとなり、機動戦などという怪しいものを信用しない砲兵科からも
激しい抵抗を受けます。
国防軍最高司令部(OKW)の上位にいるヨードル、ヴァーリモントは皆、砲兵科の出身であり、
陸軍総司令部(OKH)でもフリッチュ、ベック、そしてハルダーと砲兵・・。
これは「ドイツ参謀本部興亡史」にも書かれていましたが、
本書によると第一次大戦で戦死した砲兵科の将校が少なかったことによるそうです。
このような保守的な参謀たちにとってはヒトラーやナチ党と同様に
グデーリアンも新参者の異端児扱いであり、それが逆にヒトラーとグデーリアンの繋がり、
陸軍総司令部との戦いとなっていきます。
1938年にはブラウヒッチュとライヒェナウ、そして人事局長ボーデウィン・カイテルと
その兄であるヴィルヘルム・カイテルといった面々が上層部に就任し、
クデーリアンの装甲部隊も大きく発展していきます。
ちなみにこの当時、装甲部隊をヒトラーが素晴らしいと認めていたとされることにも触れ、
ヒトラーがその戦術や運用を理解していたわけではなく、新設の空軍と同様に
派手で新しく、他国に対して脅しに使える部隊という程度の認識であったとしています。
いよいよポーランド侵攻から第2次大戦へと突入します。
ここからのグデーリアンの活躍は多数の戦記に書かれていますので、
面白かった部分をいくつかご紹介。。。
ポーランド戦線の背後で行われていたユダヤ人虐殺を知りつつ、
なにもしなかったとして非難されているドイツの将軍たちに対し、この英国人の著者は
「それはしょうがない」として、連合軍側で、無差別爆撃など自分が納得できない事態に対して
抗議した将軍がどれだけいたのか・・としています。
フランスでの爆走停止命令では、回想録で上官のクライストと大喧嘩した話に触れ、
そのクライストは軍集団司令官ルントシュテットの命令に従っただけで、
グデーリアンはそれを戦後になっても知らなかったのだと解説しており、
このクライスト以外にも弱気な姿勢の上官に対しては
「まったく装甲部隊の運用を理解していない」という不満タラタラな妻への手紙を紹介し、
それは1941年の東部戦線で、激しさを増していきます。
「バルバロッサ作戦」も当初の順調さが陰を潜め、T-34やKV-1戦車に手を焼くようになると
中央軍集団司令官のフォン・ボックにも反攻します。
そして有名なクルーゲとのバトルの末、罷免・・。
回想録でも激しくけなしているクルーゲ批判ですが、マクセイは
既に亡くなった軍人に対してあそこまで批難するのはいかがなものか・・といった感想です。
さらに個人的に一番興味深く、面白かったハルダーとの関係がここから最後まで続きます。
どちらかというと、砲兵科出身の陸軍参謀総長のハルダーがもともとグデーリアンを
好きでない感じで、引用されているハルダー日記では「命令を無視して勝手に失敗しろ」と
ほくそえんでいます。
そしてグデーリアンが行き詰った攻勢からの撤退をヒトラーに進言するにあたり
結果的にグデーリアン、ハルダー双方がお互いを「裏切り者」という立場にしてしまいます。
1943年の装甲兵総監就任による復帰、1944年の参謀総長就任、
そして1945年の解任~終戦と続き、アメリカ軍の捕虜として、
戦犯容疑者として拘留されることになります。
そこではフォン・レープにリスト、ヴァイクスら著名な将軍たちがおり、
同じく拘留されている宿敵ハルダーの保守派が中心です。
村八分であるグデーリアン派はミルヒとブロムベルクだったそうで、
3年間の派閥争いは退屈しのぎの口争いを繰り広げたようです。
また、著者はグデーリアンとロンメルという装甲部隊の運用に長けた
将軍2人の比較も多面的に行っており、なかなか楽しめました。
今度、彼の著書「ロンメル戦車軍団」も読んでみますか・・。
本書がとても楽しい理由のひとつには、著者と訳者の経歴が関係している気もします。
著者のマクセイは1941年から英国軍機械化部隊に所属し、1944年、フランスにおいて
戦車部隊を率いてドイツ軍と戦い「戦功十字章」を受けたという人物ですし、
訳者の加登川氏は戦前、陸軍大学校を卒業し、陸軍戦車学校教官を務め、
戦時中は参謀として様々な戦地を転戦したという、自分の祖父と同い年の方です。
国こそ違うものの、彼らにとって師匠ともいえる存在のグデーリアン伝を
その人物像を掘り下げながら書き上げ、または、翻訳しているということで、
彼らにとっても、それがとても楽しい作業であっただろうことが、読んでいてなにか伝わってきます。
それにしても、カバーの裏にはこの加登川氏の現住所「練馬区下石神井△-△-△」と
書かれているのはスゴイです。。
とにかく、このような素晴らしい本の存在を今まで知らなかったということが自分でも驚きです。。
自分は結果的に「電撃戦 -グデーリアン回想録-」を先に読んだ形ですが、
本書を先に読んでも、充分楽しめ、また、回想録も読みたくなること請け合いです。
ドイツ装甲部隊に興味のある方なら、どちらも読むべき名著だと思います。
ケネス・マクセイ著の「ドイツ装甲師団とグデーリアン」を読破しました。
先日レン・デイトンの「電撃戦」を読破した際、「参考文献目録」に
ケネス・マクセイの「グデーリアン」という本が載っていました。
「ケネス・マクセイ」って聞き覚えがあるなぁと思って調べてみると
予想通り「第2次大戦兵器ブックス」の「ドイツ機甲師団―電撃戦の立役者」の著者で、
読んだことはないものの、同じ本の別タイトルと思っていた本書こそ、
実は原題「グデーリアン」であることに気づきました・・。
それからは全てがあっという間の出来事です。
当時の定価2200円ですが、古書を1500円で購入し、この350ページほどに
ぴっちり書かれた本書を久しぶりにワクワクしながら、大事に、ジックリ、読破しました。
ロンメル伝「狐の足跡」のグデーリアン版といっても差し支えない内容で、
基本的にはグデーリアンの回想録「電撃戦」と彼が最愛の妻に送った手紙、
または息子のハインツ・ギュンター・グデーリアン少将や、総統付き副官だったエンゲル、
そして最近すっかりお馴染みの参謀長ネーリングらの証言から
生い立ち~1954年のその最後まで・・が余すことなく書かれています。
まずは彼の回想録、その英語のタイトルである「パンツァー・リーダー」について
それが書かれた経緯を分析し、評価するところから始まります。
戦後3年間を捕虜として過ごし、ポーランドに戦犯として
引き渡されそうな状況の中で集めた、僅かな資料と自身の記憶によって
書きはじめられたもので、自らを弁護するためにも必要な行動としながらも、
「彼は自分を弁護することには、まことにマズイ男である」としています。
このような理由については、既に彼の回想録をお読みの方なら納得されるでしょうが、
本文中に度々引用される「パンツァー・リーダー」の記述でわかってくることになります。
続いては生い立ち・・というよりも彼の先祖まで遡り、オランダ人の子孫か、
もっと怪しいがスコットランド人の末裔とも・・。
入学した陸軍大学校では同期生にフォン・マンシュタインがおり、
妻となり、最後までグデーリアンの「参謀長」を務めたマルガレーテと
その彼女の「またいとこ」のボーデウィン・カイテルが登場します。
第一次大戦では兵站と補給問題に没頭し、これが後に素晴らしい経験となった
ということです。これはグデーリアンがその後のワイマール共和国時代に
自動車化や通信、そして補給部隊と、「ドイツ装甲部隊の核」となる新しい分野を
担当/研究することとなり、その結果は他の兵科とのつばぜり合いに発展して行きます。
貴族も多く花形である騎兵は、真っ先にこの「補給部隊の成り上がりものたち」に
役割を譲ることとなり、機動戦などという怪しいものを信用しない砲兵科からも
激しい抵抗を受けます。
国防軍最高司令部(OKW)の上位にいるヨードル、ヴァーリモントは皆、砲兵科の出身であり、
陸軍総司令部(OKH)でもフリッチュ、ベック、そしてハルダーと砲兵・・。
これは「ドイツ参謀本部興亡史」にも書かれていましたが、
本書によると第一次大戦で戦死した砲兵科の将校が少なかったことによるそうです。
このような保守的な参謀たちにとってはヒトラーやナチ党と同様に
グデーリアンも新参者の異端児扱いであり、それが逆にヒトラーとグデーリアンの繋がり、
陸軍総司令部との戦いとなっていきます。
1938年にはブラウヒッチュとライヒェナウ、そして人事局長ボーデウィン・カイテルと
その兄であるヴィルヘルム・カイテルといった面々が上層部に就任し、
クデーリアンの装甲部隊も大きく発展していきます。
ちなみにこの当時、装甲部隊をヒトラーが素晴らしいと認めていたとされることにも触れ、
ヒトラーがその戦術や運用を理解していたわけではなく、新設の空軍と同様に
派手で新しく、他国に対して脅しに使える部隊という程度の認識であったとしています。
いよいよポーランド侵攻から第2次大戦へと突入します。
ここからのグデーリアンの活躍は多数の戦記に書かれていますので、
面白かった部分をいくつかご紹介。。。
ポーランド戦線の背後で行われていたユダヤ人虐殺を知りつつ、
なにもしなかったとして非難されているドイツの将軍たちに対し、この英国人の著者は
「それはしょうがない」として、連合軍側で、無差別爆撃など自分が納得できない事態に対して
抗議した将軍がどれだけいたのか・・としています。
フランスでの爆走停止命令では、回想録で上官のクライストと大喧嘩した話に触れ、
そのクライストは軍集団司令官ルントシュテットの命令に従っただけで、
グデーリアンはそれを戦後になっても知らなかったのだと解説しており、
このクライスト以外にも弱気な姿勢の上官に対しては
「まったく装甲部隊の運用を理解していない」という不満タラタラな妻への手紙を紹介し、
それは1941年の東部戦線で、激しさを増していきます。
「バルバロッサ作戦」も当初の順調さが陰を潜め、T-34やKV-1戦車に手を焼くようになると
中央軍集団司令官のフォン・ボックにも反攻します。
そして有名なクルーゲとのバトルの末、罷免・・。
回想録でも激しくけなしているクルーゲ批判ですが、マクセイは
既に亡くなった軍人に対してあそこまで批難するのはいかがなものか・・といった感想です。
さらに個人的に一番興味深く、面白かったハルダーとの関係がここから最後まで続きます。
どちらかというと、砲兵科出身の陸軍参謀総長のハルダーがもともとグデーリアンを
好きでない感じで、引用されているハルダー日記では「命令を無視して勝手に失敗しろ」と
ほくそえんでいます。
そしてグデーリアンが行き詰った攻勢からの撤退をヒトラーに進言するにあたり
結果的にグデーリアン、ハルダー双方がお互いを「裏切り者」という立場にしてしまいます。
1943年の装甲兵総監就任による復帰、1944年の参謀総長就任、
そして1945年の解任~終戦と続き、アメリカ軍の捕虜として、
戦犯容疑者として拘留されることになります。
そこではフォン・レープにリスト、ヴァイクスら著名な将軍たちがおり、
同じく拘留されている宿敵ハルダーの保守派が中心です。
村八分であるグデーリアン派はミルヒとブロムベルクだったそうで、
3年間の派閥争いは退屈しのぎの口争いを繰り広げたようです。
また、著者はグデーリアンとロンメルという装甲部隊の運用に長けた
将軍2人の比較も多面的に行っており、なかなか楽しめました。
今度、彼の著書「ロンメル戦車軍団」も読んでみますか・・。
本書がとても楽しい理由のひとつには、著者と訳者の経歴が関係している気もします。
著者のマクセイは1941年から英国軍機械化部隊に所属し、1944年、フランスにおいて
戦車部隊を率いてドイツ軍と戦い「戦功十字章」を受けたという人物ですし、
訳者の加登川氏は戦前、陸軍大学校を卒業し、陸軍戦車学校教官を務め、
戦時中は参謀として様々な戦地を転戦したという、自分の祖父と同い年の方です。
国こそ違うものの、彼らにとって師匠ともいえる存在のグデーリアン伝を
その人物像を掘り下げながら書き上げ、または、翻訳しているということで、
彼らにとっても、それがとても楽しい作業であっただろうことが、読んでいてなにか伝わってきます。
それにしても、カバーの裏にはこの加登川氏の現住所「練馬区下石神井△-△-△」と
書かれているのはスゴイです。。
とにかく、このような素晴らしい本の存在を今まで知らなかったということが自分でも驚きです。。
自分は結果的に「電撃戦 -グデーリアン回想録-」を先に読んだ形ですが、
本書を先に読んでも、充分楽しめ、また、回想録も読みたくなること請け合いです。
ドイツ装甲部隊に興味のある方なら、どちらも読むべき名著だと思います。