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最後のナチ メンゲレ [収容所/捕虜]

ジェラルド・アスター著の「最後のナチ メンゲレ」を読破しました。

「死の天使」メンゲレ・・。この名前をはじめて聞いたのは中学生のころだったでしょうか。
確かメンゲレが発見されたとかいうニュースだったような。。。
ということは、ひょっとすると一番最初に名前を覚えた親衛隊員なのかも知れません。
本書はアウシュヴィッツ絶滅収容所の医師として、残虐で非人道的な人体実験を繰り返し、
南米へ逃亡後、最後まで戦犯としての追及を逃れた・・とされる男の記録です。

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正直、このヨーゼフ・メンゲレやアドルフ・アイヒマン、またはクラウス・バルビーなど
逃亡したSSの戦犯として名の知れた人物たちにそれほど興味がありませんでした。
彼らが有名な理由は、戦後、連合軍に捕らわれることなく、首尾よく南米へ逃亡し、
そしてナチハンターやモサド等による追跡、逮捕という、戦後数十年経ってからの
マスコミの大騒ぎがその大きな要因であると感じていたためです。

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本書の中でもメンゲレについて「所詮、1つの絶滅収容所で悪名を馳せたSS大尉であり、
一歩、収容所の外に出れば、何ものでも無い」という記述があります。
これが今まで自分が彼らに対して抱いていた印象であって、
アイヒマンSS中佐にしたところで、彼がいてもいなくても、結果的に起こったことは何も変わらない
と考えていますので、未だに「アイヒマン本」も買ったことがありません。

そんなヴィトゲンシュタインが本書を購入した理由は先日、
DVDで「リヨンの屠殺人」の異名を取った男のドキュメンタリー
「敵こそ、我が友 ~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~」を観たことが大きいですね。
たいぶ前置きが長くなってしまいましたので、チャッチャと本題に進みましょう。

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まず、このようなサディストの極悪人を理解する上でとても大事な生い立ちは。。というと、
バイエルンの比較的裕福な経営者の父親を持ち、厳しい母親に育てられたそうで、
本書では基本的に、この2点がメンゲレを理解するカギとしているようです。

長男にもかかわらず家業を継ぐことを拒否し、ワイマール共和国時代の
混沌とする時代のなか、大学で医学や生物学などを学ぶ一方では
鉄兜団に入り、その後SAへ、そしてナチ党、親衛隊と脱退、入隊を繰り返します。
このようなことから、自らの思想や理想というものを持っておらず、
ナチのイデオロギーに感銘を受けたわけでも無い、ただ、慎重に勝組を選んでいたのでは・・
と推測されています。

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1939年に結婚し、息子を儲けますが、戦線の拡大とともに
第5SS装甲師団「ヴィーキング」に配属され、東部戦線へ送られます。
メンゲレの従軍記録はほとんどないようで、彼が軍医として従軍したのかも
良くわかりません。それでも、2級、1級鉄十字章を受章した上、戦傷章まで貰い、
治療のため帰国すると前線勤務は無理との理由で、1943年5月、
遂にアウシュヴィッツ絶滅収容所の医師としてその門をくぐることになります。

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ここからはアウシュヴィッツがホロコーストの中心地となっていった過程が詳細に書かれています。
強制収容所総監のアイケと髑髏部隊から、アインザッツグルッペンのオーレンドルフ
ハイドリヒとアイヒマンのヴァンゼー会議やアウシュヴィッツの所長、ルドルフ・ヘースの物語。

初期の大量虐殺方法から完成したガス室での様子まで、克明に解説されます。
なかでも本来、害虫駆除用として開発された「チクロンB」の輸送の説明では
「アウシュヴィッツ害虫駆除消毒課なる部署に送りつけられ・・」。

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22名の医師たちと共に着任したメンゲレ。
早速、有名な列車で到着したばかりの収容者たちの選別に腕を揮います。
温厚な顔で老若男女を「右、左」と振り分け、片方はそのまま「ガス室」へ直行・・。
しかし、なにもこの作業はメンゲレの特権という訳ではなく、他の医師も行っていたそうで、
この件でメンゲレが有名なのは、他の医師たちは泥酔しつつ挑んだのに対し、
メンゲレはシラフで、また自分の重要な任務として率先し、またその回数も多かったとの
理由によるものです。

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双子の人体実験もメンゲレの名を有名にしたもののひとつです。
これらの詳細についても被収容者で実験をサポートした医師や、
小間使いのユダヤ人少年、あるいは通訳などの証言から書かれており、
やはり10代の頃に読んだ、日本の731部隊を描いた「悪魔の飽食」を思い出しました。

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ここではその悲惨な実験の詳細は書きませんが、個人的に1つ挙げると
簡単な断種を目指した実験での「睾丸を・・」というのは、読んでいて実にキツイ場面でした。
メンゲレがこのアウシュヴィッツでどの程度の権力を持っていたのかに興味がありましたが、
所長のヘースも特に絡んでこないので、やや消化不良です。
その代わり、イルマ・グレーゼという若く美人で残虐という女看守が登場してきます。

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ロシア軍の最後の攻勢が始まった1945年1月になると、
メンゲレは突然その姿を消してしまいます。
首尾よくアルゼンチンへ逃亡を果たしますが、それまでの経緯については不明な点も多く、
本書では様々な説を挙げて検証しています。

その後、パラグアイやブラジルと隠れ家を転々とし、彼を助けるために
南米でナチの顔として知られていたルーデル大佐のサポートも受けることに・・。
バルビーのいるボリヴィアを進められるものの、コレを断りルーデルとは険悪な関係となり、
アイヒマンや「人間の暗闇」の主役、トレブリンカ絶滅収容所所長シュタングルの逮捕と
メンゲレの周辺も怪しくなってきます。

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最終的にはよく知られた最後を1979年に向かえますが、
このあたりは以前に紹介した「ヒトラーの共犯者」でも詳細です。

結局、メンゲレが悪魔のような人間だったのか・・は本書では判断していません。
いろいろな証言からその人間性を探ってはいますが、やはり捕まらずに死んでしまった以上、
彼の口からその真意を知ることはできませんし、
また、反ユダヤ主義を含む彼の生きた時代と戦争と強制収容所、そして医学という
特殊な環境下を理解しなければ、その彼の行った行為だけで判断はできないと
個人的には考えています。

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戦争犯罪というのは非常に難しく、ニュルンベルク裁判の判決だろうが、
アイヒマンやバルビー裁判だろうが、誰が有罪で無罪なのか、
または死刑か、禁固刑かの意見は分かれるところです。
特に戦勝国や占領国での裁判では、感情的に贖罪の羊が必要となるのもわかります。
なので、その犯罪性は、個人的には、本書もそうですが、
その人物の立場に自分を当てはめて読んでみます。
自分の心の中でも存在する善悪と照らし合わせて、「これはやってしまうかも知れない・・」
などと考えて、自己完結しています。

THE BOYS FROM BRAZIL.jpg

グレゴリー・ペックがメンゲレを演じた1978年の有名な映画「ブラジルから来た少年」は
映画少年だったわりには観ていないな~と思ったら、日本未公開でした。
DVDを買おうか、それよりも原作も面白そうだな~と、ちょっと悩みますね。。






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