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ヒトラーの戦争〈1〉 [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ディヴィッド・アーヴィング著の「ヒトラーの戦争〈1〉」を読破しました。

ヒトラーが「ホロコーストに関与していなかった・・」として有名な本書は、
その部分の内容よりも、かなりのボリュームと全般的な戦争の背景を知らないと・・
ということで、独破するタイミングをじっくり図っていましたが、やっとその気になりました。

前書きでアーヴィングは、本書を完成させるにあたり調査に10年を要したとか、
既存のヒトラー本についても調査の足りない手抜き本だとして、
本書の自画自賛からスタートします。
以前に紹介した「狐の足跡」も、この時期のロンメルの調査によって書かれたようです。

ヒトラーの戦争①.JPG

続く「ヒトラー周辺の人々」紹介がとても楽しめます。
また本書の性格を知るうえで重要な気がしますね。
ナチ党幹部や有名な将軍ら、本書の登場人物をアーヴィング的表現で簡単に解説し、
ちなみに何人か抜粋すると・・
コッホ・・「残忍な政治をやったので、親ソ・ウクライナという有り得ないものを実現させ・・」
ヒムラー・・「頭のおかしなところと組織的天才との珍しい結合物である」
マイゼル・・「ロンメルの死に不幸な役割を演じ、戦後、著述家たちからいじめられた」
ルントシュテット・・「後年は歳を取り、いい加減なところがあった」
ロンメル・・「OKWとヨードルに対する憎しみは1944年病的なまでになった」

irving.jpg

1939年9月、特別列車「アメリカ号」でOKW(国防軍最高司令部)の主要メンバー、
カイテルヨードルシュムントとポーランド作戦開始を待つ、
ヒトラーの様子から本文は始まります。

このヒトラーの最初の戦争であるポーランド戦は、まだまだ
ヒトラーが細かい作戦に関与することもなかったため、
ポーランド降伏に至るまでの戦局はOKH(陸軍総司令部 )の独壇場です。

しかし、その陰ではヒトラーの命により、すでにアインザッツグルッペンによる
貴族や反ナチ勢力といったポーランド人の処刑が行われていますが、
ユダヤ人の虐殺などについては、ハイドリヒの暴走であると読み取れます。

Heydrich_77.jpg

ポーランドで見事な結果を残したOKHですが、宣戦布告をしてきた
英国とフランスに対する西方での戦いについて、ヒトラーに臆病扱いされ、
ベルリン官邸の作戦会議室に陸軍総司令官のブラウヒッチュが入ってくると
「ほら、我が臆病者ナンバー1が来た!」と言い捨て、
続いて参謀総長のハルダーが姿を見せると「・・・そして、ナンバー2だ!」

Walther von Brauchitsch.jpg

1940年に入ると、ヒトラーはまずノルウェー作戦に挑みます。
陸海空3軍の協同作戦で知られるこの作戦から、それを統括するOKWと
戦術に関するヒトラーの関与も大きくなってきます。

特にディートル将軍の山岳部隊がナルヴィクで危機を迎えるとパニックを起こしたヒトラーは、
山岳兵出身でディートルを良く知るヨードルから激しく説得され、やがて落着きを取り戻します。
この件でヨードルのヒトラーの軍事顧問としての権威は大いに上がっていったそうです。

Eduard Dietl.jpg

そしてフランスへの侵攻。
主にダンケルクでの戦車部隊が停止した件について検証していますが、
いつものルントシュテットやゲーリングの発言以外に
英国の派遣軍が撤退しているのをドイツ軍司令部が気づくのが遅かったことを
要因の一つとして挙げています。

あっという間に降伏したフランスに続き、如何に英国を屈服させるか。。。
ここからのヒトラーの戦いは、政治的にもすべてそこに集約されている印象です。
ヒトラーが尊敬するウィンザー公とシェレンベルクも登場の一連の計画が
出てきますが、「ウィンザー公掠奪」という小説もありましたね。
この小説の著者ハリー・パタースンはジャック・ヒギンズの別名ということを
最近知ったので今度、読んでみようと思っています。

Einsamer Fluggast.jpg

また、このヒギンズ繋がりで言うと、超がつく名作「鷲は舞い降りた」の
アイルランド闘士デヴリンで気になっていた、英国とアイルランドの関係にも触れており、
親ドイツ的感情を持つ南アイルランドからの援助要請や、
ドイツによるアイルランド占領の可能性などについて述べられていて、
これはなかなか勉強になりました。

作戦会議では常に各軍のトップが参加するわけではなく、
ハルダーの代理としてパウルスが出席していたり、
空軍もゲーリングがひとしきり怠けていることから、イェショネク参謀長が登場します。
実はこのイェショネクの人間性が書かれた物は読んだ記憶がなく、本書での
「41歳と若いわりに傑出した手腕を持つ、きゃしゃで冷静、冷酷な参謀将校で
ぶっきらぼうで生一本、意見の違う人とは議論する気もない典型的なシェレージエン人」
という紹介は参考なりました。

hermann goring hans jeschonnek.jpg

外相リッベントロップの首席補佐官でヒトラーの連絡係官だったヴァルター・ヘーヴェルは
彼の未公開の日記を著者アーヴィングが大変参考にしていることから、
本文中にも度々登場します。
ルドルフ・ヘスがメッサーシュミットに乗り、勝手に英国に飛んで行った事件については
ヘーヴェルらの文書をもとに、ヒトラーはやはり知らなかったという解釈のようですね。

Heinrich Himmler, Walther Hewel, Martin Bormann sharing a joke on the Berghof terrace.jpg

主に一般的な戦記というは、陸戦、空戦、海戦と独立しているものがほとんどですが、
本書の特徴としてはそういうことがないところでしょうか。
例えば、1941年5月に戦艦ビスマルクが撃沈されたそのとき、
クレタ島では降下猟兵による戦いで勝利を収めており、
これをビスマルクが戦艦8隻、空母2隻を含む英海軍を引き寄せたことで
クレタ島侵攻作戦の牽制行動として、大きな役割を果たしたという
面白い見方を提供してくれています。

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そして「ロシアを屈服させれば、英国も和平を求めてくるだろう」というヒトラーの判断により
バルバロッサ作戦に向かっていくところで、この第1巻は幕を閉じます。




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