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ヒトラー・コード [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

H.エーベル,M. ウール(編)の「ヒトラー・コード」を読破しました。

「スターリンのために書かれたヒトラーの書」と書けばわかったような
わからないような感じですが、
ヒトラーの死を今ひとつ信じない、猜疑心の権化のようなスターリンのために
NKVD長官のベリヤがソ連の捕虜であったヒトラーの側近たちから聴取した
そのヒトラーの死の様子、すなわち「ヒトラー 最後の12日間」的内容を中心に
1933年からのヒトラー政権の内情を綴ったものです。

ヒトラーコード.JPG

原題は「ヒトラーの書」。「ヒトラー・コード」の「コード」の意味は良くわかりません。
おそらく「ダヴィンチ・コード」が流行っていたから付いたタイトルですかね。
長くヒトラーの侍従長を務めたハインツ・リンゲSS少佐と
同様に副官であったオットー・ギュンシェSS少佐の供述が中心となって
本書は構成されています。

Linge,AH.jpg

しかし、彼らが積極的にNKVDに協力したわけではないようで、
ある意味、強制的なものであり、特にギュンシェはヒトラー崇拝者であったことから
かなり反抗的であったようです。
収容房にスパイを送り込んで、話を引き出させたりと、エーリッヒ・ハルトマンでも
あったような得意の手口を駆使しているようです。
さらに裏付けも必要なことから、捕虜であるその他の証人、例えばヒトラー専属の運転手や
ヒトラーの死を見とどけた男」を書いたローフス・ミッシュの名も・・

Rochus Misch2.jpg

それでも、本文の内容は知らないエピソードもあったりして結構楽しめます。
もちろんどこまで真実かは別ですが・・ 

バルバロッサ作戦当時、ライプシュタンダルテの偵察大隊長だったクルト・マイヤーの犬が
砲弾の破片で死ぬと、愛犬の仇を討つため、平和的住民30人を自らの手で射殺した。
東部におけるSS部隊がコレぐらい極悪非道なのは本書では当然でしょうね。。。

ヒトラーがOKWの報告を照合するために、SS師団長はヒムラーに前線の状況を報告し、
ヒムラーが手を加えたその報告がフェーゲラインとギュンシェに伝えられて
ヒトラーに渡っていたという話は興味深い内容です。

勉強になったところでは、ヒトラー暗殺未遂事件による被害者に対し、
新たな「戦傷章」を設け、それには「1944年7月20日 アドルフ・ヒトラー」
と刻まれていて、ヒトラーも自ら授与したそうです。
う~ん。こんな「戦傷章」があったとは・・。

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グデーリアン参謀総長が東プロイセンの戦況を説明した際、その帝国防衛委員であった
エーリッヒ・コッホと中央軍集団司令官モーデルとの激しい罵り合いを
ヒトラーが落ち着かせるという話もあったかと思えば
シュペーアに至っては「戦争捕虜と平和的市民から成る大規模な奴隷軍団の看守」
というスゴイ紹介をされています。

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春の目覚め作戦」でヒトラーの怒りを買ったゼップ・ディートリッヒのSS軍団から
袖章を剥奪するという有名な話がありますが、
この命令文をヒトラーは副官のギュンシェに口述筆記させます。
しかしライプシュタンダルテに所属し、前線経験のあるギュンシェが
逡巡しているのを悟ったヒトラーが「それは捨てろ。直接ヒムラーに言う」というシーンは
ヒトラーの身内に対する気遣いが伝わってきます。

Otto Günsche.jpg

終盤、映画でも描かれた義弟フェーゲラインの処刑でも、当初ヒトラーの決定は
「ベルリンを防衛しているモーンケの部隊へ入れて前線に出せ」という甘いもので、
これに憤慨したギュンシェの説得により、モーンケ裁判長のもと、死刑判決が
ヒトラーとエヴァ・ブラウンの結婚式の裏で出されたということです。

Hermann Fegelein6.jpg

そしてヒトラーの死後、脱出か死かを討議する側近たち。
ブルクドルフらは自決を選びますが、そこに突然、
ゲシュタポ長官のハインリッヒ・ミュラーが登場し、「俺も死ぬ」と宣言して消えて行きます。
ボルマンはリンゲやギュンシェたちと同様に脱出するものの、
ボルマンが自軍戦車に飛び乗り、そしてそこに榴弾が投げつけられるのを
リンゲは目撃したそうです。

しかしギュンシェが語る「グズグズと自殺も先延ばしにするヒトラーに幻滅」するくだりは
非常に違和感があります。それまで、ほとんど感情的な話の出てこない本文に
このような記述、いかにも見方によっては同情してしまいそうなヒトラーを
「ダメ男」としたいようにも感じてしまいました。

Linge Günsche.jpg

この本の評価は読み手によってかなり左右されるでしょう。
初めてこのようなヒトラーの真実ものを読まれる方なら、それほど問題はないでしょうが、
知識が豊富であればあるほど、頻繁に出てくる「単純な間違い」や
「意図的な強調」、「悪意のある捻じ曲げ」がイチイチ気になること請け合いです。
日付や人物の間違いは当時の状況を考えると致し方ないでしょうが、
本文は「スターリンが喜んで満足する真実」でなければならなかったことから
多少の捏造もあったように思います。

Joseph_Stalin.jpg

これらは当然、各章の最後に編集者の注)として整理されているので、
それと突合することで解決できますが、国会議事堂放火事件やレームの死などは
わかっていても、「あれ?」とか「ん?」となってしまいます。

なので自分は、間違い探しのテストをやっているような感じで読んでみました。
結局、本書の理想的な読み方は2010年の日本人であることを忘れ、
1950年のスターリンに成り切って読むというのが正しいのかも知れませんね。



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