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世界戦争犯罪事典 <第2部> [世界の・・]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

常石 敬一 監修の「世界戦争犯罪事典」を読破しました。

文藝春秋80周年記念出版の一冊である2002年発刊の本書。
704ページで定価19440円という犯罪的な一冊だということは前回も書きましたが、
前半の「第1部 アジア・太平洋・米大陸」を読んで、妥当かも知れない・・と思い始めました。
その前半の記事が長くなりすぎましたので、本書に限っては2回に分けてお送りします。
いよいよ、ナチス・ドイツの登場する後半戦です。

世界戦争犯罪辞典.jpg

ちょうど真ん中あたり、361ページから第2部の「ヨーロッパ・中近東・アフリカ」。
第1章は「1899-1939年期」です。
今年、100周年を迎えた第1次大戦の「ベルギー市民軍とドイツ占領軍」は勉強になりました。
交戦国のなかではベルギーにだけ、内務省管轄下の「市民軍」が存在し、
平服でドイツ兵を相手に戦闘行為を繰り広げたそうですが、
このような行為はれっきとした国際法違反なのです。まぁ、パルチザンですね。
そしてそんな「市民」を銃撃すれば、多くの市民を虐殺したと言われてしまうドイツ軍。

Belgium ww1.jpg

英国の調査ではドイツ軍による掠奪、乳房の切り取り、子供の手の切り落とし・・といった
非道の数々が証言として集められ、なかには「妊婦の腹を切り裂いて、胎児を取り出し、
代わりに切断された夫の首を血だらけの腹部に詰めん込んだ」というものも。。
しかし、1930年になってベルギー政府もそのような事例はまったくなかったと認めますが、
1964年に発表され、ピュリッツァー賞を受賞した「八月の砲声」でさえ、
このような英国のずさんで意図的な報告に基づいているのでした。



なるほど。。1940年の電撃戦で、フランス市民が「子供の手を切り落とされる」と
ドイツ兵士を恐れおののいていたという理由が良くわかりました。

german 1916.jpg

そんな英国の「対ドイツ海上封鎖」も、そのやり方はドイツ国民の飢餓が狙い。
少なくとも70万人が、この飢餓封鎖の影響で死亡したそうです。
また、第1次大戦ではヒトラーが一時的に失明したと言われているように
毒ガス」が大量に使用された戦争であるわけですが、これも当時からNGです。
塩素ガスなどさまざまな種類のガスが交戦国同士で使われますが、
よくTVでも特殊部隊が使っている「催涙ガス」も戦争犯罪なのです。
敵国に使用するのは国際法違反であって、国内のテロ鎮圧に使用するのはOKなんですね。

ww1 german gas mask.jpg

偽装商船(Qシップ)対Uボート」もお互い戦争犯罪を行ったり来たりといくつか事例を挙げます。
ゲルニカ爆撃の悲劇」は意図的なテロ攻撃ではないという解釈。
ナチスの『安楽死』計画」でカール・ブラントが処刑されて、この章は終了します。

第2章は「1939-1945年(第二次大戦期)」ですが、まずは「一般項目」となっています。
簡単に言うと特定の事件ではなく、各国の戦略そのものが犯罪的であるとして、
最初に英国、ドイツ、米国の「空軍戦略理論」、すなわち「戦略爆撃思想」について分析。

Boeing B-17s, the Flying Fortresses of the U.S. Eighth Air Force, bombed Berlin.jpg

次に「ナチスによる文化財収奪」として、ローゼンベルク率いるチームがユダヤ人が所有していた
膨大な美術品を押収すると、ヒトラーは新設のリンツ美術館のコレクションのため、
ゲーリングは個人的趣味による押収済みの退廃芸術品との交換に勤しみます。
1941年以降、ソ連の文化財は東方相に任命されたローゼンベルクが全権を握りますが、
こちらにはヒムラーの「先祖遺産(アーネンエルベ)」が乗り込んで
ウクライナとクリミアで掠奪を続ける・・といった、てんやわんやが4ページに・・。

慰安婦とドイツ軍の慰安所」も性病対策における、徹底した慰安婦管理の実態、
毎週の検診、客となった将校全員を慰安所カルテに記入することとされ、
国防軍は無認可の売春宿への出入りは禁止、1942年には慰安所は500に上ります。
この件は「ナチズムと強制売春 強制収容所特別棟の女性たち」にもありましたね。 

German military brothels _brest_1940.jpg

アウシュヴィッツ」と絶滅収容所についてもかなりページを割いています。
ガス室で殺害された人数は「少なくとも110万」という数字を推奨していますね。
その90%がユダヤ人であり、ホロコースト犠牲者の総数は390万~580万の範囲とします。

Children leave Birkenau barracks after being liberated.jpg

コマンド作戦の違法行動」では、ドイツのブランデンブルク部隊や、
英国のコマンドによるサン・ナゼール奇襲などが紹介されます。
正規軍人による行動であっても、コマンド行動はゲリラ戦の形態のひとつであり、
ハーグ条約で許されている「奇計」には入らない戦争犯罪です。
よって、ヒトラーは「最後の一兵まで殲滅せよ」という、「コマンド命令」を発するのです。

基本的には敵国の軍服を着て潜入するのはOKですが、
戦闘時にはそれを脱ぎ捨てないと、戦争犯罪になるそうなので、
ポーランド空挺部隊の軍服から、ドイツ降下猟兵に変身して死んでいった
鷲は舞い降りた」は正しい行動になるんですね。

The_Eagles_Has_Landed.jpg

ヒトラーの命令といえば、「コミッサール命令」も有名です。
ソ連の人民委員は捕虜にせずに射殺しろ・・というこの命令ですが、
兵士ではない人民委員は、国際法が兵士に与えている保護の対象外という認識。
赤軍の人民委員の見分け方は「槌と鎌が縫い込まれた赤星」の徽章ですが、
ほとんどは捕えられる前に自身の徽章を捨ててしまい、ドイツ軍も識別は困難です。

commissar_nkvd_unif.jpg

アインザッツグルッペン」の項目も出てきました。
ハイドリヒを中心に6ページ、しっかりと書かれていますね。
パルチザン戦争の諸相」もなかなか勉強になります。
ソ連やポーランドのパルチザン、フランスのレジスタンスは国民的英雄になる一方、
占領軍からみれば、「不正規兵」であり、テロリストとして射殺して良いのです。
そして占領地の住民は、立法権の移行した占領軍に服従する義務を負っているのです。

Traqués, les résistants.jpg

ドイツが行った「強制労働のための民間人連行」の次には、「ソ連によるドイツ人の抑留」。
数字だけを見れば前者が760万人、後者は280万人・・。
女子の割合は前者が190万人で、後者は5%・・、14万人ですね。。
ソ連に抑留された女性は逃げ遅れた軍の衛生要員やドイツ赤十字の看護婦などですが、
その1/3が抑留中に死んだと見られているそうです。

Two women of the German anti-aircraft gun auxiliary operating field telephones during World War II.jpg

ちなみにドイツの強制労働については「ナチス・ドイツの外国人―強制労働の社会史」
という本が以前から気になっています。




ノルマンディ上陸後の米兵による緒犯罪」は、ほとんどが武装SS隊員に対するもの。
従軍記者だったヘミングウェイは「SS野郎」を殺したことを自慢し、
モントゴメリーは捕虜となったマックス・ヴュンシェに言い放ちます。
「SS兵士にはジュネーヴ条約は適用されない。なぜならば、
彼らは政治の害虫であり、政治の汚物であるからだ」。
う~ん、まるでソ連の政治委員と同じような扱いですね。
そして米軍に投降した「トーテンコップ」は行進がソ連軍に向かっていることに気づき、
次々に逃亡を始めると、大量虐殺が始まります。
米軍第11戦車隊の指揮官は3万4千人をソ連軍に引き渡したと報告していますが、
ソ連の収容所に到着したのは2千人のみ・・。
この件はいまだにハッキリしていないそうです。へ~、知らなかったなぁ。

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515ページからは第3章として「個別事件」を取り扱います。
最初は1939年のレンプ艦長(U-30)による、「アセニア号(英客船)の沈没」事件です。
続く「ワルシャワ爆撃」は、完全包囲されているにもかかわらず、明け渡しを拒否した
12万のワルシャワ守備隊に対する地上支援のための戦略爆撃であり、
防守された都市への攻撃は合法だという見解です。

Warsaw bombing, September 1939.jpg

カティンの森」、「ロッテルダム空爆」、そして「英軍捕虜の銃殺」は、あのクネヒラインの件。
コヴェントリーの大爆撃」は一般市民の568人が死亡したものの、
英国の歴史家たちは「ドイツ空軍は実際に工場を狙った」と認めており、
結果的にコヴェントリー大聖堂が焼け落ちても、合法的な戦争行為という認識のようです。

the Coventry Blitz.jpg

クレタ島」を制圧したドイツ空挺部隊と山岳部隊。
しかしギリシャ人である島民はパルチザン戦争を実行します。
発見されたドイツ兵の遺体は性器切除、両手切断と非人道的虐殺行為の跡が・・。
耳が切断されているケースも多く、鼻が切り取られていたり、両目がえぐりとられていたり。。
シュトゥーデント将軍も報復措置を命令しなければなりません。
重傷を負った降下猟兵が目を覚ますと、公開リンチをしようとする島民に向けて、
英軍兵士2人が銃を向けて守っている・・という状況です。

General Kurt Student at Crete, May 1941.jpg

バービ・ヤールにおけるユダヤ人虐殺」もタップリと書かれ、
クラグエヴァツ(ユーゴ)における人質処刑」は、パルチザンとの戦闘で、
ドイツ国防軍兵士10名が死亡、26名の負傷者が出てしまいます。
ヒトラーはセルビア方面軍司令官フランツ・ベーメに「人質命令」を発します。
それは死者1名に対して人質100人、1名の負傷者なら50人を射殺せよというもの。
この命令に従い、2300人を駆り集めて、12歳の少年まで射殺するのでした。

Franz_Böhme.jpg

クロアチアのヤセノヴァツの集団虐殺」になると、更に刺激は強くなります。
ドイツに占領されたユーゴスラヴィアは、クロアチアがナチス傀儡政権として独立。
パヴェリッチを首班とするファシスト組織「ウスタシャ」は、純粋なクロアチア国家を目指します。
そして全人口の1/3に当たる200万人のセルビア人が殺害、追放されていく、
「ユーゴスラヴィアのホロコースト」へと発展していくのです。

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この虐殺の中心地となったのがヤセノヴァツの絶滅収容所であり、
数十万のセルビア人を筆頭に、ユダヤ人やロマなど、30万~70万人が殺されます。
その殺害方法は特殊な形状をしたナイフ、そして斧などです。

Jasenovac Serb-cutter - Ustasa's invention for slaughtering Serbs.jpg

もちろん1945年にナチス・ドイツの降伏と同時に崩壊したクロアチア独立国。
復讐に燃えるパルチザンの手によって、今度は数万人のウスタシャが処刑されるのです。
それにしてもウスタシャ関連本ってホント無いんですよ。勉強になりました。

まぁ、このように「刃物」を好むバルカンの処刑方法。
西欧と比べて残酷なように感じますが、単なる文化の違いのようにも思います。
西欧でも中世からエゲツナイ処刑方法がたくさんあり、ギロチンも流行、
銃殺は近代になって軍人にとっての名誉とされる処刑方法であり、
犯罪者に対してはニュルンベルクでもそうだったように「絞首刑」が一般的です。
日本軍でも「軍刀」で一刀両断や「銃剣」による刺殺をよく聞くのは、刀文化に由来し、
同様にバルカンでも高価な銃より、慣れ親しんだ刃物を使った・・ということでは??

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まだまだ「ハイドリヒ暗殺に対するリディツェ村の報復破壊」に、
U-156のハルテンシュタイン艦長の「ラコニア号事件」、
U-852のエック艦長の「ペリュース号事件」と、このBlogで紹介した戦争犯罪が目白押し。

西暦529年に建てられた「モンテ・カッシーノ僧院を破壊した米空軍機」では、
膨大な美術品がヘルマン・ゲーリング戦車師団によってヴァチカンへと搬送され、
ケッセルリンクも修道院周辺を中立区域としてドイツ兵の立ち入りを禁止。
連合軍側も空爆の対象から外すと約束します。
しかし、ドイツ軍に手を焼く連合軍は約束を反故にして大爆撃を実施。
朝の礼拝の時間帯であり、修道僧と難民ら400人が死亡します。
「国家記念建造物」を目標としたこの爆撃。ニュージーランド軍団を率いる、
フライバーグ中将の進言で行われた愚行として断罪しています。

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今年の5月に行われたジロ・デ・イタリア第6ステージのゴールがこのモンテ・カッシーノで、
戦後に再建された僧院の空撮シーンでは、こんな風に紹介。
「1944年2月に『枢軸側』によって破壊されました」。
用意された紹介文を読んだだけでしょうけど、ありゃないぜ、Sascha。。ドイツ人だろ・・。

British and South African soldiers hold up a Nazi trophy flag.jpg

カプラー司令官による大量人質処刑」は、ローマの事件。
チュル(テュール)におけるドイツ軍の報復行動」はフランスでの事件です。
前者はドイツ側の死者33名と負傷者67名が出たことで、イタリア人人質を
1対10で射殺せよとのヒトラー命令によって、330人を射殺することに・・。
後者は64名のドイツ兵が「マキ」に殺されたことで、報復として92人が街頭に吊るされます。
しかしパルチザンの攻撃自体が違法であり、占領軍には当時の戦時国際法で
報復する権利・・人質を1対10で処刑すると威嚇する権利があったそうです。
ですから、ローマのカプラーの場合、330人を処刑したことでなく、
数え間違いにより5人多く殺してしまったことで戦後、終身刑を受けてしまうのです。

Civili arrestati subito dopo l'attacco di via Rasella_1944.jpg

武装SSのオラドゥール村における虐殺」は、完全にダス・ライヒの戦争犯罪。
1名の将校が「マキ」の捕虜となり、その後、処刑されたにしても、
197人の男子を銃殺し、445人の婦女子を教会に閉じ込めて焼き殺す・・というのは、
報復の度を越え過ぎているというわけです。

アルデンヌ戦で殺害された米兵捕虜」はいわゆる「マルメディの虐殺」です。
ダッハウ強制収容所で開かれた戦後の裁判では、ドイツ兵75人が起訴され、
フライムート軍曹は、拷問を受けてニセの自白を強要されたと何度も叫び、
挙句の果てに、首を吊って死んでしまいます。
そんな署名もない彼の自白を有益な証拠と認めた法廷は、全員有罪で
ヨーヘン・パイパーゼップ・ディートリッヒら43名に死刑判決を下します。

しかし拷問による自白が問題となり、米占領当局が調査を実施すると、
骨を砕き、睾丸を潰すといった悪質な手口が明らかとなって大騒ぎに・・。
アイゼンハワーの後任であるクレイ将軍の即刻死刑の意図は失敗に終わるのです。

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東部戦線では「東プロイセンにおけるソ連軍の住民虐殺」に始まり、
難民輸送船グストロフ号の悲劇」へと進みます。
このソ連潜水艦によるグストロフ号の撃沈が戦争犯罪なのかというと、
5000人の難民の他、負傷者を含む1100人の兵員が乗船しており、
航海灯を消していただけではなく、赤十字の標識も付けていなかったことから、
戦争犯罪とは認められないとしています。う~ん。難しいなぁ。

ドレスデン壊滅の日」もガッチリ書かれていますね。
1945年2月という時期になって、ドイツの芸術文化都市を無差別に爆撃した英空軍。
ハンブルク爆撃と並ぶ、第2次大戦における最大級の「戦争犯罪」と表現。
行政機関や交通施設、兵舎は合法的な爆撃目標であるものの、
病院や文化財建造物は爆撃してはいけません。
当日、英爆撃機隊員に発せられた指示では、
「ソ連のコーネフ元帥はその前線突破に全力を傾けているので、
ドレスデンに到達するソ連軍に、英爆撃機集団の実力の程を見せつけねばならぬ」。

dresden-bombing.jpg

日本でも一歩間違えれば京都や奈良が、東京のようになったのかも知れません。

やっと第4章、「1945年-2002年期」に辿り着きました。
まずは「ダッハウ解放後の米兵による収容所員処刑」。
医学的人体実験など「人道に対する罪」が行われたダッハウ強制収容所ですが、
パットンの米第7軍によって解放された当初、この収容所の警備兵だけでなく、
衛生部員、炊事要員らが銃殺されています。
520人の人員が武装解除され、壁に向かって立たされて射殺。

Dachau, Germany, 1945, American soldiers standing near the corpses of SS guards..jpg

しかも彼らは、元の多くの看守が前線行きとなったため、
急遽、駆り集められた傷病兵たちで、数日しか経っていない新米看守だったのです。
また、SS隊員の多くが元の収容者によって撲殺されるのです。
生き残った人員は戦争犯罪人として取り扱われることに・・。

freed prisoner fights a German soldier who was recently captured by the U.S soldiers at the Dachau concentration camp.jpg

フランス軍のルクレール将軍は、ベルヒテスガーデン攻撃準備の最中、
米軍から捕虜を引き渡されます。
それは武装SSシャルルマーニュの12名。すなわち、同じフランス人の同胞なのです。
そしてドイツ降伏の数時間前、12名は銃殺されてしまうのでした。

これと同じようなパターンが「ソ連へ引き渡された非ドイツ人捕虜の運命」です。
ドイツ軍に協力したコサックやウクライナ人、タタール人やカフカス人、
「幻影」でも有名なウラソフの「ロシア解放軍(ROA)」などの運命です。
捕虜となったソ連軍兵士は、スターリンによって「卑怯者と脱走兵」と定義されており、
祖国への帰還は、そのまま処刑ないしは、収容所送りなのです。

POA.jpg

ユーゴにチェコ、ポーランドなどの「ソ連占領軍による住民追放」では、
ソ連軍将兵による大量婦女暴行を取り上げ、
強姦された婦女子の総数は200万人と推定され、18万人がその際に死亡と・・。

Rape- a weapon of Russian Army during World War II.jpg

ソ連によるドイツ兵捕虜の抑留と強制労働」は、その過酷な労働の実態を・・。
スターリンの威信かけた巨大建築物に世界最大の水力発電所、鉄道道路に
モスクワの地下鉄など大型の建築計画にはドイツ人捕虜が多数参加。
モスクワのディナモ・スタジアムの建築(増築??)にも彼らが関わっているそうです。

西側のドイツ人捕虜も運命は悲惨です。
消えた百万人」でも詳しく書かれていた野外の収容所で泥の中、餓死していきます。
さらにデンマークとフランスでは、「大西洋の壁」の建築時に埋設された
地雷の除去」を命ずるのです。
このような作業はジュネーヴ捕虜条約で禁止されている「危険な労働」に該当。
フランスでは4万人の捕虜が従事し、毎月、2000件の死亡事故が起こるのです。
パウル・カレルの「捕虜」を再読したくなりますが、精神的にキツイからやっぱりやめた。。

A German prisoner engaged in mine clearance duties near Stavanger unearths an anti-personnel mine.jpg

後半は「イスラエルvsパレスチナ」、「アルジェリアにおけるフランス軍の暴行」、
これは昔、「アルジェの戦い」という映画を観て知りましたねぇ。

1979年にウラル地方の「ソ連生物兵器施設で起こった炭疽菌事故」。
66人~105人が死亡したこの事故が西側に漏れ伝わると、
ソ連は自国民に対してもこの事故を隠すため、汚染肉が原因だとして、
肉の闇商人まで逮捕してしまいます。
そしてこの隠蔽工作を指揮したのは、当時、この地区の共産党書記だったエリツィン・・。

Yeltsin_1979.jpg

湾岸戦争」は主に空爆が米軍の戦争犯罪であり、
ルワンダ共和国の大虐殺」、「ユーゴの内戦」で終了します。
そういえば「最愛の大地」という映画、観てみたいんですよねぇ。
あのアンジェリーナ・ジョリーの初監督作品で、ストーリーは
「ボスニア女性アイラはセルビア軍に捕えられ収容所に収監される。
収容所では日々レイプや拷問が行われていた・・。」という恐ろしいもの。
しかし彼女は<第1部>で紹介した最新作「アンブロークン」といい、
なかなか意欲的な作品に挑戦していますね。



実は40ページほどの第3部があり、「参考項目」と題して、各国の戦後補償や、
戦争犯罪関係の国際条約等一覧が掲載されています。
このように本書は、特にナチス・ドイツに関わる戦争犯罪は知っていたものも多いですが
単なる犯罪行為の紹介ではなく、当時の国際法と照らし合わせて、
どこがどのように犯罪行為なのか、あるいは犯罪とは認められないのか・・
に言及しているものです。

SSやゲシュタポがロシアのパルチザンや、フランスのレジスタンスの親玉を捕え、
冷酷に処刑してしまうなんて、犯罪行為のように思えますが、
国際法上は愛国者のパルチザン、レジスタンスはテロリストなのであり、犯罪人なのです。
近年で言えば、ビン・ラディンを殺した米軍とCIAが正義なのと一緒なんですね。

Murdered Camp Guards.jpg

本書は素晴らしいと思います。
2回に分けてお送りしましたが、とても全項目は紹介できませんので、
その他、どんな項目があるのか興味のある方は、コチラをど~ぞ。

ただし、定価19440円では一般人は購入できません。モッタイナイ話ですね。
「日本の古本屋」で検索しても、最安値で5000円。
少なくともアジアの第1部、ヨーロッパの第2部に分けて、分冊にするとか、
もっと細かく、国ごと、あるいは第2次大戦と、それ以外など4分冊くらいになれば、
1巻あたりが安くなって、興味のある巻から購入してみることもできるでしょう。
文春文庫で全8巻ででも出れば、迷わずまとめ買いします。









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コメント 14

ちい

大分前に、ナチス好きな主婦だけどママ友には言えないというコメントをしたものです。

今回の記事、最後の写真がインパクト大きすぎでした。
これは誰が誰にやられたことなんでしょうか

お尻にナチスのマーク…。怖すぎます。
by ちい (2014-07-12 22:50) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、ちいさん。こんばんわ。
ママ友には言えない・・、あぁ、覚えてますよ。
小さいお子さんがいらっしゃるのに、イケないママさんですね。。

>これは誰が誰にやられたことなんでしょうか

コレは確かにエグイ写真ですよねぇ。ボクも最後の最後まで掲載するか、悩みました。
一応、キャプションでは、「強制収容所の看守の死体」となっています。
今回、ダッハウの看守虐殺の件を書きましたが、同様に、解放された被収容者によって殺され、裸にされてハーケンクロイツを落書きされた末に、鉄条網に投げ捨てられた(飾られた??)看守のようです。

今晩の夢に出ないことをお祈りします。。

by ヴィトゲンシュタイン (2014-07-12 23:08) 

さくら

充実度はピカイチでも読むのに根性入りそうな本ですね。
分量だけじゃなく、犯罪と虐殺だらけで目が回りそうです。
こういうシチュエーションで生きたくないな……。
地獄。
何やかやあっても、今の日本が一番いいなー。
by さくら (2014-07-12 23:12) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、さくらさん。
そうですねぇ。W杯があって、今もツール・ド・フランスを見てますけど、世界中の選手が入り乱れてもスポーツマン・シップに則って頑張っています。
2回の大戦ではツールも中止になり、昨日は有名な「ヴェルダンの戦い」の戦没者墓地も通ったりして、100周年記念モードで、選手も出兵して戦死しているということをTVでも語っていますからなおさらですね。
本書は単なる残酷エピソードの盛り合わせではないですから、仰る通り、改めて平和な今を有難く感じます。

by ヴィトゲンシュタイン (2014-07-12 23:33) 

でんこう

ヴィトゲンシュタイン様、こんばんは。
読了、お疲れ様でした。
舞台がヨーロッパとなると、やはり中心に来るのはドイツ軍になるのですね…
個人的には破壊と暴力以外にも、文化財の収奪といった犯罪にも触れている点が興味深いです。
ベルンハルト作戦や日本軍の偽札作戦などもこれと同系列になるんでしょうか。

デンマークとフランスでの地雷除去には旧式化したⅢ号戦車がローラーを据え付けられて使用された、と模型雑誌で見たことがあります。
スペイン人モデラー・ミゲル=ヒメネス氏の作った錆だらけの戦車は衝撃的だったことを覚えています。

アンジェリーナ・ジョリーの次回作はtwitterのフォロワーさんの間で喧喧諤々です。
さすがに『生きたまま刺身にして食べる』などというシーンを映像化するとは思えないのですが…
by でんこう (2014-07-13 00:09) 

さくら


「敵兵の服を着て敵地に入ってもよいが、戦闘はそれを脱いでから」とか、ややこしいですねー。
「パルチザンを処刑しても合法」というのは、確かに心情的に納得できないですね。
脆弱な装備で侵略者に立ち向かった勇者じゃん。
by さくら (2014-07-13 00:32) 

ブルクハイト

こんばんはヴィト様。読了お疲れ様です。
それにしてもこんな高くて分厚いそうな本が有るんですねぇ…。

妊婦の腹を切り裂いて、胎児を取り出し
とありますが、殷の紂王の例も見られる様に洋の東西問わずこれと似通った話が有りますよね。腹裂きの刑で調べてみたら中国の暴君は妊婦に残虐なことをするのがセオリーらしい様で、また中国の暴君は後の王朝が正当化の為に過度に悪し様に書かれるそうですからもしかしたら「妊婦の腹を~」というのは誰かを悪人に仕立てあげるための世界共通のプロパガンダの手法なのかもしれません。

女性の方々なんかすいません・・・。
by ブルクハイト (2014-07-13 01:02) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、でんこうさん。

>舞台がヨーロッパとなると、やはり中心に来るのはドイツ軍に

確かに・・。前回の記事の最初にも書きましたが、第1部は日本人が執筆、この第2部は主にドイツ人が執筆・・というのがポイントですね。その翻訳の過程でも記述を巡って日本vsドイツの構図が・・なんて話もありました。もしも、英米仏露からも歴史家が参入していたら、収拾がつかなかったでしょうね。その意味では、「敗者による戦争犯罪辞典」と言えるかもしれません。

「ベルンハルト作戦」は挙げられてなかったですね。なるほど、戦争犯罪であるとも思いますが、それを用いた具体的な事件例とか、ニュルンベルク裁判で・・ということがなかったせいかもしれません。
「日本軍の偽札作戦」て初めて聞きました。地雷除去用Ⅲ号戦車も初耳です。興味ありますねぇ。

「アンブロークン」は喧喧諤々ですか。
個人的な意見を述べますと、例えば「これは実話である(トゥルー・ストーリー)」なんて宣伝される映画であっても、ドキュメンタリーでない以上は脚色があるのは当然で、あの「大脱走」だって主役のマックイーン(ヒルツ大尉)の存在自体が脚色です。

また、映画に人肉食のシーンがあるのかどうかも分からないのに、アンジェリーナ・ジョリーを非難するのはおかしな話で、文句があるなら原作者を責めればよいでしょう。読書も映画鑑賞も好きな人間からしてもれば、本ならOKでも、映画だとNGという理屈はわかりません。
まぁ、原作が翻訳されても面白いし、いずれにしても観てからですね。

by ヴィトゲンシュタイン (2014-07-13 05:55) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、さくらさん。

>「敵兵の服を着て敵地に入ってもよいが、戦闘はそれを脱いでから」とか、ややこしいですねー。

そうなんですよ。コレを知ったのはジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」を読んだときなんですけどね。
映画も俳優陣が良いですけど、名作映画とまではいかないので、ぜひ、原作を読んでみてください。ボクが読んだ戦争小説で不動のNo.1であります。男のロマンが詰まっているのであります。


by ヴィトゲンシュタイン (2014-07-13 06:02) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、ブルクハイトさん。
ホント、良い本なのに知られてないのが残念ですね。文庫化して欲しいところです。

>誰かを悪人に仕立てあげるための世界共通のプロパガンダの手法

なるほど、実に興味深いお話ですね。
ちょうど第1次大戦から100周年てすから、「八月の砲声」でも読んでみようか・・と思っていましたが、本書を読んで若干その気が失せました。
by ヴィトゲンシュタイン (2014-07-13 06:10) 

戦争映画中央評議会の管理人

お久しぶりです。

レビューお疲れ様でした。本書はワタクシもよく活用させていただいております。なかなか内容が濃いうえ、中立的な書き方なんですよね。類似本がありそうであまりないうえに、あったとしてもどちらかがどちらかを悪く言ったり糾弾するような内容だったりして信憑性に欠けるのが難点です(よくいえば政治的な本ということになるのでしょうか)。

20世紀周辺に絞っているのも良いですね。高いけど買う価値あると思います。ヴィトゲンシュタイン様はもうお読みかと思いますが「ホロコースト歴史地図」という本もすごい本です。当時のユダヤ人コミュニティがいかに解体されどこへ輸送されたのか時系列で地図を見ながら理解することができます。ホロコーストが空前絶後の規模で行われたことがわかります。恐ろしい本です。
by 戦争映画中央評議会の管理人 (2014-07-28 21:17) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も。 戦争映画中央評議会の管理人さん。
いつも参考にさせていただいています。
特に直近の記事、「ジェネレーション・ウォー」は面白そうですね!
先月だか、先々月だかにCSで放映したようで、もっと早く紹介して欲しかった・・と我がまま言ってみたり・・。

そういえば本書も、そちらの記事で参考文献に挙がっていたこともあって、興味を示したような気もします。
特にウスタシャが熱いですよねぇ。。

「ホロコースト歴史地図」ですか。
いま、チッェクしましたが、こりゃまたマニアックだなぁ。しかもプレミア価格・・。でもオススメですから、amazonの欲しい物リストに登録しました。

ボクは本書の類似本を探していたら、「20世紀世界紛争事典」というのを見つけました。
同じ辞典ですけど、1533ページ・・。
是非、お先にど~ぞ。。

by ヴィトゲンシュタイン (2014-07-28 22:02) 

藤原莉子

今晩は!すみません、今、夜なので。

大変、興味深い一冊でした。読みたくなりますね。私は、事典の類いが大好きなので、そういうタイトルがつくと手当たり次第に読みたくなるので、困ったものです。
正しく戦争におけるうえでの人間がとる行動?といったらいいのでしょうか。
戦争という極限におかれた人としての行いが気になります。
戦争において大量殺人は英雄と謳われ、平和な中では1人殺すと許されません、当たり前ですが。
それにしても、敵陣に乗り込むためには云々という類いには、失笑を禁じ得ません。
戦いに綺麗も汚いもないと思いますが。
こういうのが、国際法なんて
ちょっと考えてしまいます。
妥協策として用いられたんでしょうか。

でも
もっと手頃に購入することが出来るなら
是非とも欲しい一冊です。
by 藤原莉子 (2015-09-10 20:39) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、藤原莉子さん。
>戦いに綺麗も汚いもないと思いますが。こういうのが、国際法なんてちょっと考えてしまいます。

難しい問題ですね。歴史問題が国際的に統一されていないのと同様、過去の戦争自体を誰もが納得するように解釈することはできません。
古今東西、戦い方にはその国の文化があるし、騎士道的な戦い方から、現代の戦い方にも変わってきて、スポーツでも「勝てばいい」というのに似ています。
とにかく本書はそのような勝利至上主義、あるいは古い戦争の概念、世界中の文化、いろんなことを考えさせてくれる良書ですね。
by ヴィトゲンシュタイン (2015-09-10 21:14) 

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