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英国王女を救え [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

スチュアート・ホワイト著の「英国王女を救え」を読破しました。

1989年発刊で475ページの本書は、なんらかの拍子に偶然見つけてしまった小説です。
舞台はフランスが降伏し、今まさに「バトル・オブ・ブリテン」が始まろうという
1940年夏の英国とドイツであり、「SS-GB」のようなパラレルワールドではありません。
そこでSSのハイドリヒが考えついた作戦は、「英国王のスピーチ」こと
ジョージ6世の2人の娘を誘拐し、英国を屈服させようというものです。
この娘の1人はもちろん今のエリザベス女王ですね。
いくら小説でも首尾よく作戦完了なんて、あまりにも現実味がありませんから、
英首相チャーチルの誘拐をテーマとした「鷲は舞い降りた」くらいの力量がないと
「トンデモ小説」に分類されてしまう恐れがあります。。

英国王女を救え.jpg

1940年5月、ダンケルクに追い詰められた英国大陸派遣軍の様子から始まります。
6人の偵察隊の前に「降伏したい」と姿を現すドイツ軍将校がひとり。
第2装甲師団に所属するハンス・カイラー大佐です。
林のなかに死んだ部下がいる・・と何人かをそちらに向かわせたスキに、
見張りの一等兵をあっさりと殺し、武器を奪って残りの5人も片づけてしまいます。
実は彼はSD(SS保安部)のスパイであり、本名はウーヴェ・アイルダース。
殺した中尉の軍服を奪い、海上からの脱出を待つ数万人の英軍兵に紛れ込んで
英国本土上陸を果たすのでした。

dunkirk-ww2.jpg

上官であるSDの親玉、ラインハルト・ハイドリヒが立てた計画は、
数週間前にベルギーのエーベン・エメール要塞を攻略した実績のある、
クルト・シュトゥーデント将軍降下猟兵グライダーによって
14歳のエリザベスと10歳のマーガレットという2人の王女を誘拐し、
何も知らないヒトラーの前に「戦利品」としてプレゼントして取り入り、
英国が講和に応じた暁には、威張りくさっているルドルフ・ヘスの代わりに
総統代理の地位を奪取しようというものです。

Fallschirmjager.jpg

国王の誘拐は英国民にとって打撃があまりにも強すぎるし、
チャーチルを誘拐したところで、伝統ある議会はすぐに後任の首相を任命する・・、
2人のリトル・プリンセスがドイツからラジオで講和を訴え、
父親のジョージ6世の代わりに、兄のウィンザー公を再び王位につけて
友好的な新政府をつくろうというところまで考えているハイドリヒ。

Heydrich.jpg

ウィンザー公の友人であり、ドイツ側へ協力をしているブラッキントン侯爵と接触する
オランダ船員に変装した27歳のアイルダース。
彼の任務は、大嫌いな英国人で貴族でホモであるブラッキントン侯から
リトル・プリンセスの居場所に関する情報などを引き出すことで、
13歳から数年間、ロンドンの孤児院で過ごし、英語は堪能ですが、
英国人に対して異常なまでの嫌悪感を持っているのでした。

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その時ドイツでは、SDのライバルである国防軍防諜部(アプヴェーア)のカナリス提督
このハイドリヒの作戦を嗅ぎつけます。
ケチで有名な夫人のリナ・ハイドリヒに対するジョークを交えながら、
いつか総統が引退したら、ハイドリヒが後継者になるということを憂慮・・。
早速、この件をヒトラーにチクリに向かうのでした。

lina heydrich.jpg

こうして必要以上に英国の敵意を煽りたくないと考えていたヒトラーに呼び出され、
口から泡を飛ばして喚き散らす総統の姿に縮み上がるハイドリヒ。。
「お前が送り込んだスパイを呼び戻すんだ。ただちにだ!」

Anger hitler.jpg

作戦中止、緊急帰国の連絡を受けたアイルダースは憤慨します。
旧友であるハイドリヒのガッツはどこへ行ったんだ? と、
もはやグライダーも、王女を連れ去る戦闘機も来ないことを悟った彼は、
王女を暗殺し、憎き英国人を悲観に暮れさせてやろうと決断します。
ブラッキントンからバッキンガム宮殿の平面図を奪い、メイドにも手をかけ、
逃亡するアイルダース。

この想定外の事態にヒトラーとチャーチルの電話会談が実現します。
「SSの脱走者でドイツ人らしくない狂気に陥ったその男は、王女の暗殺を企てている」。
不撓不屈の通訳官シュミットが話を繰り返します。
そしてアプヴェーアのウルリッヒ・フォン・デア・オステン大佐を派遣して
捜査協力を提案するのでした。。

paul schmidt hitler.jpg

ウルリッヒ・フォン・デア・オステンと共に捜査を行うのは
スコットランドヤード(ロンドン警視庁)のハリー・ジョーンズ警視です。
しかし彼はつい先日、ノルウェー戦で一人息子をナルヴィクで失ったばかり。。
ドイツ人対する憎しみでいっぱいのジョーンズは
「いまいましいゲシュタポ野郎」と組むという命令に気絶寸前です。
「警視、私は防諜部の人間で、ゲシュタポじゃありませんよ」と
否定するウルリッヒにジョーンズは肩をすくめます。
「失礼・・、それじゃ、ナチと言おう」。

王女が滞在している場所はウィンザー城。
要塞であり、この城にいる限りはリトル・プリンセスたちは安全です。
しかし各国大使たちを招いたバッキンガム宮殿でのレセプションには
彼女たちも出席することをドモリの父王は決定します。

Windsor Castle.jpg

一方、パブでティリーという名の女性をナンパすることに成功した美男のアイルダース。
まんまと彼女の部屋へと転がり込み、警察の追及の手から逃れます。
最近、ポール・ニューマンの「ハスラー」を久しぶりに観たばかりなので、
なんか同じようなシーンだな~と思ったり。。

The_Hustler.jpg

しかし新聞に手配写真が掲載されると、彼に惚れて面倒を見てくれたティリーも
邪魔者として殺されます。
この殺人鬼のアイルダースはサディストでもあり、嫁さんにも暴力を振るい、
片目と脊髄を損傷させ、車椅子生活にさせたうえ、離婚。
その嫁さんを以前から愛し、介護していたのはウルリッヒであり、
彼にとってアルダースを殺すことは個人的な復讐でもあるのです。

やがてベルンハルト作戦の偽札を持たされていたアイルダースは偽札所持で逮捕。
護送車から逃亡し、ウルリッヒたちの追跡もかわします。
ドイツ軍将校と英国人警視の関係も、時間が経つごとに信頼感が芽生え、
着任したばかりの南米の若い大使に変装して、バッキンガム宮殿に向かい、
国王、王妃に続き、エリザベス王女も「おはよう、大使閣下」。
そしてお辞儀をして、その小さい手を握る殺人鬼アイルダース・・。

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と、まあ、いろいろな要素があった本書ですが、個人的にはまあまあでした。
興味深かったのは、首尾よくアイルダースを捕えた後のウルリッヒの運命を
ジョーンズと語り合うところですね。
ロンドン中をこれだけ敵の防諜部員に見せておいて、そのままドイツに帰すのか??
ウルリッヒは、最後にはジョーンズが自分を殺すのかも・・と思っていますし、
良くても戦争が終わるまで刑務所送りか、マン島へ島流しです。

チャーチルから直々に警視総監にも命令できる権限が書かれた書類を受け取り、
言うことを聞かない相手に見せる・・というのは、
鷲は舞い降りた」であったヒムラーの・・というのを思い出しましたが、
重要人物の暗殺を阻止するという展開は、「鷲は舞い降りた」というよりも、
ドゴール暗殺を目論むフォーサイスの「ジャッカルの日」に近いですかね。
それでも逃げるまでの緻密な計画を立てていたプロのジャッカルに対して、
本書の暗殺者は単なるサディストなので、そのあたりが・・。

The Day of the Jackal.jpg

しかし時代と舞台を移して、北○○の工作員が日本へ潜入し、
愛○さまとか、○○宮の佳○さまを誘拐するなんてストーリーは、
日本の出版業界では許されないんでしょうね。

戦争小説ということではちょっと話はそれますが、
このBlogの読者さんで、度々、コメントしていただくリントさんが、
「弾道」という小説を発表されました。
昨年、原稿?? を読ませていただきましたが、面白かったですねぇ。
小説『弾道』の全て」というBlogも開設されました。
ソ連赤軍の若い女性狙撃手と、グロース・ドイチュランドの凄腕狙撃手との戦いと
運命を描いたもので、実在した伝説のスナイパー、シモ・ヘイヘ
リュドミラ・パヴリチェンコも登場。
amazonの電子書籍、Kindle版でダウンロードが可能となっております。
100円と格安ですから、興味のある方は是非ど~ぞ!









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リント

ヴィトゲンシュタインさんこんにちは!「独破戦線」読者のリントでございます。
この度は拙書「弾道」をこちらのブログでご紹介いただき、誠にありがとうございます。
その節は大変お世話になりました、「独破戦線」の存在と貴方の助言のお陰でこの小説がどれだけ磨かれたことか…本当に、いくら感謝しても足りません。
私にできるご恩返しとしては、さらにアイデアを練り上げて、ヴィトゲンシュタインさんを始めとした読者の方々に「面白い!」といっていただけるような小説を頑張って執筆することぐらいです。
仕事の合間にマイペースで書いているので、それなりに時間は掛かるかもしれませんが、今後ともご支援のほど、宜しくお願いいたします。

追伸
そんなわけで現在「次回作」を鋭意執筆中ですが、先日も以前に当ブログで紹介されたあの並木均氏訳の「Uボート部隊の全貌」を購入し、「狼たちの実像」に迫るべく、日々研究中であります!! ∠(・`_´・ ) 


by リント (2013-03-30 21:01) 

ヴィトゲンシュタイン

リントさん、ど~も。
次回作は、「狼たちの実像」ときましたかぁ。
「Uボート部隊の全貌」でもとても興味深かった話を今度ご紹介したいですね。最近、Uボートもの、やってないですから・・。
by ヴィトゲンシュタイン (2013-03-30 21:56) 

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