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幻の英本土上陸作戦 [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

リチャード・コックス著の「幻の英本土上陸作戦」を読破しました。

先日の「ナチを欺いた死体」を読んでいた際に、たまたま見つけた
1987年、262ページの朝日ソノラマからの一冊を紹介します。
「英本土上陸作戦」とは、いわゆる「あしか(ゼーレーヴェ)作戦」のことであり、
その作戦の実行は「幻」に終わったことはご存知だと思いますが、
単なる「もしも本」と思って軽い気持ちで買ってみたところ、
序文では本書の内容は、英国の一流紙デイリー・テレグラフと英陸軍士官学校で企画された
陸軍大学校での「図上演習」というシッカリした「もしも」だということです。

幻の本土上陸作戦.jpg

この「図上演習」には英独の有名軍人らが出席しており、
例えばドイツ側の審判員では1944年、B軍集団司令官ロンメルの海軍副官を勤め、
ノルマンディのロンメル」の著者でもあり、実際のあしか作戦の準備にも携わった 
戦後の初代ドイツ連邦海軍総監、フリードリヒ・ルーゲ提督。
そして空軍からはアドルフ・ガーランドも審判員として出席しており、
いやいや、コレは気合が入りますねぇ。

Friedrich_Ruge.jpg

英独空軍同士の熾烈なバトル・オブ・ブリテンが一息ついた1940年9月22日の明け方、
英国南部ハイスの海岸上空に姿を現した"ユンカースのおばさん"こと、Ju-52の編隊。
真っ先に飛び降りるのはマインドル大佐です。
彼は第7空挺師団の最強の大隊を率いて先陣を務めますが、
この師団の名前は架空のようで「第1降下猟兵師団」をイメージしているのかも知れません。

ju52exit.jpg

そして対岸のカレーで無線連絡を聞くのは、第16軍司令官のブッシュ上級大将であり、
彼の参謀長は「できる男」、モーデル少将です。
A軍集団ルントシュテット元帥がこの「あしか作戦」にほとんど確信を持たなかったことから、
部下であるブッシュが事実上の責任者となって、計画立案も立てているのです。
第1戦術目標はロンドン南部からポーツマスに至る、ケント州など4州の確保に8日間。

Ernst Busch.jpg

降下猟兵が無事に降り立つと同時にドイツ海軍の船団も上陸します。
ドイツ中から曳き船や艀が集められ、間に合わせに大砲を装備した沿岸貿易船に、
Sボートの護衛によってダンケルクから海峡をなんとか渡って来たのです。その数、180隻。
そしてこのぶざまな隊列船団から6人乗りの突撃ボートで
陸軍兵士(第17(歩兵?)師団)は上陸を敢行するのでした。

German fishing boats.jpg

また第26戦闘航空団(JG26)を指揮する騎士十字章拝領者のガーランド中佐も
ミッキーマウスが描かれたBf-109に自ら乗り込み、空から陸海軍を支援。

一方、ドイツ軍の本土進攻の知らせを受けた英首相チャーチルは、
バッキンガム宮殿へと赴きますが、国王は爆撃下にあるロンドンから避難することを拒否。
国内軍総司令官のアラン・ブルックとともに反撃作戦を検討しますが、
南部にはわずか3個師団しかおらず、国内軍の装備は「ダンケルク」から立ち直ってはいません。

Churchill with King George VI and Queen Elizabeth inspecting the damage caused by bombs which hit Buckingham Palace at the beginning of the Blitz.jpg

昼にはドイツ軍の水陸両用戦車がSF小説の怪物のように海から這い上がってきます。
そして雑多な船団は侵攻第2波のために、50隻の損害を出しながらも帰路につくのでした。
しかしレーダー海軍総司令官にとっては、英本国艦隊の所在が気がかりです。
4月にはノルウェー戦で多くの損害を被っており、重巡ヒッパーと、ポケット戦艦シェア
アイルランド沖で陽動作戦に出て、本国艦隊を引き離そうとしています。
ドイツ海軍としては機雷原とデーニッツのUボートに頼るしかありません。

Panzer-III-als-Tauchpanzer.jpg

それでも英巡洋艦と駆逐艦が海峡に現れると、ドイツ空軍のシュトゥーカ50機が舞い降ります。
罠を張っていた"スカバフローの雄牛"こと、ギュンター・プリーンも潜望鏡から確認すると、
駆逐艦2隻をたちまち撃沈。
そんなこんなでブッシュの第16軍の他にも、シュトラウス上級大将の第9軍の2個師団も上陸。
9万人の兵員で橋頭堡を拡大し、第1撃は成功と考えるドイツ軍最高司令部とヒトラー。

U47.jpg

翌日の夕方、簡単な特別任務の志願者をためらいながらも募るガーランド。
その任務とは早速、英占領地の総督に任命されたラインハルト・ハイドリヒを護衛して
無事に英国本土へ送り届けることです。
彼の不安はパイロットの誰かが、護衛するよりも撃墜したいと考えるのでは??

Galland.jpg

英独の空中戦は苛烈さを増しています。
英空軍の戦闘機隊を仕切るダウディング大将は予備も繰り出して徹底抗戦し、
ドイツ空軍参謀総長のイェショネクは、ゲーリングに提出する報告書の作成に大わらわ。。
敵機の撃墜数をチェックしながら苦々しげに語ります。
「この数字が正しければ英空軍には戦闘機が200機しか残っていない。
だが今もカレーやシェルブールを空襲している。5割かた多めにみている」。
こうしてゲーリングは「私の空軍は夜を徹して船団護衛を続ける」と
レーダー提督とヒトラーに宣言してしまうのでした。

Göring und Raeder.jpg

そして迎えた24日の朝、兵士と補給の弾薬、そして戦車を積んだ第2波の艀船団が出航。
そこへ姿を現す英駆逐艦隊。無力な艀に直撃弾を浴びせかける海上の大殺戮。
護衛の戦闘機からの支援要請を受けたドイツ中型爆撃機600機が空に舞い上がり、
英空軍もすべての飛行隊を投入する大空戦も始まります。

german-bombers.jpg

やがて弾薬不足に陥った侵攻軍は各所で崩壊の兆しを見せ始めます。
やる気満々で、手榴弾を使用した猛烈な突撃を敢行するオーストラリア軍の前に、
また銃剣と素手で戦う以外の術がないとカナダ軍に降伏する部隊も・・。
遂に自信満々だったゲーリングもヒトラーに撤退を要請します。
これは飛行隊の損害ではなく、彼の私兵である降下猟兵たちを救うための進言なのでした。

Fallschirmjäger, rauchend.jpg

原著は1974年に「オペレーション・シーライオン」として発表されたもので、
英側にも多くの人物が登場しますが、本書の主役となるのはマインドルです。
なぜかはわかりませんが、実にシブイ人選で、
「国防市民軍はスパイとして銃殺」といった総統命令に苦しんだり・・と、
好感が持てました。
戦局の動きは「図上演習」どおりだとは思いますが、結構なストーリー仕立てで、
その部分や、特に会話などは著者の創作だと思われます。

Eugen Meindl.jpg

特に前半から中盤にかけてはドイツ侵攻軍の作戦が順調で、
ひょっとしたら・・と何度も思ってしまいましたが、
最後はやっぱり海軍力の差が致命的でしたね。。
いままで何度も読んだ「あしか作戦」が実現していたら・・というのは
なんとなく考えたことがありますが、このように具体的に書かれていると
結果はどうあれ、スッキリした気分になりました。



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