宮崎駿の雑想ノート 【増補改訂版】 [戦争まんが]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
宮崎 駿 著の「宮崎駿の雑想ノート」を読破しました。
このBlogの栄えある第1回目の「まんが」といえば一昨年の誕生日に紹介した
「泥まみれの虎―宮崎駿の妄想ノート」ですが、
特に「雑想ノートも面白いですよ」といったコメントもいただきました。
本書はもともと「月刊モデルグラフィックス」に1984年から連載されていた短編をまとめ、
1992年に発刊され、1997年に128ページの【増補改訂版】として出された
オールカラーの大型本でてす。
序文ではいきなり「この本に資料的価値はいっさいありません」と大きく書かれ、
「ようするに、自然保護の問題をどうのこうのとか、
少女の自立がどうのこうのとかね、そういうのは一切ヌキ!」。
ということで、「第1話 知られざる巨人の末弟」です。
ヨーロッパの小国であるボストニア王国の、若き国王ペトルⅢ世。
この飛行機気違いの青年によって、ユンカース四発旅客機J-38(G-38)を
軍用機に仕立て上げる・・というお話です。
ボストニア王国は架空の国で、ボスニアのイメージかな? とか、
ペトルⅢ世は、何度か紹介したことのあるユーゴのペータル2世がネタかな?
などと、完全なフィクションではなく、虚実の混じった凝った話ですが、
3ページで終了。。まんがって感じじゃないですね。
「第2話 甲鉄の意気地」は南北戦争での世界初の装甲艦による海戦で、
さすがに南北戦争は疎いので、どこまでホントの話なのかは不明ですが、
「第3話 多砲塔の出番」になると、ヴィトゲンシュタインの出番ですね。
夢の200㌧超重多砲塔戦車のその名は「悪役1号」。
悪役大佐に率いられた反乱軍の活躍が8コマ程度でやっとまんがらしくなりました。
最後には「このようなマンガ映画を観たい方は、2億円ほど持参してください。
1年ほど待って下されば、70分の総天然色マンガ映画を創って差し上げます(PR)」。
コレは確かに興味ありますね。実際、1/72モデルなんか売ってます。。
以降、徐々に1話ごとのページ数も増え、まんがらしくなっていきますが、
「第7話 高射砲塔」が良いですねぇ。
1943年に建設されたキール軍港に近いリュースバルク市の高射砲塔。
これは街も塔の形も架空のものですが、128㎜2連装高射砲が据えられ、
ストーリーも面白く、最後のオチも現実味があります。
なかでも「キルマークをかくのも途中でやめた」っていう絵が印象的ですね。
続く「第8話 Q.ship」では、第1次大戦のUボート大エース、ド・ラ・ペリエールが登場。
プール・ル・メリットも付けていますが、顔はブタ・・。
最後に「第2次大戦中にQシップ(囮船)は使われなかった」と書かれていますが、
1941年くらいまでのUボート戦記では、たまに出てきますね。
「第9話 特設空母 安松丸物語」は8ページのしっかりした2回連載のまんがで、
英補給路の分断にアフリカ沖へと向かうストーリーです。
英雷撃機ソードフィッシュを味方と間違えたり、逆に英船団は96式艦攻を
ソードフィッシュと間違えたりと、機体に描かれた「赤丸」のエピソードが楽しいですね。
「これ以降アジア方面の英軍機は赤丸を消すのである」とか、
日の丸を「ミートボール」と英兵が言うところなど、ホントかどうかは良くわかりませんが・・。
最後の「ドイツ・アフリカ軍団にとび・・」というオチも良し。
「第10話 ロンドン上空 1918年」に登場する、戦略爆撃機「ツェッペリン・シュターケン」は
あまりにリアルなので、さすがに気になって途中で調べてしまいました。
すると、この話は結構、史実に則っているんですねぇ。
なかなか勉強になるなぁ。。
整備兵長のハンスが大活躍しますが、彼は「泥まみれの虎」の「ハンスの帰還」なんですね。
「第11話 最貧前線」は太平洋戦争末期に、木造漁船が特設監視艇として
配備されるお話です。平均年齢40歳の年寄りに14歳の機関助手とくれば、
まさに「国民突撃隊」の日本海軍版といった趣ですね。
B-24 リベレーターを「コンソリ」と呼んだというのは初めて知りましたが、
主人公の「吉祥丸」がお隣さんの「三鷹丸」を助けに向かったり、
反対側は「荻窪丸」、「阿佐丸」、「高円寺丸」、「中野丸」と東京の人間はウケますね。
「第12話 飛行艇時代」は3回連載のボリュームで、これは知っています。
アニメになった「紅の豚」ですね。といっても実は観ていません。。
フィオという名の少女も出てきたりと、いかにも宮崎アニメの雰囲気が出ています。
当時、映画館の予告編を観た時、「豚の声が刑事コジャックだ・・」と驚いたもんです。。
こういうタイミングでTV放映してくれれば、じっくり観るんですけどねぇ・・。
ラストを飾る「第13話 豚の虎」の主役はポルシェ・ティーガーです。
ポルシェ博士はマッド・サイエンティストとして描かれ、お馴染みハンスと、
ドランシ予備大尉が登場。「A7V以来の生残りはオレだけだ」と語る戦車ジジィ。。
「P虎実験小隊」として第656重駆逐戦車連隊(象部隊)に編入されて
1943年のクルスク戦に向かい、大量のT-34と戦うシーンは迫力満点です。
この話も最後の「マウス」のオチが最高に笑えました。
最後にはミリオタの著者と、「ジャーマンタンクス」、「ティーガー・無敵戦車の伝説」、
「パンツァー・フォー」、「奮戦! 第6戦車師団」の訳者さんである富岡吉勝氏との対談。
とてもマニアックなトークに終始していますが、悲しいかな「イシシシシシ!」という
笑い声が印象に残ってしまいます。。
オマケとして答え合わせとばかりに1話ごとに虚構と現実の種明かしが・・。
「ボストニア王国」はボスニアとエストニアの合成語だそうで、
そうか・・エストニアは「泥まみれの虎」の舞台だしなぁ・・と思ったり、
「甲鉄の意気地」も実話。
いや~、欧州の第2次大戦の話なら見極められますが、
日本軍や第1次大戦の話だと、まんまと騙されるくらい虚虚実実の勝負でした。
こうして一通りの話の裏まで確認して、一番面白かったのは・・?? と考えると、
「第3話 多砲塔の出番」と、「第7話 高射砲塔」のどちらかですねぇ。
あくまでストーリーとしてどうか・・という問題なんですが、
やっぱりまんがですから、実話よりもファンタジーを求めてしまうんでしょうか。
多砲塔はスポンサー募集に対して実際に名乗りを上げた会社があり、
アニメ化が進行していたものの、「悪役大佐」の性格を巡った問題で製作は中止に・・、
ということもあったそうです。残念なエピソードですね。
宮崎 駿 著の「宮崎駿の雑想ノート」を読破しました。
このBlogの栄えある第1回目の「まんが」といえば一昨年の誕生日に紹介した
「泥まみれの虎―宮崎駿の妄想ノート」ですが、
特に「雑想ノートも面白いですよ」といったコメントもいただきました。
本書はもともと「月刊モデルグラフィックス」に1984年から連載されていた短編をまとめ、
1992年に発刊され、1997年に128ページの【増補改訂版】として出された
オールカラーの大型本でてす。
序文ではいきなり「この本に資料的価値はいっさいありません」と大きく書かれ、
「ようするに、自然保護の問題をどうのこうのとか、
少女の自立がどうのこうのとかね、そういうのは一切ヌキ!」。
ということで、「第1話 知られざる巨人の末弟」です。
ヨーロッパの小国であるボストニア王国の、若き国王ペトルⅢ世。
この飛行機気違いの青年によって、ユンカース四発旅客機J-38(G-38)を
軍用機に仕立て上げる・・というお話です。
ボストニア王国は架空の国で、ボスニアのイメージかな? とか、
ペトルⅢ世は、何度か紹介したことのあるユーゴのペータル2世がネタかな?
などと、完全なフィクションではなく、虚実の混じった凝った話ですが、
3ページで終了。。まんがって感じじゃないですね。
「第2話 甲鉄の意気地」は南北戦争での世界初の装甲艦による海戦で、
さすがに南北戦争は疎いので、どこまでホントの話なのかは不明ですが、
「第3話 多砲塔の出番」になると、ヴィトゲンシュタインの出番ですね。
夢の200㌧超重多砲塔戦車のその名は「悪役1号」。
悪役大佐に率いられた反乱軍の活躍が8コマ程度でやっとまんがらしくなりました。
最後には「このようなマンガ映画を観たい方は、2億円ほど持参してください。
1年ほど待って下されば、70分の総天然色マンガ映画を創って差し上げます(PR)」。
コレは確かに興味ありますね。実際、1/72モデルなんか売ってます。。
以降、徐々に1話ごとのページ数も増え、まんがらしくなっていきますが、
「第7話 高射砲塔」が良いですねぇ。
1943年に建設されたキール軍港に近いリュースバルク市の高射砲塔。
これは街も塔の形も架空のものですが、128㎜2連装高射砲が据えられ、
ストーリーも面白く、最後のオチも現実味があります。
なかでも「キルマークをかくのも途中でやめた」っていう絵が印象的ですね。
続く「第8話 Q.ship」では、第1次大戦のUボート大エース、ド・ラ・ペリエールが登場。
プール・ル・メリットも付けていますが、顔はブタ・・。
最後に「第2次大戦中にQシップ(囮船)は使われなかった」と書かれていますが、
1941年くらいまでのUボート戦記では、たまに出てきますね。
「第9話 特設空母 安松丸物語」は8ページのしっかりした2回連載のまんがで、
英補給路の分断にアフリカ沖へと向かうストーリーです。
英雷撃機ソードフィッシュを味方と間違えたり、逆に英船団は96式艦攻を
ソードフィッシュと間違えたりと、機体に描かれた「赤丸」のエピソードが楽しいですね。
「これ以降アジア方面の英軍機は赤丸を消すのである」とか、
日の丸を「ミートボール」と英兵が言うところなど、ホントかどうかは良くわかりませんが・・。
最後の「ドイツ・アフリカ軍団にとび・・」というオチも良し。
「第10話 ロンドン上空 1918年」に登場する、戦略爆撃機「ツェッペリン・シュターケン」は
あまりにリアルなので、さすがに気になって途中で調べてしまいました。
すると、この話は結構、史実に則っているんですねぇ。
なかなか勉強になるなぁ。。
整備兵長のハンスが大活躍しますが、彼は「泥まみれの虎」の「ハンスの帰還」なんですね。
「第11話 最貧前線」は太平洋戦争末期に、木造漁船が特設監視艇として
配備されるお話です。平均年齢40歳の年寄りに14歳の機関助手とくれば、
まさに「国民突撃隊」の日本海軍版といった趣ですね。
B-24 リベレーターを「コンソリ」と呼んだというのは初めて知りましたが、
主人公の「吉祥丸」がお隣さんの「三鷹丸」を助けに向かったり、
反対側は「荻窪丸」、「阿佐丸」、「高円寺丸」、「中野丸」と東京の人間はウケますね。
「第12話 飛行艇時代」は3回連載のボリュームで、これは知っています。
アニメになった「紅の豚」ですね。といっても実は観ていません。。
フィオという名の少女も出てきたりと、いかにも宮崎アニメの雰囲気が出ています。
当時、映画館の予告編を観た時、「豚の声が刑事コジャックだ・・」と驚いたもんです。。
こういうタイミングでTV放映してくれれば、じっくり観るんですけどねぇ・・。
ラストを飾る「第13話 豚の虎」の主役はポルシェ・ティーガーです。
ポルシェ博士はマッド・サイエンティストとして描かれ、お馴染みハンスと、
ドランシ予備大尉が登場。「A7V以来の生残りはオレだけだ」と語る戦車ジジィ。。
「P虎実験小隊」として第656重駆逐戦車連隊(象部隊)に編入されて
1943年のクルスク戦に向かい、大量のT-34と戦うシーンは迫力満点です。
この話も最後の「マウス」のオチが最高に笑えました。
最後にはミリオタの著者と、「ジャーマンタンクス」、「ティーガー・無敵戦車の伝説」、
「パンツァー・フォー」、「奮戦! 第6戦車師団」の訳者さんである富岡吉勝氏との対談。
とてもマニアックなトークに終始していますが、悲しいかな「イシシシシシ!」という
笑い声が印象に残ってしまいます。。
オマケとして答え合わせとばかりに1話ごとに虚構と現実の種明かしが・・。
「ボストニア王国」はボスニアとエストニアの合成語だそうで、
そうか・・エストニアは「泥まみれの虎」の舞台だしなぁ・・と思ったり、
「甲鉄の意気地」も実話。
いや~、欧州の第2次大戦の話なら見極められますが、
日本軍や第1次大戦の話だと、まんまと騙されるくらい虚虚実実の勝負でした。
こうして一通りの話の裏まで確認して、一番面白かったのは・・?? と考えると、
「第3話 多砲塔の出番」と、「第7話 高射砲塔」のどちらかですねぇ。
あくまでストーリーとしてどうか・・という問題なんですが、
やっぱりまんがですから、実話よりもファンタジーを求めてしまうんでしょうか。
多砲塔はスポンサー募集に対して実際に名乗りを上げた会社があり、
アニメ化が進行していたものの、「悪役大佐」の性格を巡った問題で製作は中止に・・、
ということもあったそうです。残念なエピソードですね。
>日の丸を「ミートボール」と英兵が言う
ドキュ映画「Tokko」で米兵が日本の戦闘機をミートボールって言ってたと思いますね、英兵もそうだったんですね。
紅の豚、時代設定からしてヴィト様きっと楽しめると思いますよ。ワタシは1度目見た時には高校生で、その時はさっぱり分かりませんでしたが。www
フランス語版ではジャン・レノが豚の吹きかえしてるそうです。
宮崎さんは結構スポンサー探しで苦労してるって言う話は聞きますね。。。。
by IZM (2013-03-04 02:57)
は~、米兵もミートボールって言ってましたか。実は日本人の戦史ファンにとっては、当たり前のコトなのかも知れませんね。。
>フランス語版ではジャン・レノが豚の吹きかえしてるそうです。
コレ、ジブリということを忘れて、字幕付きで観るのが良い気もしてきましたね。DVDではフランス語と英語(豚=マイケル・キートン)で字幕付きに切り替えられるみたいだし、なんか大人のアニメってイメージですね。急に凄く観たくなってきた!
by ヴィトゲンシュタイン (2013-03-04 07:41)
ヴィトゲンシュタイン様、こんばんは。
この本は宮崎駿の魅力満載ですねー。お話自体はずいぶん騙されたものですがここに出てくる兵器類は悪役1号以外はホントにあったものなんですよね。まあ高射砲塔はずいぶん形が違いますが。
当時、このマンガが読むためだけに「モデルグラフィックス」を買い、ページを切り取ってファイルに綴じてました。「多砲塔の出番」を最初に見たときは大爆笑しました。映画化したらさぞ面白いと思ったものですが、映画化断念にはそんな裏話があったんですか・・・残念ですねぇ。
登場人物が途中から動物なのは戦争の生々しさを避けるのが目的なのでしょうかね。「のらくろ」なんかも日本=犬、中国=豚、ロシア=熊などになってますもんね。
宮崎氏には難しいお話ばかりでなく、この本に載ってるような物語のマンガ映画を作ってほしいと思うこの頃です。
by レオノスケ (2013-03-04 22:23)
レオノスケさん。ど~も。
本書はレオノスケさんに教えていただいたんでしたね。連載当時からのファンだったんですか。いや~楽しめました。
「多砲塔の出番」はホント印象的でした。映画化できなかったのもねぇ。。30分くらいの短編を3つ4つ作ってほしいですね。
>戦争の生々しさを避けるのが目的なのでしょうかね
う~ん。なるほど。確かにそうかもしれません。
「のらくろ」なんて小学生の時に家にあったから、良く読みました。子供でも入りやすいですし、アレで上等兵とか軍曹とかの階級を知ったくらいです。
懐かしいなぁ・・のらくろ。。30年以上前の感覚がなんとなく蘇ってきました。
by ヴィトゲンシュタイン (2013-03-05 07:36)
こんばんは。
改めて読み返してみました。
この本の面白さの一つに戦車や艦船の透視図にあると気が付きました。ユーモアのある透視図を見ているだけでニヤニヤしてしまいます。この面白さは映画やアニメでは表現できない、氏独特の手法かもしれません。また、あたかも動いているような絵柄がますます楽しませてくれますね。
安松丸物語の「赤道が見えない!?テメエの目はフシ穴か?」「そういえばウッスラと赤い帯が・・・」とか爆笑モノですね。
ホント短編で良いのでアニメ化してほしいものです。
連投失礼しました。
by レオノスケ (2013-03-07 21:28)
ど~も。連投好きのヴィトゲンシュタインです。
そうか、透視図ですか。確かに「多砲塔の出番」なんかでも、戦車の中がわからないと面白さが伝わらないですし、アニメ化は大変ですね。
>」「そういえばウッスラと赤い帯が・・・」
これはホント爆笑でした。日本人らしいんでしょうかね。。
by ヴィトゲンシュタイン (2013-03-08 08:01)