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赤軍ゲリラ・マニュアル [ロシア]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

レスター・グラウ, マイケル・グレス編の「赤軍ゲリラ・マニュアル」を読破しました。

ちょっと面白そうな本を偶然発見しました。
「第2次大戦中、ドイツに侵攻されたソ連がゲリラ兵を使って対抗しようと作成した手引きの復刻版」
ということで、去年の5月に1995円で発刊された245ページの本書ですが、
戦闘方法、武器、進軍の仕方、応急処置の仕方までを図版も再現しているものです。
この手の本としては珍しく上下2段組なので、見た目よりボリュームがありますね。

赤軍ゲリラ・マニュアル.jpg

「序文」では本書が、いわゆる「大祖国戦争」におけるゲリラ兵を訓練するために用いられ、
前の2版を経て実戦で試された1943年の最終版であり、
そのナチスとの戦争中、110万人の男女が6000のパルチザン分遣隊として
任務に就いていたことが紹介されます。

Партизаны после разгрома фашистов в селах Тарасовке и Шемякине.jpg

さらにその歴史、特に1930年代初めにはパルチザン戦はソ連防衛計画の主要素であり、
赤軍防諜部トップのベルジンやNKVDは、プロのパルチザン部隊を組織します。
しかし防衛計画論争はトハチェフスキー元帥による「侵略された場合にはただちに
応戦して攻撃し、敵の領地に侵略する」といった全滅派の戦略が勝利し、
「敵を誘い入れて防衛し、パルチザン戦で弱体を図る」という消耗戦派は敗北。
防衛人民委員ヴォロシーロフが「ソ連領土は不可侵である」と宣言すると、
その結果は「敗北主義者」のレッテルを貼られたパルチザン幹部と擁護派は
追放、あるいは拘束されて殺害。。そしてマニュアルも破棄されるのでした。

Kliment Voroshilov.jpg

1942年5月になって「パルチザン参謀本部」が組織され、その活動も活発化。
パルチザンの増加に伴い、本書「パルチザンのためのハンドブック」が出版されて、
100万人もの敵に損害を与え、ドイツ兵力の10%を釘づけにした彼らですが、
ほとんどの領土が解放され、勝利の見えた1944年1月には参謀本部が解散。
これはウクライナやバルト諸国のパルチザン勢力を放っておくと、
モスクワに対する脅威となることを予期していたためです。
そしてドイツ敗北後には赤軍が今度はパルチザンを根こそぎにするわけです。

Women soviet (ukranian) partisans in liberated Minsk, 1944.jpg

本文はまず1942年11月6日のスターリンによる「10月革命25周年記念演説」からです。
前年6月からの戦争の経緯を振り返りつつ、
「ドイツ・ファシストの略奪者たちとその同盟国の凶暴集団による、このような襲撃に
耐えられる国は、わがソヴィエト国家とソ連赤軍だけである(割れるような拍手喝采)」。
と、こんな感じで10ページほど・・。
この演説の直後にスターリングラード包囲の「天王星作戦」が始まるわけですから、
それを考えると、なかなか意味深な演説内容にも感じました。

Joseph Stalin.jpg

以上のように独ソ戦(大祖国戦争)とパルチザンの歴史について学んだ35ページから
ようやく、第1章「パルチザンの基本戦術」が始まります。
「前線の突っ切り方」では、地元民と遭遇しても「引き留めて徹底的に尋問し、
ファシスト警察や関連機関などに属していないか見極めなければならない」。
同郷の農民でも密告者となる可能性がありますからね。

козак.jpg

広大な森に「戦場施設」を設置する場合も詳しく書かれています。
「ファシストは森に入りたがらない」とか、「半地下小屋に住む際は・・」など、
007ことダニエル・クレイグ主演の「ディファイアンス」という白ロシア・パルチザンの映画と
その原作を以前に紹介していますが、まさに同じイメージですね。
バルチザンの実態を知るにはちょうど良い映画だと思います。

Defiance 2008.jpg

第2章「ファシストの対パルチザン戦法」に続き、第3章は「爆発物と破壊工作」です。
「TNT」といった爆発物の種類から、「導火線」の種類、地雷の設置場所などが
2ページに1枚程度の割合で、詳細な図が出てきてわかりやすく解説します。

「覚えておこう。ファシストは地雷をありとあらゆる策略を用いて使用する。
何の変哲もないさまざまな囮を置き、それに地雷を繋いでいるのだ。用心しよう」。
このブービートラップの話は具体的に、ドイツ軍の残していったライフルは拾わないとか、
ドイツ軍が自軍の兵士や将校の死体にまで地雷を設置することを挙げています。
ノルマンディー上陸作戦1944(上)」でも、このテクニックが書かれていました。

battle_kursk_0135.jpg

ここまでの本書の「読み方」として、軍事マニア的な目線ではなく、
「新米パルチザン」になりきって読むのが、正しい読み方だと思いました。
ですから、「偵察」において、「自分が収集した情報を正確に持ち帰るのが大事である」
というような、ワリと当たり前のようなことが書かれていても、
初めて偵察任務に就いた若造が、その報告において、
さも自分の偵察の成果が大きいかのように話を膨らませてしまったりするのも
理解できるんですね。そしてそのような間違った情報によって、結局、大損害を喫する・・。

Soviet partisans 3.jpg

第4章「戦闘用武器」では、武器の使い方に手入れ方法を学びます。
モデル1891/30ライフルから短機関銃と、当然、赤軍の武器が紹介されますが、
迫撃砲や対戦車ライフルといった馴染みのないものまで詳しく書かれて勉強になりました。
特に対戦車ライフルは「14.5㎜の徹甲焼夷弾を用いて、戦車に対し、
150~200mの距離で撃ったとき最も成果が出る」。
また、その戦術もいくつか挙げ、例えば、
「塹壕に身を隠し、戦車が通過した直後にすばやくエンジン室のある後部を撃つ」。

Soviet partisans.jpg

第5章は「リヴォルヴァーとピストル」。
赤軍の拳銃にはまったく知識がありませんでしたが、
回転式拳銃はリヴォルヴァー・モデル1895、自動拳銃はピストル・モデル1930だそうで、
調べてみると前者は「ナガンM1895」、後者は「トカレフTT-1930」という名前なんですね。
共産主義はナガンとかトカレフとか呼ぶのはNGなんでしょうか??

revolver-sistemi-nagan-1895_TT-30.jpg

続く第6章「敵の武器を使う」では、
「敵の武器の使い方を覚えて、ファシストを彼ら自身の装備で倒すのだ」と気合を入れます。
モーゼル、カービン銃、MP40短機関銃。
MG34機関銃にドライゼMG13軽機関銃。
ゾロターン S-18という対戦車ライフル・・と、ドイツ軍の装備も図解で解説。
まだまだルガー・ピストルにM24型柄付手榴弾、卵型擲弾モデル1939など
赤軍の装備より断然種類が多いところが、独ソ両国の兵器生産の考え方の違いを
如実に表している気がしますね。

german soldier mp40.jpg

「偵察」の章では密かに歩くために柔らかい土や堅い地面、草の上などの
音の立てない歩き方から、「偵察中にくしゃみをしたくなったら、鼻柱を強くつまむ」と解説。。
各種部隊の移動する列の長さから、敵の戦力を見極めるとして、
歩兵隊の場合は、中隊だと200mに及び、大隊なら1㎞、連隊なら3㎞。
砲兵中隊は300~400m、機甲化砲兵連隊の場合は12㎞にもなるそうです。

Juni 1941. Überfall auf die Sowjetunion.jpg

急襲によって捕虜を捕える場合には、「暗い夜間に密かに敵に近づき・・」と
その方法が述べられますが、とっても大事な注意点がありました。
「『ウラー』とは叫ばずに敵に飛びかかる」。

「ウラー」って?? てことは省略しますが、今度読もうと思っている「世界軍歌全集」では
「ロシアのウラー」という曲(軍歌?)が掲載されているようで、とても気になっています。
いったい、どんな歌詞なんだろう・・と悶々としますね。。

どうしても「ウラー」と雄叫びをあげたければ、第11章の「白兵戦」が最適です。
銃剣の突き方に始まって、ライフルの床尾で攻撃、シャベルで切り付ける、
ナイフで突く、敵から武器を奪い取る・・と、これらも図で具体的に解説。

赤軍ゲリラ・マニュアル1.jpg

本書でも「ゲリラ」だったり、「パルチザン」だったりするこのような抵抗組織。
以前から気になっていたのでちょっと調べてみました。
すると「ゲリラ(guerrilla)」とは、不正規戦闘を行う民兵もしくはその組織のことであり、
語源はスペイン独立戦争時のゲリーリャ(guerrilla)「小さな戦争」だということで、
「パルチザン(Partisan)」は同じ党派に属するものを意味するイタリア語、
「パルティジャーノ(partigiano)」が語源だそうです。
まるでチーズみたいですが、ゲリラもパルチザンも現在では同義で使われているみたいですね。

ちなみに「レジスタンス(Résistance)」というのもありますが、
こちらは抵抗運動を指すフランス語。
一応、「独破戦線」では、ドイツから見て東部のゲリラを「パルチザン」、
西部のゲリラを「レジスタンス」で統一しているつもりです。

Soviet partisans 2.jpg

後半は、「応急手当」の章に、「行軍と野営」、「食料の保存方法」、「雪中生活」。
暑い日の行軍で熱射病を防ぐために「塩分の多いパンを食べる」とか、
焚火の仕方、毒キノコの見分け方、スキーやスノー・ゴーグルの作り方・・と、
ゲリラ戦術というより、冬のソ連を生き抜くサバイバル教本のような趣でした。
ただし、シイタケすら食べられないヴィトゲンシュタインですから、
「赤いベニテングタケ」などという毒々しいキノコは死んでも食べません。。

Amanita-Muscaria.jpg

本書の大きな特徴としては、この手の本にありがちな編集者による下世話な「解説」もなく、
逆にソレが「新米パルチザン」になりきって読めるところです。
せいぜい訳注で2箇所「電線の切断」と、「沼を渡る」でやっちゃダメよ的な注意書き程度で、
確かに、男子としては武器とキノコ以外のことなら試してみたくなるもんですね。。







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