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SS‐GB [戦争小説]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

レン・デイトン著の「SS‐GB」を再度、読破しました。

1940年のバトル・オブ・ブリテンのノンフィクション「戦闘機 -英独航空決戦-」を読んだ勢いで、
同じレン・デイトンの本書を20年ぶりに再読です。
本書はナチス・ドイツが英国に勝利していたら・・という、いわゆる「パラレルワールド小説」で、
同じようなものでは2年以上前にロバート・ハリスの「ファーザーランド」も紹介しています。
当時はスパイ小説家デイトンの本ということで読んでいたんですが、
今回はもちろん「独破戦線」的視点での再読で、訳者あとがきをまず読んでみると、
タイトルの「SS」は親衛隊であるのは当然ですが、「GB」はグレート・ブリテンではなく、
「グロース・ブリタニアン」と、ドイツ語読み。。
なので、この「英国本土駐留親衛隊」と訳される本書は、
「エスエス・ジービー」じゃなくて、「エスエス・ゲーベー」と発音するようです。。

SS-GB.jpg

1987年発刊で上下巻あわせて619ページの文庫を本棚から引っ張り出しましたが、
原著は1978年で、日本では1980年にハードカバー、389ページで発刊されています。
今でこそ良く見かけますが、上下巻を並べるとひとつの絵になるっていうのは
格好良いですね。当時、ちょっと感動した記憶があります。
洋書でも、この「SS‐GB」をイメージしたデザインの表紙がいろいろあってまた楽しい。。

SS-GB & hitler_tour_eiffel.jpg

1941年2月、英国とドイツで調印された「降伏文書」から始まります。
そしてその年の11月に発生した殺人事件の捜査を開始する主人公のダグラス・アーチャー。
彼はロンドン警視庁、スパイ小説風に書くと「スコットランド・ヤード」の敏腕警視です。
しかし、すでにドイツによって占領された英国ですから、警察庁長官はドイツ人。
気の良さそうな風貌のSS中将のケラーマンです。

例の殺人事件の捜査を進めるうち、ドイツ本国からSD(親衛隊保安部)大佐が派遣されることに・・。
SSの制服も着ずに、アーチャーらにも友好的なケラーマンSS中将に対して、
35歳のSD大佐フートは、パリッと着込んだSSの制服の袖には「RFSS」のカフタイトル。
これはお馴染み「ライヒスフューラー・SS」という
親衛隊全国指導者ヒムラー直属であることを物語っています。
いつも小説を読むときには登場人物の顔をイメージして読むんですが、
今回はフートという名前から、イングランドのストークでプレーするドイツ人CB、
ロベルト・フートをイメージして読み進めます。
日本でこんな使われ方されるのを知ってか知らずか、ドクロTシャツがお見事。。

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英国がどのようにしてドイツに屈服したのか・・?
「バトル・オブ・ブリテン」で敗北したのか、本土上陸の「あしか作戦」が実現したのかは
不明なまま、話は進んでいきますが、主人公との会話の中で、徐々に明らかになっていきます。
例えば「英国王のスピーチ」こと、ジョージ6世はロンドン塔に幽閉。

King-George-VI.JPG

当時、周りからの反対の声を無視して、英国空軍の軍服を着ていたチャーチル首相
ドイツ空軍の軍事法廷で裁かれる羽目となり、ヒトラーの命令によって銃殺。。
目隠しを断り、「Vサイン」を掲げて執行された・・という噂も・・。

v-sign RAAF.jpg

そしてレジスタンス組織による「国王奪還計画」を教えられるアーチャーですが、
ドイツ国防軍は、これには反対の姿勢を取らないことも知らされます。
すなわちこの1941年という時代、「SS」はまだ発展途上の組織であり、
前年のフランス占領でもそうだったように、国防軍とSSとの権力争いがあるわけですね。

貴族の多い国防軍と陸軍参謀本部からしてみれば、英国王を保護しているのが
自分たちではないことは、名誉に関わることであり、面白くありません。
もし、レジスタンスによって成功すれば、責任者のケラーマンはお払い箱、
さらに成り上がり者のSSの信用が失墜することも望んでいるわけです。

う~ん。なるほどねぇ。こりゃ、ナチス・ドイツに詳しくなかった20年前の小僧では
とても理解できない展開ですね。

ss gb.JPG

下巻に入ると、レジスタンス側の大物である元英国軍防諜部の大佐であるメーヒューが、
ドイツ軍防諜部(アプヴェーア)のカナリスの幕僚で、徹底した反ナチの少将フォン・ルッフと対談。
アーチャーは自分の捜査する殺人事件が、原爆研究に絡んだものであり、
イングランド南西部デヴォンの研究施設をドイツが接収し、核を生産しようとしていることも知ります。
そして殺人事件捜査のボスであるフートも、核研究を国防軍からSSのモノにするという
任務を背負っているのです。

SSGB_deighton.JPG

気の良い"おやじ"ケラーマン長官、厳格な直属のボス、フートも、お互いを嫌い合う関係。
刑事として最高の能力を持つアーチャーを自分の味方に引き入れようと、脅したり、なだめたり・・。
さらにレジスタンスとも協力するアーチャーは、3方向に良い顔を見せていなければなりません。

爆撃で妻を亡くしたアーチャーには息子がいますが、
「パパはゲシュタポの手先なの?」と聞かれる始末。。
しかし子供たちの学校ではナチス・コレクションが流行っていて、
どうにか友達の誰も持っていない「SD」のバッチを手に入れられないか・・とせがむのでした。。。

ssgb.jpg

こういうマニアックな話では、途中で登場する酔っ払ったドイツ軍兵士も面白かったですね。
彼が胸に付けている勲章は「英本土戦闘従軍章」です。
ドーヴァー海峡を渡った敵前上陸の第一波で負傷し、しかもそれが「金章」であることを自慢します。
もちろん、こんな勲章は存在しませんが、「あしか作戦」が成功していたら間違いない話でしょう。

ロンドンにはソ連関係者もいたりします。
特に記述はありませんが、英国が降伏したので「バルバロッサ」は発動されておらず、
独ソ不可侵条約が守られたままの友好国なんですね。
そして亡命先のロンドンで葬られているカール・マルクスの遺体を掘り起こし、
レーニン廟へと運ぶため、リッベントロップ外相モロトフ首相立会いの下、
ゲッベルスの手による大々的な催しがハイゲート墓地で始まりますが、その時、爆弾が爆発。
PK(宣伝中隊)映画撮影班と、「ホルスト・ヴェッセルの歌」を新作の歌詞で合唱する
任務を与えられていた赤軍合唱隊の兵士たちがばらばらに・・。

スターリンが首相になったのは「バルバロッサ」直前の独ソ緊張状態の最中ですから、
このモロトフ首相兼外相というのも正しいと思います。
また、ヒトラーやスターリンが出席しないのもリアルな感じがしますし、
そもそも本書に2人の独裁者は登場しません。

Molotov Ribbentrop.jpg

このテロ事件によってロンドン市民は片っ端から検挙されます。
ロンドン西部地区の拘禁センターとなったのは「ウェンブリー・スタジアム」。
東部地区なら「ロイヤル・アルバート・ホール」が逮捕された人々の連行場所です。
ヴィトゲンシュタインがロンドンに行ったとき、「ウェンブリー・スタジアム」の取り壊しが決まっていて、
一度その姿を見ておきたかったんですが、時間が無くて・・。いまだに後悔しています。
「ロイヤル・アルバート・ホール」といえば、大好きな映画「ブラス!」ですね。
コレ書き終わったら、クイーンの「ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム」のどっちか観ますか。。

queen live at wembley stadium_Brassed Off.jpg

敵か味方かわからないフートは、珍しく酔っ払って「長いナイフの夜」において、
レームに次ぐ大物SA隊長、カール・エルンストを逮捕した過去も語り、
スパイのような米国人女性ジャーナリスト、バーバラと恋に落ちるアーチャーも
逮捕された友人の刑事部長ハリーを救出に向かう最中、
「魚とじゃがいもを揚げたのだって?」と異常なまでに惹かれ、揉め事まで起こします。
この食料が配給制となっているロンドンのジャンクフードにまつわる話が8ページも続くと、
「あ~、フィッシュ・アンド・チップスか・・」と納得。。まぁ、ちょっと古い本ですからねぇ。
ちなみにヴィトゲンシュタインはイングランドとスコットランドに滞在した10数日間で
フィッシュ・アンド・チップスを食べなかった日はありません。

fish-n-chips.jpg

英国王を救出した暁には米国に連れ出そう・・という計画が立てられるものの、
ルーズヴェルト大統領にとっては「お荷物」にしかならない。
国王にホワイトハウスの一室を与えるのか? 宮殿を建ててやらねばならないのか?
といった情報も米国からもたらされます。
もはや偉大な英国王の価値は「原爆データ」とセットにしかならないのです。

SSGB_postcard.JPG

遂に「ロンドン塔」から国王を連れ出すことに成功するアーチャー。
しかし米海兵隊が急襲したデヴォンの研究施設で、
独米軍による激しい銃撃戦に巻き込まれるのでした。

と、まぁ、小説なのでこんなところで終わりにしますが、
主人公のアーチャーこそ無事に生き残りますが、本書のヒロインであるバーバラは、
ゲシュタポによって殴り殺され、国王ジョージ6世も、銃撃戦の犠牲となります。
こういう惨さはやっぱり英国の作家だなぁ・・と思いますね。
今度読む予定の「爆撃機」も、おめでたい展開ではない気がしてきました。

SSGB_Len Deighton.JPG

最後にはアーチャーが従えた3人、ケラーマン、フート、そしてメーヒューの運命。
誰が最高の策士だったのか・・?
アーチャーは最後に言います。「さようなら、連隊指揮官殿」。













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コメント 5

IZM

ヴィト様はこういう架空小説は割と楽しまれる方ですか?知識がある方がこういうのは楽しめるのかな。
本の表紙が色んなデザインでそれぞれ主張があって面白いですね。

>こういう惨さはやっぱり英国の作家だなぁ・・
あはは。映画「ブラス」が単純なハッピーエンドじゃないのを見ても、似たような「英国らしい」という感想を持ちましたね。

チャーチルネタは。。。(以下略w
by IZM (2012-10-30 07:05) 

ヴィトゲンシュタイン

もともと子供の頃から小説専門だったんですが、この手のはそれほど読んでないですねぇ。本書と「ファーザーランド」くらいです。
>知識がある方がこういうのは楽しめるのかな。
コレは間違いなくそうですね。著者も突っ込まれないように時代検証しているでしょうし、読み手も、その著者のセンスを楽しみつつ、ニヤリ・・とするわけです。

「ブラス!」はDVDを友達に貸したまんまでした。。
米国の作家がラストでヒロイン殺したり、大統領を殺したりはまず、しないですね。せいぜい、CIAやFBIの同僚が殺されて、復讐を誓う程度です。。メインの登場人物は全員生き残って、ハッピーエンドでめでたし、めでたし・・。

チャーチルネタ・・。またカブリましたねぇ。。



by ヴィトゲンシュタイン (2012-10-30 12:08) 

ぬこ小隊指揮官

初めまして
いつもブログを楽しく読ませてもらってます
この小説ですが、なんと来年全5話のミニシリーズでドラマ化されるそうです!
http://m.imdb.com/title/tt4939950/

by ぬこ小隊指揮官 (2015-11-03 20:44) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、ぬこ小隊指揮官さん。
そのうちにヒストリー・チャンネルでも放送してくれれば良いですね。
by ヴィトゲンシュタイン (2015-11-05 06:26) 

nanasi

しかしまあフートって親言語学者の知識人の家庭に
育ってそこから反発して政権取る前のNsdpに入ったと
思しき人ですね。
でもヴェアマハトには入っていない。
まあなんか史実の日本の50-70年代に
連合赤軍とかの過激派に入った人々と被る気がします。
あの人たちも米軍にも自衛隊にも入りませんでした
アメリカのサーヴィスアカデミーを受験をしたことも
ないでしょう。

それに比べたら労働者階級でww1に従軍し
ハイパーインフレもその後の重度のデフレで
経済的に破局的な混乱状態になって
その流れでNsdpに入ってかつ昇進した
と思しきケラーマン
つまり人生で辛酸をなめたオッサン
にとっては
フートって邪魔なガキだったでしょうね。

てかフートってSS在籍のまま武装SSからは
離れて行政官庁とか裁判所に行った方が
向いてたんじゃないですかね。


by nanasi (2018-01-17 22:04) 

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