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第三帝国の興亡〈5〉 ナチス・ドイツの滅亡 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ウィリアム・L.シャイラー著の「第三帝国の興亡〈5〉」を読破しました。

ようやく最終巻に辿り着きました。
前巻はスターリングラードでドイツ第6軍がソ連軍の前に壊滅し、
北アフリカも英米連合軍によって駆逐されるところで終わりましたが、
この最終巻はまず、戦争の推移ではなく、強制収容所などのホロコーストに
かなりのページを割いて、ナチスの残虐性を検証します。

第三帝国の興亡〈5〉.jpg

1940年11月には占領したフランスに対する「でぶ助」ゲーリングによる秘密指令、
パリのルーヴル美術館から集めてくる美術品の分配方法は、
1.総統自らが決定を留保する美術品
2.ドイツ国家元帥のコレクションを完成するに役立つ美術品
3.ドイツ美術館に贈与するに適当な美術品

そして実行役に任命されたローゼンベルクが価値ありと認めた文化財はドイツに輸送されますが、
1944年までにフランスから運ばれたレンブラント、ルーベンス、フェルメール、ゴヤ・・
といった絵画だけでも1万点にも及び、ローゼンベルクは
「これら略奪美術品は10億マルクの値打ちがある」と評価します。

Hitler Göring_Hans Makart.jpg

しかし、美術品の輸送だけならまだ救われます。
フランスを含む西側からも労働力として人間がドイツに輸送され、
特にポーランドでは総督のフランクが「搾り取れるものは尽く搾り取る」と宣言し、
腹を空かせたドイツ国内のドイツ人のために食料を搾り取り、
ユダヤ人以外のポーランド人も労働力としてドイツへ送られ、その彼らの農地にはドイツ人が入植。

ゲッベルス曰く「ノロマのなかでも、一番のノロマ」であり、著者に言わせると、
「豚の目をした小男で、小さな町の牛肉市場で肉切りでもしていそうな取るに足らない人物」
である労働力配置総監フリッツ・ザウケルが、外国人労働者を想像し得る最低の費用をもって、
可能な限り最大限の使役するような扱い方を命令します。

Fritz-Sauckel.jpg

そして具体的な指針・・、ポーランド国籍の農園労働者は苦情を申し立てる権利はなく、
教会、劇場、映画館などの出入りは厳禁・・。
彼らが逃げ出せないように、鉄道にバスなどの公共交通機関の使用も禁止。
もちろん、「婦女子との性交は厳禁する」ですが、その相手がドイツ人の婦女子だったら死刑です。
ただし、以前に読んだ本では、旦那が長く徴兵されている農園や家庭では、
残された女主人が若い外国人労働者を誘惑したり、娘さんと恋に・・などという話もありましたねぇ。
男の立場からしてみれば、前者の場合にはソレを断って怒らせようものなら大変ですし、
その行為を誰かに密告されたら死刑・・という命がけの状況です。

戦争捕虜に対するドイツ軍の処遇についても触れられています。
特にソ連の捕虜は575万人で、1945年に解放されたのが100万人、
残りの200万人は収容中に死亡や、100万人は不明・・といった数字も挙げていますが、
このような数字は現在は変わっているかもしれませんし、解放された100万人も
帰国したソ連では「裏切り者」として、「25年のラーゲリ行き」ですから大変です。。。

brutal-germans-russian-pows007.jpg

ニュルンベルク裁判でのアイザッツグルッペD隊長、オーレンドルフの質疑応答も掲載し、
ホロコーストの実情にも迫って行きます。
「銃殺隊による死者数の報告はいくらか拡張されているだろう」としていますが、
コレは同感ですね。女子供を含めて一般人を殺した人数が、軍でいう「戦果」の数であり、
それによって評価されるのがこの特別行動隊ですから・・。

「ワルシャワ・ゲットーすでになし」と題された、シュトロープが作成した皮装丁の豪華な報告書や
オスヴァルト・ポールルドルフ・ヘースに、マウトハウゼンダッハウなどの収容所を歴任した
根絶やし殺人のベテランで「ベルゼンの野獣」というはかない名声を獲得したヨーゼフ・クラーマーなども登場し、彼らが死刑になったことも紹介しながら強制収容所の実態に進みます。
研究用に80人の死体を調達したクラーマーは証言します。
「私は80人の収容者を殺すように命じられており、そういったことをやりながら、
何の感じも持ちませんでした。それにまた私は、そのように訓練されてきたのです」。

Joseph-KRAMER.jpg

ブッヘンヴァルト強制収容所所長の妻であるイルゼ・コッホが刺青をした囚人の皮膚を使った
ランプを作ったりという有名な話も出てきますが、やっぱり本書でも証拠はないようですし、
その他の件もソ連側から提出された証拠に基づくものもあり、信憑性はありません。
そもそもニュルンベルク裁判でソ連側は「カティンの森」で見つかったポーランド将校の死体は
ナチス・ドイツの仕業である・・と、しゃあしゃあと責任を擦り付けているくらいですから、
ソ連側の証拠なるものは全て疑ってかかったほうが良いのかもしれませんね。

Katyn massacre.JPG

まだまだ、ハイドリヒ暗殺の報復「リディツェ村」の惨劇や、武装SSダス・ライヒによる
オラドゥール村の大虐殺」も紹介されます。そして師団長のラマーディングは欠席裁判で
死刑を宣告されたものの、本書の執筆時点ではいまだ発見されておらず、
現場指揮官のディックマンはノルマンディで戦死したと
彼らのその後についても触れられているのが良いですね。

Oradour-sur-Glane_massacre.jpg

1943年から44年、西側連合軍の目標となったイタリアが脱落
そしてスコルツェニーによるムッソリーニ救出作戦と続きますが、
ゲッベルスは2正面戦争をなんとか回避するために、スターリンとチャーチル、
どちらと和平すべきかを総統と検討し始めます。

一方、ヒトラー排除を目論み続けてきた軍部による抵抗派にも、遂に期待の星、
シュタウフェンベルクが登場し、ここからトレスコウやオルブレヒトなど、
7月20日事件の主役たちによるいくつかの暗殺計画も・・。
実際、アイゼンハワー指揮のノルマンディ上陸作戦と、それに対するドイツ軍の戦いよりも
こちらの方がメインとなって本書は続いていきます。

141_Das_Fuehrerhauptquartier_nach_dem_Attentat_am_20__J.jpg

失敗したワルキューレ作戦。予備軍司令官のフロムベック元参謀総長に自決を強要し、
シュタウフェンベルクらは銃殺してしまうわけですが、ヘプナーは「いい友人」だったようで、
握手をし、軍刑務所に連れて行くに留めます。う~む。そうでしたっけ・・?

General Hoeppner vor dem Volksgerichtshof.jpg

カール・ゲルデラーの逮捕という場面になると、先日の「女ユダたち」で登場した
ヘレーネについてなかなか詳しく書かれていました。
ゲルデラーを発見、密告して100万マルクの懸賞金をせしめた彼女は、
結構、有名な人物になってしまったようで、1993年にドイツで、「Die Denunziantin」という
彼女が主人公の映画まで作られているようです。

Die Denunziantin 1993.jpg

このヒトラー暗殺未遂事件に伴う大粛清が始まると、お役御免となっていた人物も大慌てです。
前陸軍総司令官、ブラウヒッチュはヒトラーへの忠誠を誓う熱烈な声明書で
SSのヒムラーが予備軍司令官に任命されたことに賛意を表し、
前海軍総司令官のレーダーも隠居の地から飛び出して、海軍にもナチ式敬礼を強制するのでした。

Karl_Doenitz_officers_gathered_in_front_of_the_Hitler_salute.jpg

こういう風に書くと、引退の身とはいえ元帥たるものもっと堂々としていられんのか・・?
とも思いますが、この事件に関与していたのが、元陸軍参謀総長のベックに
ヴィッツレーベン元帥といった引退組ですから、
彼らが必死で身の潔白を証明しようとしたのもわかる気がします。
そして現役のルントシュテットグデーリアンは名誉軍事法廷で
関与した疑いのある将校を尽く陸軍から追放し、軍法会議にかけずに一般市民として
フライスラーのインチキ人民裁判所へ引き渡せるように貢献・・。

Model and Von Rundstedt.jpg

後半はまさに「ヒトラー最期の日」。
トレヴァー・ローパーの本も参考にして、ハンナ・ライチュの回想録や専属運転手ケンプカ
軍需相シュペーアのニュルンベルク裁判での供述などから再現しています。
西部ではクルーゲロンメルが自殺を選び、ルールで包囲されたモーデルも・・。
東部ではハインリーチが防戦し、シュタイナーヴェンクがベルリン救援を求められるなか、
エヴァボルマンフェーゲラインと総統ブンカーでのお馴染みの光景が繰り広げられます。

Hitlerjugend 1945.jpg

ヒトラーが自身の後継者としてデーニッツを大統領に指名した理由は
アドルフ・ヒトラー 五つの肖像」を読む際にも個人的に気になっていた部分ですが、
著者は「陸軍の将軍たちが裏切り、空軍のゲーリング、そしてSSのヒムラーまでも
裏切った今、この戦争で主役とならなかった海軍から選んだ」という見解です。
う~む。。コレはデーニッツうんぬんというより、早い話、消去法・・ですね。。

hitler-dead.jpg

全5巻を読み終えて、児島 襄の「ヒトラーの戦い」を髣髴とさせる内容で、
あの本やその他、ヒトラー&第三帝国本に書かれていたエピソードも多く、
かなりの書物の底本であるのは間違いないと改めて思いました。
違いとしてはそれらが「戦争とヒトラー」を中心になっていたのに対し、
本書はそれらを含めた、タイトルどおりの「第三帝国の興亡」だと言って良いでしょう。

特に連合軍については大雑把な作戦の推移と、ジューコフアイゼンハワーモントゴメリー
パットンといった超有名軍人の名が所々に出てくるのみです。
その分、第三帝国内についてはヒトラーを中心としてホロコースト、反ヒトラー派、
ドイツ陸軍の戦いを詳しく、バランスよくまとめていると思います。
著者シャイラーの「ベルリン日記―1934ー40」や、「第三帝国の終り―続ベルリン日記」
なんかも読んでみたくなりました。

A U.S. soldier stands in the middle of rubble in the Monument of the Battle of the Nations in Leipzig after they attacked the city on April 18, 1945..jpg

第1巻に挑む際に書きましたが、50年前に自称ナチ嫌いの米国人が書いた本ですから、
第三帝国の要人に対する嫌悪感満載で、特に戦争犯罪とホロコーストの部分については
証拠となるものが古かったり、「連合軍だってやってたろ・・」と言いたくなる所もありますが、
この時代(1960年)ではしょうがないところでしょう。
なんせヒトラーの遺骨はまだ(西側には)見つかっておらず、
アイヒマンが逮捕されたばかりという時代背景ですから。
しかし、そのようなことを差し置いても、客観的に、公平に、良く調査されたもので、
当時の資料を駆使し、知られざる第三帝国の真実を可能な限り暴き出そうとしていると感じました。
今回も無事、楽しく独破して、念願の「黒い物体」をやっつけた充実感に浸っています。









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