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第三帝国の興亡〈1〉 ヒトラーの台頭 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ウィリアム・L.シャイラー著の「第三帝国の興亡〈1〉」を読破しました。

この独破戦線でもNHKのドキュメンタリー並みに恒例となった?「全○回シリーズ」。
パウル・カレルの「バルバロッサ作戦<全3回>」、「焦土作戦<全3回>」から始まって、
ヒトラーの戦争<全3回>」、「ヒトラーの戦い<全10回>」、
チャーチルの「第二次世界大戦<全4回>」、
最後は去年の11月に「アドルフ・ヒトラー<全4回>」をやりました。
今回はシリーズものとしては「大本命」であり、
この世界の方なら知らない者はいないと言ってもいい、とっておきの「全5回シリーズ」です。

第三帝国の興亡〈1〉.jpg

とにかく少年の頃から神保町の古書店に行くと、
ハーケンクロイツのマークの入った黒い函入りの5冊セットが紐で縛られて積まれている・・
という光景をしょっちゅう目にしたものです。
そもそも古書店っていうのはちょっと汚くて、暗くて、店のじいさんも怖そうで、
入るのにも勇気がいるような場所でした。
そんな子供ながらに、このいかがわしい謎の黒い物体が特に気になってはいましたが、
数年前に第三帝国モノを読み出してからこの本の内容を知り、いつかは買おうと思いつつも
フジ出版の「髑髏の結社 SSの歴史」と双璧をなす毒々しさがありますから、
恐ろしくて手に触れたことすらありませんでした。

第三帝国の興亡 2008年.jpg

そして2008年、本書が再版されると、いよいよ本格的に購入を検討し始め、
その綺麗な再版の5冊セットを10000円で購入する寸前、なぜか急に気が変わり、
結局、1961年の旧版セットを購入してしまいました。。セットで2500円也。
やっぱりこの黒い函が無いと「第三帝国の興亡」らしくありません。
今から思えば正解だったかな?
子供の頃から気になっていた「黒い物体」をやっつける・・という宿命にも似た感じすらします。

第三帝国の興亡.jpg

さぁ、気合を入れていざ! の前に、このような特別な本を読むに当たっては、
著者の経歴と本書の一般的な評価を知った上で、挑まなければなりません。
著者のシャイラーは1904年生まれの米国人ジャーナリストで、1934年からベルリンを中心に
CBSヨーロッパ支局長として活躍し、戦争が激しくなった1941年に米国に帰国。
本書の前書きにも書かれていますが、戦後、押収された膨大な量の資料や
陸軍参謀総長ハルダーや、OKW作戦部長ヨードルの日記などを元に書き上げ、
原著は1960年の発表されて、全米図書賞を受賞したということです。

この独破戦線でも、何度か「シャイラーによると・・」と書かれている本を紹介していますし、
本文に書かれていなくても、本書が参考文献となっている第三帝国本は数多いと思います。
しかし、いかんせん50年以上も前の本ですし、シャイラー自身が「ナチ嫌い」と述べていることから、
ナチス・ドイツ、またはヒトラーなどを公平公正に描いているとは、ちょっと思えませんね。
逆に言えば、1960年当時、西側でのナチス・ドイツの評価が如何なるものだったのか・・?
を知ることになる気がしています。

shirer_william_cbs.jpg

第1章はヒトラーの生い立ちから始まります。
両親や少年時代、唯一の親友クビチェクくんにウィーンの浮浪者のような最悪の時期・・と、
正直、こういう出だしだとは予想していませんでした。1920年あたりからかと思ってましたので・・。
「ヒトラーは煙草も吸わず、酒も飲まず、女との関わり合いも持たなかった。
調べ得る限りでは、それはなんら変態性によるものではなく、単に生まれながらにして、
はにかみ屋だったのである」。
そして第1次世界大戦、続いて戦後へ・・。
ここまでトーランドの「アドルフ・ヒトラー」と似た感じですが、こちらが元ネタなんですね。

Adolf Hitler, early 1920s.jpg

ナチ党の中心人物になったヒトラーの周りには、レームゲーリングといったSA指導者以外にも
「かんばしからぬ連中」が群がってきます。
しかしヒトラーは自分の役に立つ限りは、同性愛者だろうが、麻薬中毒者だろうが、
ポン引きだろうが関係ありません。
それらの変人の筆頭とばかりに紹介されるのは、やっぱりユリウス・シュトライヒャーでした。
「この下品なサディストは小学校教師として出発し、当人が自慢していたように有名な人妻泥棒で、
自分の情婦になった女の亭主まで恐喝し、また、有名な猥本収集家だった」。
「猥本」という単語は初めて見ましたが、再版では訳も新たに「エロ本」になってるでしょうか・・?
ポックリ行っちゃって「アイツは猥DVD収集家でさぁ・・」なんて言われるのは勘弁してほしいので、
今のうちに処分しとこうという気になりました。。

1923年のミュンヘン一揆では警官との銃撃戦のなか、舗道に倒れ込むヒトラー。
そして並んで横たわるシュトライヒャーが見捨てない限りは、私はこの男を見捨てまい・・と
心に誓ったということです。

Hitler-Goering-Streicher.jpg

本書ではこの頃のヒトラーを「わが闘争」から多く引用しています。
ナチ党の忠実な党員が読みずらい・・とこぼし、終わりまでとうてい読みきれなかったと
著者が何度も聞かされたという「わが闘争」は、
ヴィトゲンシュタインもあまり読む気がなかったんですが、
やっぱりこんなBlogをやっている以上、読むべきかしら・・?と思ったりして・・。
だいたい日本では「わが闘争」なのか、「我が闘争」なのかもよくわからないので
ちょっと調べてみました。

すると、現在、角川文庫から出ているのは(1973年から売り続けている)「わが闘争」。
しかし戦時中には「我が闘争」というのがあって、また夏目漱石が書いたような「吾が闘争」。
さらに昭和7年の初の翻訳版は「余の闘争」と、歴史は遡ります。
ついでに「まいんかむぷ(Mein Kampf)」という漫画のような版までありました。。
「吾が闘争」くらいなら買ってみても良いですね。

昭和7年_余の鬪爭,昭和14年_まいんかむぷ,昭和15年_我が鬪爭,昭和17年_吾が闘争.jpg

いよいよ混迷するワイマール共和国の政権奪取に向けて、ナチ党は拡大。
選挙戦の話になってくればゲッベルスも登場してきます。
このあたりは「ゲッベルスの日記」を情報源として活用していますが、
「1925年ごろの日記は、恋する女たちについてのノロケでいっぱいである。
例えば、かわいいエルゼ・・」と、ヴィトゲンシュタインのレビューと同じ感想を持ってます。。

それから姪のゲリも・・。著者はヒトラーがゲリを愛していて、お互いの嫉妬と仲違いが
彼女を自殺に追い込み、「この打撃からして肉食を絶つ決意が生じたものと私は考える」。
この有名な説は本書によるもののようですね。

Adolf Hitler mit Abgeordnete der NSDAP - 1932.jpg

当時のナチ党の重要人物としてシュトラッサー兄弟内相フリックヒムラー
シーラッハライらが紹介されますが、トリを務めるローゼンベルク
「頭の悪いバルト生まれの似非哲学者で、これ以上ないようなでたらめな内容の本や
パンフレットをやたらと書き散らかし、その挙句が「二十世紀の神話」と題した700ページの著作で、
彼の北欧民族の優越性の生半可な知識をこね合せた馬鹿げた代物で、
笑止千万にも・・・うんぬん」とケチョンケチョンにけなされていますが、
コレも「わが闘争」を読んだら、1938年(昭和13年)に出たヤツを読むことになりそうです。
やっぱり、読みもしないで「イデオロギーのげっぷ」と解釈するのは如何なものか・・と。
ただし、「独破戦線」最初で最後の「途中で挫折しました・・」というレビューになる可能性も大ですな。

Der Mythus des 20. Jahrhunderts.jpg

中盤からは1930年、ブリューニング内閣時代から選挙に次ぐ選挙によって、
1933年1月、ヒトラーが首相まで上り詰める政治的駆け引きは、以前に読んだ
国防軍とヒトラー」と同じか、それ以上詳しく書かれています。
必ずしもヒトラーを中心とした展開ではなく、ヒンデンブルク大統領にブリューニング首相、
フォン・パーペン、そして裏で暗躍するフォン・シュライヒャー将軍が主役です。

Schleicher_ Papen.jpg

ヒンデンブルク元帥の再選を賭けた大統領選挙にヒトラーも立候補しますが、
国会でヒンデンブルクを侮辱する発言をしたゲッベルスは議会から除名・・。
それでも1日に3000の集会を開き、蓄音機のレコードを拡声器で
トラックの上から街頭に流すという、ドイツの選挙で初めての宣伝戦を展開します。

Hindenberg_hitler.jpg

そして本書ではヒトラーよりも策士で悪人として描かれるシュライヒャー将軍が、
上官である国防相のグレーナー将軍を失脚に追い込むために、たちの悪い人身攻撃を始め、
なかでも「最近の結婚後、5か月で子供が生まれ、陸軍の名誉を汚したと公言・・」という話は
ほとんど、後の国防相ブロムベルクに対するハイドリヒの作戦と同じですねぇ。
ひょっとしたらヒムラーとハイドリヒは、この件を参考にしたのかな??
とも思いました。

しかも弟子の裏切りで落胆していたグレーナーは、国会で自己弁護に努めるも、
ナチの議席から悪口雑言を浴びせられ、思う存分の辱めを受けて力尽き、議会から退出・・。
う~む。。「出来ちゃった婚」などというものは、名誉にかかわるということを
ひとりの男として、改めて理解しました。

Wilhelm Groener.jpg

また、軍の人事をも動かせるシュライヒャーが首相となって、ナチ党No.2のシュトラッサーを
引き抜きにかかり、ナチ党分裂の危機・・という展開は、今の日本の政治を見てても
有り得ない話ではなく、この苦境を党首ヒトラーは良く凌いだという印象を持ちました。
知っていた話ですが、本書は政治的駆け引きの部分がとても良く書かれているんですよね。

ヒトラーが政権獲後、すぐに炎上したその国会議事堂についての真相は、
永久に知られることがないだろう・・としていますが、著者の見解では、
「ベルリンのSA隊長カール・エルンストが一団を率いて忍び込み、
ガソリンや自然発火性の化学薬品をまき散らして退散したところに、
薄ばかで放火狂のフォン・デア・ルッベも同時に入り込み、あちらこちらに火をつけた。
それはナチにとって神からの贈り物だった」と信じられないような偶然の一致だとしています。

Karl Ernst & Ernst Röhm.JPG

動き出したヒトラー独裁への道も、いままで読んだことがないほど各分野に渡って詳細です。
傍若無人に暴れまわる今や主人となった陸軍の30倍もの人員を誇る巨大なSA
陸軍に取って代わろうとする幕僚長レームの野望と、それを危惧する陸軍の構図。
大統領からの信任を得る副首相パーペンのヒンデンブルクへの進言が、
事態が収拾されないならば政権を陸軍に引き渡すことをヒトラーに告げます。

SA - In front - 1933.jpg

こうして遂にレームを含むSAの粛清へと進み、不死身と思われていたヒンデンブルクも
87歳で死んでしまうと、その前日に制定されていた法律により、首相と大統領の地位が合体。
さらに軍の将兵に対してヒトラー個人への忠誠を宣誓させて、
国家元首で軍の最高指揮官、総統およびドイツ国首相と呼ばれるヒトラーが誕生するのでした。

fuhrer.jpg

上下ニ段組で400ページありますから、文庫にしたら2冊分のボリュームですね。
1934年までがそれくらい書かれているということで、このあたりの濃さがおわかりになると思います。
トーランドの「アドルフ・ヒトラー」や「ヒトラーの戦い」のネタ本なのは良くわかりましたが、
それよりも濃く、ヒトラー自身よりもその周りで起こっていることも丁寧に解説しています。
そのため、どのようにヒトラーが政権に上り詰めたのかが、客観的にわかる感じですね。









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コメント 4

木山

はじめまして、ヴィトゲンシュタインさん。
いつも楽しく拝見させていただいております。

新装版ではユリウス・シュトライヒャーは「小学校教師から人生を始めたこの腐りはてたサディスト」と散々な紹介で始まり、猥雑本のくだりは「ポルノ愛好家」になっています。

by 木山 (2012-08-16 13:15) 

ヴィトゲンシュタイン

木山さん。はじめまして!

>「ポルノ愛好家」になっています。
お~と、早速の情報、ありがとうございます。やっぱり変わってましたか・・。しかし、「エロ本」よりは妥当な訳ですね。。
まだ4巻続きますので、新装版との違いがあれば、ぜひコメントお願いします。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-08-16 18:18) 

IZM

独破戦線の快進撃が止まりませんね。
>子供の頃から気になっていた「黒い物体」をやっつける・・という宿命
ヴィト様幼少の頃から卍が気になっていたんですね。正に宿命ですね。
>ポックリ行っちゃって「アイツはXX収集家でさぁ・・」
これ考えるのは自分だけじゃないんですねwww 早く捨てておかなくちゃw

もうすぐ計画実行予定です~。
by IZM (2012-08-17 01:09) 

ヴィトゲンシュタイン

IZMさん、ど~も~。
ハーケンクロイツは以前に書いたかも知れませんが、「仮面の忍者 赤影」の敵、「卍(まんじ)党」の存在が大きな要因だったと思っています。。
それより、IZMさんがナニを捨てなくちゃならないのかが、ミョ~に気になりました・・。
>もうすぐ計画実行予定です~。
いや~、羨ましい。報告書、楽しみにしています。

by ヴィトゲンシュタイン (2012-08-17 05:29) 

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