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最後の特派員 [第三帝国と日本人]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

衣奈 多喜男 著の「最後の特派員」を読破しました。

去年の6月に新関 欽哉 著の「第二次大戦下ベルリン最後の日 -ある外交官の記録-
という日本人の見た面白い本を紹介しましたが、本書も元々アントニー・ビーヴァーの
ベルリン終戦日記 -ある女性の記録-」のときにコメントで教えていただいた一冊です。
戦後間もない1947年に朝日新聞社から「ヨーロッパ青鉛筆」として、
1973年に「敗北のヨーロッパ特電―第二次世界大戦ドイツ・イタリア陣営の内幕」として
朝日ソノラマから刊行されていたものに若干修正を加え、
1988年に朝日ソノラマ文庫の「新戦史シリーズ」として復刊されたという長い歴史を持ったものです。
そして当時、朝日新聞の「特派員」だった著者は、後に「朝日ソノラマ」の社長も務めたそうです。

最後の特派員.jpg

日独伊三国同盟が締結された4ヵ月後の1941年2月、
悠長な船旅をすることの出来た「最後の特派員」である著者は、「浅間丸」で横浜港から出港。
2週間でサンフランシスコに到着し、ニューヨークの朝日新聞支局まで・・。
そしてUボートを警戒しながら進む米商船でポルトガルに到着したのは4月1日です。

asamamaru.jpg

汽車で「スペインの大阪」バルセロナ。
ドイツ軍がユーゴのベオグラードを空襲したというニュースを聞きながらジュネーブへ・・。
最終的に辿り着いたローマの朝日新聞支局長を引き継いだあと、
日本軍の真珠湾攻撃が起こるのでした。

ジブラルタルやドイツ軍占領下のフランスも取材しながら迎えた1942年の12月、
ムッソリーニはベネチア宮殿に日本の新聞記者を引見します。
この時のことを「闘病のあとも残り、涙ぐましいものがあたりを支配していた」と
翌年に起こる政変を予感しています。

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本書は各章の初めに一般的な戦局や各国の情勢などを解説し、
その後に著者自身の体験談・・という流れで進みます。
1943年7月の最後のファッショ大評議会でムッソリーニに反旗が翻されると
農水省パレスキが極度の緊張から、2回も失神・・。
情勢の解説もこんな感じですから、それほど詳しくない方でも安心して読み進められますね。

ファシスト党員証を破り捨て、一斉に街の歓喜のなかに入って行く青少年団員。。
支局のスタッフも「お前はファシストか」と聞くなり殴りつけてくる連中から逃げ延びます。
混迷の中にバドリオ元帥登場となると、本書では
「国家経世の一大事には、どの国でも"国宝的老人"が担ぎ出されるのが順序である」。
これには思わず苦笑・・。1940年のフランスもペタン元帥でしたしねぇ。。

badoglio.jpg

「バドリオ万歳」の声も、新内閣の戦争継続声明の前に市民も落ち着きますが、
今度は「ヒトラーが死んで、後任はゲーリングに!」という噂が広まって、
群衆は「これで戦争は済んだ!」と再び、大騒ぎに・・・。
噂の元は某中立国領事館で、バルコニーから大声でそのような発表をしていたのでした。

25-luglio-1943-Roma.jpg

イタリア本土に上陸した英米との戦争休戦を宣言し、ドイツ軍の報復を怖れて
ローマから逃亡するバドリオ首相と国王エマヌエーレ3世
日本の大使館に陸軍事務所、そして新聞記者たちも慌ててローマからの脱出を図ります。
3日後にはベネチアに到着した10数台の日の丸自動車隊。
ベネチアーノが押し寄せて「ローマはどうか」、「イタリアはどうなるのか」と質問攻めに・・。
そこへドイツ軍の装甲車が登場し、青年将校がイタリアの憲兵将校と握手して
武装解除が始まります。

ローマではイタリア軍の歩兵砲が腰を据えていますが、ドイツ軍戦車の前にひとたまりもなく追走し、
バチカン駐在のドイツ大使、ヴァイツゼッカーが非武装都市宣言を認めます。

Panther ausf A en Roma 1943.jpg

その一方でモントゴメリーの進撃に対し、ケッセルリンクを最高司令官に任命して、
防衛作戦を立て始めるドイツ軍。
ドイツ軍砲兵陣地に「12サンチ」の重砲4門が3脚を広げているのを見学する著者。
カメラのシャッターを切る指は砲口の閃光と同時に下りますが、
これは撮影者の意思ではなく、爆発の反射運動によるそうで、
いわば砲手がシャッターを一緒に切ってくれるみたいなものなんだそうです。

Acht-Acht_Russia_firing.jpg

さらに「今をときめくドイツの戦車タイガー」にも出会います。
大木をいっぱい付けて、小さな森のように偽装したその姿・・。
隊長に話をして内部も見学。ぎっしり詰まった砲弾が自動装填ではなく、
いちいち手で込めることに驚きつつも、「どうせなら、ちょっと前進できないか」と注文も・・。

pzkpfw-vi-ausf-e-tiger-heavy-tank.jpg

モンテ・ソラッテという山に築かれた一大岩窟要塞にはケッセルリンクが鎮座しています。
一度も日本人記者に会ったことのない元帥を取材するため、強行突破。
対応に出てきたゲンツォ少佐からも了解を得られます。
アフリカ遠征用の夏服に、首には剣章が揺れる、人なつっこい顔のケッセルリンクと対面。
「お望みなら、あなたの新聞に論文を書いてもいい」と気さくに語る元帥に感激・・。

kesselring_1944.jpg

ゲンツォ少佐とも仲良くなりますが、著者は「源造」さんと呼ぶところが笑えますね。。
そして同行するPK(宣伝班)のショーベルトくんとの自動車の旅。
しかし最も苦労するのはガソリンです。
「ガソリン乞食」と成り下がり、方々を徘徊するもなかなか手に入らず・・。
途中、出合った親切なドイツ軍将校から10㍑を分けてもらい、
「ダンケ・シェーン」、「ビッテ・シェーン」と気持ちの良いドイツ語が爽やかに・・。

Propaganda Kompanie0.jpg

再びローマへ戻った1944年の1月。
ホテルに数十人のドイツ兵がやって来て「エングランダーとアメリカーナーが向かってくる。
お前はヤパーナーなのに、こんなところに待っていて良いのか?」
日本人である自分がドイツ軍に守ってもらっていることに改めて気づき、
ローマの防衛司令官メルツァー将軍と話をして戦況を確認するのでした。

German paratroopers in Rome, Italy.jpg

6月4日、米軍が遂にローマに入城し、その直後にはノルマンディにも上陸
パリにいた著者はPKの少尉を案内人として、7月1日ノルマンディの前線に向かいます。
サン・ローは最後の砲火を浴び、人口6万の街、カーンは廃墟となっています。
死臭の漂うカーンに足を踏み入れるのも束の間、大爆撃に遭遇・・。
3発の至近弾を浴びてヘルメットから足まで真っ白になり、次の爆撃までに脱出することを決意。
PKの少尉は動くのは危険だと異を唱えるものの、運転兵は「ヤボール!」
まさにカーン攻防戦の最後の劫火に遭遇したこの章は一番印象的でした。

Smoldering ruins of Caen.jpg

今度は解放の迫るパリからドイツ軍とともに脱出することになった著者。
ホテル・マジェスティックの前に並んだ40台のコンボイに彼の車も混ざっています。
日が暮れてから出発。午前3時になると「全員そのままの姿勢で2時間睡眠」の命令が。。
5時かっきりにオートバイ伝令がけたたましく走って「アップファーレン!」

convoy 1944.jpg

突然、轟音と一緒に巨鯨のような黒い影が見えると、慌てて車から逃げ出します。
バスのなかにいたドイツの「フローライン」もいっせいに躍り出すなり、溝に伏せますが、
著者は「驚くべき迅速な集団行動にイタリアやフランスでは見られない、
"訓練された女"の美しさ」を発見するのでした。

Paris,_Wehrmachtshelferinnen.jpg

ライン川を越えてドイツ本土に入り、ボンからベルリンへ・・。
PKから今一度、ロシア戦線を見てくれないか・・?と勧誘が来ますが、
同僚たちから「脱出特派員」とまで言われていた著者はスウェーデン行きを決意します。
この中立国にやって来た人々は祖国の戦雲に追われてきた避難民たちと、
ヨーロッパ戦争劇の千秋楽を見ようとする観客たちに分かれています。
そしてこの国からドイツの敗戦と、日本に宣戦布告するソ連、原爆、降伏を知るのです。
タクシーの運転手は聞いてきます。
「日本が戦争を止めて、世界が平和になったというは本当ですかい・・おめでとう」。

最後の最後には、日本に帰る親友の技術中佐に写真と手紙を託すエピソード。
その友人の名は庄司元三、彼は友永英夫技術中佐とともにU-234に乗り込むのでした・・。

Japanese surrender.jpg

ローマやパリからの脱出もさることながら、カーンのような最前線での
命がけの取材というものまであって、想像以上に楽しめた一冊でした。
また、途中ではどうしても同じ記者である「神々の黄昏」や「砂漠の戦争」の
アラン・ムーアヘッドを思い出して、比較したりもしてしまいました。

カナ使いなどを一部改訂しているとはいえ、良い意味でさすがに古い本だな・・
とも思いました。読めない四文字熟語も2つ3つありましたし・・。
でもこういうのは決して嫌いじゃないんですね。
今回はその雰囲気が伝わっていれば良いんですが。。
一度は1947年版の「ヨーロッパ青鉛筆」も読んでみたくなりました。







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