SSブログ

アドルフ・ヒトラー 五つの肖像 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

グイド・クノップ著の「アドルフ・ヒトラー 五つの肖像」を読破しました。

先日、お風呂に入りながら「どうしてヒトラーは後継者にデーニッツを選んだんだっけ・・」と
急に疑問が浮かびました。
その時、思ったのがヒトラーの多面性です。
ナチ党党首としてのヒトラー、国防軍最高司令官としてのヒトラー、
国家元首としてのヒトラー、最後に私人としてのヒトラー。
いままで独破してきた経験から、自分ではこの4つに分類しました。
最初はイデオロギー的な問題、いわゆるユダヤ人問題やホロコーストにかかわること。
その次は純粋に軍人として戦争に勝利すること。
そして国家元首ヒトラーはドイツ国民と外交にかかわる部分ですが、
この国家元首ヒトラーがデーニッツを選んだのか・・?

そういえばそんな感じの本があったな・・と考えながらのぼせそうになりました。。
風呂上りにモウロウとしながらも早速、本書をamazonで注文してみると、
煽動者、私人、独裁者、侵略者、犯罪者という「5つの顔」でした。
こりゃ、クノップ先生とのタイマン勝負になりそうですね。

五つの肖像.jpg

2004年に発刊された419ページの本書は、「ヒトラーの共犯者-12人の側近たち〈上〉〈下〉」、
ヒトラーの戦士たち-6人の総帥-」、「ヒトラーの親衛隊」などの後に出たものですが、
ZDFのTVドキュメンタリーとしては一番最初のもので、
日本でもNHKで「ヒトラー」として放映されたことがあるようです。

序文ではまず、現代のドイツ人にヒトラーが今なお与えている暗い影を
「依然として知名度はサッカーの英雄ベッケンバウアー、ドイツ統一時の首相コール
ウィンブルドンの覇者ボリス・ベッカーを凌ぐ」として、
自分が反ナチであることを日々、証明しなければならないかのように
ナポラ」ばりエリート養成教育を思い出させるために、才能ある人を特別に支援するのを避け、
「安楽死殺人」の記憶のために、尊厳死について冷静に議論することができず、
「支配人種」というヒトラーの妄想のために、遺伝子工学の研究に拘りなく取り組むことが出来ない・・
としています。とても印象的な出だしですね。

hj_dient.jpg

「煽動者」の章は、ナチ党の類稀なる演説家としてのヒトラー分析です。
壇上での激昂が自然発生的に見えるように、入念に練習を重ね、
専属写真家のホフマンに「握りこぶし」や「突き出した指」のポーズ写真を撮らせて研究し、
本番前には鏡の前で自分の姿を確認しながらリハーサルを繰り返したと
従卒のリンゲも証言しています。

よくドキュメンタリーなどで激昂するヒトラーのシーンがありますが、
去年、DVDで「意志の勝利」の演説シーンをじっくり見たら、
結構、原稿に目を落としながらやってるんで印象に残っていますね。。

Hitler persuasive movements.jpg

講演の内容は基本的に同じながらも、聴衆によって複数のバリエーションを駆使。
大学や知識人の前では、外来語や抽象概念がちりばめられ、
北ドイツでならハノーファー風の「方言」を真似して、好意を得ようとします。
外見も同様、商工会議所ではお馴染みの党の制服を脱いで、上品なモーニング姿で演説・・。

しかし演説技術にどれだけ長けていようと、聴衆が密かに考えていることを
ヒトラーがあからさまに語る・・という、聴衆との「意見の一致」が成功につながったとし、
やがて完全無欠となった「総統神話」は、ヒトラー自身、次第に自分の神話を信じ込んでいった・・
と結んでいます。

Hitler speaking at the Lustgarden in Berlin, May 1938.jpg

次の章は「私人」です。
ヒトラーの両親の微妙な問題から、母クララが生んだ3人の子供が早くに死んだため、
アドルフくんは「まさに甘やかされ、ちやほやされて」育ちます。
リンツ時代の唯一の親友といわれるクビチェクくんについては、
「救いようのないほどヒトラーの言いなりで、だからこそ友人として適していたのだろう」。
結局は、後の副総裁ヘスと同様に、ヒトラーの語ることに一生懸命耳を傾けるような
人だったんでしょうか。

August Kubizek.jpg

思わず笑ってしまったのが、貧乏な青年ヒトラーが「宝くじ」を買ったときのエピソードです。
それだけでもうすっかり「大当たり」を射止めた気になって、極上の甘い生活を送ることを夢想し、
その夢の城の調度品やパーティーに迎える人々のことを夢中になって話します。
しかし数週間後、現実はヒトラーをどん底へと突き落とすと、半狂乱に陥った彼は、
自分と人々の騙されやすさと、国が仕組んだペテンを非難攻撃して
何週間も自己憐憫に耽ったのでした。。

En 1908 se traslada a Viena.jpg

女性関係については、「私を踏んでくれ」と懇願する"マゾヒスト総統"などの説は
バカバカしい話として、姪のゲリエヴァ・ブラウンとは長期的に、
その他、20人ほど女性と一時的に性関係を持っていたと思われると
正常な男性であったことを強調しています。
この20人のなかにインゲ・ライを含んでいるのがなんとも・・。

hitler_ BDM.jpg

「独裁者」の章は楽しめました。
1932年当時、ゲーリングは39歳、ゲッベルスが36歳、ヒムラー30歳、
そして党首ヒトラーは43歳。
ワイマール共和国の高齢の実力者に比べて、新生ドイツの若々しさがみなぎっています。

Hitler&Hess-1933.jpg

「国会議事堂放火事件」についてはヒトラーとゲーリングの陰謀説にも触れつつ、
「フォン・デア・ルッベが実際にひとりで火を放ったようにもみえる」としながらも、
「それでも断定するには若干の疑問が残る」と以前紹介した
ナチス第三帝国辞典」と同様の解釈ですね。

ヒンデンブルク大統領が徐々にヒトラーを信用するようになっていったという解説から
SAのレーム粛清、そして単一政党の「ナチス国家」の誕生・・。
アウトバーン」ではヒトラーの発明ではないと前置きしたうえで、
「特筆すべきは近代的な機械を使って早く、安価に建設することを選ばず
路上に放置されていた数十万の失業者を労働力として投入したことである」

autobahn.jpg

やがて国民はお互いを監視し、お互いを警戒し始めます。
近所の人や同僚、友人、ヒトラー・ユーゲントに所属する我が子がスパイとなり、
密告者として活動・・。
わずか3万人の人員しかいない「ゲシュタポ」は、単に"反抗的な国民同胞"を
「迎えに行く」だけでよかった・・。

Gestapo45.jpg

基本的には特別、目新しいことはありませんでしたが、
国防軍とヒトラー」に書かれていたような、シュライヒャーやパーペンの絡んだ
政治的なゴチャゴチャを簡単明瞭に解説しているので、非常に理解しやくなっています。
未読のクノップ本、「ヒトラー権力掌握の二〇ヵ月」は、このあたりが詳しいと思われますので
近々、いってみようと思います。

hitler-and-hindenburg.jpg

「侵略者」の章は最高司令官としてのヒトラーを分析していますが、
全体的に手厳しいですね。。
ミュンヘン会談で平和に分割されたズデーテンラント問題については
ヒトラーは戦争を望んでいて、武力で勝ち取りたかった・・という解釈です。
これは1945年2月の発言を根拠にしていますが、
個人的には敗北の見えたこの時期の発言は信用していません。

西方戦役では、保守派の将軍たちの意見を押し切って、戦車と装甲部隊を拡大し、
マンシュタイン・プランを認めるといった目の付け所は評価するものの、
実際の作戦指揮については完全にダメ出し。。ダンケルクの停止も諸説挙げますが、
「ヒトラーがヒステリックになって度を失ったとする説が最も多い」としています。

Der Fuehrer besucht der Front.jpg

個人的にヒトラーの良いトコだと思っているのは「勲章」についてです。
軍人としては、第一次大戦時の「1級鉄十字章」と「黒色戦傷章」しか身につけず、
その一方で、騎士十字章から様々な勲章を制定し、
ナチ党の最高勲章である「ドイツ勲章」などは自身でデザインしたとされています。
そのようなヒトラー流のコダワリのある勲章を自分ではほとんど受章しないところが
その他の軍事独裁者と違うところではないでしょうか。

nrnberg_1938.jpg

ゲーリングには国家元帥という唯一の階級に応じる形で「大十字鉄十字章」を授与しましたが、
普通の独裁者だったら、自分にさらに上の「大十字鉄十字星章」でも与えたりしそうです。
軍服に勲章ビタビタの他国の国家元首と並んでも、物怖じしていませんし、
部下の将兵がコレ見よがしに付けていても、まったく気にしないという態度ですね。
せいぜい「血の勲章」と、ヒトラー暗殺未遂事件の被害者に制定した
特別な「戦傷章」を自ら授与したという話くらいです。

Adolf_Hitler_and_Prince_Paul_of_Yugoslavia_(1939).jpg

ちょっと話が横道にそれましたが、最後の章は「犯罪者」。
ミュンヘン一揆」の失敗以来、待つことを知り、近道を通らず、段階を踏むことを学んだヒトラー。
「法律をはなから無視するのが自慢で、良心のかけらもない家来」ヒムラーと、
「その腹心で、あるじヒトラーの優秀な弟子だった」ハイドリヒによって
ユダヤ人問題の「最終的解決」が進められていきます。

Heydrich conversa en un Cocktail delante de un busto de Adolf Hitler.jpg

さらに「一番の優等生」でベルリン大管区指導者ゲッベルスもヒトラーに
「首都ベルリンは"非ユダヤ化"されましたと報告したい」という、熱狂的な意思を持っています。
こうして「水晶の夜(クリスタルナハト)」事件が起こりますが、外国からの信用を失うと、
ヒトラーも一転、ゲッベルスを避難する側に回るのでした・・。

Hitler with officers at dinner. Dr. Joseph Goebbels is seated at his left.jpg

ホロコースト、大量虐殺に対するヒトラーの責任を裏付ける書類は残っていないと
認めている本書ですが、「総統がご存じでないことは、私は何一つしない」と言う、
ヒムラーの言葉を「絶滅のシナリオを口で指示した」と解釈し、「証拠」としています。

hitler_and_himmler_by_hermiteese-d3aogee.jpg

まぁ、クノップ先生はどんな本でも取り上げた人物に対しては厳しいので、
本書のヒトラーに対しても、だいたい予想はついていましたが、やり過ぎな気もします。
ちょっとした良いところも紹介しつつ、その後に大きな間違いを指摘する・・
という展開で進みますが、一見、公平な書き方のように見せながら、
「悪」という結果ありきなんですね。
ドイツのTVでヒトラーを褒めるわけにもいかないですから、ソレもしょうがないでしょうが・・。

Adolf Hitler and Joseph Goebbels visit The House of German Art during the annual Festival of German Art in Munich.jpg

話は最初のお風呂での疑問に戻りますが、結局、デーニッツを最も権力のある
「大統領」兼「国防軍最高司令官」に任命したヒトラーの意図はなんだったのか・・?
残念ながら、そう都合よく、本書に書かれているわけはありませんでした。

「唯一の友人」だったといわれるシュペーアが薦めた・・という話もありますが、
ゲーリングとヒムラーがボルマンによって「裏切り者」と信じ込まされた結果、
もはや誰でも良い・・、弱いドイツ国民はどうせ滅亡するのだから・・、
それとも完成した「最後の新兵器」UボートXXI型で、ドイツ海軍が滅びるまで
戦い続けることを希望したのか・・、
あるいは心の底で、連合軍と和平交渉が出来るのは、犯罪的行為に関わっていない
デーニッツしかいない・・と思ったのでしょうか?

hitler_mussolin_Dönitz.jpg

それにしてもヒトラー選んだ最後の内閣は、なかなか興味深くもあります。
デーニッツには全権を与えず、「首相」にはゲッベルスを選ぶあたりは、
それまでヒトラーがず~とそうだったように「権力の分散」を
この期に及んでもしているようですし、
ナチ党党首としては後継者を選ばず、ボルマンを「ナチ党担当大臣」とするところは、
この「ナチ党党首」が彼の最も大事な、政治人生と根本的な立場と認識していた気もします。

Keitel,Goring,Donitz,Himmler,Bormann.jpg

またブラウヒッチュ辞任以降、兼務していた「陸軍総司令官」の座にシェルナー元帥・・。
戦争の期間、軍人としてのヒトラーを支えてきた、カイテルヨードルを完全無視するところも
如何にあの2人を信用していなかったかが、わかるようです。。

Keitel, (right). Looking on are Major Deile, (holding paper), and General Jodl.jpg

2月に出た最新のクノップ本、「100のトピックで知る ドイツ歴史図鑑」も興味をそそられますね。
「カール大帝の戴冠から21世紀の現在までの、1200年に及ぶドイツ史の中から、
時代の行く末を決定したり、人々の心を大きく揺り動かした出来事100」
という内容で、あまり詳しくないドイツ史の勉強になりそうです。









nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。