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シリーズ 制服の帝国 -ナチスの群像- <下> [軍装/勲章]

ど~も。明けましておめでとうございます。ヴィトゲンシュタインです。
今年も「独破戦線」をど~ぞ、ごひいきに・・。

山下 英一郎 著の「シリーズ 制服の帝国 <下>」を読破しました。

2012年の一発目は、年末に上巻を読破して続けて・・と思っていたたものの、
160ページのわりには実に内容の濃い、マニアックさにやられて、
上巻だけで疲れてしまった、「シリーズ 制服の帝国」の下巻です。
ちょっと一度浮気して、頭をリフレッシュしてから本書に挑みました。

制服の帝国 下.JPG

上巻同様、最初の8ページは、カラーで制服などを掲載していますが、
今回は「空軍将官用フリーガーブルーゼ」。
フランツ・ロイス空軍少将が着用していた実物の制服を詳細に解説します。
このドイツ空軍のブルーの制服は個人的に一番好きなので、下巻の掴みもOKです。

まずは「徒然なる第三帝国」と「写真で見るナチスドイツ」の章でスタート。
「写真で見るナチスドイツ」はなぜか内相のフリックが主役で、
10枚ちょっとの彼の写真が続けざまに登場しています。

Goebbels and Frick.jpg

次の「参謀本部の憂鬱」は非常に面白く読みました。
1935年の復活した陸軍参謀本部の組織に始まり、1939年開戦時の組織改革まで細かく解説し、
「参謀総長のもとに中央部長と5人の次長がおり、その下に16部が配置されていた」
そして「参謀総長」が陸軍総司令部(OKH)の最高司令官を補佐する5人のうちの
一人に過ぎなくなっていたとして、
陸軍人事長官、総務長官、兵器長官、主計長官という長官職を紹介。
さらに国防軍最高司令部(OKW)が創設され、参謀本部出身者たちで構成された
ヨードル長官の国防軍統帥部の存在がOKHを不利な立場に追いやります。

Hitler in a meeting with Keitel, Brauchitsch, and Paulus.jpg

19世紀以来、参謀本部が立案してきた戦争がらみの国策によって連戦連勝し、
軍事が政治を越えていたとされ、第1次大戦敗北後も「皇帝は去ったが将軍は残った」
と云われてプライドのある参謀本部ですが、
OKWが西部戦線を受け持つと、OKHの東部戦線は踏んだり蹴ったりが続き、
無能な参謀が出世に目が眩んで、陸軍よりナチ(OKW)に走ったとしても無理はないとしています。

Hitler_shakes_hand_with_Generaloberst_Friedrich_Fromm_at_Wolfsschanze_1944__On_the_left_is_Oberst_Stauffenberg.jpg

そして1944年のヒトラー暗殺未遂事件に触れ、「現在では諸手を挙げて"良心"だとされている行動」
については「ナチスを選んだ愚かな国民の一員という自覚がなく、
参謀本部は「神」であり超然としていると考えていた」として、
また「ヒトラー排除後の首相に、元参謀総長のベックを据えようとし、
自分たちが敬意を払われないナチス体制を嫌う点でのみ一致するだけの烏合の衆で
一体、どのように国民を救うというのか・・」とかなり辛辣です。

ただ、首尾よく「ヒトラー暗殺」していたらその後は・・??
と、個人的には懐疑派なので、ある程度納得のいく章でした。

ludwig_beck_0.jpg

続いて「ヒトラーの将軍たち」では武装SSが軍事組織ではあったものの、
「参謀本部」も持たないことから、国防軍3軍のような、「軍」とは認められてないという話や、
「准将」という階級はドイツ国防軍にはなく、SA時代からの「上級指導者」を階級整合の際に
「SS准将」(柏葉2枚)としたものの、肩章などの観点からも将官ではなかったという話。
しかし一般SSにおいては、肩章も含めて将官待遇であった・・と相変わらずややこしいですね。
写真もリストハルダーマンシュタインブラウヒッチュとすべて初見のモノばかりです。

NSKK, Guerrera de Servicio de un Oberführer.jpg

「パンツァージャケット事始め」の章では、その有名な「黒」や「髑髏」についても解説。
そして装甲部隊の生みの親であり、パンツァージャケットのデザインも手掛け、
戦争後半には参謀総長にもなったグデーリアンを大きく取り上げて、
「戦争の最初も最後もドイツの命運を担ったのはグデーリアンだった」として、
「戦記のほとんどが彼の回想録を底本にしている・・」
著者はほとんど「SS」の専門家と思っていましたから、このような国防軍の組織や
人物についての独特の見解が本書では続いて、かなり楽しめました。

Guderian_Panzerjacket.jpg

14ページに渡ってしっかりと書かれた「国民突撃隊」はなかなかの力作です。
1944年9月の総統命令での、「国民突撃隊の創設に関して」という呼称の初登場から
11月のナチ党官房長官ボルマンによる命令の発行、
SS全国指導者兼国内予備軍司令官ヒムラーの最終指揮権、
そして「総力戦全権委任者」ゲッベルス・・という、結局、誰が責任者なのか
相変わらず、よくわからないこの新設部隊を丁寧に検証します。

Kaltenbrunner_Goring_Goebbels_Himmler_Bormann.jpg

3軍やSSに属するものではなく、すべての陸軍、武装SS、警察によって大管区単位に編成し、
その年齢は20歳から60歳。後に16歳まで引き下げられヒトラー・ユーゲントなども対象になります。
「階級」も隊員、班長、小隊長、中隊長、大隊長とあり、既定の制服の襟には
ちょっとSSっぽい独自の襟章が・・。
大隊長なら両襟に「星四つ」で、以下、星が一つずつ減っていきます。
この中隊長の制服の写真が掲載されていますが、初めて見ましたね~。

Volkssturm company leader.jpg

また、ほとんどの隊員は「ドイッチャー・フォルクスシュトルム」と書かれた腕章だけをする訳ですが、
これにも「国防軍」と書かれたものと、書かれてないものと2種類あるようです。
さらに国防軍所属の「国民擲弾兵師団」や「突撃師団」との混同についても解説していますが、
この「突撃師団(Sturm-Division)」というのも聞いた記憶がないですねぇ。
いずれにしても「国民突撃隊」についてこれだけしっかり書かれたものは初めてで、
大変勉強になりました。

volkssturm-armband-original.jpg

ヒムラーが射撃練習をする写真で始まる「ルガーP08」の章。
以前にもワルサーP38と、この尺取虫の如きルガーP08のモデルガンを持っていた
ということを書きましたが、そんな思い出もあって楽しめました。
帝政ドイツ陸軍に1908年に採用された「ルガーP08」。
しかし1938年に「ワルサーP38」に取って代わられますが、本書ではその理由を、
SA粛清の際に幕僚長レームに自決を迫ったものの、アイケらの渡したルガーP08が不発に終わり、
レームの勢いが挫かれ、仕方なくブローニングで撃ったところ、口径が小さく、
即死せずに30分ももだえ苦しんだため、アイケは
「間違いのない拳銃」をヒムラーに要望した・・ということです。
ということは「長いナイフの夜」がなけれは、ルパン3世もワルサーP38じゃなかったかも・・。

Himmler aiming a pistol P08.jpg

後半は勲章の章が続きます。「鉄十字章」に「騎士十字章」
特に英兵と米兵が捕虜のコレが欲しくてしょうがなかった・・という件では、
いまでも英米が大きなコレクターの市場であることが解説され、
実物の残存数は騎士十字章が2万個、柏葉章が1800個、剣章が450個、ダイヤモンド章が80個
だそうです。もちろん定価はなく、欲しい人がいくら出すのかの問題ですが、
以前、ヤフオクで騎士十字章は数百万でしたかねぇ。。

それらに比べてマイナーな「剣付き騎士戦功十字章」も登場しますが、
実は受賞者はかなり少なく、140人ほどだそうで、ゲシュタポのミュラー
ヒトラー暗殺未遂事件捜査の功績によって受章したそうです。

Ritterkreuz des Kriegsverdienstkeuzes.jpg

血の勲章」と呼ばれる「ブルート勲章」、「戦車突撃章(戦車戦闘章)」と続き、
「陸軍将官階級章」では独特のアラベスク模様のような襟章について考察。
写真が白黒なのが残念ですが、「現物を手にしたことのない低レベルな自称コレクターの間では
"海老フライ"と揶揄されている」ということで、まぁ、そう言われてみれば・・。

Generalfeldmarschall pattern collar tab in fine gold wire from the uniform of GFM von Manstein.jpg

装甲師団"フェルトヘルンハレ"少尉の制服」というのもマニアックで素晴らしい・・。
このフェルトヘルンハレという部隊が、SSに立場を奪われたSAに
公務に参加する機会を増やしてあげよう・・という目的で
1938年に創設されたSA警察連隊であったことや、
1942年、SA部隊、もしくは人名を冠した師団を編成するというヒトラー命令によって、
ほとんどがSA隊員から成っていた第271歩兵連隊がフェルトヘルンハレと改名して
師団となっていったということですが、SA警察連隊とは別組織で並行して存在していたそうです。

SA Standarte Feldherrnhalle.jpg

下巻も濃い内容なのでいくつか章は飛ばしましたが、
この巻は著者お得意の「SS」ではなく、「ドイツ陸軍」中心のものでした。
しかし、その分、過去の著作も含めて重複することもなく、予想外の展開で
新鮮な驚きと、独特の視点は充分楽しめました。
著者の本を読まれたことがないドイツ陸軍ファンの方にもオススメします。



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カイザー

ヴィトゲンシュタインさん、新年明けましておめでとうございます。
今年も良書評を心待ちにしております。
今回ヴィトゲンシュタインさんが取り上げた書籍の著者の山下英一郎さんは、
ドイツは勿論、アメリカの公文書館にも足を運んで、SSや警察関連の写真や
文書を調査されて、本邦初公開となる写真を、今回の書籍に限らず多数掲載
されておられる、貴重な存在だと思います。山下さんの著書で初めて目に
した写真は自分にとって数えきれないほどです。
by カイザー (2012-01-02 18:29) 

ヴィトゲンシュタイン

カイザーさん。明けましておめでとうございます。
>山下さんの著書で初めて目にした写真は自分にとって数えきれないほどです。
なかなか読まれてますねぇ~。確かに本書も珍しい写真ばかりでしたね。
山下英一郎さんはコレで全部、独破してしまいましたか・・。次に出るのを楽しみにしています。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-01-03 08:20) 

でんこう

ヴィトゲンシュタインさん、明けましておめでとうございます。
連載当時は内容が難しくて読み飛ばしていたこともあったのですが、こちらの書評を読むにつけ、つくづく勿体ないことをしていたものだと思います。
当時、興味を持ったのは党幹部やRSHAなどについてでしたが、これほど多岐に渡る内容だったんですね…
ベック元参謀総長についてはハルダーら参謀本部とグデーリアンら前線指揮官との間でかなり評価が分かれていますね。
以前、NHKの「その時歴史が動いた」でヒトラー暗殺未遂事件をベック中心に紹介していましたが、この番組もいま一つ彼の人物像が見えてこない内容だったことを覚えています。
昨年こちらで紹介された本と併せて、次の連休に書店で探して来ようと思います。
長々と書いてしまいましたが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
by でんこう (2012-01-06 01:40) 

ヴィトゲンシュタイン

でんこうさん。明けましておめでとうございます。
「月刊アームズマガジン」誌の連載をお読みになっていたんですか。
本書は予想外に幅広い内容でしたね。
>ベック元参謀総長についてはハルダーら参謀本部とグデーリアンら前線指揮官との間でかなり評価が分かれていますね。
ボクの理解している限りでは、ハルダーは反ヒトラー派のベックの直系(後任)なので、ベックを立てるのは当然でしょうし、グデーリアンは新しい装甲師団の運用でベックと揉めたことが有名になってしまっているんでしょうね。もちろんハルダーとも大いに揉めていますが・・。
後者についてはベテランの保守的な軍人は大体そうだったようですから、結果的に電撃戦が成功してからコレを言われてしまうのは可哀想な気もしますし、いずれにせよ、平時の軍人を評価するのは難しいですね。

「その時歴史が動いた」は結構、観ていたつもりなんですが、ヒトラー暗殺未遂事件の回は記憶にないので見逃したのかも知れません。。
「その時」は、やっぱり1944年7月20日だったんでしょうか?

by ヴィトゲンシュタイン (2012-01-06 12:17) 

でんこう

ヴィトゲンシュタインさん、こんばんは。
おっしゃる通り、軍人の評価をするにあたっては戦時の活躍のみに注目してしまいがちで、平時の姿から正しく評価するのは本当に難しいですね。
私も気をつけます…
「その時歴史が動いた」についてですが、その回の「その時」はやはり7月20日だったと記憶しています。
肝心の内容はといえば、抵抗グループの大義や正当性など、消化不良気味の説明が多かったと思います。
番組スタッフもこの計画には無理があると思ったのかも知れません。
by でんこう (2012-01-06 21:28) 

ヴィトゲンシュタイン

>番組スタッフもこの計画には無理があると思ったのかも知れません。
ビール吹き出しそうになりました・・。
すごくシンプルに考えても、抵抗メンバーの中で唯一、ヒトラーに近づけるシュタウフェンベルクが爆弾で暗殺して、その後もクーデターを指揮しなければならなかったことに無理がありますよね。。
『ヒトラーの戦争<3>』でも、「己の命もかけられない、卑劣なテロリスト」という扱いでしたが、別にシュタウフェンベルクは根性なしなのではなく、彼が心から後を任せられる人物がいれば、喜んで確実な方法(自爆)を取った
のではないでしょうか?
元参謀総長に現役の将軍たちも込み込みで、首相やらの要職を約束された抵抗派なのに、36歳?の"大佐"におんぶにだっこで、情けない気もします。逆に言えば彼のパワーなどは人間として尋常なレベルではなかった様にも思えます。
もう酔っ払い気味なので、失礼しました。
by ヴィトゲンシュタイン (2012-01-06 22:20) 

レオノスケ

ヴィトゲンシュタイン様。明けましておめでとうございます。
今年も楽しい書評を楽しみにしております。

さて早速「制服の帝国<下巻>」を購入しました。単なる制服の解説書ではなく、制服を切り口にした第三帝国研究なのですね。斬新なアプローチだと感じました。
掲載の写真も初めてみるのが多くて得をした気分です。戦車兵の集合写真など圧巻ですね。
また、空軍将官用フリーガーブルゼ、余りにも美しい。どうみても芸術品です。第三帝国の軍服の美しさは結局誰のためだったのでしょう?
パンツァージャッケットの章のグデーリアンの件、P64の写真の中央の将官はハルダーではなく交通兵監部のオズヴァルト・ルッツ将軍だと思います。ちょっと「ん?」って感じでした。サンケイブックスの「ドイツ装甲軍団」に同じ写真があったような。不勉強ですみません。
個人的には参謀本部の章を興味深く読みました。OKWの参謀将校のド派手な金の襟章の実物をぜひ見てみたい。そうそう、陸軍将官の襟章は「海老フライ」と呼ばれてるのですか。僕は子供のころ拳銃(リボルバー)のマークだと思ってましたが。
シュタウフェンベルクの件、ヴィトゲンシュタイン様に同感です。彼自身クーデターが成功するとは確信していなかったと思います。これは「男組」の主人公・流の生き方に似ていると感じます。独裁者(男組では影の総理)をまず倒すことがまず目的、そして彼の犯罪を暴くこと、そして戦いを引き継いで行って欲しいと願ったのではないでしょうか?そのためには老いた将軍達ではなくシュ大佐より若い層が決定的に欠けていたと思うのです。彼の悲劇は老人の保身とエゴに振り回されたことだと感じます。

正月早々長文失礼しました。

by レオノスケ (2012-01-07 00:03) 

ヴィトゲンシュタイン

レオノスケさん。明けましておめでとうございます。
本年も宜しくど~ぞ。
本書を喜んでいただけたようで嬉しいですね。紹介した甲斐があります。
>P64の写真の中央の将官はハルダーではなく交通兵監部のオズヴァルト・ルッツ将軍だと思います。
お~と、そうですか。サンケイブックスの「ドイツ装甲軍団」は持っていないので、自分なりに検証しました。
隊務局時代ですから1935年以前の写真のようですが、ハルダーが少将に昇進したのは1934年。その1年間の間にグデーリアンとなんらかの関係で写真を撮ることになったということになりますが、ちょっと苦しいですね。
また、ハルダーはグデーリアンより4歳年上ですが、もっと年寄りにも見えますね(1940年代のハルダーのよう)。そしてグデーリアンが交通兵監部にいた当時の同僚であるネーリングが一緒・・となると、中央の人物は必然的に総監のルッツ将軍(グデーリアンより12歳年上)であり、この交通兵監部の集合写真ということになりそうです。確かにルッツ将軍にも似ていますしね。

シュタウフェンベルクと流全次郎の類似的解釈は新発見でした。やっぱり読み返そうかなぁ。「ヒトラーとシュタウフェンベルク​家」も読みたくなりました。

by ヴィトゲンシュタイン (2012-01-07 09:15) 

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