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ヒトラー最期の日 [ナチ/ヒトラー]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

H.R.トレヴァ=ローパー著の「ヒトラー最期の日」を読破しました。

先月の「ヒトラー最後の十日間」に続いて、いわゆる”ヒトラー最期”モノの元祖ともいえる
トレヴァ=ローパーの有名な一冊をやっとご紹介します。
原著は1947年・・で、その後、数回、見直しなどの版を重ねた1971年の第4版が本書に、
日本では第2版が1951年(昭和26年)に翻訳され、本書は1975年に出版されたものです。
著者のトレヴァ=ローパーは戦時中、英国秘密情報部(SIS)の部員として
カナリス提督の防諜部アプヴェーアのメッセージを傍受する任務に就き、
終戦直後、ヒトラーの死の真相を突き止める任務を託されて、
第三帝国のさまざまな生き残りの証人たちから聴取を行い、本書が完成しました。

ヒトラー最期の日.jpg

「序文」では50ページを割いて、トレヴァ=ローパーが如何に証人を尋問したか・・が書かれおり、
ボルマンの秘書であったクリューガー嬢、ヒトラーの専属運転手ケンプカ
女流テスト・パイロットのハンナ・ライチュ、ヒトラー・ユーゲント指導者アクスマン
そして命令に従い、ヒトラーの「遺言」を持って総統地下壕から脱出した3人、
ハインツ・ローレンツ、ヴィルヘルム・ツァンダー、ヴィリィ・ヨハンマイヤーらの行方を突き止め、
ヒトラーとエヴァの「結婚証明書」を含む文書を発見します。

さらにはヒトラーの秘書だったクリスティアン夫人とユンゲ夫人も1946年に発見・・。
しかし後年、ヒトラーの最期の重要な証人となる、護衛隊長ラッテンフーバーと侍従長リンゲ
副官ギュンシェに、お抱えパイロットのバウアらはロシア側に逮捕されており、
本書の証言者とはならなかったそうです。
それでもこの版では、解放されて帰国した彼らの口から裏付けを取り、
それらは(注)としてあらわされています。

Traudl_Junge.jpg

第1章では「ヒトラーとその宮廷」と題して、第三帝国とは如何なるものだったのか・・を
解説します。
No.2、ゲーリングに副総裁のヘス、個人秘書ボルマン、そしてヒムラーといった側近たち。
さらにはヒトラーと国防軍との不仲な関係にも言及。
特にヒムラーについては「行政官としての有能さと、思想家としての無神経な軽信ぶりとの
二重性格こそは、彼の奇怪な生涯を解く鍵だ」として、最も分析しています。
確かに表紙の写真もヒトラーとヒムラーの2ショットですねぇ。

Hermann Göring, Himmler and Hitler were all smiling.jpg

第2章では、敗北に当面した第三帝国として、ヒムラーについての本書の証言者である
SDの国外諜報局局長だったシェレンベルクの話をかなり引用します。
例えば「シェレンベルクが話してくれたことによると・・」といった感じで、
陸軍の東方外国軍課ゲーレン少将がポーランドの抵抗地下運動のような組織を計画し、
シェレンベルクがその草案をヒムラーに提出すると、
「そんなことはまったく気違いざただ!
そんなことを検討しようものなら敗北主義者と非難を受けるに決まっている!」

Schellenberg Gehlen.jpg

このライバルのスパイ・マスター2人が協力していたような話も興味深いですが、
敗戦後に抵抗運動を行わなかったのはドイツだけだった・・という解説では
ヒムラーも激怒したように、そのような考え方(ドイツ敗北後ということ)が
公式には許されなかったわけで、そこがポーランドやフランスのようなレジスタンス組織が
作られなかった理由としています。
また、じゃあ「人狼部隊」はどうなの??ということにもちゃんと触れて、
指揮官のプリュッツマンSS大将も「敗戦後の活動などというのは問題外」と語っていたとして
あくまで、連合軍の背後で戦うゲリラ部隊・・という位置づけだったそうです。

Werwolf woman_SS.jpg

「ヒトラーの建築家」シュペーアはなかなか評価しているようで、彼の回想録も
「無批判に引用するわけではない」としつつ、大いに引用しています。
逆に先に述べたシェレンベルクの回想録は、「引用しても役に立たないだけではなく、
不適当であり、それはヒムラーの外交上の顧問だったこの男の知性の貧困さと
その視野の狭さを示しているだけにすぎない・・」と、だいぶ手厳しいですね。
他に財務相を務めていたフォン・クロージックの日記も、
「13年間大臣をしていたわりには観察の愚かさのために」と重要な扱いにはしていません。
結局、本書はそのようなダレソレの著作の引用というより、1945年から1946の間の
供述をあくまで中心とし、それらを整理しながら進めていくといった展開です。

Schwerin von Krosigk.jpg

そういえば本書の巻頭には17~18枚の写真が掲載されていますが、
ベンチの両端に離れて座る、ヒトラーとシュペーアの写真・・。キャプションでは
オーバーザルツベルクでの散歩の途中、意見が対立してヒトラーの不興をかったところ」
だそうで、まるで中学生のデートレベルのいじけ方が笑える一枚です。

hitler_speer.jpg

半分ほど進んだ第4章から、いよいよ1945年4月20日からの様子が始まります。
例のシュタイナー軍集団がまったく反撃していないことを知ったヒトラーの様子も、
「彼は金切り声をあげて、裏切られたと絶叫した。陸軍を罵倒した。
誰も彼も裏切り者だと叫んだ。ついに声も出なくなった彼は、最後が来た、と宣言した」
と、この当時から映画「ヒトラー 最期の12日間」と同じですね。。

Der_Untergang_Downfall.jpg

そして、この総統地下壕の様子と並行して語られるのは、ヒムラーのスウェーデンとの
和平交渉の様子です。シェレンベルクにヒトラーを見限るようにそそのかされ、
すっかりその気になって、新政府の代表者として、新しい政党の名前は何にしようか・・とか、
アンゼンハワーに会った時にはお辞儀するべきか、握手にするべきか・・。
これはシェレンベルクの証言がもとになっているようですが、
「役立たずの回想録」ではなく、供述から得たものを参考にしているのかも知れません。

結局は、ゲーリングに続き、ヒムラーもボルマンの手によって裏切り者とされて、
ヒトラーの絶望的な怒りを招きますが、お馴染みのSS副官フェーゲラインが処刑される件については
彼が無断で逃亡を図ったことではなく、シュタイナー軍集団と、ヒムラーの和平という
SSの「裏切り」についての責任を取らされた・・という解釈のようですね。

Hermann Fegelein_colorized.jpg

さすがに”ヒトラー最期”モノの元祖として、その後のヒトラー本のネタ本である本書ですから、
新発見・・などということはありませんでした。
そんななかで印象的だったのは、最初に書いたヒトラーの「遺言」を持って脱出した3人、
ゲッベルスの宣伝省の役人ローレンツ、ボルマンの個人的顧問ツァンダー、
総統付き陸軍副官ヨハンマイヤーの3人の脱出行です。
それぞれミュンヘンでの保存、新大統領デーニッツへ、新陸軍総司令官シェルナー元帥へと
届けることが目的です。

Willy Johannmeyer.jpg

そして「ヒトラー最後の十日間」の参謀将校ボルトとローリングホーフェンと途中、合流したり
そのローリングホーフェンの証言として、ボルトが薬で自殺を図り、彼が助けたという
あの本には書かれていなかった話が出てきたり、
空軍副官のフォン・ベローも脱出を決意して、参謀総長クレープスから妻への伝言と、
ヒトラーからカイテルへの手紙、「ドイツ全軍に対する告別の辞」を手渡されます。
この手紙自体は、破棄してしまったそうですが、フォン・ベローの証言から再構築していて
なかなか興味深いものでした。

At Hitler's Side_Nicolaus von Below.jpg

最終的に西側連合軍はヒトラーの遺体は発見できなかったわけですが、
この版では、後にロシアで発表されたエレーナ・ルジェフスカヤ著の
ヒトラーの遺体の検視結果などにも触れられていて、
これは「ヒトラーの最期 -ソ連軍女性通訳の回想-」の最初の版ですね。
先日、あの本を読んで、今回、この本を読むことになったんですが、
なんとも因縁がある2冊のようです。
なお、西側ではヒトラーは「拳銃自殺」と解釈していますが、ロシア側は「服毒自殺」だとして、
著者はコレを「愛犬ブロンディを毒で殺したのと同様、軍人らしくない、犬のような死・・」
という印象をロシア側は与えようとしていると考えています。

hitler-blondi.jpg

著者トレヴァ=ローパーは、本書によってナチス・ドイツの権威となりましたが、
1983年、突然、世の中に出てきた、1932年から1945年までが綴られた「ヒトラー日記」を
本物であると認めてしまい、それが科学的に真っ赤な偽物であると判明したことで、
その権威も一時、失墜したそうです。
この顛末が書かれた「ヒットラー売ります 偽造日記事件に踊った人々」も
近々、読んでみるつもりです。

hugh-trevor-roper.jpg

読みながらいろいろ気になって調べていると、総統専属運転手で
エヴァの遺体をボルマンから奪い取って火葬したことでも知られるケンプカの回想録が
1953年(昭和28年)に日本でも翻訳されていたことを発見しました。
その名もズバリ、「ヒットラーを焼いたのは俺だ」
いまでもamazonで手に入るんですねぇ。
でもこんな古いの読んだことがないから悩むなぁ・・。







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コメント 4

IZM

>「ヒットラーを焼いたのは俺だ」
タイトルだけで3分は笑えますねWwwwww
余談ですがワタシは未読の「ヒトラーの前夜」という本を見つけたのでこれからよんで見ようと思います。
by IZM (2011-10-20 17:21) 

ヴィトゲンシュタイン

>タイトルだけで3分は笑えますねWwwwww
喜んでもらえてよかったです。最高なタイトルですよね。表紙も見てみたいし・・。amazonでは高いですけど、他の古書店では2000円位で売ってるんで、試してみようか・・と思ってるところです。

>「ヒトラーの前夜」
これは謎な本ですねぇ。レビューお待ちしています。

by ヴィトゲンシュタイン (2011-10-20 20:55) 

ハッポの父

「ヒットラーを焼いたのは俺だ」
・・・ワタクシも持っていた酒をひっくり返しそうになりました^^;

1953年の本ですか!興味はすごくありますが、なんだか手にするのも勇気がいりますね。レビューを期待してますね!!!
by ハッポの父 (2011-10-22 18:29) 

ヴィトゲンシュタイン

>レビューを期待してますね!!!
いや~、やっぱりそう来ますか~。。キッツイなぁ・・。
でも明日、明後日は時間があるので、神保町に探しに行って来ます。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-10-22 22:14) 

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