電撃戦という幻〈下〉 [戦記]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
カール=ハインツ・フリーザー著の「電撃戦という幻〈下〉 」を読破しました。
上下巻を図書館で借りた本書・・。上巻を読み終えて、その内容の濃さからも
今後も資料として度々読み返すことになるのは間違いない・・
ということで、この下巻を読む前、仕事帰りに神○町の「軍○堂」に立ち寄って、
ちょうど良いタイミングで売っていた本書のセットを6000円で購入してしまいました。。
この下巻は、まずセダンを突破したグデーリアンの装甲軍団に対する、
フランス軍側の反攻作戦計画と、その顛末を解説します。
5月14日、フランス軍総司令官ガムランは「セダンの決壊は局地的な小事件」と片づけ、
第2軍司令官のアンチジェも余裕しゃくしゃくでドイツ軍の攻撃を待ち受けます。
特に第3機甲師団はドイツ軍の最新鋭であるⅣ号戦車より装甲の厚い、
オチキスとシャール戦車を139両を揃え、火力の点でもドイツ軍を大きく上回っています。
すぐさま出撃命令を受けた第3機甲師団ですが、フランス軍戦車の弱点・・
燃料補給と攻撃開始地点までの移動に多大な時間を要し、
挙句、撤退するパニック兵を目撃したことで、命令は撤回。。。
その後も反攻作戦命令は、もたついては行動延期・・というお決まりのパターンが繰り返され、
マンシュタインとグデーリアンが最も恐れていた、セダン突破直後のフランス軍の大逆襲は
「幻」となるのでした。
それでも高地ストンヌを巡る攻防戦は局地的ながらも両者がっぷり四つに組んだもので、
占領したグロースドイッチュランド第1大隊の前に、怪物戦車シャールBが現れ、全滅の危機・・。
この5月15日の1日だけで、ドイツ軍が奪取すること4回。2日後に勝負がついたときには
なんと9回目の奪取という、取って取られてを繰り返す戦いです。
一睡もせずに進撃を続ける第1狙撃兵連隊長のヘルマン・バルク中佐は
疲れ切った部下を尻目に「諸君がやらないのなら、私一人でやる」と
ひとり敵に向かって行く格好良さ・・。
ラインハルト装甲軍団配下のケンプフ率いる第6装甲師団も、歩兵師団と交代させられると知り、
ここでやらねば千年の恥辱とばかりに奮い立ち、総攻撃を開始します。
このようにグデーリアンとラインハルトの2個装甲軍団から成る、クライスト装甲集団は
クライストを含め、各司令官と指揮官たちによる命令無視を度々繰り返しながら、
ひたすら前進を続けます。
また、この西方電撃戦において大変重要な装甲軍団がここで登場。
フォン・クルーゲの第4軍配下にあってクライスト装甲集団の右翼を守る、ホト装甲軍団です。
そしてこの軍団を構成する、後に「幽霊師団」と恐れられた第7装甲師団を指揮するのは、
ロンメル少将です。
ここからはいろいろな本でも書かれている、ロンメルの中隊長のような怒涛の大活躍と
傍若無人ぶりが詳しく書かれていて、例えば、一網打尽にされたフランス兵は驚愕あまり、
抵抗もせず、ドイツ戦車兵に尋ねます。「ひょっとして英国軍かね?」
まぁ、相変わらず楽しいですね。
「闘牛士の赤いマント」で連合軍を挑発させ、罠に誘い込む役の北のB軍集団でも、
ヘプナー装甲軍団がフランス軍と大規模な戦車戦を繰り広げています。
しかし大半はⅠ号、Ⅱ号戦車で占められたこの装甲軍団はフランス軍の誇る
新鋭ソミュア戦車の前に歯が立ちません。
あるⅠ号戦車の指揮官は、オチキス戦車にハンマーを持って馬乗りになるという
西方作戦のヘプナー装甲軍団というより、
西部警察の大門軍団のような勇敢な戦いを見せますが、
彼はあえなく振り落とされ、オチキスの下敷きとなって戦死・・。
それでも彼の死は無駄ではなく、ヘプナー装甲軍団は脇役の地位から解放され、
A軍集団の指揮下に編入されて、装甲突進の一翼を担うことになるのでした。
順調に進撃を続けるグデーリアンですが、司令官たちが恐怖する「開けっ放しの左側面」が
ここに至って大問題に・・。遂にクライストによる停止命令。
そしてこれに反発し、解任を申し出るグデーリアン・・。
第12軍司令官リストとルントシュテットの取り成しによって、「威力偵察」なら認める妥協案・・
といった有名な展開も詳しく検証。。
あまりの順調さに、逆に不安が募り「反撃の亡霊」に取りつかれた、ヒトラーによる停止命令です。
さらには海峡沿岸部への突進、ダンケルクを目前とした「アラスの停止命令」が・・。
ここからはこの「誰の目から見てもグロテスク極まりない失敗」について徹底的に検証します。
賛成したのはヒトラーとゲーリングに、A軍集団司令官のルントシュテット。
反対するのはグデーリアンらの軍団長と、かつて握りつぶしたマンシュタイン・プランを
いまや嬉々として「イケイケ」で進める参謀本部のハルダーとブラウヒッチュ。
この停止命令のさまざまに云われている理由・・、「地面が軟弱で戦車に向かない」や
「空軍力だけで攻め切れると思った」、そして「英国を本気で打倒する気がなかった」を
それらの「説」ごとに分析。アーヴィングの「ヒトラーの戦争」も引用しながら、
「ダンケルクの謎」に迫ります。本書の結論は、非常に興味深いものでした。
最後には「勝利と敗北:その要因」として、前大戦からの両国と西方戦役全般を振り返ります。
下士官から兵に至るまで指揮官としての自主性が培われていたという「委任戦術」、
また、「速攻と奇襲」や2正面を恐れるドイツの「短期決戦」伝統などの要素のほか、
無線、戦車、航空機という3つの要素が融合して化学変化を起こし、
極めて発火性の強い爆発物が形成され、その破壊力にはグデーリアンでさえ驚いた・・。
結局のところ本書は「電撃戦の幻」という邦題、「電撃戦伝説」という原題からイメージする
肯定的、否定的な観点で書かれたものではなく、「西方戦役は電撃戦だった」という前提のもと、
それがどのようにして生まれたのか・・を研究しているものでした。
電撃戦モノだけではなく、西方戦役モノとしても、自分が読んだ中で間違いなく最高のモノです。
レビューが長くなりすぎるので、これでも大分端折りましたが、登場人物には
アプヴェーアのカナリス提督からA軍集団の参謀を務めるトレスコウ、フランスならドゴール、
もちろんドイツ空軍の活躍と、登場人物とエピソードも実に多彩で、まったく飽きさせません。
高いと思われる方もいるとは思いますが、上下で6000円ならコレは間違いなくお釣りがきます。
カール=ハインツ・フリーザー著の「電撃戦という幻〈下〉 」を読破しました。
上下巻を図書館で借りた本書・・。上巻を読み終えて、その内容の濃さからも
今後も資料として度々読み返すことになるのは間違いない・・
ということで、この下巻を読む前、仕事帰りに神○町の「軍○堂」に立ち寄って、
ちょうど良いタイミングで売っていた本書のセットを6000円で購入してしまいました。。
この下巻は、まずセダンを突破したグデーリアンの装甲軍団に対する、
フランス軍側の反攻作戦計画と、その顛末を解説します。
5月14日、フランス軍総司令官ガムランは「セダンの決壊は局地的な小事件」と片づけ、
第2軍司令官のアンチジェも余裕しゃくしゃくでドイツ軍の攻撃を待ち受けます。
特に第3機甲師団はドイツ軍の最新鋭であるⅣ号戦車より装甲の厚い、
オチキスとシャール戦車を139両を揃え、火力の点でもドイツ軍を大きく上回っています。
すぐさま出撃命令を受けた第3機甲師団ですが、フランス軍戦車の弱点・・
燃料補給と攻撃開始地点までの移動に多大な時間を要し、
挙句、撤退するパニック兵を目撃したことで、命令は撤回。。。
その後も反攻作戦命令は、もたついては行動延期・・というお決まりのパターンが繰り返され、
マンシュタインとグデーリアンが最も恐れていた、セダン突破直後のフランス軍の大逆襲は
「幻」となるのでした。
それでも高地ストンヌを巡る攻防戦は局地的ながらも両者がっぷり四つに組んだもので、
占領したグロースドイッチュランド第1大隊の前に、怪物戦車シャールBが現れ、全滅の危機・・。
この5月15日の1日だけで、ドイツ軍が奪取すること4回。2日後に勝負がついたときには
なんと9回目の奪取という、取って取られてを繰り返す戦いです。
一睡もせずに進撃を続ける第1狙撃兵連隊長のヘルマン・バルク中佐は
疲れ切った部下を尻目に「諸君がやらないのなら、私一人でやる」と
ひとり敵に向かって行く格好良さ・・。
ラインハルト装甲軍団配下のケンプフ率いる第6装甲師団も、歩兵師団と交代させられると知り、
ここでやらねば千年の恥辱とばかりに奮い立ち、総攻撃を開始します。
このようにグデーリアンとラインハルトの2個装甲軍団から成る、クライスト装甲集団は
クライストを含め、各司令官と指揮官たちによる命令無視を度々繰り返しながら、
ひたすら前進を続けます。
また、この西方電撃戦において大変重要な装甲軍団がここで登場。
フォン・クルーゲの第4軍配下にあってクライスト装甲集団の右翼を守る、ホト装甲軍団です。
そしてこの軍団を構成する、後に「幽霊師団」と恐れられた第7装甲師団を指揮するのは、
ロンメル少将です。
ここからはいろいろな本でも書かれている、ロンメルの中隊長のような怒涛の大活躍と
傍若無人ぶりが詳しく書かれていて、例えば、一網打尽にされたフランス兵は驚愕あまり、
抵抗もせず、ドイツ戦車兵に尋ねます。「ひょっとして英国軍かね?」
まぁ、相変わらず楽しいですね。
「闘牛士の赤いマント」で連合軍を挑発させ、罠に誘い込む役の北のB軍集団でも、
ヘプナー装甲軍団がフランス軍と大規模な戦車戦を繰り広げています。
しかし大半はⅠ号、Ⅱ号戦車で占められたこの装甲軍団はフランス軍の誇る
新鋭ソミュア戦車の前に歯が立ちません。
あるⅠ号戦車の指揮官は、オチキス戦車にハンマーを持って馬乗りになるという
西方作戦のヘプナー装甲軍団というより、
西部警察の大門軍団のような勇敢な戦いを見せますが、
彼はあえなく振り落とされ、オチキスの下敷きとなって戦死・・。
それでも彼の死は無駄ではなく、ヘプナー装甲軍団は脇役の地位から解放され、
A軍集団の指揮下に編入されて、装甲突進の一翼を担うことになるのでした。
順調に進撃を続けるグデーリアンですが、司令官たちが恐怖する「開けっ放しの左側面」が
ここに至って大問題に・・。遂にクライストによる停止命令。
そしてこれに反発し、解任を申し出るグデーリアン・・。
第12軍司令官リストとルントシュテットの取り成しによって、「威力偵察」なら認める妥協案・・
といった有名な展開も詳しく検証。。
あまりの順調さに、逆に不安が募り「反撃の亡霊」に取りつかれた、ヒトラーによる停止命令です。
さらには海峡沿岸部への突進、ダンケルクを目前とした「アラスの停止命令」が・・。
ここからはこの「誰の目から見てもグロテスク極まりない失敗」について徹底的に検証します。
賛成したのはヒトラーとゲーリングに、A軍集団司令官のルントシュテット。
反対するのはグデーリアンらの軍団長と、かつて握りつぶしたマンシュタイン・プランを
いまや嬉々として「イケイケ」で進める参謀本部のハルダーとブラウヒッチュ。
この停止命令のさまざまに云われている理由・・、「地面が軟弱で戦車に向かない」や
「空軍力だけで攻め切れると思った」、そして「英国を本気で打倒する気がなかった」を
それらの「説」ごとに分析。アーヴィングの「ヒトラーの戦争」も引用しながら、
「ダンケルクの謎」に迫ります。本書の結論は、非常に興味深いものでした。
最後には「勝利と敗北:その要因」として、前大戦からの両国と西方戦役全般を振り返ります。
下士官から兵に至るまで指揮官としての自主性が培われていたという「委任戦術」、
また、「速攻と奇襲」や2正面を恐れるドイツの「短期決戦」伝統などの要素のほか、
無線、戦車、航空機という3つの要素が融合して化学変化を起こし、
極めて発火性の強い爆発物が形成され、その破壊力にはグデーリアンでさえ驚いた・・。
結局のところ本書は「電撃戦の幻」という邦題、「電撃戦伝説」という原題からイメージする
肯定的、否定的な観点で書かれたものではなく、「西方戦役は電撃戦だった」という前提のもと、
それがどのようにして生まれたのか・・を研究しているものでした。
電撃戦モノだけではなく、西方戦役モノとしても、自分が読んだ中で間違いなく最高のモノです。
レビューが長くなりすぎるので、これでも大分端折りましたが、登場人物には
アプヴェーアのカナリス提督からA軍集団の参謀を務めるトレスコウ、フランスならドゴール、
もちろんドイツ空軍の活躍と、登場人物とエピソードも実に多彩で、まったく飽きさせません。
高いと思われる方もいるとは思いますが、上下で6000円ならコレは間違いなくお釣りがきます。
これ、軍人が書いたと思えないぐらい面白かったですね。
フランスの情報量が多かったのよかったです
けど、現代ドイツ人らしく、ヒトラー過小評価しすぎかなと。
他はリデルハートでさえも、彼のマインシュタイン採用した直感の凄さたたえているので。
あと、現場の話面白かったですね。ロンメル少将、バルク(のち大将)中佐の活躍、アルデンヌ突破、フランス軍のダメさ。ドイツの生の声が聞けました。
by 石井孝明 (2011-10-05 23:12)
こんにちわ。
本書は最高でしたね。最初は専門的で難しいのかと思っていましたが、当初の著者の研究資料を一般向けに校閲した結果、楽しい読み物になったようですが・・。
>彼のマインシュタイン採用した直感の凄さたたえているので。
これについてはボクも同意見です。
それでも本書はいざ電撃戦が始まってからの、現場での内容の濃さが圧倒的に楽しめました。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-10-06 09:23)