偽りの街 [戦争小説]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
フィリップ・カー著の「偽りの街」を読破しました。
今回はちょっと志向を変えて、第三帝国を舞台にした「ハードボイルド小説」のご紹介です。
大作をやっつけた後は、どうしてもリハビリ的にこういうのを欲してしまいますね。。
ローストビーフを4枚平らげたあとに、ビターチョコのデザートが食べたい・・なんて気分です。
本書は1936年のベルリン・オリンピック開催前後の首都ベルリンが舞台の「探偵もの」で、
著者はスコットランド人ですが、「ファーザーランド」のロバート・ハリスもイングランド人、
「SS-GB」のレン・デイトンも同様ですし、ジャック・ヒギンズも当然と、
この手の小説の書き手は英国人ばっかりですね。
まぁ、米国人とドイツ人には、この時代の小説はなかなか書けないのかも知れませんが・・。
ストーリーは、ベルリンでしがない探偵業を営む主人公のグンターのもとに、
ルールの鉄鋼王ジクスから仕事の依頼が舞い込みます。
それは一人娘とその夫が射殺、そして放火された末、高価な首飾りが盗まれた、という内容で
調査を進めるうちに、殺された娘婿の夫がSS全国指導者ヒムラー直属のSSの大尉であり、
ときのプロイセン首相、ゲーリングからも強制的に極秘の調査を依頼されるなど、
彼の周辺は危険に満ちた、怪しい雰囲気になっていく・・というものです。。
主人公のグンターは非常に個性的な人物で、若くして第一次大戦に従軍し、戦後は警察官に。
しかし、ナチスの台頭による警察への介入に嫌気がさして、早々に退職した・・という経歴です。
そして最も際立っているのが「口の悪さ」です。
まぁ、減らず口というか、敵だろうが女性だろうが、冗談ばっかり言っていて、
しかも一人称ですから、その減らず口は3倍くらいになります。
個人的に気に入ったのは、主人公がセクシー女優から誘惑されるシーンですね。
「「あなたが欲しいの」という声がズボンのチャックの中に響いた」。
コレは男なら一度くらい経験があるんじゃないかなぁ・・?
ハードボイルドらしい、エロい表現ですね。。
この1936年という時代、ナチ党やゲシュタポという組織は、ヒトラー政権の4年目という時期で、
SS組織の再編成や、権力闘争が激しく行われていたときでもあります。
そのようなことから、ゲーリングがベルリンで創設した本書の敵役ゲシュタポも、
「百姓あがりのひよっこ」ヒムラーに奪われたことを面白く思っていないゲーリングの
息のかかった連中がベルリンのゲシュタポ内部には存在していて、
彼らは上官であるヒムラーに報告することなく、内密に捜査を行ったりしているわけですね。
もちろん初代ゲシュタポ長官のディールスや刑事警察(クリポ)長官のネーベの話も出てきますし、
以前にココで紹介した「ゲシュタポ」本を読まれている方なら、一層、楽しめます。
最後には、現ゲシュタポ長官ハイドリヒがしっかりと登場し、
グンターをダッハウ強制収容所へと送り込み、そこに収監されている、ある人物から
情報を聞き出す任務を無理やり与えるという展開ですが、
怪しい人間を片っ端から強制収容所送りにしているゲシュタポ長官が
なぜこんなことをさせるんだろう・・と不思議に思われるかも知れません。
本書でもグンターは「ダッハウの所長に尋問させれば良いじゃないか」と反論しますが、
ハイドリヒの答えは、「そうするとヒムラーに通報が行ってしまうので、避けたいんだ」というものです。
これも強制収容所自体はハイドリヒのライバルである
髑髏部隊のテオドール・アイケの管轄であって、ハイドリヒといえども、
収容所内には手が出せない、ということが前提となっているようですね。
う~ん。なかなか当時の背景を調べ上げているなぁ・・という印象ですが、
逆にこの「SS」という弱肉強食のドロドロの組織をある程度、理解していないと
このような細かい展開が面倒くさく感じるかも知れません。
面白かったのは、街中を監視する、あのマイジンガーが課長を務めるゲシュタポの
「男色撲滅課」の存在です。
グンターが「ゴロツキども・・」と語るように、口の堅い情報屋を脅すにしても
「お前が同性愛者だと通報するぞ・・」ってな感じです。
ラストはこれまたハッピーエンドではなく、重要人物が死んだり、
行方不明のままで終わってしまいます。
このあたりは英国の作家らしい、やや暗いエンディングで個人的には良かったですね。
1992年発刊の本書は、著者による「ベルリン3部作」の第1部で、
次の第2部、以前にオススメのコメントを頂いた「砕かれた夜」もいってみようと思っています。
こちらは、本書の2年後である1938年が舞台で、
またもやヒムラーやハイドリヒが登場するらしいので楽しみですね。
フィリップ・カー著の「偽りの街」を読破しました。
今回はちょっと志向を変えて、第三帝国を舞台にした「ハードボイルド小説」のご紹介です。
大作をやっつけた後は、どうしてもリハビリ的にこういうのを欲してしまいますね。。
ローストビーフを4枚平らげたあとに、ビターチョコのデザートが食べたい・・なんて気分です。
本書は1936年のベルリン・オリンピック開催前後の首都ベルリンが舞台の「探偵もの」で、
著者はスコットランド人ですが、「ファーザーランド」のロバート・ハリスもイングランド人、
「SS-GB」のレン・デイトンも同様ですし、ジャック・ヒギンズも当然と、
この手の小説の書き手は英国人ばっかりですね。
まぁ、米国人とドイツ人には、この時代の小説はなかなか書けないのかも知れませんが・・。
ストーリーは、ベルリンでしがない探偵業を営む主人公のグンターのもとに、
ルールの鉄鋼王ジクスから仕事の依頼が舞い込みます。
それは一人娘とその夫が射殺、そして放火された末、高価な首飾りが盗まれた、という内容で
調査を進めるうちに、殺された娘婿の夫がSS全国指導者ヒムラー直属のSSの大尉であり、
ときのプロイセン首相、ゲーリングからも強制的に極秘の調査を依頼されるなど、
彼の周辺は危険に満ちた、怪しい雰囲気になっていく・・というものです。。
主人公のグンターは非常に個性的な人物で、若くして第一次大戦に従軍し、戦後は警察官に。
しかし、ナチスの台頭による警察への介入に嫌気がさして、早々に退職した・・という経歴です。
そして最も際立っているのが「口の悪さ」です。
まぁ、減らず口というか、敵だろうが女性だろうが、冗談ばっかり言っていて、
しかも一人称ですから、その減らず口は3倍くらいになります。
個人的に気に入ったのは、主人公がセクシー女優から誘惑されるシーンですね。
「「あなたが欲しいの」という声がズボンのチャックの中に響いた」。
コレは男なら一度くらい経験があるんじゃないかなぁ・・?
ハードボイルドらしい、エロい表現ですね。。
この1936年という時代、ナチ党やゲシュタポという組織は、ヒトラー政権の4年目という時期で、
SS組織の再編成や、権力闘争が激しく行われていたときでもあります。
そのようなことから、ゲーリングがベルリンで創設した本書の敵役ゲシュタポも、
「百姓あがりのひよっこ」ヒムラーに奪われたことを面白く思っていないゲーリングの
息のかかった連中がベルリンのゲシュタポ内部には存在していて、
彼らは上官であるヒムラーに報告することなく、内密に捜査を行ったりしているわけですね。
もちろん初代ゲシュタポ長官のディールスや刑事警察(クリポ)長官のネーベの話も出てきますし、
以前にココで紹介した「ゲシュタポ」本を読まれている方なら、一層、楽しめます。
最後には、現ゲシュタポ長官ハイドリヒがしっかりと登場し、
グンターをダッハウ強制収容所へと送り込み、そこに収監されている、ある人物から
情報を聞き出す任務を無理やり与えるという展開ですが、
怪しい人間を片っ端から強制収容所送りにしているゲシュタポ長官が
なぜこんなことをさせるんだろう・・と不思議に思われるかも知れません。
本書でもグンターは「ダッハウの所長に尋問させれば良いじゃないか」と反論しますが、
ハイドリヒの答えは、「そうするとヒムラーに通報が行ってしまうので、避けたいんだ」というものです。
これも強制収容所自体はハイドリヒのライバルである
髑髏部隊のテオドール・アイケの管轄であって、ハイドリヒといえども、
収容所内には手が出せない、ということが前提となっているようですね。
う~ん。なかなか当時の背景を調べ上げているなぁ・・という印象ですが、
逆にこの「SS」という弱肉強食のドロドロの組織をある程度、理解していないと
このような細かい展開が面倒くさく感じるかも知れません。
面白かったのは、街中を監視する、あのマイジンガーが課長を務めるゲシュタポの
「男色撲滅課」の存在です。
グンターが「ゴロツキども・・」と語るように、口の堅い情報屋を脅すにしても
「お前が同性愛者だと通報するぞ・・」ってな感じです。
ラストはこれまたハッピーエンドではなく、重要人物が死んだり、
行方不明のままで終わってしまいます。
このあたりは英国の作家らしい、やや暗いエンディングで個人的には良かったですね。
1992年発刊の本書は、著者による「ベルリン3部作」の第1部で、
次の第2部、以前にオススメのコメントを頂いた「砕かれた夜」もいってみようと思っています。
こちらは、本書の2年後である1938年が舞台で、
またもやヒムラーやハイドリヒが登場するらしいので楽しみですね。
こんばんは、プリンツ!あたしも「偽りの街」読みました。で、次は「ドイツ・レクイエム」をと思っています。小耳に挟んだところでは、作中ではグンター君たいそう気の毒なことになっているらしく、読むのが待ちきれません。もうひとつ気になるのは、終盤出て来るという意外な人物。ライニもハイニも亡くなっている頃ですから、まさかシェレ......いけませんね、自分で楽しみを潰しては。とにかく、読んでみます
by トイフェル (2011-08-05 21:01)
ごめんなさい、「ベルリン・レクイエム」でした。ブラームスにしてしまいましたm(_ _)m
by トイフェル (2011-08-05 21:07)
トイフェルさん。こんばんわ。
本書はトイフェルさんにフィリップ・カー教えて貰ったのがキッカケですから、感謝してますよ~。
3作目の「ベルリン・レクイエム」はそんな展開ですか・・。
また、楽しみが増えましたね。
そうそう、トイフェルさんのお気に入り??の「ナチ・ドイツ軍装読本」も買ったので、近々に独破&レビュー書いてみます。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-08-05 21:59)