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ドイツを焼いた戦略爆撃 1940-1945 [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

イェルク・フリードリヒ著の「ドイツを焼いた戦略爆撃 1940-1945」を読破しました。

ハンブルクやケルン、ドレスデンにベルリンといった大空襲や爆撃について
もっと勉強したいと常々思っていたヴィトゲンシュタインですが、
今年の2月に発売されたばかりの本書を見つけたとたん「うぉ~!!」と声が出ました。
そして520ページで定価6930円・・・「う~ん・・?」。
みすず書房はしっかりした良い本を出してて有名ですが、それにしても高くないかぁ・・?
古書で3000円くらいになるのは1年以上先になりそうだなぁ・・
ということで、例の図書館システムで検索してみると・・、ありました!
凄いぞ!図書館システム!!

ドイツを焼いた戦略爆撃 1940-1945.jpg

第1章は「兵器」です。
1942年の終わりから英空軍省で熱心に研究された焼夷弾による攻撃方法。
それまでベルリンなどの空爆で使用された通常爆弾が敵にさほど損害を与えていないことから、
消防の防火技師も加わって、いかに燃やし尽くすか・・が検討され、
重量のあるブロックバスター弾で建物の屋根や窓を吹き飛ばし、
建物が暖炉のような姿になったところに、焼夷弾を雨のように降り注ぐ・・という戦術です。
このように第2次大戦の爆撃の歴史から始まるものではなく、この焼夷弾から始まるところに
本書のポイントがあり、表紙の写真と同様、原題はズバリ、「火災」です。

Lancaster  Dropping_Blockbuster_ Duisburg_1944.jpg

続いて、英爆撃機軍団とそれに対抗するドイツ本土の空の防衛線である
「カムフーバー・ライン」、そしてそのレーダー網をあざ笑うかのような
「アルミ箔片」による大混乱も紹介されます。
しかし英爆撃機軍団も1943年の時点で3500機が帰還せず、2万名が戦死。
その戦いの様子・・ドイツの迎撃戦闘機に取り付けられた70度の角度の2センチ砲によって
爆撃機の死角である下部後方からの攻撃や、88㎜高射砲から放たれる
1500個もの尖った破片を高速でばら撒く榴散弾の恐怖・・。

Me_109_G-6_.jpg

「戦略」の章ではドイツ本土の無差別爆撃を推奨する英首相チャーチル
爆撃機軍団司令官となったアーサー・ハリスが登場し、繰り返される都市爆撃以外にも、
ダム爆撃による洪水作戦と、1944年3月にチャーチルが米国に注文した
「炭疽爆弾」50万個で、その地を居住不能にしようとしたという話も出てきました。
結局は連合軍がドイツ本土に侵攻することで、この病原菌ばら撒き作戦は中止となり、
より衛生的な「火炎攻撃」を選択します。

Arthur Harris.jpg

このようにして、遂に完成の域に達した、この火災を目的とした爆撃により、
1945年2月には有名なドレスデン大空襲に加え、
人口6万5千人の街プフォルツハイムも3人にひとり、2万人以上が死亡します。
犠牲となった人々の死に方も様々です。
500ポンド爆弾の爆風によって一瞬うちに死んだ人々もいれば、
炎で出来た「キノコ」という猛烈な強風のファイヤーストームに吸い込まれ焼死したり、
燃える突風の中で酸素不足となって、呼吸もできずに息絶えます。
それを避けるために冬のエンツ川に飛び込み、溺死した人々・・。
地下室でも発生したガスで、多くの人々が死んでいきます。

Eine Mutter über dem Kinderwagen ihrer Zwillinge im Tode erstarrt.JPG

連合軍の爆撃戦略によって死亡したのはドイツ市民だけではありません。
ノルマンディ上陸を果たしたアイゼンハワーは当初からドイツ軍の重要拠点を爆撃することを計画し、
それによって、フランスやベルギー市民も数万人単位で死亡することをやむなしとしていたそうです。
そして戦争開始から5年経っても軍人と民間人の区別がつかない「爆弾」は、
ランカスターの絨毯爆撃によって1500名のル・アーヴル市民を殺し、カーンでも3000名、
ブローニュやカレーの湾岸要塞への爆撃で6000名という「フランス大虐殺」が行われます。

d-day-aftermath.jpg

一方のヒトラーは報復兵器「V1」と「V2」でロンドンを廃墟にしようとしますが、
結局は、その精度と破壊力の弱さから英国人9000人程度を殺すに留まり、
この報復兵器は最初から報復能力を欠いていた・・と、本書では言われてしまってます。

Germany's Blitz of London kills.jpg

「国土」の章では、連合軍の空爆を受けた数限りない都市と街が
その歴史から爆撃の被害まで紹介されますが、この次から次へと出てくる地名を
すべて知っているのは、ドイツ人だけではないでしょうか?
ヴィトゲンシュタインは幸いにも、昔からドイツ・サッカーが好きだったこともあり、
ドルトムントやカイザースラウテルン、フライブルク、カールスルーエ、ビーレフェルト、
メンヘングラードバッハなどが紹介されると、昔の名選手やそのシュタディオンの名前と
雰囲気を思い出したりして、別の意味でも楽しめました。

Excellent of large anti-aircraft flak tower in the Tiergarten section.jpg

「防衛」では夜間戦闘機や高射砲といった、迎撃的な話には触れられず、
市民の身の守り方・・が詳しく書かれています。
国家と各々の都市で制定されている防空法によって、地下室が強化され、
また、ベルリンの総統地下壕のような分厚いコンクリートの天井を持つ、
大きなブンカーも各地に作られます。
このブンカーも大きく2種類に分けられ、地下よりも建設費の安い塔状の高射砲ブンカーも
紹介されますが、地下室より安全なブンカーには定員の3倍~4倍の人々が殺到し、
「折り畳み椅子部隊」と呼ばれる人々は、真っ先にブンカーへ突入できるよう
入り口で待ち続けます。
他にも、ヒトラー直々の灯火管制制度に違反をすると、8日間の停電という罰を食らった話も・・。

The enemy sees your light. Darken! 1940.jpg

瓦礫の中での生存者の捜索と救助の様子も印象的です。
特に、最近このような被害を連日TVでも見ていただけに生々しく感じました。
地下4mに潜り込んだ不発弾の処理には防空警備隊や消防士たちが命がけで信管除去に挑み、
それでも人手が足りず「ダッハウ」などの強制収容所の収容者がボランティアとして召集・・。
報酬を期待する彼らは募集12人に対して、100名もが名乗り出ます。
しかし恐るべきは、投下後、36時間~144時間で爆発するようにセットされた時限式爆弾です。。。

Luebeck, Germany, after RAF bombs, March 1942.jpg

更に囚人以外にも、外国人労働者や強制労働従事者には遺体収容作業も待っています。
地下室では出産中の女性の死体や、コークスが燃えて湯に煮られてドロドロになった人々、
炭化して縮んでしまった人々、まるで幽霊のように椅子に座ったままの人々・・。
彼らはアルコールの力を借りて、泣き崩れながらも、これらの遺体の回収を繰り返します。

Dresden, Tote nach Bombenangriff.jpg

撃墜されパラシュートによって助かった連合軍の戦闘機や爆撃機パイロットらは
ジュネーブ条約によって捕虜となるわけですが、
子供を殺したその不時着したパイロットを殴り殺してしまう親も当然存在します。
B-24リベレーターの乗員8名が連行されるとの情報を聞きつけた人々は、
女子供も杖に、棒、スコップで武装して集まり、襲い掛かります。
生き残ったのは2人だけ・・。

in Holland against terror America, 1944.jpg

最後の「日本の読者に向けた後書き」と「訳者後書き」では、2002年に出版された原著は
ベストセラーになったものの、英国のみならず、ドイツ国内からも批判に晒されたということです。
これは、いまだナチス・ドイツの犯罪行為を償う歴史教育が最優先されており、
自国が受けた被害を語ることに多くのドイツ人が引け目を感じているからだそうですが、
本書では多くの市民が死亡した地下室を「火葬場」と呼んだり、
爆撃による死亡者を「抹殺された人々」と書いたり、
爆撃機軍団の最精鋭である第5爆撃航空軍を「特別行動隊」と表現したり
(原著ではアインザッツグルッペです・・)、というのがホロコーストを連想させるようです。

dresden 1945_2.jpg

空からの「火葬」のほうがSS方式の大量殺人よりも法的正当性があるのか・・?
また、爆撃した側は「戦争犯罪人」なのか・・という問題でも、英米の裁判官の誰も
7万人のドイツの子供の死を法的に審査する義務を感じないなら、
爆撃戦争は公的に許容されるのだとしています。

Bombing of World War II.jpg

自分はそれほど違和感は感じませんでしたが、確かに度々登場するチャーチルとハリス司令官は
一般的な戦争モノにおけるヒトラーとヒムラーを連想させるものでした。
上下二段組でビッチリと書かれた本書は写真も数えるほどしかなく、
このボリュームと徹底した内容は、読みながら何度もため息が出ました・・。
本書がドイツ本土爆撃における「決定版」であるのは間違いないでしょう。



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しゅり

おはようございます、ヴィトゲンシュタインさん。
この本、私も注目していました。
しかーし!ヴィトゲンシュタインさんもおっしゃるように高価な本なので
長ーい目で暴落を待とうとしている私です。

さて、ドイツへのこのような絨毯爆撃をきちんと書いた本は少ないのではないでしょうか?
ヴィトゲンシュタインさんの書評を読んでいるだけでも内容の貴重さをひしひし感じます。
ブロックバスター弾で建物を形骸化して、その後で焼きつくす・・・という戦力があったのですね。
ドイツへの空襲後の写真を見ていると、キレイに形骸化された建物が写っていて、日本と違いレンガ作りの建物はこういう焼け残り方をするのかなと思っていましたが、ちゃんと理由があるのが驚きでした。
その建物を戦後、修復して使っているのがまた驚きですよね。

強力なバンカーも凄いですよね。
ベルリンにもいくつも残っているようですが、戦後解体しようと試みても無理で未だに残っているというくらいなので、この爆撃に対しても功を奏したのが感じられます。

あぁ、欲しいなー、この本(笑)。

by しゅり (2011-06-02 06:22) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も。しゅりさん、こんにちわ。

>長ーい目で暴落を待とうとしている私です。

自分も買ったわけではないので、暴落狙いです。しゅりさんと奪い合いになるかも知れませんね。。

そして、しゅりさんも言われるとおり、ホントにこの手の本は少ないですね。
長く続いたハンブルク空襲について書かれた本や、ドレスデンくらいあっても良さそうですが、たぶん翻訳されてないだけなんだと思いますけど・・。

第二次大戦のドイツの遺跡・・みたいのを1年前くらいかな、NHKでやっていたのを観ましたが、やっぱり巨大ブンカーも登場して、中も紹介したりして、興味深かったです。
ドイツに行ったらいろいろ行きたいスポットも増えてきました。

そういえばちょうど良いタイミングで「ヒトラー戦跡紀行―いまこそ訪ねよう第三帝国の戦争遺跡」という本も出たので、ちょっと読んでみようと思ってます。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-02 12:28) 

しゅり

ヴィトゲンシュタインさん、こんにちは。
おおお!
私も「ヒトラー戦跡紀行―いまこそ訪ねよう第三帝国の戦争遺跡」をチェックしています。
各種いろんな本の暴落を待つ私(笑)。

私も次回ドイツ、ベルリンに行った際には行きたいところが目白押しです。
たくさんあってなかなか回りきれません。

by しゅり (2011-06-03 06:43) 

ヴィトゲンシュタイン

こんにちわ。

むむ、やっぱりチェックしてましたか・・。

Blogの先輩しゅりさんの過去記事をいろいろ拝見しました。
「DEUTSCHLAND」のカテゴリーは特に面白いですね。
映画も「ラン・ローラ・ラン」とかあったりして・・。コレ、自分も好きです。
なかでもハンス・ペーター・リヒターの「あのころはフリードリヒがいた」などの3部作は大変気になりました。とても子供向けとは思えない内容のようですね。。
すでに「暴落価格」なので買ってみようかなぁ。。

by ヴィトゲンシュタイン (2011-06-03 12:29) 

北欧の鷹

まだ序盤ですが読んでいます
戦略爆撃機の大量破壊は事前に街を調査し正確無比に爆弾を落としているですね
ただ目標に漫然とばら撒いている訳ではないですね
手の込んだ非常に計画的作戦に驚愕します

自分も図書館で借りました
これと他にスターリンとヒトラーや東京のハーケンクロイツを盆休みに読破する予定です
by 北欧の鷹 (2011-07-29 16:25) 

ヴィトゲンシュタイン

北欧の鷹さん。こんばんわ。
やってますねぇ。中盤が結構キツイんで頑張ってくださいね。
ヴィトゲンシュタインも夏休みの宿題、ガンバリマス。

by ヴィトゲンシュタイン (2011-07-29 19:41) 

IZM

ヴィト様、
いつもお世話になっています。
当方の記事にコメント下さりありがとうございました。改めてこちらの記事を読み返すと、日本の現状や政治やらも頭の中でクロスオーバーしてちょっと冷静になれませぬ。。。
ムンスターのパンツアーミュージアムにも今日行ってきたばかりなので、これも記事に出来るように頑張ります~。
by IZM (2013-09-02 03:05) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も。IZMさん。
昨日、防災の日ということもあってか、連日NHKで、震災関連のドキュメンタリーを放映しています。
ボクも最近、日本モノやってますし、「東京大空襲」とか、「関東大震災」の本を読んでみる予定です。

ムンスター楽しみですね!
by ヴィトゲンシュタイン (2013-09-02 18:17) 

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