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密告者ステラ -ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女- [女性と戦争]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ピーター・ワイデン著の「密告者ステラ」を読破しました。

1年前に偶然本屋で見かけて以来、このタイトルといい、副題といい、表紙の写真も含めて、
どんな内容なんだろう・・と気になっていた一冊ですが、1000円で綺麗な古書が売っていたので
早速、読んでみました。
ユダヤ人の著者が美貌のユダヤ人を告発するということから、
スキャンダラスで大げさな内容も予想しましたが、
500ページとなかなかボリュームある本書は、しっかりした調査に基づいたもので、
それは著者とステラの関係が明らかになるにつれて、真実味を増していきます。

密告者ステラ.jpg

1923年のベルリン生まれの著者の思い出から始まります。
その10年後にはヒトラーが政権を握り、反ユダヤ政策を実行に移しだすという子供時代、
彼の通っていたユダヤ人学校でのマリリン・モンロー・・、ステラとの出会いです。
一人っ子でお姫様のように甘やかされて育ったステラは、金髪でスラッとした長い脚・・と
典型的なアーリア人風、ドイツ系ユダヤ人です。

ヒトラーによるユダヤ人排除のための法制が加速すると、
著者の母親は早くもアメリカへの移住を決意します。
この1935年当時でも、国外移住というのは大変な計画で、米国領事館への長蛇の列に並び続け、
「帝国逃亡税」などという、大金もナチス国家に納めねばなりません。
それでも、まだ可能であったこの早い時期に著者の家族はベルリンの友人たちと別れ、
無事にニューヨークへ旅立つことが出来たのでした。

Nazi Boycott Against Jews Begins April 1, 1933.jpg

「避難」、「移送」、「移住」、「一掃」、「整理」のスペシャリスト、アイヒマンが登場してくると
助手であるアロイス・ブルンナーの活躍が紹介されます。
これは即ち、集められたユダヤ人の秩序を守るための「ユダヤ人による保安業務」という
アイディアであって、特定のユダヤ人をナチスの協力者として活用するものです。
自分は助かりたいという心理を突いたこの作戦は、
ゲットーでもユダヤ人の保安チームが目を光らせ、
強制収容所でも、悪名高い「カポ」と呼ばれる「囚人頭」がドイツ人看守に気に入られようと、
同胞のユダヤ人に対し、率先して虐待したことも良く知られています。

Alois Brunner.jpg

1938年に起こった「水晶の夜」事件。
ユダヤ人の商店や住宅などが次々と襲われた暴動ですが、
ステラの通う、ユダヤ人学校の周りにもヒトラー・ユーゲントが暴徒となって取り囲む状況です。

そして1940年、ステラの家でもアメリカ移住を計画しますが、すでに時は遅く、
アメリカは著名な芸術家や科学者などでなければユダヤ人の受け入れは認めなくなっていました。
さらに翌年からは有名な「ダビデの星」を服に縫い付ける法令が出されます。

judenstern_1.jpg

ステラと両親は地下に潜って・・これを「Uボート生活」と言うそうですか゛・・、
偽造書類を手に入れての非合法生活を送ります。
しかし、あるとき知り合いのユダヤ人であるインゲに密告され、
遂にゲシュタポの手に落ちることに・・。
以前に読んだ「ナチ将校の妻 - あるユダヤ人女性:55年目の告白」も
このような「Uボート生活」と言うんでしょうかね。

Judenstern.jpg

そこでは床に水を張った狭い独房に入れられ、座ることも寝ることもできず、
厳しい尋問では「偽造書類」を作った友人の家を聞き出そうと執拗に攻め立てます。
拳銃をこめかみに当てられ、口、耳、鼻からも出血したステラ。
彼女の両親も捕まり、アウシュヴィッツ行きのリストに載せられていることを知り、
ゲシュタポへの協力を余儀なくされます・・。

ゲシュタポにとっても、ステラのルックスとセックスアピール、Uボート生活者の習慣や隠れ家を知る
ブロンドの青い目のユダヤ女、ステラは、スター候補でもあります。
こうして、ブロンドの悪魔こと「密告者ステラ」が誕生し、彼氏であったユダヤ人とのコンビで
ゲシュタポの身分証明書と拳銃を携えて、次々と旧友たちを探し出しては、逮捕していくのでした。

Stella Goldschlag.jpg

やがて、ステラの奉仕によって輸送を免れていた両親もテレージエンシュタットへ
輸送されてしまいますが、戦況はドイツにとって不利になっていきます。
そして終戦、ステラを使っていたゲシュタポのSS大尉ドッバーケらはソ連軍に捕えられ、
妊娠しているステラはベルリン郊外の隠れ家で過ごします。
しかしここにもソ連軍が押し寄せると、お馴染み「もはや病気だった」というレイプ・・。

berlin-1945-ww2-second-world-war.jpg

なんとか難を逃れたステラは無事、女の子を出産しますが、結局、地元で逮捕され、
「裏切り者」の烙印を押されたユダヤ人コミュニティでブロンドの髪を刈られ、
最終的にはソ連占領軍による裁判で、10年の強制労働という判決を受けるのでした。

そして10年後、西ドイツに戻ってきたステラを待っていたものは、
「毒のブロンド」に対する怒りが未だ収まらない
ユダヤ人の証人に溢れた、西ドイツ当局による裁判です。
堂々としたステラは怯むことなく、すべてを否定し、自分も被害者であったかのように語ります。

本書では先に書いた強制収容所の「カポ」のように、ナチに協力したユダヤ人も
いろいろと紹介します。それは、アウシュヴィッツのタイピストの女性であったり、
メンゲレなどの医者の助手として働いた、ユダヤ人医師ら・・。
拒否すれば、無用な人間として、即刻、ガス室行き・・という状況で、
協力を断れる人間がいるのでしょうか??

Auschwitz doctor Josef Mengele (second left).jpg

著者は「密告者ステラ」の犯罪性をこのように比較しながら検証もしていますが、
最後には1990年、彼女の口から真実を語ってもらうべく、直接ステラの元を訪れます。
古い友達との再会・・しかし、2人の立場は大きく違います。

原著は1992年に発刊され、TVなどでも話題になったことが書かれていますが
(こんな女は殺してしまえ!など・・・)、
このステラについて、ちょっと調べてみると、2年後の1994年に自殺しているようです。

Stella.jpg

500ページすべてが「ステラ」に関するものではなく、その他のユダヤ人の友人たちの生活なども
多く書かれ、ホロコーストという意味でも、ハイドリヒヴァンゼー会議も詳しく登場。
最終戦ではシュタイナーSS大将ヨードルのやり取りなんかも出てきたり・・と
バラエティにも富んでいて、
特にベルリンに潜伏したステラのようにアーリア人の風貌をしたユダヤ人が、
堂々とした態度で振る舞うことでゲシュタポの手から逃れた・・という
いくつかの例は、なんとも爽快でした。



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