秘密機関長の手記 [回想録]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
シェレンベルグ著の「秘密機関長の手記」を読破しました。
昭和35年(1960年)に発刊された、ヴァルター・シェレンベルクSS少将の有名な回想録です。
シェレンベルクは過去に何度もこの「独破戦線」に登場した人物ですが、
さすがのナチSSのスパイのボスだけあってか、本書も姿を消したかのように
今まで実物を見たことがありませんでした。
原著の発刊は1956年のようで、この翻訳版はドイツ語版ではなく、表紙のタイトル通り
フランス語版の翻訳で、持った感じは薄いですが340ページで2段組みにびっしり書かれた1冊です。
また、訳者あとがきによると完訳ではなく、いくつかの章や全体的な「刈り込み」もしているそうです。

本書がいつ、どのようにして書かれたのかは全く書かれていませんが、
シェレンベルクが終戦とともに米軍に逮捕され、ニュルンベルク裁判の証人や
被告として拘留されていた1951年までの間に書かれたようで、
このような回想録はグデーリアンも同様ですね。
しかしこのような拘留中の回想録というものは、一歩間違えば、
自分にとって「死」を意味するほどの内容となりかねないわけで、
逆に自分にとって有利な内容になるのは必然だと思います。
その意味では、本書の内容は「怪しい・・」とされているようですが、過去に読んだSSモノなどで
頻繁に引用されている本書を、なんとか一度読んでみたいと思っていました。

7人兄弟の末っ子として1910年に生まれたシェレンベルク。ボン大学で法律を学ぶものの、
実家の財政が不安定となったことから、給費を獲得しやすくするため、
ヒトラー政権が誕生した1933年、ナチ党へ入党し
ビアホールでバカ騒ぎを繰り返すSAとは違い、SSの黒い制服というのも魅力に映った彼は
SS隊員を選択します。

ここではアイヒマンと同様、軍事訓練に嫌気がさし、大学生の活動として認められていた
講演を行うこととなると、キリスト教の教育を母から受けていた彼ですが、
カトリック教会を攻撃しつつゲルマン法の発展を論じ、これがハイドリヒの目に留まります。
SS隊員の義務から解放される・・ということで躊躇なくSD(親衛隊保安部)入ったシェレンベルクの
周りには局長のヴェルナー・ベストやハインリッヒ・ミュラーなどが次々と姿を現します。

やがてSD本部勤務となると、SD長官ハイドリヒと親密な関係を築き上げていくわけですが、
まず彼のハイドリヒ評が数ページ書かれ、こういうのはとても興味深いですね。
要約すると「絶えず警戒を怠らず、危険に際しては迅速に仮借なく行動する肉食獣の本能を持ち、
異常な野心家であり、あらゆる点で一番すぐれた人間でなければならず、
敵対し合う者がいると、その双方に相手の不利な情報を売りつけて、互いに戦わせる手腕では
達人の域に達していた」。
また、「ヒトラーの気ちがいじみた計画を実現させることで
「薬箱」の中のような必要不可欠な人物となった」としています。

こんなハイドリヒに好かれた理由を、彼がベルリン社交界の知的文化的サークルという
ハイドリヒが入り込むことの出来ない世界に精通していたことも理由のようだと語っています。
ここではハイドリヒ夫人との「不倫疑惑」によって毒を盛られたという例の話が出てきましたが、
「ドライブに行っただけ」という展開で、ハイドリヒも納得したようです。
フリッチュに対する男色容疑やトハチェフスキーに対する陰謀なども紹介され、
1939年、RSHA(国家保安本部)が発足し、ポーランド侵攻となると、
IV局 E部(ゲシュタポの国内防諜部)の部長となった若干29歳のシェレンベルクSS少佐は
SS全国指導者ヒムラーの専用列車で働くことになります。
朝から晩までの前線視察に同行するこのポーランド戦の最中、
お腹が減ったと言うヒムラーに、幕僚長カール・ヴォルフはシェレンベルクのサンドウィッチを取り、
2人でパクつきますが、前日の残り物であったそれに「緑色のカビ」が生えているのに気が付くと、
ヒムラーの顔はカビよりも緑色になり・・・。

続くオランダ国境での「フェンロー事件」はさすが当事者だけあって、とても詳細に書かれています。
特に英国諜報員2人の拉致に伴う、SS隊員たちとの銃撃戦に巻き込まれ、右往左往する様子は
「命拾いをした」という感想からもわかるのでないでしょうか。
また「ウィンザー公誘拐」に関する章は、ヒギンスの小説そのままの感じです。
要はアクションシーンが無いだけですね。

戦争も激しくなろうとすると、ハイドリヒから再編した第VI局(国外諜報)の局長に任ぜられます。
しかし、この任務にはカナリス提督の国防軍情報部(アプヴェーア)以外にも
リッベントロップの外務省というライバルとの戦いをも意味します。
そして反ヒトラー派として、徐々にヒトラーの信用を失っていったカナリスよりも
最後までヒトラーの庇護を受けたいと願うリッベントロップが強力に邪魔な存在となっていくのでした。
2CSchellenberg20(second20from20left)2C.jpg)
日本とゾルゲに関する章では、最近気になっている人物の一人、
ゲシュタポのマイジンガーが登場しました。
ゲシュタポ長官のミュラーの親友ですが、実はミュラーの後釜を狙う、恐るべき不倶戴天の敵で、
シェレンベルクも弱みを握られ、ハイドリヒに報告すると脅迫されます。
この窮地にアインザッツグルッペンの司令官代理として「ワルシャワの殺人鬼」という異名を持つ、
「この人間以上に獣的な、随落した、非人間的なことがわかる大変な書類を作成した」彼は
これをさりげなくミュラーに回し、報告を受けたヒムラーが「軍法会議に引き出せ」と命じます。
しかし、ここを執成したのはハイドリヒ・・。シェレンベルクでさえもわからないと言う、この展開の末、
日本酒を何升も浴びるように飲むという能力を買われてか、
警察関係の大使館員という資格で東京へ派遣されます。

ヒムラーが日本に非常に興味を持ち、SS候補生に日本語を学ばせて40名を日本陸軍や
スパイとして送り、同様にこちらも受け入れる・・という計画があった話や、
日本大使館の一人がドイツ娘と結婚を熱望しているという件では、
人種的問題からヒトラーとヒムラーは反対するものの、リッベントロップは賛成・・。
数ヵ月に渡る喧嘩の末、専門家によって人種法の抜け穴が見つけ出されて、
結婚の許可が与えられた・・という初めて聞く話もありました。

対ソ戦を前に週に数度もカナリスと乗馬談義するシェレンベルクは、参謀本部でさえ
数週間で終わってしまうという楽観論に反対するカナリスの意見を紹介します。
上官であるカイテル元帥がソ連の軍事力を認めず、「カナリス君、きみの所属は海軍なんだから
政治や戦略のことで我々に講義しようとしないでくれ」。
ロシア人捕虜をスパイとして教育し、ロシア領土の真ん中に降下させるという「ツェッペリン作戦」や
ウラソフ将軍と彼の部下を誰の権限下に置くかで紛糾・・。
まず、陸軍、次にローゼンベルクの東方省、そしてヒムラー、
最後には「不思議なことに」リッベントロップまでが主張します。

1941年の冬、モスクワ面前で立ち往生する夏服のドイツ陸軍。
この物資納入の極度の不足に憤慨するのはハイドリヒです。
「寒さのために死んだ兵士100人ごとに、経理部員を上の方から一人づつ銃殺すべきだ」。
そして翌年、ハイドリヒがベーメン・メーレン保護領の副総督に任命され
(「任命されたよ!」と嬉しそうに報告するハイドリヒを初めて可愛らしく感じました・・)、
その政策が成果を上げると、ヒトラーが彼と二人だけで協議するようになったことで、
ヒムラーの嫉妬やボルマンの陰謀にハイドリヒは困惑し始めます。
そこでヒトラーの側近にシェレンベルクを送り込む・・という案を提示するハイドリヒですが、
その直後、暗殺・・。
シェレンベルクは、この事件に使われた武器が英国製であることを認めたうえで、
我々も入手していたものとし、さらに最上の名医たちにかかる重体のハイドリヒに
ヒムラーの従医が施した治療法が他の医師たちから非難された・・として、
暗にヒムラーによる暗殺説としているようです。

1942年になると、早くもシェレンベルクはヒムラーの専属マッサージ師ケルステンの後ろ盾を得て、
和平工作の道を探り出そうとします。
しかしヒムラーは「リッベントロップの白痴が総統の耳を奪っている限り、何も出来ない!」。
そこでリッベントロップといつも仲たがいしている「略奪王」ゲーリングを利用しては・・。
まさにハイドリヒ直伝の作戦ような感じがします。

そしてここでも不気味なのはボルマンです・・。しかしそのボルマンから愛人問題で党の金、
8万マルクを借りてしまうという失態を犯すヒムラーに、納得のいかないシェレンベルクです。
それでも彼はヒトラーの耳と腕となって四六時中張り付くボルマンについて、
「極めて複雑な問題を明瞭で的確な言葉に要約し、簡潔に説明する技術を持っていた」
として、その手際の良さに感心し、自分の報告においてもこの方法を採用しようと決心したそうです。

側近の中でも最年少ということに気後れしつつも、英国とのパイプラインを維持しながら、
ヒムラーへ和平を説くシェレンベルク・・。「総統の意に反する仕事をするのはもう御免だ。
私は総統と協力したいのだ!」といきり立つSS全国指導者・・。
カルテンブルンナー・・。ハイドリヒの死後、ヒムラーが兼務していたRSHA長官に任命された男。
同郷のオーストリア人という理由でヒトラーが指名したこの人物との戦いがここから始まります。
先日の「ゲシュタポ」に書かれていたのと全く同じ、最低の人物像が語られますが、
とにかく最大の敵、リッベントロップを追い落とすため、やはりオーストリア人の
ザイス=インクヴァルトを外相に・・とご機嫌をとって味方につけようとします。

いわゆる「最終戦」という状況になってくると、そのリッベントロップから呼び出しを受け、
ヒトラーからの極秘計画を打ち明けられます。
それはドイツを救うために、スターリンとの会談を計画し、その席で殺す・・というものです。
カナリスのアプヴェーアを吸収し、その長官の逮捕に向かうシェレンベルク。
この尊敬する先輩に「逃走」を示唆しますが、カナリスは拒否し、
「君は最後の希望なんだ、さようなら、若い友よ」。そして二人は2度と会うことはありません。

最後はスウェーデンのベルナドッテ伯爵らとの和平に明け暮れる様子。
ここら辺は、SS興亡史での終焉と同じですが、元ネタは本書ですね。
デーニッツの新政権ではヒムラーはのけ者にされ、結局自殺しますが、
シェレンベルクは、新外相候補のフォン・クロジックとデーニッツの信任を得て、
「特派大使」としてデンマークとスウェーデンへの停戦交渉へと向かいます。
あとがきに書かれている「刈り込み」箇所は次の通りです。
防諜に関する技術的な3章とオットー・シュトラッサー暗殺の使命に関する章、
そして外務省との勢力争いの関する章、の5章です。
また、シェレンベルグが人から与えられた「賞賛」を書いている箇所も
「内容とは無関係に自画自賛を繰り広げられて、訳しながら、
まことに付き合いきれない」ということで「刈り込まれた」ようです。

これらの「刈り込み」対象になったかとうかは不明ですが、この回想録に書かれている、と
なにかの本に書かれていたココ・シャネルとの話は一切ありませんでした。
原書に書かれているのかどうかもわかりません。
それにしても、ヒムラー、ハイドリヒ、ミュラーにカルテンブルンナーについて、
これほど会話も含め、生々しく書かれたものを読んだことはありませんでした。
また、ボルマンとミュラーについては共産主義者であったとし、ソ連へ逃亡したという認識で、
ある意味、ライバルでもあったゲーレンの回想録と同じような見解ですね。

その他、海外での諜報活動に関する部分も非常に具体的に書かれていますが、
やはり、この第三帝国における、弱肉強食の争い・・、ライバルや敵を貶めて、
自分がのし上がる・・という油断も隙もない世界であったことが良く伝わってきます。
そして、結構読んだことのある話も多いことからも、逆に本書が如何にネタ本となっているかを
証明していると思います。

今回、意識的にいつもよりも細かく書いたんですが、それには理由があります。
本書は「独破戦線」で初めて、購入したものではありません(定価は430円!!)。
実は「図書館」から借りたものです。なので、ちょっと読み直し・・というわけにいかないんですね。
この図書館・・、小学生以来利用しましたが、現在のシステムは凄いですねぇ。
この話は長くなりそうなので「独破リスト」で・・。
今まで、全く知らなかったこの図書館システムは、たまに利用してみようと思っています。
シェレンベルグ著の「秘密機関長の手記」を読破しました。
昭和35年(1960年)に発刊された、ヴァルター・シェレンベルクSS少将の有名な回想録です。
シェレンベルクは過去に何度もこの「独破戦線」に登場した人物ですが、
さすがのナチSSのスパイのボスだけあってか、本書も姿を消したかのように
今まで実物を見たことがありませんでした。
原著の発刊は1956年のようで、この翻訳版はドイツ語版ではなく、表紙のタイトル通り
フランス語版の翻訳で、持った感じは薄いですが340ページで2段組みにびっしり書かれた1冊です。
また、訳者あとがきによると完訳ではなく、いくつかの章や全体的な「刈り込み」もしているそうです。

本書がいつ、どのようにして書かれたのかは全く書かれていませんが、
シェレンベルクが終戦とともに米軍に逮捕され、ニュルンベルク裁判の証人や
被告として拘留されていた1951年までの間に書かれたようで、
このような回想録はグデーリアンも同様ですね。
しかしこのような拘留中の回想録というものは、一歩間違えば、
自分にとって「死」を意味するほどの内容となりかねないわけで、
逆に自分にとって有利な内容になるのは必然だと思います。
その意味では、本書の内容は「怪しい・・」とされているようですが、過去に読んだSSモノなどで
頻繁に引用されている本書を、なんとか一度読んでみたいと思っていました。

7人兄弟の末っ子として1910年に生まれたシェレンベルク。ボン大学で法律を学ぶものの、
実家の財政が不安定となったことから、給費を獲得しやすくするため、
ヒトラー政権が誕生した1933年、ナチ党へ入党し
ビアホールでバカ騒ぎを繰り返すSAとは違い、SSの黒い制服というのも魅力に映った彼は
SS隊員を選択します。

ここではアイヒマンと同様、軍事訓練に嫌気がさし、大学生の活動として認められていた
講演を行うこととなると、キリスト教の教育を母から受けていた彼ですが、
カトリック教会を攻撃しつつゲルマン法の発展を論じ、これがハイドリヒの目に留まります。
SS隊員の義務から解放される・・ということで躊躇なくSD(親衛隊保安部)入ったシェレンベルクの
周りには局長のヴェルナー・ベストやハインリッヒ・ミュラーなどが次々と姿を現します。

やがてSD本部勤務となると、SD長官ハイドリヒと親密な関係を築き上げていくわけですが、
まず彼のハイドリヒ評が数ページ書かれ、こういうのはとても興味深いですね。
要約すると「絶えず警戒を怠らず、危険に際しては迅速に仮借なく行動する肉食獣の本能を持ち、
異常な野心家であり、あらゆる点で一番すぐれた人間でなければならず、
敵対し合う者がいると、その双方に相手の不利な情報を売りつけて、互いに戦わせる手腕では
達人の域に達していた」。
また、「ヒトラーの気ちがいじみた計画を実現させることで
「薬箱」の中のような必要不可欠な人物となった」としています。

こんなハイドリヒに好かれた理由を、彼がベルリン社交界の知的文化的サークルという
ハイドリヒが入り込むことの出来ない世界に精通していたことも理由のようだと語っています。
ここではハイドリヒ夫人との「不倫疑惑」によって毒を盛られたという例の話が出てきましたが、
「ドライブに行っただけ」という展開で、ハイドリヒも納得したようです。
フリッチュに対する男色容疑やトハチェフスキーに対する陰謀なども紹介され、
1939年、RSHA(国家保安本部)が発足し、ポーランド侵攻となると、
IV局 E部(ゲシュタポの国内防諜部)の部長となった若干29歳のシェレンベルクSS少佐は
SS全国指導者ヒムラーの専用列車で働くことになります。
朝から晩までの前線視察に同行するこのポーランド戦の最中、
お腹が減ったと言うヒムラーに、幕僚長カール・ヴォルフはシェレンベルクのサンドウィッチを取り、
2人でパクつきますが、前日の残り物であったそれに「緑色のカビ」が生えているのに気が付くと、
ヒムラーの顔はカビよりも緑色になり・・・。

続くオランダ国境での「フェンロー事件」はさすが当事者だけあって、とても詳細に書かれています。
特に英国諜報員2人の拉致に伴う、SS隊員たちとの銃撃戦に巻き込まれ、右往左往する様子は
「命拾いをした」という感想からもわかるのでないでしょうか。
また「ウィンザー公誘拐」に関する章は、ヒギンスの小説そのままの感じです。
要はアクションシーンが無いだけですね。

戦争も激しくなろうとすると、ハイドリヒから再編した第VI局(国外諜報)の局長に任ぜられます。
しかし、この任務にはカナリス提督の国防軍情報部(アプヴェーア)以外にも
リッベントロップの外務省というライバルとの戦いをも意味します。
そして反ヒトラー派として、徐々にヒトラーの信用を失っていったカナリスよりも
最後までヒトラーの庇護を受けたいと願うリッベントロップが強力に邪魔な存在となっていくのでした。
2CSchellenberg20(second20from20left)2C.jpg)
日本とゾルゲに関する章では、最近気になっている人物の一人、
ゲシュタポのマイジンガーが登場しました。
ゲシュタポ長官のミュラーの親友ですが、実はミュラーの後釜を狙う、恐るべき不倶戴天の敵で、
シェレンベルクも弱みを握られ、ハイドリヒに報告すると脅迫されます。
この窮地にアインザッツグルッペンの司令官代理として「ワルシャワの殺人鬼」という異名を持つ、
「この人間以上に獣的な、随落した、非人間的なことがわかる大変な書類を作成した」彼は
これをさりげなくミュラーに回し、報告を受けたヒムラーが「軍法会議に引き出せ」と命じます。
しかし、ここを執成したのはハイドリヒ・・。シェレンベルクでさえもわからないと言う、この展開の末、
日本酒を何升も浴びるように飲むという能力を買われてか、
警察関係の大使館員という資格で東京へ派遣されます。

ヒムラーが日本に非常に興味を持ち、SS候補生に日本語を学ばせて40名を日本陸軍や
スパイとして送り、同様にこちらも受け入れる・・という計画があった話や、
日本大使館の一人がドイツ娘と結婚を熱望しているという件では、
人種的問題からヒトラーとヒムラーは反対するものの、リッベントロップは賛成・・。
数ヵ月に渡る喧嘩の末、専門家によって人種法の抜け穴が見つけ出されて、
結婚の許可が与えられた・・という初めて聞く話もありました。

対ソ戦を前に週に数度もカナリスと乗馬談義するシェレンベルクは、参謀本部でさえ
数週間で終わってしまうという楽観論に反対するカナリスの意見を紹介します。
上官であるカイテル元帥がソ連の軍事力を認めず、「カナリス君、きみの所属は海軍なんだから
政治や戦略のことで我々に講義しようとしないでくれ」。
ロシア人捕虜をスパイとして教育し、ロシア領土の真ん中に降下させるという「ツェッペリン作戦」や
ウラソフ将軍と彼の部下を誰の権限下に置くかで紛糾・・。
まず、陸軍、次にローゼンベルクの東方省、そしてヒムラー、
最後には「不思議なことに」リッベントロップまでが主張します。

1941年の冬、モスクワ面前で立ち往生する夏服のドイツ陸軍。
この物資納入の極度の不足に憤慨するのはハイドリヒです。
「寒さのために死んだ兵士100人ごとに、経理部員を上の方から一人づつ銃殺すべきだ」。
そして翌年、ハイドリヒがベーメン・メーレン保護領の副総督に任命され
(「任命されたよ!」と嬉しそうに報告するハイドリヒを初めて可愛らしく感じました・・)、
その政策が成果を上げると、ヒトラーが彼と二人だけで協議するようになったことで、
ヒムラーの嫉妬やボルマンの陰謀にハイドリヒは困惑し始めます。
そこでヒトラーの側近にシェレンベルクを送り込む・・という案を提示するハイドリヒですが、
その直後、暗殺・・。
シェレンベルクは、この事件に使われた武器が英国製であることを認めたうえで、
我々も入手していたものとし、さらに最上の名医たちにかかる重体のハイドリヒに
ヒムラーの従医が施した治療法が他の医師たちから非難された・・として、
暗にヒムラーによる暗殺説としているようです。

1942年になると、早くもシェレンベルクはヒムラーの専属マッサージ師ケルステンの後ろ盾を得て、
和平工作の道を探り出そうとします。
しかしヒムラーは「リッベントロップの白痴が総統の耳を奪っている限り、何も出来ない!」。
そこでリッベントロップといつも仲たがいしている「略奪王」ゲーリングを利用しては・・。
まさにハイドリヒ直伝の作戦ような感じがします。

そしてここでも不気味なのはボルマンです・・。しかしそのボルマンから愛人問題で党の金、
8万マルクを借りてしまうという失態を犯すヒムラーに、納得のいかないシェレンベルクです。
それでも彼はヒトラーの耳と腕となって四六時中張り付くボルマンについて、
「極めて複雑な問題を明瞭で的確な言葉に要約し、簡潔に説明する技術を持っていた」
として、その手際の良さに感心し、自分の報告においてもこの方法を採用しようと決心したそうです。

側近の中でも最年少ということに気後れしつつも、英国とのパイプラインを維持しながら、
ヒムラーへ和平を説くシェレンベルク・・。「総統の意に反する仕事をするのはもう御免だ。
私は総統と協力したいのだ!」といきり立つSS全国指導者・・。
カルテンブルンナー・・。ハイドリヒの死後、ヒムラーが兼務していたRSHA長官に任命された男。
同郷のオーストリア人という理由でヒトラーが指名したこの人物との戦いがここから始まります。
先日の「ゲシュタポ」に書かれていたのと全く同じ、最低の人物像が語られますが、
とにかく最大の敵、リッベントロップを追い落とすため、やはりオーストリア人の
ザイス=インクヴァルトを外相に・・とご機嫌をとって味方につけようとします。

いわゆる「最終戦」という状況になってくると、そのリッベントロップから呼び出しを受け、
ヒトラーからの極秘計画を打ち明けられます。
それはドイツを救うために、スターリンとの会談を計画し、その席で殺す・・というものです。
カナリスのアプヴェーアを吸収し、その長官の逮捕に向かうシェレンベルク。
この尊敬する先輩に「逃走」を示唆しますが、カナリスは拒否し、
「君は最後の希望なんだ、さようなら、若い友よ」。そして二人は2度と会うことはありません。

最後はスウェーデンのベルナドッテ伯爵らとの和平に明け暮れる様子。
ここら辺は、SS興亡史での終焉と同じですが、元ネタは本書ですね。
デーニッツの新政権ではヒムラーはのけ者にされ、結局自殺しますが、
シェレンベルクは、新外相候補のフォン・クロジックとデーニッツの信任を得て、
「特派大使」としてデンマークとスウェーデンへの停戦交渉へと向かいます。
あとがきに書かれている「刈り込み」箇所は次の通りです。
防諜に関する技術的な3章とオットー・シュトラッサー暗殺の使命に関する章、
そして外務省との勢力争いの関する章、の5章です。
また、シェレンベルグが人から与えられた「賞賛」を書いている箇所も
「内容とは無関係に自画自賛を繰り広げられて、訳しながら、
まことに付き合いきれない」ということで「刈り込まれた」ようです。

これらの「刈り込み」対象になったかとうかは不明ですが、この回想録に書かれている、と
なにかの本に書かれていたココ・シャネルとの話は一切ありませんでした。
原書に書かれているのかどうかもわかりません。
それにしても、ヒムラー、ハイドリヒ、ミュラーにカルテンブルンナーについて、
これほど会話も含め、生々しく書かれたものを読んだことはありませんでした。
また、ボルマンとミュラーについては共産主義者であったとし、ソ連へ逃亡したという認識で、
ある意味、ライバルでもあったゲーレンの回想録と同じような見解ですね。

その他、海外での諜報活動に関する部分も非常に具体的に書かれていますが、
やはり、この第三帝国における、弱肉強食の争い・・、ライバルや敵を貶めて、
自分がのし上がる・・という油断も隙もない世界であったことが良く伝わってきます。
そして、結構読んだことのある話も多いことからも、逆に本書が如何にネタ本となっているかを
証明していると思います。

今回、意識的にいつもよりも細かく書いたんですが、それには理由があります。
本書は「独破戦線」で初めて、購入したものではありません(定価は430円!!)。
実は「図書館」から借りたものです。なので、ちょっと読み直し・・というわけにいかないんですね。
この図書館・・、小学生以来利用しましたが、現在のシステムは凄いですねぇ。
この話は長くなりそうなので「独破リスト」で・・。
今まで、全く知らなかったこの図書館システムは、たまに利用してみようと思っています。
いつも拝読しています。実はここで見つけた希少本を図書館で借りてました。ウン千円はきついですから。東京お住まいなら。
http://metro.tokyo.opac.jp/
シェレンベルクは読みたい本です。
Jヒギンズが、あまり面白くない小説ですがヒーローにしましたし。
by 石井孝明 (2011-04-25 17:37)
石井さん、はじめまして。
このシェレンベルクの本は、まさにhttp://metro.tokyo.opac.jp/で見つけたものです。
もっと早く知っていてもよかったですね。
by ヴィトゲンシュタイン (2011-04-25 20:21)