SSブログ

ゲシュタポ・狂気の歴史 [SS/ゲシュタポ]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

ジャック・ドラリュ著の「ゲシュタポ・狂気の歴史」を読破しました。

「ゲシュタポ」と名の付く本の紹介は3冊目になりますが、
2000年に再刊された本書は、もともと1968年に翻訳されている有名なものです。
原著は1962年というさらに古いもので、フランス人の著者が前書きで述べているように
おそらく初めて「ゲシュタポ」の歴史について書かれたという、この手の元祖本です。

ゲシュタポ・狂気の歴史.jpg

そもそも自分が「ゲシュタポ」にコダわる理由というのは専門的なことではなく、
結構「単純」なことなのです。
子供の頃に初めて聞いた「第三帝国」に関するキーワードはまず、「ヒトラー」、
そして多分、次が「ゲシュタポ」だったんじゃないか・・と思っています。
ナニで知ったか聞いたかはわかりませんが、そのイメージは「恐ろしいもの・・」であり、
ひょっとすると映画「大脱走」だったのかも・・。

これは個人的なことだけではなく、戦後60年以上経ったいまの日本においても「ゲシュタポ」
という名前を知っている、或いはその響きから「怖い・・」と感じる人も多いんじゃないでしょうか?
まぁ、響きという意味では「ゲ」で始まる日本語にはロクなもんがないとも言えますが・・。
秩序警察や刑事警察の「オルポ」や「クリポ」じゃあ、恐怖感も半減ですしね。。。

Gestapo The Great Escape.jpg

まずは定番である、ゲシュタポ創設の経緯からです。
1933年、プロイセン内相となり、プロイセン警察の指揮権を握ったゲーリング
幹部職員2/3をSAやSS出身者に入れ替え、野心的な政治警察幹部であった
ルドルフ・ディールスを秘密国家警察(ゲシュタポ)の初代長官に据えます。
このゲシュタポ創成期はナチ政権の創成期でもあり、政府の内相フリックや、
レームのSA、国防軍など、様々な強力な敵が存在し、それによってディールスが
その座を追われるなどの過程が詳しく書かれています。

Rudolf Diels.jpg

この手の本にしては珍しく100ページを過ぎてから登場するのは、
ゲーリングから「ゲシュタポ」を引き継いだヒムラーです。
そしてSS保安防諜部(SD)長官のハイドリヒが、このゲシュタポのトップに君臨することで、
彼は党だけではなく、政治警察という国家官僚の座も手にするのでした。

Übergabe der Geheimen Staatspolizei.jpg

本書の特徴はこのような組織の上層部だけではなく、ガウライターなどで知られる
32の大管区に始まる、その末端までも解説していて勉強になります。
例えば大管区の下に管区、次に地区、細胞、班という分類です。
ちなみに班長だと40~60家庭が責任下だったようで、
このような班長が「不満分子」を発見した際には、当然上長へ報告、
そしてその情報は「ゲシュタポ」へ・・。
すなわち、ゲシュタポに協力するスパイとは、この管区制度で確立していたわけですね。

Gestapo ID.jpg

さらにはハイドリヒの政治情報局でもあるSDには大学教授などを監視する
3000名のスパイが暗躍し、これらの情報によってゲシュタポの特権である、
逮捕・尋問・捜索・強制収容所送り・・が可能となります。

再編成し、刑事警察も抱合せた「保安警察」。ゲシュタポの長官にはこの後、終戦までの10年間、
その座に居座ることとなる、ハインリッヒ・ミュラーが詳しく紹介されます。
曰く「彼は、知性というものには縁遠く、物凄く頑固で強情、主要な関心ごとは昇進で、
統計表や報告書などのために生きている魂の奥まで「官僚」な男」です。

Müller, Heinrich.jpg

1933年にナチ党が政権を取るまで、バイエルンの政治警察官として、
ナチ党に反対する活動をしていたミュラーですが、新しいご主人であるヒムラーは、
あえてその「熱心さ」を買い、一方のミュラーも、自分の過去を忘れてもらうために、一層働きます。
しかし、党員許可は6年間も拒まれ続け、こうしてゲシュタポは
政治的正当性がナチ党員としての資格すら「あやふや」な人物が指揮を取るということに・・。

その他にも、フリッチュ男色容疑作戦で活躍したマイジンガーが登場し、
彼がミュラーの友人かつ、腹心で、ことさら汚れ仕事を引き受け、
後に日本での任務・・あのゾルゲの監視をしていた話も・・。 
また、SDで1934年にスタートを切った同期生・・アイヒマンシェレンベルク
ナウヨックスや「偽札班」のクリューガーといった面々・・。
特にシェレンベルクは著者も一目置いている感じで、
「SDの希望の星」として最後まで頻繁に出てきます。

Josef Meisinger.jpg

やがて国家保安本部(RSHA)が誕生し、そこに吸収された形のゲシュタポですが、
これについては、あまりにも知られ過ぎたゲシュタポの名をカモフラージュするためであり、
ゲシュタポやクリポ所属であっても「SD」のパッチを袖につけることとなったとして、
これにより、国家警察がSSに完全吸収されたということです。

クリポで4ヵ月間、警察の仕事の基礎を、続いて3ヵ月SDで、そして3ヵ月ゲシュタポで・・
という新米スパイ教育に関する、ハイドリヒの回状を引用していてなかなか勉強になります。

Karl Hermann Frank, Reinhard Heydrich, and Heinrich Müller.jpg

このような展開を経て、いよいよ本書のメインと目論んでいた「フランスでのゲシュタポ」が・・。
これは著者が1940年当時、フランスの警察官であり、その後レジスタンスに身を投じ、
ゲシュタポに捕えられ、戦後は戦争犯罪者とその協力者の取り調べの任に10年間当たった
という経歴の持ち主だからです。

ポーランドでのSSの傍若無人ぶりが仇となり、国防軍が軍政を握ることとなったフランス。
しかしだからといってヒムラーとハイドリヒは黙って指を咥えていません。
そこでパリに送り込まれたのがシェレンベルクと同様「SDの希望の星」のひとり、
ヘルムート・クノッヘンです。
少人数のクノッヘン機関の存在があっさりバレると、軍の指揮下になることを言い渡されるなど、
苦労の絶えないSSとゲシュタポ。。

Helmut Knochen.jpg

そこでハイドリヒの代理として怪漢トーマスSS少将が助けに向かいます。
こんなSS少将は初めて知りましたが、彼の娘がハイドリヒの愛人であり、
子供ももうけていたという関係だそうです。

しかし大酒のみで品のないトーマスに代わり、今度はヒムラーの代理として
オーベルクSS中将がやってくるとこの調整力に長けた人物によって、
フランスの保安警察の任務は、独立し、そして過酷になっていくのです。

Pierre Laval _Karl Oberg.jpg

個人的に逮捕されたフランス人はゲシュタポの拷問に・・。
このゲシュタポの代名詞である「拷問」の方法やその種類も紹介されます。
さらにその対象となった女性たち・・について、
フランス人のゲシュタポ補佐たちが「発明」を競い合ったという大胆な仕掛けの拷問は
女性に対して行われたとしていますが、「この書物で述べることははばかれる・・」。

「バルバロッサ作戦」の陰で実行されたアインザッツグルッペンの行動にも触れられていますが、
その隊員の内訳を紹介し、この殺戮隊に各軍集団ごとに10名~15名の女性もいた・・
というのは初耳ですねぇ。

Members of the Einsatzgruppen task force.jpg

ハイドリヒが暗殺され、リディツェ村が抹殺されたあと、RSHA長官の後任問題が出てきます。
ハイドリヒに敵対していた者はその地位を保つものの、
彼が引き上げた者たちはヒムラーによって排除されていくなか、
8ヶ月悩んだヒムラーはシェレンベルクを指名しようとします。
これはシェレンベルクはその若さゆえ、ハイドリヒのような危険なライバルにはならないだろう・・という
ヒムラーの安全保障対策ですが、ヒトラーが認めず、結果、古参で大酒のみの凡々たる男、
カルテンブルンナーが就任することに・・。

しかし、ヒムラーはしっかりと実権は掌握し、シェレンベルクも防諜組織の指導者として、
カルテンブルンナーを飛び越えて、ヒムラーとの直接関係を築きます。

Volksgerichtshof,_Dr__Ernst_Kaltenbrunner.jpg

連合軍がフランスに上陸し、パリも開放されるとクノッヘンとオーベルクも撤退を余儀なくされます。
クノッヘンは、第1SS師団「ライプシュタンダルテ」に編入され、
一兵卒としてチェコでの対戦車訓練を受けるようカルテンブルンナーから言い渡され、
オーベルクにもヒムラー率いるヴァイクセル軍集団の指揮官のポストが待っています。
まさにカルテンブルンナーのライバル潰しですね。。

自分が潜在的に知りたかったのは、「なぜゲシュタポという名が人々に恐れられたのか?」
ということであり、それには巨大組織を客観的に分析したものではなくて、
当時のドイツ国内、または占領地域の人々の目線から書かれたものが読みたいと
思っていたわけですが、
また、同じようにヒムラーやハイドリヒ、カルテンブルンナーにミュラー、アイヒマンという
上の人物ではなく、名も知れない「現場のゲシュタポ隊員」たちが、
どのような「仕事」をして人々の恐怖に陥れていたのか・にも興味があるわけです。

Erschießung.jpg

本書は組織としてのゲシュタポ興亡史であるのと同時に、フランスという
特定の土地におけるゲシュタポの活動が著者の経験もあって細かく書かれ、
単なるゲシュタポ本とは一線を画すものだと思います。
巻末の「解説」では古い本なので、ゲシュタポの能力を買いかぶり過ぎている・・ことも
述べられていますが、それほど気になりませんでしたし、自分は逆にそのような
当時の見解が興味深いですね。
40年や50年も前に書かれた本の内容が古いのは当然で、再刊されたものでも
本書のように加筆/訂正がほとんど行われていないのが多いのも現状ですし・・。
まぁ、ここらへんは読む側の「心構え」次第で、どのような評価にでもなります。

なお、この500ページの本書は完訳ではないようで、ちょっと残念ですね。
それにしても、今回登場したSS大佐の2人、マイジンガーとクノッヘンの写真ですが、
柏葉の向きが違います。この2パターンがあることに以前から気になっているんですが、
どうゆう違いなんでしょうか? 時期とかの問題かなぁ?? 
ひょっとして、単なる左右の付け間違いだったりして・・。





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IZM

いつも凄い速さで読まれていますねえ。
ここに来ると益々読みたい本が増える。。。。とは以前も書きましたが。次はどこから手をつけてよいのやら。
ここにもアイヒマン出てくるんですねえ。アイヒマンの人となりを調べていて、昔うちの旦那が話してくれた「ミルグラム実験」というのをぼんやり思い出していて、ああいう心理だったんだろうかー?と一人考えていたら、「ミルグラム実験」自体がアイヒマンの心理を実証するための実験だったと知って、とても驚きましたです。長い時間をかけて分かるものってあるものなのですね。。。。

by IZM (2011-04-09 07:07) 

ヴィトゲンシュタイン

こんにちわ。
通勤時間が長くなって、平日に読む量が必然的に多くなってしまいました。文庫だったら一日に150~200ページは行っちゃいますねぇ。
それに本って家で読むより、電車の中のほうが集中力も増すみたいです。

IZMさんのアイヒマンの記事、拝見しました。
そうそう・・、例の実験は自分もアイヒマンを詳しく知る前から興味がありました。なので、いまでもアイヒマン個人は他の著名な極悪SS隊員とは違う評価をしています。
服従の心理というのは、社会や組織に属して生きている以上は・・と思いますが、アイヒマンのような無制限な服従と、一線を越えない服従とか、戦犯ものではよく書かれていますね。
上官からの犯罪的な命令を拒否した場合、銃殺なのか、追放なのか、降格なのか、或いはなにもないのか・・。人格だけではなくて、そのような環境と状況も大きく左右するんじゃないでしょうか?
by ヴィトゲンシュタイン (2011-04-09 17:22) 

KJ

こんばんは。
シェレンベルクについて知りたくて最近本書を読みました。そして読んだ後に筆者についてふと調べたら先月亡くなったようです。偶然とは思うのですが何か因果めいたものを感じました。
by KJ (2014-10-12 19:31) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、KJさん。

あらら、ジャック・ドラリュ亡くなりましたか。。
こういう偶然、ありますよね。ボクも「独裁者の妻たち」のチトーの奥さんとか
http://ona.blog.so-net.ne.jp/2013-10-22
「カラシニコフ自伝」の時とか・・
http://ona.blog.so-net.ne.jp/2013-12-25
ぞっとしたもんです。

シェレンベルクを知るには、とりあえず「秘密機関長の手記」ですね。
http://ona.blog.so-net.ne.jp/2011-04-22
amazonで、59800円というフザケた値段ですから、図書館にでもあれば・・。



 



by ヴィトゲンシュタイン (2014-10-13 12:48) 

ABT

初めまして。失礼いたします。
もうすでに解決されたことなのかもしれませんが、襟の柏葉の向きについてです。
柏葉の根本(茎)の部分が襟の先の方を向くように取り付けるのは共通(正式)のようです。それを襟を閉じて着るか開襟にするかで向きが変わって見えるようです。
少なくともこの2名の写真での違いは、開襟であるか否か、であるようです。

失礼いたしました。
by ABT (2014-10-21 16:05) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も、ABTさん。ご指摘ありがとうございます。

>もうすでに解決されたことなのかもしれませんが、襟の柏葉の向きについて

いや~、やっときました。
ボクはこの記事をUPした当日に読み返して、気が付きました。。
でも、基本的に「無修正」好きなんで、そのまま放置して、どなたかに突っ込まれるのを楽しみにしていたんです。
しかし、待てと暮らせど・・。

それから3年半ですか・・。
おかげ様で満足しました。

by ヴィトゲンシュタイン (2014-10-21 19:26) 

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