国防軍とヒトラー〈Ⅱ〉 [ドイツ陸軍]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
J.ウィーラー=ベネット著の「国防軍とヒトラー〈Ⅱ〉」を読破しました。
下巻である、この〈Ⅱ〉は、第2次大戦へと突き進もうとするヒトラーと
それを危惧し、彼をクーデターにより排除しようとする国防軍の様子から始まります。
参謀総長ルートヴィッヒ・ベックを中心としたヒトラー抵抗派・・、
ハンマーシュタイン、ヴィッツレーベン、シュテルプナーゲル、ヘプナー、アダムといった将軍連。
ベックは陸軍最高司令官となったフォン・ブラウヒッチュにも、協力を求めますが、
彼は「軍人は服従することが義務」であるとして、ベックと共に辞任することを拒否。
ブラウヒッチュは1938年に再婚した奥さんが熱烈なナチ党の支持者であり、
この「200%凶暴な妻の影響力」下にあったことが、
ヒトラーに抵抗できなかった要因のひとつだとしています。
そしてベックの息のかかった後任、フランツ・ハルダー新参謀総長も
チェコでの危機が回避されると、陰謀からはとりあえず手を引いてしまいます。
ここでは国防軍最高司令部(OKW)の「3羽ガラス」が紹介されていて、
「第3級の人物であることが明らかなハノーバー人、カイテル元帥は
ゼークトのもとであったなら、彼が少佐以上昇進できたかは疑問である・・」。
バイエルン人のヨードルは「彼が士官候補生のころからのナポレオン崇拝者であり、
ヒトラーに同様のものを感じ取ったことで、偉大な作戦指導者としての自分を意識した」
としています。
ラインラント人らしい軽妙で垢抜けした物腰のヴァーリモントは
その社交技術の巧みさから陸軍(OKH)の翼を切る、OKW構想を練り、
ヒトラーに提出したということで、
総じて彼ら「3羽ガラス」がプロイセン軍部の伝統・・プロイセン人でない限りは
真に対等な立場を受け入れようとしない将校団に対する、劣等感と敵意が
「ドイツの軍事力に対するプロイセン人の支配が破壊されるのを見たい・・」という
欲望からも総統に気に入られるように努めた・・としています。
ポーランドをあっという間に占領し(ちなみに本書では作戦的な話はほとんど出てきません)、
海軍のレーダーとローゼンベルクにより、ノルウェーとデンマークを占領するという
計画が出されると、陸軍はまたしても「カタストロフィだ!」として反対します。
しかし、その結果は再び総統の「直観」が専門家の職業的慎重さに勝利します。
ここに至ってヒトラー信奉者は一層熱狂的となり、懐疑的だった者は動揺し、
少数の反対派は、絶望して、表舞台から退いてしまいます。
挙句の果てには続く西方作戦が電撃的な大勝利を収めたことで
ブラウヒュッチュ、カイテル、ルントシュテット、ライヒェナウ、
ボック、レープ、リスト、クルーゲ、ヴィッツレーベンが元帥の大盤振る舞いを受けて、
骨抜きにされてしまった感もありますね。
この〈Ⅱ〉は前半から、後の1944年、ヒトラー暗殺未遂事件と繋がっていく、
様々な人間と勢力が代わる代わる登場してきます。
カナリス提督を筆頭にハンス・オスター大佐の国防軍防諜部(アプヴェーア)。
ゲルデラーやドホナーニといった政治家たち・・。
そしてトレスコウやシュラーブレンドルフなどの参謀将校団。
特に面白かったのがこれら抵抗派が政権を握った際のヒトラーに代わる候補者問題です。
帝政復古を目指す一派はヴィルヘルム2世の孫、ルイ・フェルディナントを
候補者とすることで、ほぼ意見の一致をみていたそうです。
この帝政復古へのドイツ人将校の想いは次のエピソードにも現れています。
オランダへ亡命していたかつての大元帥ヴィルヘルム2世が
小さな城の周りを散歩する姿をひと目でも見ようと何百人という国防軍将校が
現れたことから、SSの警備兵を配置して、彼らを遠ざけるものの、
その場の雰囲気に打ち負かされてしまったそのSS将校は、
靴の踵をカチリと鳴らして、プロイセンの近衛将校よろしく、大元帥に頭を下げた・・。
東部戦線・・。冬将軍の前になすすべなく敗れ、ヒトラーに罷免された師団長や
軍団長の数は35名にも上り、この普通の犯罪者並みの司令官の扱われ方に
将校団の名誉と誇りが再び燃え上がります。
しかし、やる気マンマンの重鎮たち・・既に退役したベックやハンマーシュタイン、
西方司令官だったヴィッツレーベンも入院している間に
その椅子をルントシュテットに取って変わられ、
気が付けば指揮すべき兵士のいない、単なる個人となっているのでした。
そこでキュヒラー、クルーゲ、マンシュタインら、東部戦線の現役司令官たちが
共謀の打診を受けることになります。
ここからは割合良く知られた有名な話が最後まで続きます。
大の付く「優柔不断」元帥クルーゲとロンメルのヒトラー暗殺未遂事件への関与、
白バラのショルの運動と処刑から、SSヒムラーの傍観姿勢も推測、
フランス軍政官シュテルプナーゲルによる、SSとSDの逮捕/監禁事件も詳細です。
特に西方の海軍司令官である前アドミラル・シェアの艦長、テオドール・クランケ提督が
この反乱鎮圧を目指し、自ら海軍部隊を率いて片をつけると脅迫したというくだりは、
一歩間違えば、陸軍vsSSから、陸軍vs海軍(SS)となっていたかも知れません。。
そしてもちろんシュタウフェンベルク大佐の爆弾が破裂して、ベルリンが大混乱となる様子も。
実際読み終えて、「ドイツ軍部の政治的動向について」が主題の本書がこれほど
ヒトラー暗殺計画を中心としたものであったことに驚きました。
付録ではこの1944年7月20日事件の犠牲者の詳しい名簿が載っているほどです。
確かにヒトラー政権の誕生を自ら望んで援助し、その後の暴挙を見逃し、
挙句、クーデターの失敗によって、最良の人間を絞首台に送り込むという形で
天罰を受けた国防軍・・というのが原著のタイトルに込められた意味でもあります。
しかし本書における「戦犯」の2人、〈Ⅰ〉のシュライヒャーと〈Ⅱ〉のクルーゲの断罪ぶりは、
訳者あとがきでも「極論過ぎる・・」と2人を擁護しています。
翻訳版の経緯は面白く、もともと1961年に、このタイトルと分冊で発刊されたものの
1984年には原著のスタイル、「権力のネメシス」という分厚い合本版として再出版、
そして2002年に再び、元の翻訳版の姿に戻った・・ということです。
個人的には〈Ⅰ〉と〈Ⅱ〉の内容と展開の大きな違いからも、この分冊スタイルが良いと思います。
J.ウィーラー=ベネット著の「国防軍とヒトラー〈Ⅱ〉」を読破しました。
下巻である、この〈Ⅱ〉は、第2次大戦へと突き進もうとするヒトラーと
それを危惧し、彼をクーデターにより排除しようとする国防軍の様子から始まります。
参謀総長ルートヴィッヒ・ベックを中心としたヒトラー抵抗派・・、
ハンマーシュタイン、ヴィッツレーベン、シュテルプナーゲル、ヘプナー、アダムといった将軍連。
ベックは陸軍最高司令官となったフォン・ブラウヒッチュにも、協力を求めますが、
彼は「軍人は服従することが義務」であるとして、ベックと共に辞任することを拒否。
ブラウヒッチュは1938年に再婚した奥さんが熱烈なナチ党の支持者であり、
この「200%凶暴な妻の影響力」下にあったことが、
ヒトラーに抵抗できなかった要因のひとつだとしています。
そしてベックの息のかかった後任、フランツ・ハルダー新参謀総長も
チェコでの危機が回避されると、陰謀からはとりあえず手を引いてしまいます。
ここでは国防軍最高司令部(OKW)の「3羽ガラス」が紹介されていて、
「第3級の人物であることが明らかなハノーバー人、カイテル元帥は
ゼークトのもとであったなら、彼が少佐以上昇進できたかは疑問である・・」。
バイエルン人のヨードルは「彼が士官候補生のころからのナポレオン崇拝者であり、
ヒトラーに同様のものを感じ取ったことで、偉大な作戦指導者としての自分を意識した」
としています。
ラインラント人らしい軽妙で垢抜けした物腰のヴァーリモントは
その社交技術の巧みさから陸軍(OKH)の翼を切る、OKW構想を練り、
ヒトラーに提出したということで、
総じて彼ら「3羽ガラス」がプロイセン軍部の伝統・・プロイセン人でない限りは
真に対等な立場を受け入れようとしない将校団に対する、劣等感と敵意が
「ドイツの軍事力に対するプロイセン人の支配が破壊されるのを見たい・・」という
欲望からも総統に気に入られるように努めた・・としています。
ポーランドをあっという間に占領し(ちなみに本書では作戦的な話はほとんど出てきません)、
海軍のレーダーとローゼンベルクにより、ノルウェーとデンマークを占領するという
計画が出されると、陸軍はまたしても「カタストロフィだ!」として反対します。
しかし、その結果は再び総統の「直観」が専門家の職業的慎重さに勝利します。
ここに至ってヒトラー信奉者は一層熱狂的となり、懐疑的だった者は動揺し、
少数の反対派は、絶望して、表舞台から退いてしまいます。
挙句の果てには続く西方作戦が電撃的な大勝利を収めたことで
ブラウヒュッチュ、カイテル、ルントシュテット、ライヒェナウ、
ボック、レープ、リスト、クルーゲ、ヴィッツレーベンが元帥の大盤振る舞いを受けて、
骨抜きにされてしまった感もありますね。
この〈Ⅱ〉は前半から、後の1944年、ヒトラー暗殺未遂事件と繋がっていく、
様々な人間と勢力が代わる代わる登場してきます。
カナリス提督を筆頭にハンス・オスター大佐の国防軍防諜部(アプヴェーア)。
ゲルデラーやドホナーニといった政治家たち・・。
そしてトレスコウやシュラーブレンドルフなどの参謀将校団。
特に面白かったのがこれら抵抗派が政権を握った際のヒトラーに代わる候補者問題です。
帝政復古を目指す一派はヴィルヘルム2世の孫、ルイ・フェルディナントを
候補者とすることで、ほぼ意見の一致をみていたそうです。
この帝政復古へのドイツ人将校の想いは次のエピソードにも現れています。
オランダへ亡命していたかつての大元帥ヴィルヘルム2世が
小さな城の周りを散歩する姿をひと目でも見ようと何百人という国防軍将校が
現れたことから、SSの警備兵を配置して、彼らを遠ざけるものの、
その場の雰囲気に打ち負かされてしまったそのSS将校は、
靴の踵をカチリと鳴らして、プロイセンの近衛将校よろしく、大元帥に頭を下げた・・。
東部戦線・・。冬将軍の前になすすべなく敗れ、ヒトラーに罷免された師団長や
軍団長の数は35名にも上り、この普通の犯罪者並みの司令官の扱われ方に
将校団の名誉と誇りが再び燃え上がります。
しかし、やる気マンマンの重鎮たち・・既に退役したベックやハンマーシュタイン、
西方司令官だったヴィッツレーベンも入院している間に
その椅子をルントシュテットに取って変わられ、
気が付けば指揮すべき兵士のいない、単なる個人となっているのでした。
そこでキュヒラー、クルーゲ、マンシュタインら、東部戦線の現役司令官たちが
共謀の打診を受けることになります。
ここからは割合良く知られた有名な話が最後まで続きます。
大の付く「優柔不断」元帥クルーゲとロンメルのヒトラー暗殺未遂事件への関与、
白バラのショルの運動と処刑から、SSヒムラーの傍観姿勢も推測、
フランス軍政官シュテルプナーゲルによる、SSとSDの逮捕/監禁事件も詳細です。
特に西方の海軍司令官である前アドミラル・シェアの艦長、テオドール・クランケ提督が
この反乱鎮圧を目指し、自ら海軍部隊を率いて片をつけると脅迫したというくだりは、
一歩間違えば、陸軍vsSSから、陸軍vs海軍(SS)となっていたかも知れません。。
そしてもちろんシュタウフェンベルク大佐の爆弾が破裂して、ベルリンが大混乱となる様子も。
実際読み終えて、「ドイツ軍部の政治的動向について」が主題の本書がこれほど
ヒトラー暗殺計画を中心としたものであったことに驚きました。
付録ではこの1944年7月20日事件の犠牲者の詳しい名簿が載っているほどです。
確かにヒトラー政権の誕生を自ら望んで援助し、その後の暴挙を見逃し、
挙句、クーデターの失敗によって、最良の人間を絞首台に送り込むという形で
天罰を受けた国防軍・・というのが原著のタイトルに込められた意味でもあります。
しかし本書における「戦犯」の2人、〈Ⅰ〉のシュライヒャーと〈Ⅱ〉のクルーゲの断罪ぶりは、
訳者あとがきでも「極論過ぎる・・」と2人を擁護しています。
翻訳版の経緯は面白く、もともと1961年に、このタイトルと分冊で発刊されたものの
1984年には原著のスタイル、「権力のネメシス」という分厚い合本版として再出版、
そして2002年に再び、元の翻訳版の姿に戻った・・ということです。
個人的には〈Ⅰ〉と〈Ⅱ〉の内容と展開の大きな違いからも、この分冊スタイルが良いと思います。
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