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国防軍とヒトラー〈Ⅰ〉 [ドイツ陸軍]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

J.ウィーラー=ベネット著の「国防軍とヒトラー〈Ⅰ〉」を読破しました。

著者はドイツ現代史専攻の英国の歴史家であり、戦前からドイツを訪れ、
ニュルンベルク裁判でも英国代表団の随員であったという人物です。
1年半ほど前に2巻セットで¥2800で購入しましたが、有名な本ながら主題が
「ドイツ軍部の政治的動向について」なので、難しそうだなぁと読む機会を伺ってました。

国防軍とヒトラーⅠ.JPG

第一次大戦後のドイツ国内情勢から始まる本書は
1920年代、世間から皮肉な沈黙の王として「スフィンクス」と呼ばれた
10万人国防軍司令官、ハンス・フォン・ゼークトの経歴や
彼が築こうとする国防軍の考え方、政治姿勢などが紹介されます。

特に「軍は国家に奉仕する。それは党派を超越する。」という新しい国防軍の
政治的原則は、市民としての投票権も兵役期間中は停止するほど徹底的です。

General von Seeckt.jpg

1921年、レーニンからの要請によりソ連赤軍再編成の援助を依頼されると
既に国防省内に設置していた秘密組織「R機関」を動かして
赤軍参謀本部との協力を図ります。
この機関の推進者はクルト・フォン・シュライヒャーや
フォン・ハンマーシュタインといった後の大物連中です。
やがてこの両国の参謀本部は密接に交流し、互いに使節団を送り合い
そのなかには、あのソ連が誇るトハチェフスキー元帥も含まれます。

General von Hammerstein.jpg

また、興味深かったのはヴェルサイユ条約により削減、あるいは規定されてしまった
人員以外にも、軍需という面から取り壊され、破壊された軍需工場と大量の機械。
しかし、ゼークトの方針により、巨大なクルップ社は、匿名の有限会社を
海外に設置することで、キールのゲルマニア造船所の中核スタッフがオランダ/ロッテルダムの
造船所を支配したり、トルコ、フィンランド、スペインなどでも同様に行われたことで、
「熟練した」工員たちも確保され続けたというところです。

PaulHindenburg.jpg

1925年、老元帥ヒンデンブルクが大統領に就任し、ゼークトが失脚すると
国防次官シュライヒャー少将が台頭してきます。
彼は実は本書の主役級の中心人物で、
「ワイマールにおける悪の天才であり、政治に介入する将軍の最も悪い体質を体現し、
自惚れが強く、無節操で不誠実、錯乱状態なほど陰謀に取りつかれており、
その野望は、責任よりは権力を、地位よりは力を求めることにあった」
と紹介されるほどです。ほとんどゲッベルス並みの人物評価ですね。

Kurt von Schleicher.jpg

大統領の息子やフランツ・フォン・パーペンなどを旧知の友人として持ち、
国防省の、そして後に国防大臣となる彼の情報網をフルに活用し、
この1920年代後半から1933年にかけて、混沌とするワイマールの政治情勢に
ゼークトの教えに背き、介入して行きます。
ブリューニング首相の解任に動き、左派や右派のナチ党らにも積極的に接触し、
策略を巡らせては党の分裂を狙ったりと、陰謀の網を広げます。
パーペンの首相就任に尽力したかと思えば、今度は裏切り、
しまいには、自らが望まない首相の座に就いてしまうこととなって、
逆に今までの陰謀の相手から総攻撃を受けてしまいます。

このようなことから国防軍の最高司令官となっていたハンマーシュタインも
ナチ党を一切信用していないにも関わらず、国防軍に対する脅威「突撃隊=SA」問題や、
一方の国防軍を味方につけたいヒトラーの思惑という、相思相愛の結果、
最終的にヒトラー首相が誕生することに・・。

Hitler and Von Hindenburg.jpeg

そして1934年には「長いナイフの夜」によって、エルンスト・レームを含む多数のSAの他に、
シュライヒャーも軍人として唯一、殺害されてしまいます。
その後、オーストリア首相のドルフスが暗殺され、ヒンデンブルク大統領も死亡。

それまでは軍拡政策など国防軍に都合の良いナチ党に「試験的に政権を取らせてみて」、
希望にそぐわなくなれば、力で退けられると踏んでいた国防軍も
気が付けば「総統」に対して忠誠を誓わされているといった状態に。。。

また、ゼークトのあるいはビスマルクの教えによる国防軍の対外政策とは
「ロシアと中国に対しては友好的な態度を、日本に対しては疑惑、イタリアには軽蔑、
英国とフランスには油断のない中立、ポーランドに対しては尽きることのない憎悪」を
基本とするもので、ポーランド以外はナチの政策と真っ向から対立しています。

Hitler, von Papen y von Blomberg - 1933.jpg

本書は注訳も侮れません。例えば・・
1934年に著者がライヒェナウにした質問、「次の戦争でのイタリアの役割は?」。
「イタリアが開戦時にどちらについているかは問題ではありません。なぜなら、
その戦争が終わる頃には”ヨーロッパの淫売婦”の役割を演じているでしょうから・・」。

Hitler und Reichenau.jpg

ヒトラー寄りの国防大臣、ブロムベルクの再婚に伴う、一大スキャンダルのくだりは
マジメな本書のなかでも特別変わった書きっぷりもあって、思わず笑ってしまいました。
ベルリンの警視総監ヘルドルフは、この国防大臣の新妻の過去の秘密を発見してしまいますが、
第一次大戦の騎兵将校であり、名誉心もいくらか残っていた彼は、
陸軍に対する攻撃を画策中の上司ヒムラーに書類を渡すことをせず、
良かれと思って選んだのはブロムベルクの娘婿である国防軍のとある局長・・その名も
ヴィルヘルム・カイテルという最も頼りない相手に渡し、破棄するよう示唆します。。

Heinrich Himmler, italienischer Polizeioffizier, Wolf-Heinrich Graf von Helldorf, Kurt Daluege.jpeg

案の定、このような重大な証拠を隠滅することなど、彼の道義的勇気では出来ないことから、
これをさっさとゲーリングに渡し、ゲーリングもまた、そうするのが義務と思ってヒトラーに・・。
こうしてヒトラーはヒステリーの発作に襲われた・・。

率直に言うと、この〈Ⅰ〉は「ドイツ参謀本部興亡史」の下巻を7倍程度濃くしたような内容です。
またハンマーシュタインがこれだけ登場するものは初めて読みました。
以前から気になっていた「がんこなハマーシュタイン」を買う気になってきました。
まぁ、しかし当然その前に「国防軍とヒトラー〈Ⅱ〉」へと続きます。





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