デーニッツと「灰色狼」 -Uボート戦記- [Uボート]
ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ヴォルフガング・フランク著の「デーニッツと「灰色狼」」を読破しました。
読み終えた率直な感想を書くと、「これ以上のUボート興亡史はないのでは・・」。
日本では1975年にフジ出版社から「Uボートの栄光と悲劇」の副題で、
原著「オオカミたちと提督」は1957年の出版という古いものですが、
著者フランクのUボート従軍記者からデーニッツの幕僚、
そして戦隊司令部に所属していたという経歴もあって、
本書のタイトルである2本の柱、すなわち「デーニッツと司令部の様子」と
50人くらいは登場しているんじゃないかという「Uボート艦長たちの戦いざま」を
交互に詳細かつ楽しく読ませてくれる、見事な「Uボート戦記」です。

まずは1775年のアメリカ独立戦争時に登場した、初の潜水艇「タートル号」や
1800年代初頭のフルトンによる「ノーチラス号」など
世界の潜水艦発達史から始まります。

第一次世界大戦になると、ドイツUボートの活躍が取り上げられ、
特にU-9のヴィディゲン大尉が英海軍装甲巡洋艦3隻を立て続けに撃沈し、
ドイツ帝国海軍初のプール・ル・メリット章の受賞者として、
「レッド・バロン」リヒトホーフェンと並び賞される英雄であったということを
知ることが出来ました。

そして1935年、復活となる新Uボート部隊の指令としてデーニッツ大佐が任命されると
理想とするUボート艦隊には程遠いままの状況で1939年に開戦を迎えてしまいます。
海軍総司令官のレーダーとの微妙な関係や、後半、陸のヒトラーとは
最後まで揉め事なしという信頼関係も随所に紹介されながら、
そのUボートの最盛期を築きあげていきます。

ここからは有名Uボート艦長たちの戦記が盛り沢山で、
まず、レンプのU-30が誤って客船「アセニア号」を撃沈してしまうと、
”スカパ・フローの牡牛”となるU-47のプリーンの活躍に
U-99のクレッチマーとU-100のシェプケの勝利と敗北。。。

「独破戦線」で紹介したUボートものの艦長は全員登場すると言って良いでしょう。
U-333 "アリ"クレーマーの「生命保険」ぶりも当然ながら
U-123のハルデゲンによるパウケンシュラーク作戦、
内藤大助似の艦長、ハルテンシュタインの有名な「ラコニア号事件」、
”古武士”ことレーマン・ヴィレンブロックは映画「Uボート」のモデルですね。
ヴォールファルトのU-556と戦艦ビスマルクの非情な運命や
撃沈された仮装巡洋艦アトランティスのローゲ艦長を含む乗員を
壮絶なサバイバルのもとで見事救出した、
U-68のメルテンとUAのエッカーマンといった、他の戦記では脇役だった
Uボート艦長も、その話とともにしっかりとアピールしています。

「見てると体が痒くなる部下」を別のUボートに移動させてくれるよう、
シドロモドロ、デーニッツに訴えるヴォルフガンク・リュートや
船団攻撃の大先生としても最後まで出てくるエーリッヒ・トップなどの大エース以外にも、
後半には「鉄の棺」のヘルベルト・ヴェルナーまで登場。
凄い名前でビックリしたU-753の艦長の名は・・・フォン・マンシュタインです。
あのフォン・マンシュタイン元帥と血縁関係にあるのかは一切不明ですが、
自分は一瞬、あの元帥がお忍びでUボート艦長をやってる姿を想像してしまいました。
これじゃあ、ほとんど「遠山の金さん」ですね。。。
第3位のエースなのに戦記の出ない、好きなエーリッヒ・トップは、
巻頭の潜望鏡説明におけるイラストでモデルになっている感じです。
イラストもこの有名な写真の決めポーズを取ってます。
映画ではよく、邪魔になるために帽子のつばを後ろにしてかぶりますが、
「潜望鏡を覗く模範的な艦長の図」のためか、ちゃんとかぶってますね。
しかしダラっと引っ掛けた右手がポイントです。

とても書き切れないほどの艦長たちが入れ替わり立ち変わり出てくる本書のなかで、
個人的に気に入ったのは、補給UボートであるXIV型(通称:ミルヒクー=牝牛)の
U-459の艦長フォン・ヴィラモーヴィツ・メレンドルフです。
著者曰く、唯一の人物かもしれないという、第一次大戦に引き続き
Uボート乗りとして出撃する白髪の老メレンドルフは、
洋上で補給を心待ちにする若いUボート乗組員たちに非常に信頼された人であったようで、
その最後は一冊の本にしたいほど感動的です。
そういえば映画「眼下の敵」のクルト・ユルゲンスも
第一次大戦の生き残り艦長役だった気が・・。
余談ですが、この「眼下の敵」は親父が好きだった映画のひとつで、
ヴィトゲンシュタインは幼少の頃に半ば強制的に観せられた記憶があります・・。

剣章受章者の割にはあまり知らなかったテディ・ズーレンは本書では主役級のひとりです。
ひょっとしたら著者フランクはズーレンのUボートに乗艦したことがあるのかも・・
というぐらい生々しい戦いと生活の様子が描かれています。

Uボート艦長ばかり書いてしまいましたが、デーニッツの司令部の様子も半分を占めています。
特に部隊創設当初から、その最後までデーニッツを補佐し続けるゴート大佐、
幕僚たちもエースのシュネーやデーニッツの娘婿ヘスラーなどもしっかり登場。
モントゴメリーらとの降伏交渉にあたり、自殺を遂げたフォン・フリーデブルク提督は
Uボート組織部長として最初からデーニッツを助け、
「ドイツ海軍が生んだ最も天才的な組織家」という紹介をされています。

そして終戦が近づくにつれ、デーニッツは軍需省のシュペーアとの信頼関係の元、
Uボートの生産量を上げ、また、新型Uボート・・・真の潜水艦の建造に成功します。
このあたりは、ガーランドの「始まりと終り」と同じような展開ですね。

全般的な内容は確かに「10年と20日間」と「Uボート・コマンダー」を読んでいれば、
それらに網羅されているという印象もありますが、
逆にこちらを先に読んでから、気に入った艦長の戦記を買ってみるというのも
アリかも知れませんね。
また特に記述はありませんが、デーニッツの「Uボート章」はダイヤをちりばめた
スペシャルのようです。

いずれにせよUボート好きなら、必ず手元に一冊置いておくべきもので、
読みながら、何度も「スゲ~なぁ」と呟いてしまいました。
ヴィトゲンシュタインは学研の復刊を上下巻セット2500円で購入しましたが、
1000ページ超えでかなり、場所取ります。
これは小学校の教科書並みの1ページあたりの文字数の少なさによるもので、
フジ出版社の旧版なら半分のページ数で、古書でも安いんじゃないでしょうか。
ヴォルフガング・フランク著の「デーニッツと「灰色狼」」を読破しました。
読み終えた率直な感想を書くと、「これ以上のUボート興亡史はないのでは・・」。
日本では1975年にフジ出版社から「Uボートの栄光と悲劇」の副題で、
原著「オオカミたちと提督」は1957年の出版という古いものですが、
著者フランクのUボート従軍記者からデーニッツの幕僚、
そして戦隊司令部に所属していたという経歴もあって、
本書のタイトルである2本の柱、すなわち「デーニッツと司令部の様子」と
50人くらいは登場しているんじゃないかという「Uボート艦長たちの戦いざま」を
交互に詳細かつ楽しく読ませてくれる、見事な「Uボート戦記」です。
まずは1775年のアメリカ独立戦争時に登場した、初の潜水艇「タートル号」や
1800年代初頭のフルトンによる「ノーチラス号」など
世界の潜水艦発達史から始まります。

第一次世界大戦になると、ドイツUボートの活躍が取り上げられ、
特にU-9のヴィディゲン大尉が英海軍装甲巡洋艦3隻を立て続けに撃沈し、
ドイツ帝国海軍初のプール・ル・メリット章の受賞者として、
「レッド・バロン」リヒトホーフェンと並び賞される英雄であったということを
知ることが出来ました。

そして1935年、復活となる新Uボート部隊の指令としてデーニッツ大佐が任命されると
理想とするUボート艦隊には程遠いままの状況で1939年に開戦を迎えてしまいます。
海軍総司令官のレーダーとの微妙な関係や、後半、陸のヒトラーとは
最後まで揉め事なしという信頼関係も随所に紹介されながら、
そのUボートの最盛期を築きあげていきます。

ここからは有名Uボート艦長たちの戦記が盛り沢山で、
まず、レンプのU-30が誤って客船「アセニア号」を撃沈してしまうと、
”スカパ・フローの牡牛”となるU-47のプリーンの活躍に
U-99のクレッチマーとU-100のシェプケの勝利と敗北。。。

「独破戦線」で紹介したUボートものの艦長は全員登場すると言って良いでしょう。
U-333 "アリ"クレーマーの「生命保険」ぶりも当然ながら
U-123のハルデゲンによるパウケンシュラーク作戦、
内藤大助似の艦長、ハルテンシュタインの有名な「ラコニア号事件」、
”古武士”ことレーマン・ヴィレンブロックは映画「Uボート」のモデルですね。
ヴォールファルトのU-556と戦艦ビスマルクの非情な運命や
撃沈された仮装巡洋艦アトランティスのローゲ艦長を含む乗員を
壮絶なサバイバルのもとで見事救出した、
U-68のメルテンとUAのエッカーマンといった、他の戦記では脇役だった
Uボート艦長も、その話とともにしっかりとアピールしています。

「見てると体が痒くなる部下」を別のUボートに移動させてくれるよう、
シドロモドロ、デーニッツに訴えるヴォルフガンク・リュートや
船団攻撃の大先生としても最後まで出てくるエーリッヒ・トップなどの大エース以外にも、
後半には「鉄の棺」のヘルベルト・ヴェルナーまで登場。
凄い名前でビックリしたU-753の艦長の名は・・・フォン・マンシュタインです。
あのフォン・マンシュタイン元帥と血縁関係にあるのかは一切不明ですが、
自分は一瞬、あの元帥がお忍びでUボート艦長をやってる姿を想像してしまいました。
これじゃあ、ほとんど「遠山の金さん」ですね。。。
第3位のエースなのに戦記の出ない、好きなエーリッヒ・トップは、
巻頭の潜望鏡説明におけるイラストでモデルになっている感じです。
イラストもこの有名な写真の決めポーズを取ってます。
映画ではよく、邪魔になるために帽子のつばを後ろにしてかぶりますが、
「潜望鏡を覗く模範的な艦長の図」のためか、ちゃんとかぶってますね。
しかしダラっと引っ掛けた右手がポイントです。

とても書き切れないほどの艦長たちが入れ替わり立ち変わり出てくる本書のなかで、
個人的に気に入ったのは、補給UボートであるXIV型(通称:ミルヒクー=牝牛)の
U-459の艦長フォン・ヴィラモーヴィツ・メレンドルフです。
著者曰く、唯一の人物かもしれないという、第一次大戦に引き続き
Uボート乗りとして出撃する白髪の老メレンドルフは、
洋上で補給を心待ちにする若いUボート乗組員たちに非常に信頼された人であったようで、
その最後は一冊の本にしたいほど感動的です。
そういえば映画「眼下の敵」のクルト・ユルゲンスも
第一次大戦の生き残り艦長役だった気が・・。
余談ですが、この「眼下の敵」は親父が好きだった映画のひとつで、
ヴィトゲンシュタインは幼少の頃に半ば強制的に観せられた記憶があります・・。

剣章受章者の割にはあまり知らなかったテディ・ズーレンは本書では主役級のひとりです。
ひょっとしたら著者フランクはズーレンのUボートに乗艦したことがあるのかも・・
というぐらい生々しい戦いと生活の様子が描かれています。
Uボート艦長ばかり書いてしまいましたが、デーニッツの司令部の様子も半分を占めています。
特に部隊創設当初から、その最後までデーニッツを補佐し続けるゴート大佐、
幕僚たちもエースのシュネーやデーニッツの娘婿ヘスラーなどもしっかり登場。
モントゴメリーらとの降伏交渉にあたり、自殺を遂げたフォン・フリーデブルク提督は
Uボート組織部長として最初からデーニッツを助け、
「ドイツ海軍が生んだ最も天才的な組織家」という紹介をされています。

そして終戦が近づくにつれ、デーニッツは軍需省のシュペーアとの信頼関係の元、
Uボートの生産量を上げ、また、新型Uボート・・・真の潜水艦の建造に成功します。
このあたりは、ガーランドの「始まりと終り」と同じような展開ですね。

全般的な内容は確かに「10年と20日間」と「Uボート・コマンダー」を読んでいれば、
それらに網羅されているという印象もありますが、
逆にこちらを先に読んでから、気に入った艦長の戦記を買ってみるというのも
アリかも知れませんね。
また特に記述はありませんが、デーニッツの「Uボート章」はダイヤをちりばめた
スペシャルのようです。

いずれにせよUボート好きなら、必ず手元に一冊置いておくべきもので、
読みながら、何度も「スゲ~なぁ」と呟いてしまいました。
ヴィトゲンシュタインは学研の復刊を上下巻セット2500円で購入しましたが、
1000ページ超えでかなり、場所取ります。
これは小学校の教科書並みの1ページあたりの文字数の少なさによるもので、
フジ出版社の旧版なら半分のページ数で、古書でも安いんじゃないでしょうか。
おじゃまします。
松谷 健二さんの訳本かなり読み漁りました。
by りかの配偶者 (2010-04-25 16:13)
りかの配偶者さん、はじめまして。
いつも「nice! 」もありがとうございます。
松谷 健二さんが翻訳している本は、本当に安心して読めますね。
また結構古い本でも、決して古臭く感じさせないところも、まさに絶妙で
誰がいつ読んでも楽しめる翻訳になっている気がします。
by ヴィトゲンシュタイン (2010-04-25 18:36)
ご無沙汰しております。
私も大学時代にこの本を読んで、「彼らの戦いぶりは平時においても参考になろう」と当時の日記に書いています(ちょっと大げさで笑)。
U753のフォン・マンシュタインは、例の元帥とは直接関係ないようです。ドイツ語版のWikiによると、元帥には3人の子どもがいたようですが、そのいずれもこの艦長の名と一致しません。でも、親戚関係にはあるかもしれませんね。
by 某訳者 (2010-06-05 15:32)
ど~も。某訳者さん。お久しぶりです。
いま、ちょうどクレッチマーの登場する本を読んでいたので、なんとも絶妙なタイミングですね。
本書はやっぱり名著のようで、少し安心しました。
フォン・マンシュタイン艦長についての情報もありがとうございます。
by ヴィトゲンシュタイン (2010-06-05 19:38)
>ちょうどクレッチマーの登場する本を読んでいた
やや、それはもしや、未だ独破リストにも上がっていない、P・カレルの「隠れた傑作」では?
またレビューをお願いいたします。
by 某訳者 (2010-06-29 21:54)
見事、正解です・・。さすが、プロですねぇ。
独破後、ちょっと時間が経ちましたが、レビュー書くのに大変苦労しています。あまりに書きたいことが多く、章ごとのレビューになりそうな勢いだったので、相変わらず書きすぎた部分を削ったりして、いま体裁を整えてるところです。
う~ん。。さすが「隠れた傑作」。でも明日か明後日には・・。
by ヴィトゲンシュタイン (2010-07-03 16:40)
はじめまして。映画のuボートが好きでここにたどり着きました。
遠山の金さんでタバコ吸うところを吹いてしまいましたー
by ちんぱん (2010-08-05 00:03)
ちんぱんさん。はじめまして。
映画も含めた「Uボート」好きの方に読まれていると嬉しいですね。
実はこのような大作のレビューになると、書き終えるのに結構時間がかかるので、部分的には酔っ払って書いているところもあります。
「遠山の金さん」はそのタイミングだったかも・・。
by ヴィトゲンシュタイン (2010-08-05 10:12)
どーも。
遅ればせながらこちら独破しました。
Uボート入門者にとって非常に分かりやすく全体の流れがつかめてよかったです。
当然ですがここではデーニッツがすこぶる好人物に書かれていますね。
久々に映画「Uボート」が観たくなったので地元のツタヤに行ったんですが、
探知できませんでした・・・解せません。
(私もBSでやってた「U-900」を観ていたんですが、掘り出しモノという感じでかなり楽しめました)
次はトミーサイドからも見てみたいということで、
モンサラット「非情の海」に進もうかなと思います。
ではでは
by コメコン (2010-10-24 20:35)
コメコンさん。こんばんわ。
次は「非情の海」ですか。これも興味ありますねぇ。
実は今日、「攻撃高度4000」を買いに、フジ出版を置いてある古書店に行って来たんですが、こういうときに限ってありませんでした・・。
いつも置いてあるのにな~。
近頃、ルフトヴァッフェ志向?なので、「203の勝利」に進む予定です。
by ヴィトゲンシュタイン (2010-10-25 18:30)