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ベルリン陥落 1945 [戦記]

ど~も。ヴィトゲンシュタインです。

アントニー・ビーヴァー著の「ベルリン陥落 1945」を読破しました。

前作「スターリングラード」の著者によるタイトルどおりながら、ボリュームのある一冊です。
1945年を迎え、ベルリンを目指すソ連軍と、それに蹂躙されていくドイツ軍、
そしてなすすべなく歴史に翻弄される一般市民の様子を生々しく描き出します。

ベルリン陥落.JPG

1945年、侵攻を重ねるソ連軍が村や街で略奪と暴行を繰り返すところから始まります。
特に暴行は若い女性に対してだけではなく、60歳から80歳までお構いなし・・
という凄さで、「喜んだ訳ではないだろうが、お婆ちゃんたちもビックリした」
と紹介しています。
実際、このレイプはベルリンだけで10万人が被害にあったそうです。

また、アメリカ軍による略奪の様子も述べられていて
略奪ということでは決してソ連軍の専売特許ではなかったことがわかります。
この西部戦線ではルールで包囲されたモーデル元帥に触れ、
仲間の将官たちからは「極めて粗野で破廉恥」と見られていて
その最悪な状況下に駆けつける習性から「破局将軍」と呼ばれていたことなど
人物や兵器に当時の将兵達が付けていたあだ名を豊富に紹介しているのが楽しめます。

32. SS-Freiwilligen-Grenadier-Division „30. Januar“.jpg

東部戦線で必死の防御戦を繰り広げるドイツ軍では、なぜか頻繁に
第32SS義勇擲弾兵師団「1月30日」が登場してきます。
この数あるSS師団のなかでも特別変わった名前で有名ですが、
その戦いっぷりは名前ほど有名ではありません。
ちなみにこの「1月30日」というのはヒトラーがワイマール共和国の首相になった日に
ちなんだものですが、さすがに1945年にもなると武装SSも投げやりというか、
真面目に考えてんのか?と疑問に思いますね。

Georgy Zhukov_6.jpg

一方怒涛の快進撃のソ連軍はゼーロウ高地で対戦車地雷原により停滞してしまいます。
ここではいきり立つジューコフが歩兵を地雷原に突入させ、対戦車地雷の餌食にし、
その後を戦車部隊が突破するという、凄まじく苛烈な戦術が紹介されています。
まぁ、これを戦術と言うのかは別ですが・・。

Walther Wenck.jpg

いよいよ、ベルリンが包囲されると参謀総長グデーリアンの次長を勤めていた
若き将軍ヴェンクに「新設の第12軍を指揮せよ」との命令が下ります。
しかしそこには軍と呼べるものは無く・・というわりと知られたエピソードが
登場しますが、その第12軍とヴェンク奮戦の過程がかなり詳細で
非常に印象に残りました。

Helmuth Weidling.jpg

クライマックスは決死のベルリン防衛戦です。
この総統官邸付近の防衛は映画「ヒトラー 最後の12日間」でもお馴染みの
ベルリン防衛司令官のヴァイトリンク中将や
総統官邸を含む官庁地区の防衛司令官、モーンケSS少将が有名ですが、
この本では反共のフランス人で編成された第33SS武装擲弾兵師団 「シャルルマーニュ」と
ノルウェーやデンマーク人を中心とした第11SS義勇装甲擲弾兵師団「ノルトラント」の
残存兵を率いたグスタフ・クルーケンベルクSS少将が主役の扱いです。

Gustav Krukenberg.JPG

特にソ連軍にとってベルリン陥落の象徴である帝国議会(ライヒスターク)での
壮絶な防衛戦はなかなか詳細に書かれていて、良く言われる
「ベルリンで最後まで戦ったのはドイツ人ではなかった」ということが改めてわかりました。
もちろん、ざっと半分はドイツ人も戦っていて、新たに創設された「戦車狩り中隊」という
仰々しい名前の部隊は自転車にパンツァーファウストを2本挟んで、肉薄攻撃というものです。

Panzerjagd company.jpg

この時のソ連軍についても逸話が多く、例えば、
いざベルリン市内に突入という直前には、もじゃもじゃの髭を全員剃り落としたり、
ライヒスターク突入の際には、新品の機関短銃と交換したりと見た目も気にしつつ、
最も名誉である赤旗掲揚班は、倒されても倒されても一路屋上を目指します。

red flag on Reichstag.jpg

基本的には過去のノンフィクション、例えば「ヒトラー最後の戦闘」や
燃える東部戦線」、回想録ならグデーリアンやジューコフのものなどからを抜粋し、
そこに赤軍従軍記者グロースマンの取材ノートから補填し組み立てていくという感じで、
前作と同様に独ソ双方かつ西側連合軍の多種多様な人物が頻繁に入れ替わり登場します。
じっくり読ませるというよりは細かなエピソードの積み重ねといった趣きの一冊です。



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コメント 4

コメコン

どーも。

ちょっと前になりますが独破しました。
末期戦の総決算という感じでお腹いっぱいになり満足です。
しかし老婆にまで暴行してしまう赤軍兵の心理が・・・
あまりに飢えて人肉食べる感じに近いのでしょうか??

このあとは流れに沿ってプリーヴィエ「ベルリン」を独破し、
勢い余って戦後ドイツまで寄り道してラインハルト・ゲーレン「諜報・工作」を独破、
そして現在は「捕虜」を解放中、というような状況であります。

さらにヴィトゲンシュタインさんがレビューされた本をいくつか追加購入、
こちらで紹介された本はアマゾンで続々売れていきますね〜

ではまた!
by コメコン (2010-09-04 07:08) 

ヴィトゲンシュタイン

ど~も!コメコンさん、お久しぶりです。
「捕虜」を解放中・・というのは、大変、ご苦労様です。

お婆ちゃんたちまでというのは、やっぱり人種的な違い(例えばモンゴル系の赤軍兵士はアーリア人種が若く見えたとか)しか思い浮かびませんね・・。

プリーヴィエはフジ出版の「モスクワ」は本棚で寝ているんですが、
「ベルリン」は持ってないので是非、ご感想を・・。
本当は「スターリングラード」が読みたいんですが、ちょっと古すぎ・・、
再刊して欲しいですね。

ゲーレンの「諜報・工作」は、つい先日、やっと買ったばかりです!
コメコンさんに先を越されましたが、近々、独破しますよ~。


by ヴィトゲンシュタイン (2010-09-04 13:30) 

コメコン

どーも。

>お婆ちゃんたちまでというのは、やっぱり人種的な違い(例えばモンゴル系の赤軍兵士はアーリア人種が若く見えたとか)しか思い浮かびませんね・・。

なるほど。そういう見方もありましたね、納得です。

「ベルリン」については既に記憶が薄れ気味ですがと前置きしつつ・・・
作者がソ連に亡命してた事もあってロシア文学特有?のまどろっこしい部分がしんどかったです。
でも「モスクワ」の時とは違ってソ連軍に批判的な姿勢で書かれているので独軍贔屓には随分と読みやすくなってました。
あと、話が戦後しばらくまで続くので、東西ドイツ史にも興味が湧いたのが最大の収穫でした。
「スタリングラード」も手頃な値段の美本に出会えたら読んでみたいですね。

ではでは。
by コメコン (2010-09-06 07:25) 

ヴィトゲンシュタイン

「ベルリン」の感想、ありがとうございます。
う~ん。。。プリーヴィエはちょっとクセがありそうな感じなんですかねぇ。

「東西ドイツ史」は良いですね。ベルリンの壁にスパイ暗躍と
子供の頃から読んでた冷戦時代のスパイ小説を思い出して、
浮気してみたくなります。。。

しかし、ここのところ「最終戦」的な本から若干離れ気味だったので、
久しぶりにこの辺が読みたくなってきました。
と、言うことで、トーランドの「最後の100日」をそろそろ行ってみます。


by ヴィトゲンシュタイン (2010-09-06 18:19) 

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